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浅野 英之
弁護士
弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号44844)。
東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

企業側の労働問題を扱う石嵜・山中総合法律事務所、労働者側の法律問題を扱う事務所の労働部門リーダーを経て、弁護士法人浅野総合法律事務所を設立。

不当解雇、未払残業代、セクハラ、パワハラ、労災など、注目を集める労働問題について、「泣き寝入りを許さない」姿勢で、親身に法律相談をお聞きします。

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横領の疑いをかけられたが認めない場合の注意点と、横領冤罪への対応

会社から、身に覚えのない横領の疑いをかけられてしまうことがあります。
横領の疑いをかけられても、事実でないときは、認めてはいけません。
疑われている横領が、冤罪のときには、慎重な対応を心がけてください。

飲食店やエステなど、売上金を現金保管するサービス店舗や、銀行、金融機関では、やってないのにお金をとったと疑われるトラブルが起こりがち。

相談者

レジ金を盗んだのではないかと疑われてしまった

相談者

横領犯の濡れ衣をきせられ、名誉毀損ではないか

疑いをかけられたとき、横領が真実なら、返金して謝罪しましょう。
このとき、懲戒解雇はもちろん、業務上横領罪という厳しい刑事責任を負います。

一方、横領の疑いが「冤罪」のケースもあります。
企業のコンプライアンスに不備があったり、社長の現金管理がずさんだったりすると、「お金をとったのではないか」と横領を疑われ、不当に解雇される例もあります。
冤罪を放置し、無視したりすると、厳しい処分を下されるおそれあり。

今回は、会社から横領の疑いをかけられたが、冤罪ならば認めるべきでない理由と、適切な対応について、労働問題に強い弁護士が解説します。

この解説のポイント
  • 横領を疑われても、冤罪なら絶対に認めてはいけない
  • 横領の冤罪なら、客観的な証拠を調査するよう、会社に強く求める
  • 横領の冤罪なのに解雇されてしまったら、撤回を求めて労働審判で争う

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解説の執筆者

弁護士 浅野英之

弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号44844)。
東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

企業側の労働問題を扱う石嵜・山中総合法律事務所、労働者側の法律問題を扱う事務所の労働部門リーダーを経て、弁護士法人浅野総合法律事務所を設立。

不当解雇、未払残業代、セクハラ、パワハラ、労災など、注目を集める労働問題について、「泣き寝入りを許さない」姿勢で、親身に法律相談をお聞きします。

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横領の冤罪とは

横領とは、権限をもって占有している金品をとってしまうことです。
社内でお金をとってしまうと、刑法で業務上横領罪として罰せられるおそれがあります。

しかし、お金をとっていないのに、横領の疑いをかけられてしまうのが、横領の冤罪です。

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横領の冤罪となるケースの例

横領の冤罪が起こるのは、どんな場合でしょうか。
やってもいない横領を疑われるというケースは、イメージしづらいかもしれません。
どんなときに横領冤罪が起きるのか、わかりやすいよう、まずはよくある例を紹介します。

  • 飲食店で、レジ金と帳簿の売上が合わず、レジ担当がお金をとったのでないかと疑われる
  • 訪問販売で売上が思うように上がらないとき、営業担当が回収した売上金をとったのではないかと疑われる
  • 社長が会社に置いておいた財布の中身がなくなったが、誰かがとったのではないかと疑われる
  • 商品が少なくなったのは、横流しして、メルカリで転売しているからではと疑われる

以上のように「社内で現金がなくなってしまった」というケースは、思いのほかよく起きます。
コンプライアンス意識の低い会社ほど、お金の管理もずさんで、よくお金がなくなります。

小規模な飲食店、エステや美容室など、いわゆる「現金商売」で、かつ、それほど規模も大きくないとき、会社の売上管理、現金保管の体制もあまり整備されていません。

横領の冤罪が起こる理由

社内でお金がなくなったとしても、横領ではないことも多いもの。
単なる紛失や計算ミス、忘れ物といった原因のときもあります。

しかし、横領冤罪を起こしてしまうワンマン社長の例などでは、現金管理がずさんなことを棚に上げ、帳尻があわないのを社員の誰かのせいにしたがります。
お金をとってもいないのに横領だと疑われる、横領冤罪はこのようにして起こります。
やましいことがなくても、「横領したんだろう」と強く詰められ、補填を要求され、やむなくしたがってしまう方も少なくありません。

本来であれば、社内のお金の管理は、会社がきちんとすべきこと。
管理体制を整備し、社員に教育、指導するのが当然ですが、そんな当たり前なことができていない会社でこそ、横領の冤罪が起こってしまいます。

横領を疑われたが、冤罪のときの対応方法

では、社内で現金がなくなったとき、お金をとってないのに、横領の犯人だと断定されてしまったとき、つまり、横領冤罪の被害者になってしまったとき、対応方法について解説します。

社内でお金がなくなったのは事実であるとき、あなたを犯人にしたてて横領冤罪を起こすような会社では、適切な対応方法を理解しておかなければ、たとえ冤罪でも、懲戒解雇をはじめとした厳しい処分を下されるおそれも。

身に覚えのない横領なら、絶対に認めない

まず、どれほど強く詰められても、身に覚えのない横領なら、絶対に認めてはいけません。

「横領は絶対にしていない」と強く否定するようにしてください。
やましいことが一切ないならば、当然の対応ともいえます。

なお、法的には、「横領した」と主張する側(会社側)がその証明をする責任があり、「横領していない」と主張する側(労働者側)が冤罪を証明する必要はありません。
この考え方を、法律用語で「証明責任」といいます。

つまり、あなたが「冤罪であること」まで証明できずとも、会社が「横領したこと」を証明できないかぎり、労働者側が民事上、刑事上の責任を負うことはないのが原則なのです。
このことは、裁判所で認められた基本的なルールです。
会社がしつこく横領の疑いをかけつづけてくるなら、その証明を求め、最終的には裁判所で判断をしてもらったほうが、合理的な解決になるでしょう。

横領額の補填もしない

横領の疑いをかけて労働者のせいにし、冤罪を起こす会社には、労働者に横領額を補填させようとする意図がある場合ももあります。
しかし、横領していないなら、損害金の補填も絶対にしてはいけません。
なくなったお金の補填をすれば、たとえ「横領していない」と伝えても、認めて謝罪したのとほとんど同じだとみられるおそれもあります。

横領の疑いをかけられたのに補填してしまえば「横領を認めた(自白した)」と受けとられます。
冤罪の被害を、自ら加速させることとなってしまいます。
たとえ管理責任ある立場でも、自分が横領していないなら全額の責任を負う必要はなく、補填に応じてはなりません。

店長、経理担当など、責任あるポジションだと、現金がなくなったのに責任を感じ、補填してしまう人もいます。
しかし、あなたが横領していないなら、補填する必要はありません。

客観的な証拠の調査を要求する

労働者側が横領の疑いを否定しているなら、会社側で横領の証明をしなければならないわけですが、まったく証拠もないのに、横領犯人呼ばわりして濡れ衣を着せてくる会社もあります。
このとき、会社に対して、客観的な証拠を調査を求めましょう。
証拠がないのに「横領犯人」呼ばわりしてくる会社には、客観的な証拠の調査を徹底するよう要求してください。

問題のある会社のなかには、「横領かどうかは不明だが、会社の損失を軽減するため、労働者を詰めてお金を払わせよう」という悪質な冤罪のケースもあります。
「誰が横領したのか」や、「そもそも横領なのか、紛失なのか」を知るため、調査しておくべき客観的な証拠は、次のものがあります。

  • 監視カメラの録画・録音
  • 領収書・レシートなど
  • 出納帳
  • レジの入出金履歴
  • 会計伝票
  • クレジットカードの利用履歴
  • 銀行など金融機関の通帳

客観的な証拠を調べ、なくなった金額、残っている現金残高などの突き合わせをすれば、少なくとも「いつ」、「誰が」、「どんな行為をしてお金がなくなったか」のいずれかは発覚することも。
横領の冤罪を晴らすには、どれか1つでも否定されれば十分なことも多いもの。

帳簿類や経理システムのデータなど、会社が情報提供しなければ調査できない資料は、「横領していない」という反論の根拠を示し、会社に調査を要求します。

むしろ、顧客から現金で支払いを受けたり、現金を預かって保管せねばならない業種では、帳簿できちんと管理されていない状況では、お金がいつなくなっても不思議ではありません。
客観的な資料の調査によっても事実が判明しないとすれば、会社の経理処理がずさんだといえ、その責任を横領の冤罪として押しつけるのは不当といわざるをえません。

冤罪なのに解雇されてしまったときの対応

次に、横領を疑われて解雇されたという、横領冤罪の最悪のケースについて解説します。

横領の冤罪にあい、きちんと弁明したにもかかわらず会社に信用してもらえないと、懲戒解雇をはじめとした厳しい処分を下される危険があります。
解雇される前に退職勧奨を受け、「横領を認めて謝罪するなら、退職してくれたら許す」と詰められ、つい怖くなって謝罪し、退職してしまったという相談もあります。

さらに、告訴されて刑事事件化し、業務上横領罪になれば、前科がついてしまいます。
このとき、横領の罪を認めて社内で処分を受けたことは、労働者に不利な要素となります。

解雇の撤回を求める

解雇は、「解雇権濫用法理」のルールにより制限されます。
そのため、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」には、解雇は無効です(労働契約法16条)。

解雇権濫用法理とは

なかでも懲戒解雇は、退職するのはもちろん、再就職、転職の支障となるとても厳しい処分なので、有効性が認められるのは限定された場面のみです。

解雇の理由とされた横領が、実際にはやっておらず、冤罪ならば、その解雇は、不当解雇なのがあきらか。
ただちに、横領していないことを主張し、解雇の撤回を強く求めるようにしてください。
解雇を撤回させることに成功すれば、その後も労働者として働き続けることができます。

不当解雇の撤回に成功したときは、解雇撤回までに未払いとなっていた給料を請求できます。
会社の不手際、注意不足によって生じた冤罪ですから、収入の減少のないよう、請求を忘れないでください。

解雇の撤回について、次に詳しく解説します。

労働審判で不当解雇を争う

不当解雇を争う場合の流れ
不当解雇を争う場合の流れ

交渉してもなお、会社が横領の疑いが冤罪なのを認めないときには、法的手続きに移行します。
無実なのに、解雇が撤回されないとき、裁判所で争うことを検討してください。

法的手続きとしては、労働者保護のために用意された「労働審判」の手続きがおすすめ。
労働審判は、裁判になると少なくとも平均1年程度はかかるところ、労働者の負担を回避するため、簡易かつ迅速な判断を可能とした制度であり、活用しない手はありません。

裁判で不当解雇を争う

労働審判でも解決が難しいときは、いよいよ裁判に移行します。
労働審判の結果に不服のあるとき、当事者のいずれかが2週間以内に異議申し立てをすると、自動的に訴訟へ移行します。

なお、裁判所の手続きでは、客観的証拠がとても重要です。
裁判所では、証拠のない事実は認定されず、なかったこととなるからです。
この点でも、身に覚えのない横領なら、絶対に認めないという姿勢がとても大切です。

懲戒解雇を争うなら、すぐ弁護士にご相談ください。

横領の疑いをかけられた場合の注意点

最後に、横領の疑いをかけられた場合に注意したい、その他のポイントを解説します。

横領したのは事実だが、疑われた額より少ないときの対応

横領を疑われたとき、まったくの冤罪ではなくても、事実とは違った疑いをかけられることも。
出来心でごく少額の横領をしてしまったが、その他のお金もあわせてとっただろうと指摘されているようなケースです。

万引で逮捕される人が多くいるように、ごく少額の被害だとしても刑事事件なのに違いはなく、適切な対応をしなければ業務上横領罪として刑事罰を受ける危険があります。
ごく少額の横領の場合、会社から「もっとたくさんとったのに隠している」と疑われることが多いです。

このようなケースでは、基本的な方針は、真摯に謝罪し、返金するという対応になります。
会社が温情で、刑事事件にはせずに内々におさめてくれることも期待できるからです。
ただし、返金額を決めるときは、冤罪の場合と同じく、客観的な証拠の調査を求め、横領額を正しく認定してもらう必要があります。

横領の証拠はないときにも、隠しておいてあとからバレると、悪質だと判断されます。
冤罪ではなく、横領したのが事実なら、認めて謝罪するほうがよいでしょう。

やってないのに犯人扱いされたらパワハラや名誉毀損になる

横領をまったくやってないのに、犯人扱いされたら、職場にいづらくなるでしょう。
そのため、根拠もなく横領の犯人扱いすることは、パワハラにあたる違法行為になりえます。

何度否定しても、横領の疑いをかけられつづけるとき、逆にそのような会社の対応がパワハラに当たると指摘し、ひどいときには慰謝料請求をするのも検討してください。

やってないのに犯人扱いし、職場全体に横領犯人だと知らしめることは、名誉毀損になる可能性もあります。

まとめ

弁護士法人浅野総合法律事務所
弁護士法人浅野総合法律事務所

今回は、社内で起こる横領トラブルのなかでも、「横領していないのに、現金がなくなったことを自分の責任にされた」という、横領の冤罪ケースにおける対処法を解説しました。

やってないのに犯人扱いされると、不快な気分になるでしょう。
濡れ衣は、名誉毀損やパワハラになりますし、やってない横領を理由に解雇すれば、不当解雇なのはあきらか。
しかし、問題のある社長ほど、会社のミスや準備不足を、現場の労働者のせいにしがちです。

横領を疑われても、冤罪ならば、認めないようにしてください。
責任をとって退職するのも、解雇に応じるのも不要で、断固拒否して戦う必要があります。

この解説のポイント
  • 横領を疑われても、冤罪なら絶対に認めてはいけない
  • 横領の冤罪なら、客観的な証拠を調査するよう、会社に強く求める
  • 横領の冤罪なのに解雇されてしまったら、撤回を求めて労働審判で争う

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