「住民票の住所以外からの交通費を請求していた」という方に向け、「横領にあたってしまうのか」について、労働問題に強い弁護士が解説します。
会社から「通勤交通費」を受け取っている労働者は多いでしょう。正しく申請し、払った実費分を受け取ればよいのですが、住所について嘘の申告をして不正に多く受領してしまう人もいます。不適切なケースでは交通費の横領となるおそれがあります。
住民票を変更していないので、交通費の申請もしなおしていない
住民票を実家のままにしてて、気づいたら交通費をもらいすぎた
交通費を横領してしまって、会社にバレたら返金しなければならないのは当然。それだけでなく、懲戒解雇など雇用契約上の責任、業務上横領罪など刑事責任も追及されるおそれがあります。
- 住民票は、どこに住んでいるかをあらわすのに便利な基準
- しかし、住民票の住所以外からの交通費を申請するほうが正しいこともある
- 住民票の住所以外から通勤し、交通費の不正を疑われたとき、誠意をもって対応する
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「住民票の住所以外からの交通費」とは
住民票は、市町村・特別区という行政機関で作成される公的な書類です。住民票は、住民基本台帳法に基づいて作られ、「国民の誰が、どこで、誰と暮らしているか」を示します。
住民票は、個人もしくは世帯を単位に作られ、一緒に住む人の住民票は、一つにまとめて整理されます。そして、引越したときは、転入届、転出届を出して、14日以内に住民票の変更手続きをしなければならないこととなっています。
住民票は、自分の住んでいる住所に登録されているのが基本であり、これを見れば「どこに住んでいるか」は明らかになることが多いと考えられています。そのため、会社に通勤交通費を申請するときも、「住民票の住所」が、正しい申請の基準とされているケースが多いです。
一方で、「住民票の住所」と「実際の住所」が違う人もいます。例えば、次のケースです。
- 新社会人となって上京したが、住民票が実家のままとなっている
- 恋人と同棲したが、住民票は一人暮らしのマンションのまま変更していない
- DV・モラハラなどの夫婦間のトラブルで、住民票を変更できない
- 実家の改装で、一時的にホテル暮らしをしている
このような例で、「住民票の住所」は、必ずしも実際に寝食している場所にはなりません。すると、交通費の申請で、どのように対応してよいか迷うことがあります。「住民票の住所」を書いて申請して交通費のもらいすぎると、横領といわれるおそれがあり、「住民票の住所以外からの交通費」を請求すべき場合があります。
「交通費の不正受給」の解説
住民票の住所から通勤していないときの正しい対応
では、「住民票の住所」に住んでいないケースで、交通費の申請書にどのように書くのが正しい対応なにかについて解説します。
会社のルールとして「住民票の住所を書き、そこから会社までのルートを書くように」と指示を受けることもあります。しかし、形式的にそのまま従うともらいすぎになるとき、会社に説明し、交通費をもらいなおす必要がある場合があります。ケースバイケースの判断となりますが、よくある実例を参考にして、正しい対応を紹介していきます。
住民票の住所に戻ることのないケース
「住民票の住所」に住んでいない労働者で、もはや「住民票の住所」に戻ることはあり得ない方がいます(少なくとも、その会社に在籍中に「住民票の住所」に戻る可能性はない場合も、このケースに含まれます)。
- 転居前の住所に住民票が置いてあるケース
- 引っ越しし、前のマンションを引き払ってしまったケース
- 上京前の実家に住民票が置いてあるケース
このとき、「住民票の住所」を書いて交通費を請求するのは、適切な申請とはいえません。交通費を安く申請すれば労働者が自腹を切って損するはめになりますし、交通費を高く申請すれば違法な横領になってしまいます。
このケースは、直ちに住民票の方を修正すべきです。そして、住民票の修正が間に合わないうちも、会社に正しい情報を伝え、現在住んでいる住所から会社に通勤するルートの交通費を申請するのが適切です。
住民票の住所にすぐ戻れるケース
これに対し、「住民票の住所」にすぐ戻れる予定だという方もいます。
- 自宅が工事中のため、しばらくの間ホテル暮らししているケース
- 夫婦喧嘩で一時的に別居しているケース
- 気分転換に、数日だけホテルを借りているケース
このように、すぐ戻れると予想されるにしても、その期間中の交通費を、結果的に「得してしまう」ときは、業務上横領罪の疑いをかけられるおそれがあります。会社に事情を説明し、許可を得ておくのが適切な対応です。
なお、夫婦喧嘩など、個人的な事情であり会社に伝えづらいとき、理由まで詳細に伝える必要はありません。公私は明確に区別されるべきで、会社だからといってプライベートに干渉される理由はありません。
このとき、「家族の事情でしばらく家に帰れない」とだけ伝えるのがよいでしょう。理由をしつこく聞こうとするなど、会社が、プライベートに過度に干渉してくるのはパワハラの可能性があります。
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住民票の住所を変更する可能性が高いケース
最後に、将来的には「住民票の住所」を変更する可能性が高いケースもあります。
- 転居を予定しているケース
- 離婚に向けて別居し、今後復縁する予定のないケース
住民票を変更せず、届出住所の変更を怠るなどして、多めの交通費を受領し続けてしまうのは問題です。「会社に損害を与えてやろう」、「交通費について得してやろう」といった悪意のあるケースはもちろんのこと、そうでなくても、嘘だと知りながらお金を受けとっていると、業務上横領罪が成立する危険があります。なお、住民票の変更は、早くしておくに越したことはありません。
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交通費の横領を疑われたときの対策
最後に、「住民票の住所以外からの交通費」を請求し、横領を疑われたときの対応を解説します。
適切な対応を怠った結果、残念ながら「交通費の横領」を疑われることがあります。このとき「住民票の住所」と違う場所からの通勤に理由があるなら、きちんと弁明しなければなりません。
放置しておけば、横領の責任がとても重大だと思い知ることでしょう。横領にあたると、横領額の返金請求という民事責任だけでなく、懲戒処分や解雇といった雇用契約上の責任、業務上横領罪による刑事責任といったとても重い責任を負います。
「住民票上の住所」から通勤していない理由を説明する
理由があって「住民票の住所以外からの交通費」を受けとっていて、それが会社のルールに形式的に違反していたとしても、実際に払った交通費を正しく受けとっているだけならば、問題はないケースもあります。つまり、単に会社のルールに違反しているだけで、横領にはなりません。
このとき「なぜ、住民票上の住所でない場所から通勤していたのか」を、よく説明する必要があります。事前に説明を尽くした上で交通費を受けとればよかったのですが、疑われてからの説明となると、会社になかなか納得してもらえないこともあります。客観的証拠に基づいて、説得する努力をしなければなりません。
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謝罪し、もらいすぎた交通費を返金する
交通費をもらいすぎたと明らかになったら、誠意をもって謝罪し、もらいすぎた交通費の返金を申し出てください。交通費の支給が、実費ではなく定期券、回数券などの現物支給のとき、正しい交通費申請でなかったとしても、中途解約すると損してしまうケースもあります。このようなとき、清算時の計算方法についても、会社の指示を仰ぐのがよいでしょう。
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実際の通勤にかかる交通費を申請する
交通費の申請方法が適切でなかったと発覚したら、あらためて正しい交通費を申請しなおす必要があります。この場合にも同じく、「住民票の住所」でない場所からの通勤交通費を申請したいときには、その理由をあらかじめ会社に説明し、許可を得るようにしてください。
自主退職を申し出る
最後に、「住民票の住所以外からの交通費」について、残念ながら不正な申請だといわれ、交通費の横領だと指摘されたとき、これ以上はその会社で働き続けないのも選択肢の一つです。
「住民票の住所」以外に住む正当な理由があったり、単に変更を忘れていただけだったりといった軽度なときはともかく、あえて隠蔽し、交通費を不正に多く受給し続けていたなど悪質なケースでは、懲戒解雇をはじめとした厳しい処分の可能性もあります。厳しい処分を言い渡される前に、自主退職を申し出て、誠意を示すことができます。
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まとめ
今回は、「住民票の住所」と「実際の住所」が違う方に向けて、正しい交通費の申請方法を解説しました。
「住民票の住所からの交通費」を請求すべき場合と、「住民票の住所以外からの交通費」を請求すべき場合のいずれもがあり、ケースに応じた判断が必要です。交通費の請求が不適切だったとき、横領だといわれてしまう危険があり、注意を要します。
交通費の横領を疑われると、嘘をつく気がなくても不正受給になり、横領のおそれがあります。会社に調査され、懲戒処分や解雇などの責任追及を受けたときは、ぜひ弁護士にご相談ください。
- 住民票は、どこに住んでいるかをあらわすのに便利な基準
- しかし、住民票の住所以外からの交通費を申請するほうが正しいこともある
- 住民票の住所以外から通勤し、交通費の不正を疑われたとき、誠意をもって対応する
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【横領・不正受給とは】
【横領・不正受給の責任】