社員の仕事ぶりを管理する権限があるといえど、会社がプライベート干渉するのは違法です。私生活を監視し、干渉することが、どこから違法なのか、よく労使の争いの種になります。
会社としては、不祥事を防止するため、健康に働いてもらうためといった様々な目的で、私生活上の行動を縛ろうとします。しかし、雇用されているからといって、勤務時間外の行動まで指示される理由はなく、私生活への過度な干渉は、違法なパワハラとなる可能性が高いです。
業務に支障が生じる場合は例外的に、私生活に干渉できる場面もあるものの、基本的には違法。プライベートの行為を理由に懲戒処分を下したり、解雇したりするのも許されないのが原則です。
今回は、会社によるプライベート干渉の違法性と、私生活への不当な介入によるパワハラについての適切な対処法を、労働問題に強い弁護士が解説します。
- 会社が社員のプライベートに干渉するのは、企業秩序の維持が目的
- 業務に関する範囲でしか規制を受けず、プライベート干渉は違法なのが原則
- 不当なプライベート干渉には、その処分の無効と慰謝料請求で対抗すべき
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会社のプライベート干渉とは何か?
まず、会社のプライベート干渉として問題になるケースについて解説します。
プライベート干渉の定義
プライベート干渉とは、会社が従業員の私生活に立ち入って、個人の自由やプライバシーを侵害する行為を指します。プライベート干渉が起こると、本来は自由に決めることのできる私事について、会社の意向に従わせようとする不当な圧力が加わってしまいます。
会社は、労働契約を締結することで、仕事に対しては口を出す権限を有します。しかし、仕事外については、監視したり干渉したり、命令したりすることは原則として認められていません。業務時間外は、仕事から解放され、会社の干渉なく活動できるのが当然です。過度に私生活に干渉されると、ワークライフバランスは崩れ、従業員の権利は侵害されてしまいます。そのため、会社によるプライベート干渉は、違法なパワハラとなる可能性が高いです。
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会社がプライベートに干渉する理由
会社がプライベートに干渉してくる背景には、次のような理由があります。
- 企業イメージを守るため
私生活における行動が、企業のイメージやブランドを損なうことがあり、このような損失を避けるため、会社がプライベート干渉をする例があります。 - SNSでの不適切な行為を避けるため
SNSをはじめ、インターネット上では不用意な言動が行われ、私生活上の言動といえども会社のイメージに影響しやすい性質があります。 - 企業秘密の漏洩を防止するため
従業員がプライベートな場で、会社の秘密を漏らすリスクを懸念して、私生活に制限を加えようとすることがあります。 - 社員の健康を管理するため
健康に働くのは労働者の義務(自己保健義務)であり、不規則な生活は業務のパフォーマンスを低下させます。それでもなお、過度な健康管理は、私生活への違法な干渉となりかねません。 - 副業を禁止するため
副業が制限される会社はもちろん、そうでなくても在職中の競業は禁じられており、会社がプライベートを監視し、干渉する大きな理由となります。
役員や管理職は特に、たとえ私生活でも、他人から見れば企業の公的な行いであると評価されるリスクがあり、会社としてはその私生活に関与しようとしてくることが多いです。コンプライアンス意識が高く、社員の不祥事を予防しようとするのは良いことですが、対策が行き過ぎると、プライベートに違法な干渉を加えることとなりかねません。
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職場で起こるプライベート干渉の具体例
会社によるプライベート干渉の実態をイメージするため、具体例でわかりやすく解説します。職場で起こるプライベート干渉の具体例は、次の通りです。
【インターネット上の監視の例】
- 個人のSNSアカウントを監視される
- 投稿内容を制限する
- 会社のイメージを損なう発言があると懲戒処分が下される
- 会社批判をしたら警告を受けた
- 私用のスマホやパソコンを覗かれる
【私生活の行動制限の例】
- 勤務時間外のアルバイトや副業の禁止
- 従業員の交友関係を制限する
- 会社に居住地を指定される
- 部下の交際相手を制限する
- GPSで居場所を確認されている
【生活習慣の制限の例】
- 22時以降の飲酒を禁止される
- 喫煙を禁止される
- 指定された起床時間に電話がかかってくる
- 休日の過ごし方を決められる
- 痩せるように言われ食生活を指導される
これらの行為は、従業員の基本的な人権や、プライバシーの権利、行動の自由を脅かすものであって、法律に違反する可能性の高いものばかりです。労働問題としても、違法なパワハラにあたり、慰謝料請求の対象となるおそれがあります。
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会社のプライベート干渉は違法となる可能性が高い
社長や上司からプライベートに干渉されたら、違法な扱いでないかと疑うようにしてください。
勤務時間外に社員がどう過ごすかは、本来自由なはずです。休日や時間外の行動まで制約するのは、個人の自由や基本的な人権の侵害になったり、違法なハラスメントに該当したりなど、複数の観点から違法となる可能性が高いです。
プライバシーを保護する法律に違反する
労働基準法や労働契約法といった労働法には、社員のプライバシーを保護する条文はないものの、個人の尊重と幸福追求権を定める憲法13条は、プライバシー権の法的な根拠となります。
憲法13条
すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
憲法(e-Gov法令検索)
これにより、労働者の職場におけるプライバシーも当然に権利として保護されるため、会社が社員の私生活やプライバシーに干渉することは制限されることとなります。
また、労働契約の原則について定める労働契約法3条は、労使が対等な立場で、仕事と生活の調和に配慮して雇用契約を締結すべきことを定めます。このことからも、プライベートに対する不当な干渉が労働者の権利を侵害し、許されないものであると理解できます。
プライベート干渉は違法なパワハラ
職場における優位な立場を利用し、業務の範囲を超えた言動によって労働者の心身に苦痛を与えるのがパワハラです。会社のプライベート干渉は、違法なパワハラに該当する可能性があります(パワハラの6類型のうち「個の侵害」に該当します)。
プライベート干渉がパワハラと認められるかどうかは、干渉が業務に関連する範囲を超え、従業員に精神的な苦痛を与えるかどうかが基準となります。職場の人間関係が良好に保たれ、元から私生活でも親交があるといった場合、プライベートな付き合いが全てパワハラなわけではありません。
しかし、上司と部下といった優位性を利用し、過度に私生活に踏み込んだ発言などで不快感を抱かせれば、パワハラになってしまいます。過剰に人の私生活に踏み込んではいけないというモラルに反する点で、職場のモラハラと捉えることもできます。
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法的に許されるケースと禁止されるケース
以上の通り、会社のプライベート干渉は違法になり得るものの、程度によって、法的に許されるケースと禁止されるケースを区別して対処する必要があります。その違法性は、干渉の目的と範囲、そして、その干渉が業務に関連しているかどうか、という基準で判断されます。
例えば、社員が不正をしていたり、私生活といえど会社の評判を落としかねない行為をしたりなど、その行動を中止させるという目的がある場合、その目的に必要な範囲内のプライベート干渉は違法ではなく、認められるケースがあります(その干渉は、会社の評判を守るために必要な行為だとも言えます)。
これに対して、嫌がらせ目的であったり、業務に全く無関係な趣味や個人的な活動を監視したりといったように目的が不当な干渉は許されません。目的が不当とまではいえなくても、あまりに干渉の範囲が広く、不必要な介入もまた違法です。
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例外的に企業は社員の私生活を規制できる場合がある
企業による社員の私生活のコントロールが、例外的に認められる場合があります。典型的には、労働者のプライベートが、業務や会社の信頼に影響を与えるケースです。
会社が社員の行動を管理できる権利
会社は、労働者の職場における行動を監督し、管理する権限を有します(監督権・管理権)。会社の手足となってこれら権限を駆使して労務管理する人を「管理監督者」と呼びます。これらの権限は企業の秩序維持が目的なので、原則として業務に関連する行為にしか及びませんが、職場外の行為でも、業務や会社の評判に影響する限りにおいて制限できる場合があります。
この観点から、犯罪となるような重大な非行、ライバル会社での競業、企業秘密の漏洩や会社批判といった業務への支障の大きいものは、たとえプライベートでも規制の対象とすることができます。
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例外的に干渉が正当とされる範囲
監督権・管理権は、業務に関連する範囲で行使されるべきで、従業員の私生活やプライベートには及ばないのがそもそもの原則。すると、例外的に規制が許されるとして「どこまでのプライベート干渉が正当化されるのか」という疑問が生じるでしょう。
裁判例では、職場外における職務遂行と関係ない行為でも、①企業秩序に直接の関連を有するもの、及び、②企業の社会的評価の毀損につながるおそれがあると客観的に認められるものについては、懲戒事由とすることが許される場合があると判断しています(最高裁昭和49年2月28日判決、最高裁昭和58年9月8日判決など)。ただし、プライベート干渉が許されるのはあくまで例外なので、厳格に判断されると考えるべきです。
「パワハラと指導の違い」の解説
適法なプライベートの規律の具体例
実際に、裁判例において適法と判断された私生活への規律には、例えば以下のものがあります。懲戒処分には、軽度から重度のものまで種類があるため、規制の対象となったプライベートの行為と、バランスの取れた処分内容でなければ、適法とはなりません。
裁判例 | 規制の対象 | 処分内容 |
---|---|---|
最高裁昭和58年9月8日判決 | 会社を誹謗中傷するビラ配布 | 譴責処分 |
最高裁昭和49年2月28日判決 | 公務執行中の警察官への暴行 | 懲戒免職 |
大阪高裁平成22年7月7日判決 | 市職員による飲酒運転 | 懲戒免職 |
東京高裁平成15年12月11日判決 | 鉄道会社社員による別会社の車内での痴漢 | 懲戒解雇 |
福岡地裁昭和47年10月20日判決 | 疲労回復のため残業が廃止されたのに同業他社で就業 | 懲戒解雇 |
東京地裁八王子支部平成17年3月16日判決 | 病気休業中に自営業を経営 | 懲戒解雇 |
大阪地裁平成13年12月19日判決 | 支店長による現経営陣への批判・更迭目的の署名活動 | 懲戒解雇 |
東京地裁平成14年3月25日判決 | 新聞記者による自身のサイト上での会社批判 | 出勤停止 |
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会社のプライベート干渉に対する法的な対処法
次に、会社のプライベート干渉に対する法的な対処法について解説します。会社から不当なプライベート干渉を受けたら、冷静に対応し、適切な手順で自身の権利を守る必要があります。
プライバシーを守るよう伝える
違法なプライベート干渉を受けたとき、プライバシーを侵害しないよう強く伝えるのが大切です。干渉をした上司などは、その違法性に気付いていないこともあります。不快であることを伝えなければ、やめさせることはできません。直接伝えても止まないときは、人事部や社長、社内のパワハラ相談窓口などに事情を説明し、対応してもらうようにしてください。
トラブルの初期なら、会社の意図を確認し、あなたがプライバシー侵害だと感じた理由を伝え、冷静に話し合うことで誤解が解けるケースもあります。
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不当な干渉の証拠を収集する
プライベート干渉が改善されないときは、法的措置を見越して、証拠を確実に収集することが大切です。証拠がなければ、違法な行為であると裁判で認めてもらえないおそれがあります。収集しておくべき資料には、次のものがあります。
- 上司からの私生活に関する不当な指示のメール、チャット
- プライベート干渉する発言の録音
- SNS上のやり取り
- 被害に遭った際に作成したメモ
上司や社長によるプライベート干渉は、対面で行われることが多いです。録音とともに、継続的にメモをすることで、証拠を補強することができます。どのような干渉を受けたのか、誰が関与していたか、日時や場所、干渉の具体的な内容などをメモに残しておきましょう。
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弁護士に相談して法的措置を講じる
会社のプライベート干渉に改善が見られないなら、法的手段を取ることも考えるべきです。
話し合いでは干渉が止まらず、解決できないなら、労働審判や訴訟といった裁判手続きで会社の責任を追及します。具体的には、私生活に関する嫌がらせやパワハラなら、慰謝料請求を行います。プライベートの行為を理由に懲戒処分や解雇をされたら、その無効を主張し、従前の地位にあることの確認(地位確認請求)を行います。
法的措置を検討する場合は、労働問題に精通した弁護士に相談するのが有益です。
「労働問題に強い弁護士の選び方」の解説
会社のプライベート干渉について判断した裁判例
最後に、会社のプライベート干渉について判断した裁判例を紹介します。
事例を知ることで、プライベート干渉の内容や程度、回数や頻度などによって、どこからが違法かを吟味する際の助けになります。
プライベートの行為を理由とする処分を無効とした裁判例
第一の類型が、プライベートの行為を理由として下された会社の処分について、無効であると判断した裁判例です。
酩酊して他人の住居に侵入して罰金刑を受けたことで、「会社の体面を著しく汚した」として懲戒解雇された事案。私生活上の行為であること、罰金にとどまること、指導的な地位にないことを考慮し、懲戒事由に該当せず解雇は無効と判断した。
米軍基地反対の示威行動で逮捕されたことが「会社の体面を著しく汚した」という懲戒事由に当たるとし、諭旨解雇・懲戒解雇された事案。大企業であり、一工員の私生活における行為が、会社の社会的評価に及ぼす影響は、重大とは評価できないとし、処分を無効であると判断した。
飲酒運転を理由に、公務員が懲戒免職された事案で、勤務成績の良好さ、事故後の態度、謝罪・反省の姿勢などを考慮し、懲戒免職は重すぎる処分であり権利濫用にあたると判断した。
運送会社の運転手が、年に1、2回ほど貨物運送のアルバイトを無許可で行ったのを理由に懲戒解雇された事案で、アルバイトによって業務に具体的な支障をきたしてはおらず、処分は権利濫用であると判断した。
大学教員が無許可で通訳の仕事をし、授業を休講や代講としたことを理由に懲戒解雇された事案。その仕事自体が公的な職務であるともいえ、休講が正当な理由に欠けることが明白とまでは断定できず、大学も公式に注意しなかったことなどを考慮し、重すぎる処分を無効と判断した。
社内いじめの相談をするため、機密情報を弁護士に開示したことで、情報漏洩として懲戒処分された事案。弁護士は秘密保持義務を負っており、自己の救済を求める目的は不当ではないとして、懲戒事由に該当しないと判断した。
「懲戒解雇を争うときのポイント」の解説
会社のプライベート干渉について慰謝料を認めた裁判例
第二の類型として、会社のプライベート干渉を違法であると認め、慰謝料の支払いを命じた裁判例です。
上司が交際関係に言及し、「一度失敗したやつが幸せになれると思うな」などと発言した事案で、私生活が職務に悪影響を及ぼした形跡がないのに、上司が不当にプライベートへの介入を繰り返したことを理由に、慰謝料30万円の支払いが命じられた。
上司の知人と建物賃貸借の契約更新について争いになったところ、上司から至急話し合うよう勧告され、左遷を示唆され、建物を明け渡すよう迫られた事案。上司として許される説得の範囲を超えた違法な行為であるとして、慰謝料30万円の支払いが命じられた。
「裁判で勝つ方法」の解説
まとめ
今回は、会社によるプライベート干渉の違法性と、その対処法について解説しました。
問題ある会社ほど、社員の不祥事を未然に防止しようとするなど、企業の一方的な利益のために、私生活を縛ろうとします。しかし、行き過ぎた規制はプライベートへの干渉に繋がります。そして、会社によるプライベート干渉は、たとえ労働契約を締結していても、違法となるのが原則です。労働者は、私的な生活を自由に過ごすことができ、会社の指揮命令を受けるのは業務時間内(始業時刻から終業時刻までと、適切に命令された残業時間)に限られるからです。
会社によるプライベート干渉が、どのような場合に違法となり、パワハラとみなされるかを理解することが非常に重要です。許されない違法なプライベート干渉をされたら、プライバシーを守るよう強く要請すると共に、証拠を収集し、法的措置を講じる準備をしてください。パワハラに該当するなら、慰謝料を請求することが可能です。
- 会社が社員のプライベートに干渉するのは、企業秩序の維持が目的
- 業務に関する範囲でしか規制を受けず、プライベート干渉は違法なのが原則
- 不当なプライベート干渉には、その処分の無効と慰謝料請求で対抗すべき
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