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浅野 英之
弁護士
弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号44844)。東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

企業側の労働問題を扱う石嵜・山中総合法律事務所、労働者側の法律問題を扱う事務所の労働部門リーダーを経て、弁護士法人浅野総合法律事務所を設立。

不当解雇、未払残業代、セクハラ、パワハラ、労災など、注目を集める労働問題について、「泣き寝入りを許さない」姿勢で、親身に法律相談をお聞きします。
★ 労働問題を弁護士に相談する流れは?

パワハラにあたる言葉一覧!人格否定にあたる言葉の例とは?

解説の執筆者

弁護士法人浅野総合法律事務所

代表弁護士

浅野英之

東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。第一東京弁護士会所属(登録番号44844)。

不当解雇、残業代、セクハラ、パワハラ、労災などの労働問題について、「泣き寝入りを許さない」姿勢で、親身に法律相談をお聞きします。

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言葉によるパワハラは軽視されがちですが、精神的ダメージは決して小さくありません。

我慢し続けると取り返しのつかない深刻なトラブルに発展するため、どのような言葉がパワハラとなるかを正しく理解する必要があります。また、被害者側はもちろん、加害者となりうる社長や上司などの上位者も、意図せずパワハラ発言をしないために理解する必要があります。

当事務所にも、次のような相談がよく寄せられています。

  • 「上司からのパワハラ発言が繰り返され、会社に行くのが怖くなった」
  • 「部下が不快に感じれば、パワハラ発言になってしまうのか」
  • 「パワハラ発言だと指摘されるのが怖く、指導を躊躇してしまう」

実際は、パワハラに該当するかどうかは、発言の内容だけでなく、状況や関係性なども総合的に考慮して判断されます。罵詈雑言や暴言、誹謗中傷、人格否定など、明らかにパワハラに該当するケースのほか、指導との境界が曖昧なものもあるため、個別の事情に応じた見極めが必要です。

今回は、パワハラにあたる言葉を一覧で紹介するとともに、違法性を判断する際のポイントについて、労働問題に強い弁護士が解説します。

この解説のポイント
  • 暴力的な行動を伴う場合だけでなく、発言や言葉だけでもパワハラになる
  • パワハラにあたる言葉は、労働者の権利を侵害し、大きな不利益を与える
  • パワハラ発言かどうかは、内容だけでなく状況や動機、目的も考慮される

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目次(クリックで移動)

言葉や発言によるパワハラとは

職場におけるパワハラ発言は、いわば「言葉の暴力」として深刻な問題となります。

パワーハラスメント(パワハラ)とは、職場における優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、労働者の就業環境が害されることを指します(労働施策総合推進法31条1項)。パワハラの典型例は身体的な暴力ですが、それに限らず、発言や言葉による攻撃であっても、この要件に当てはまればパワハラに該当します。

実際、当事務所に寄せられる相談でも、身体的な暴力をともなうケースよりも、言葉によって精神的苦痛を与えるパワハラのケースが多い傾向があります。

パワハラ発言がどのようなものかを理解しておかないと、自身が被害者にも加害者にもなりうるため、注意が必要です。

言葉や発言によるパワハラは精神的な攻撃に当たる

厚生労働省が示す「パワハラの6類型」は、典型的なパワハラを列挙しています。

暴力などの行動を伴うパワハラは、「①身体的な攻撃」として、パワハラの典型例として挙げられ、深刻さもよく理解できるでしょう。これに対し、言葉や発言によるパワハラは軽視されがちですが、何度も繰り返されたり、長時間行われたりすると、大きな精神的苦痛を与えます。

言葉や発言によるパワハラは、この6類型のうち「②精神的な攻撃」に該当します。人格を否定する、必要以上に長時間叱責する、他の労働者の前で注意するといったものが精神的な攻撃に該当する例として挙げられ、言葉や発言でもパワハラになることが明記されています。精神的な攻撃には、脅迫や名誉毀損、侮辱、人格否定、暴言などが含まれ、パワハラ発言はまさにその典型例です。

また、その他の類型として、「③人間関係からの切り離し」「④過大な要求」「⑤過小な要求」「⑥個の侵害」についても、身体的な暴力を伴わず、言葉によって行われます。

言葉や発言によるパワハラにはグレーゾーンがある

言葉や発言によるパワハラは、暴力を伴うケースに比べて判断が難しいことがあります。

暴力が許されないのは当然ですが、言葉や発言の場合、違法とされる暴言や人格否定に該当するかどうかの境界に、広いグレーゾーンが存在します。特に、業務上必要な指導であり、内容や態様が相当である場合、厳しい叱責であっても直ちにパワハラにはなりません。

例えば、口調が強い、声が大きいといった事情だけでは、パワハラとは言い切れません。言葉の内容だけでなく、発言の目的、状況、頻度などを総合的に判断する必要があります。受け手が不快に思ったという主観だけでなく、一般的な労働者がどう感じるかという客観面も考慮されます。

また、労働者側に一定の落ち度がある場合も考慮されます。何度注意されても同じミスを繰り返したり、誤りを正さなかったりする場面では、通常より厳しい指導が許容されることがあります。裁判例でも、不正を是正しない労働者に対する「辞めても楽にならない」といった厳しい叱責について違法性を否定した事例があります(高田道路事件・高松高裁平成21年4月23日判決)。また、作業の遅れや発言に至った事情を考慮し、不適切な発言ではあるもののパワハラとまではいえないと判断された事例もあります(大阪地裁平成24年3月30日判決)。

なお、受け手に非があればどのような叱責でも許されるわけではなく、人格を否定する発言を繰り返すなど、業務上必要かつ相当な範囲を超えればパワハラとなります。さらに、厳しい叱責や低評価が続き、最終的に解雇されたような場合には、パワハラだけでなく不当解雇の問題として争えるケースもあるため、早めに弁護士へ相談することが重要です。

「労働問題に強い弁護士の選び方」の解説

パワハラにあたる言葉一覧

次に、パワハラにあたる言葉を一覧で紹介します。

職場で心ない言葉を投げかけられると、「パワハラ発言ではないか」と疑問を持つ方も少なくありません。以下のような発言は、言葉そのものがパワハラに該当し、違法となる可能性があります。なお、あくまで代表例であるため、これらに該当しなくてもパワハラになることがあります。

生命や身体への危害をほのめかす言葉

生命や身体への危害を示唆されると、平常心では働けないでしょう。身体的な暴力が実際に行われなくても、発言で恐怖や不安を与えれば、パワハラに該当します。

  • 「殺すぞ」
  • 「殴るぞ」「蹴るぞ」「叩くぞ」
  • 「仕事でミスをしたら家に火をつけてやる」
  • 「お前の家族を痛めつけてやる」「子供がどうなってもいいのか」
  • 「末代まで呪ってやる」

こうした発言をする加害者から、「根性論だ」「喝を入れただけだ」「比喩に過ぎない」といった反論を聞くことがあります。しかし、萎縮すれば、ますます本来の力を発揮できなくなり、対象者はもちろん、周囲の社員にとっても職場環境が悪化してしまいます。たとえ指導の目的があったとしても、不安や恐怖を与えるのは業務上必要かつ相当とはいえません。

なお、生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫する行為は脅迫罪(刑法222条)に該当し、「2年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金刑」の対象となります。

  • 2025年6月1日より、懲役刑・禁錮刑は廃止され、拘禁刑に一本化されました。

行動の自由を不当に制限する言葉

労働者であっても、理由なく行動の自由を制限されることはありません。そのため、職場において自由を不当に制限する言葉は、パワハラに該当します。

  • 「この業界で生きていけないようにしてやる」
  • 「逆らったら転職できないのは分かっているだろう」
  • 「家に帰らず、死ぬ気で残業しろ」
  • 「俺がその気になれば、気に入らないやつはすぐクビにできる」
  • 「過去にも何人も辞めさせてきた」

自由の侵害は、生命・身体の侵害ほどの危険はないものの、労働者としてのキャリアや人生設計に深く関わるため働きづらさを感じるのは当然で、看過することはできません。

名誉毀損に該当する言葉

職場での評価や信用は、社会生活を送る上で不可欠です。そのため、社内での評価を意図的に下げようとする言葉は、名誉毀損としてパワハラに該当します。

  • 「使えないやつだ」
  • 「給料泥棒だ」
  • 「無能だと社内で言いふらしてやる」
  • 「セクハラ野郎」「スケベオヤジ」
  • 「上司と不倫していると社内掲示板で公表してやる」

事実でない情報でも、積み重なると社内の評価が固定されてしまうこともあるため、こうした発言は誤った人事評価につながりかねません。

なお、公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損する行為は名誉毀損罪(刑法230条)に該当し、「3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金」の対象となります。名誉毀損罪は、摘示された事実が真実であっても成立する点に注意が必要です。

人格を否定する言葉

人格を否定する言葉や発言は、相手の自尊心を深く傷つけます。感情のはけ口として投げつけられる人格否定的な発言は、典型的なパワハラの一つです。

  • 「馬鹿」「アホ」「ゴミ」「カス」「人間失格」
  • 「うざい」「きもい」「サボり魔」
  • 「会社に存在する価値がない」
  • 「能無し」
  • 「お前の声を聞くと無性に腹が立つ」
  • 「こんな簡単な仕事もできないのか」

これらの言葉に業務上の指導としての必要性は全くありません。そのため、目的も正当とはいえず、パワハラと判断される可能性は非常に高いです。

「職場のモラハラの特徴と対処法」の解説

労働者の権利行使を妨害する言葉

労働者には、労働基準法をはじめとした法律で保障された権利があります。そのため、法律上の権利行使を妨害するための言葉や発言は、パワハラとなります。

  • 「有給休暇を取るなら給料は払わない」
  • 「休憩なしで働くのが社会常識だ」
  • 「残業代を請求する社員は失格だ」
  • 「休職するなら居場所はないと思え」
  • 「終わっていないのになぜ帰るのか」

法令遵守(コンプライアンス)の意識の低い職場では、法的な権利が軽視され、こうした発言が常態化していることがあります。

個人の財産を侵害する言葉

パワハラにあたる言葉が、個人の財産を不当に侵害する形で発せられることもあります。

  • 「契約が取れなかったら罰金を払え」
  • 「役立たずに給料は払えない」
  • 「会社に損害を与えた分、給料は返してもらう」
  • 「マイホーム買って浮かれているなら燃やすぞ」
  • 「レジ金が合わないので自腹を切れ」

そもそも労働は、対価として賃金を得るためのものです。理由なく財産を奪うと示唆する発言は、重大なパワハラに該当します。

キャリアや将来性を否定する言葉

学歴や職歴、雇用形態に関する言葉も、パワハラに当たります。個人のキャリアや将来性の否定は、その労働者のこれまでの人生や価値観を否定することにつながります。

  • 「コネ入社」「二代目のボンボン」
  • 「中卒」「高卒」「Fラン」
  • 「派遣のくせに生意気だ」「契約社員ごときが口出しするな」
  • 「今まで成功してきたのはまぐれだ」
  • 「社長にゴマをすって贔屓されている」
  • 「愛人なのではないか」

これらの発言は、業務上の能力とは無関係であり、労働者の尊厳を傷つける不適切な言動であると考えるべきです。

家族や出自を侮辱する言葉

家族や出自を侮辱する言葉や発言も、パワハラとなります。家族構成や出身地、育った環境などは、仕事とは無関係であり、言及することは不適切です。

  • 「◯◯区出身だから頭が悪い」
  • 「所詮田舎者は知識がない」
  • 「貧乏人だから礼儀がなってない」
  • 「片親育ちだから人の気持ちが分からないのだろう」
  • 「お坊っちゃんが通用する世界じゃない」

これらの言葉の多くは偏見に基づくもので、放置すればエスカレートする危険があります。個人の努力では変えられないことを侮辱する発言は、違法性が強いと考えられます。

容姿や外見、身体的特徴を指摘する言葉

容姿や外見、身体的特徴も、業務とは無関係です。本人がコンプレックスを持っていることもあるため、「からかい」「いじり」といった意図であってもパワハラに該当します。

  • 「ハゲ」「チビ」「デブ」「ブス」「メガネ」「ダサい」
  • 「ジジイ」「ババア」
  • 「フケが汚い」「汗が見苦しい」「臭い」

外見に対する否定的な言葉は、強い精神的苦痛を与え、心身の不調を招くこともあります。特に、異性の容姿や外見への言及は、セクハラに発展しやすい点に注意が必要です。

「セクハラ発言になる言葉の一覧」の解説

能力を一方的に否定する言葉

怒りや感情に任せて能力を見下す発言は、パワハラにあたる言葉といえるでしょう。

  • 「本当に無能だ」「使えない」
  • 「人としての理解力がない」
  • 「よく入社できたな」
  • 「新入社員以下だ」
  • 「発達障害なのではないか」
  • 「どうせ親も頭悪いんだろう」
  • 「小学校からやり直せ」

実際に能力や成果が不足しているとしても、人格を傷つける言葉で責めるのは許されません。上司に期待される役割は、注意指導や教育によって改善を促すことです。

「能力不足を理由とする解雇」の解説

性格や人間性を否定する言葉

性格や人間性を否定する言葉も、パワハラに当たります。性格は簡単に変えられないため、業務に影響しない限り、否定すべきではありません。

  • 「頭がおかしいのではないか」「気が狂っている」
  • 「考え方が理解できない」「異常者だ」
  • 「根暗はどうせ帰っても寝るだけだ」
  • 「課題は能力ではなく人間性だ」
  • 「成果も出さずに言い訳ばかりするな」

業務上のミスや失敗といった「行動」を、労働者の「性格」の問題にすり替えるのは適切ではありません。性格を否定しても改善策は生まれないため、適切な指導とも言えません。

「勤務態度を理由とする解雇」の解説

価値観を押し付ける言葉

会社組織として一定の理念やルール、方針を共有することは必要ですが、必要もないのに個人の価値観を否定したり、押し付けたりする発言はパワハラです。

  • 「あなたには達成不能だ」
  • 「努力で乗り越えられるから必死に残業すべき」
  • 「君の考えは根本的に間違っている」
  • 「何も考えずに発言するのは浅はかだ」
  • 「敗者の思考回路だ」「負け組の人生を歩んでいる」

「協調性がない」「空気が読めない」といった抽象的な言葉では判断が難しく、萎縮させてしまいます。指導をする際は、具体的な行動を指摘する必要があります。

「協調性欠如を理由とする解雇」の解説

仕事上のミスを執拗に責める言葉

仕事上のミスや失敗がある場合、再発防止のための注意や指導は必要ですが、感情的に責め続けたり、過去の失敗を執拗に蒸し返したりする行為は、パワハラになりやすいです。

  • 「覇気がないから失敗したんだ」
  • 「あれだけのことをして許されると思っているのか」
  • 「毎日謝罪しろ」
  • 「自分が馬鹿だったと認めろ」
  • 「二度と同じ仕事は任せない」
  • 「ノルマ未達に罪の意識はないのか」

これらのパワハラとなる言葉の裏には、ミスを吊し上げたり、必要以上に精神的苦痛を与えようとしたりといった悪意があることもあり、指導の方法として不適切です。

「みんなの前でミスを指摘されたらパワハラ」の解説

他人の悪評を聞かせる言葉

他人の悪評を聞かされると、自分が社内で孤立していると感じるでしょう。事実をねじ曲げたり馬鹿にしたり、不安を煽ったりすれば、パワハラとなる言葉に該当します。

  • 「お前のせいで皆イライラしている」
  • 「部長も嫌いだと言っていた」
  • 「部署内での評判、最悪だぞ」
  • 「営業成績が悪いってみんな馬鹿にしていたよ」
  • 「社長も一緒に仕事したくないと言っていた」

人間不信に陥れば、周囲の目が気になり、仕事に集中できなくなってしまいます。組織的に繰り返されると、「職場での無視」や「職場いじめ」につながる危険もあります。

私生活やプライベートを侵害する言葉

私生活は本来、業務とは無関係であるため、個人的な事情を引き合いに出して非難する発言は、パワハラに該当します。

  • 「離婚したのはお前のせいだろう」
  • 「仕事もできないやつに家族は養えない」
  • 「借金まみれでどうしようもない人間だ」
  • 「君は友人がいないから、休日も出勤できるよね?」

「会社のプライベート干渉の違法性」の解説

知られたくない秘密を暴露する言葉

本人の同意なく個人情報やプライバシーを暴露する発言は、重大なパワハラです。

  • 「うつ病で休職する人間に与える仕事はない」
  • 「普通に生活していればエイズにはならない」
  • 「不妊治療までして子供が欲しいのか」
  • 「ゲイに大切な業務は任せにくい」

性的指向や性自認、病歴、不妊治療などに関する情報は、極めて慎重に扱うべきセンシティブな個人情報であり、これらに言及する発言は、パワハラと判断される可能性が高いです。

「労働問題を弁護士に無料相談する方法」の解説

言葉や発言の内容以外でパワハラの可能性を高める要素

ここまでは、パワハラとなりうる言葉や発言について、内容を中心に解説しました。

しかし、言葉や発言の内容だけでパワハラかどうかが決まるわけではありません。実際には、内容に加え、以下のような事情を総合的に考慮して判断されます。そのため、同じ内容を言っていても、その目的や経緯、発言態様、回数や頻度、状況などにより、違法性が異なります。

  • 発言の目的
    「侮辱したい」「感情のはけ口にしたい」「ストレスを発散したい」「職場から排除したい」といった業務とは無関係な動機がある場合、パワハラに該当しやすくなります。
  • 発言に至る経緯
    労働者側にミスや成果不足があっても、理由が説明できない、あるいは内容と釣り合っていない場合、パワハラと判断される可能性があります。
  • 発言の態様(言い方)
    大声で怒鳴る、威圧的な口調で罵倒するなど、感情に任せた攻撃的な態様は、パワハラに該当しやすくなります。
  • 発言の回数や頻度
    一回きりでなく何度も繰り返されたり、日常的に執拗に行われたりする場合、パワハラに該当しやすくなります。
  • 発言がなされた状況
    大勢の前で叱責されるなど、発言が行われた場面や状況が不適切な場合、精神的な負担が大きく、パワハラと判断される可能性が高まります。

例えば、「馬鹿」という言葉を例にしても、発言者と受け手の関係性、その場の状況によっては、単なる冗談やからかいといった意味合いで捉えられることもあります。ただし、こうした正当化を安易に認めてしまうと、悪質なパワハラ問題を見逃すおそれがあるため、慎重になるべきです。

パワハラに該当するかどうか一人で判断できないとき、軽微な被害であれば同僚や友人などに相談し、深刻な被害については会社の相談窓口や弁護士などに相談するのが適切です。このとき、発言内容だけでなく、その態様や状況を正確に伝えるために、録音やメモを用いて証拠として残しておくことが重要となります。

「パワハラの証拠」の解説

言葉や発言がパワハラであると認められた裁判例

裁判例でも、言葉や発言がパワハラであると認められた事例があります。

サントリーホールディングスほか事件

サントリーホールディングスほか事件(東京地裁平成26年7月31日判決・東京高裁平成27年1月28日判決)は、度重なる叱責や不適切な発言を原因としてうつ病を発症し、休職を余儀なくされたとして、会社と上司らに対して損害賠償を請求した事案です。

裁判所が認定した上司の発言は、次の通りです。

  • 「新入社員以下だ。もう任せられない」
  • 「何で分からないんだ。お前は馬鹿だ」
  • (うつ病で休職を申し出た際)「3ヶ月休むなら異動の話は白紙に戻す」

裁判所は、業務指導として許容される限度を超え、人格を否定する内容を含み、相当性を欠くとし、不法行為であると判断しました。その結果、上司個人の責任に加え、職場環境配慮義務を怠った会社の責任も認め、損害賠償が命じられました(控訴審では慰謝料150万円を認容)。

富国生命保険事件

富国生命保険事件(鳥取地裁米子支部平成21年10月21日判決)は、マネージャーが、営業所長の発言でストレス性うつを発症し、休職後に自然退職になったとして損害賠償を請求した事案です。

裁判所が認定した発言には、次のものがあります。

  • 「この成績でマネージャーが務まると思っているのか」
  • 「マネージャーをいつ降りてもらっても構わない」

これらの発言は、マネージャーとしての適性がないことを指摘するものですが、その言い回しは能力や適性だけでなく、人格を否定するようなものとなっています。裁判所は、業績不振の指摘には一定の必要性があったとしても、長年マネージャーを務めてきた原告の誇りを傷つける態様の叱責は違法であると判断し、慰謝料として300万円の支払いを命じました。

国・静岡労基署長(日研化学)事件

国・静岡労基署長(日研化学)事件(東京地裁平成19年10月15日判決)は、医療情報担当者(MR)として営業活動に従事していた原告が、日常的に強い叱責や侮辱的な発言を受け、精神障害を発症して自殺に至った事案で、労災の不支給決定が争われました。

裁判所が認定した発言には、次のような言葉が含まれています。

  • 「存在が目障りだ。いるだけでみんなが迷惑している」
  • 「お前のカミさんも気がしれん。お願いだから消えてくれ」
  • 「お前は会社を食いものにしている。給料泥棒だ」
  • 「車のガソリン代がもったいない」
  • 「肩にフケがベターと付いている。病気じゃないか」

裁判所は、MRのキャリアだけでなく、人格や存在そのものを否定する発言が、嫌悪感情に基づいて威圧的に繰り返されたことから、通常想定される指導の範囲を明らかに超えるとし、その後の自殺についての業務起因性を認める判断をしました。

言葉や発言がパワハラに当たらないと判断した裁判例

次に、言葉や発言がパワハラに当たらないと判断した裁判例も紹介しておきます。

東京地裁平成20年10月21日判決

東京地裁平成20年10月21日判決は、言葉や発言がパワハラには当たらないとして、損害賠償請求を棄却しました。原告は、次のような発言を受けたと主張しました。

  • 「てめー、一体何様のつもりだ。責任を取れ。自分から辞めると言え」
  • 「てめえの親父にも迷惑がかかるんだぞ、いいんだな」
  • (何度も継続的に)「俺が拾ってやったんだから感謝しろ」

棄却の理由として、退職強要や強迫について原告が主張する発言があったとは認められないこと、「感謝しろ」などの発言は、威圧的に繰り返されて精神的苦痛を与えるものだったとは考え難いことなどが挙げられました。

本裁判例のように、一見過激な言葉でも、その発言を立証する証拠がなかったり、発言の態様や当事者の関係性を考慮してパワハラとは認められなかったりすることがあります。

長崎地裁令和3年8月25日判決

長崎県の非常勤職員が、上司の言動がパワハラであると主張し、損害賠償を請求した事案です。裁判所は、次のような言動は、業務指導の範囲内であると判断しました。

  • 「3ヶ月たったら他の職員に迷惑をかけることになる」
  • 「早くできるようにならないといけない」
  • 「社会人として自分で勉強しておくもの」

これらは、業務上の期待や自立を促す指導の一環であり、人格否定や威圧ではないとして、パワハラに該当しないと判断されました。また、上司の一人称が「俺」であったことも、男らしさを誇示する目的の呼称とまではいえず、違法性を基礎づけるものではないと判断されました。

パワハラの言葉一覧に関するよくある質問

最後に、パワハラにあたる言葉一覧についてのよくある質問に回答します。

パワハラは「訴えたもん勝ち」は本当?

「パワハラは訴えた人が有利だ」「不快に思ったらパワハラだ」といった相談を聞くことがありますが、結論としては誤解です。

パワハラの対応を熟知していない企業では、被害者の言い分が通りやすいことがあります。しかし、本解説の通り、パワハラに該当するかどうかは、発言の内容だけでなく、目的・態様・頻度・状況などを総合的に考慮して判断されます。そして、パワハラ発言があったことを証拠によって立証する責任は、被害者側にあります。

言葉や発言に業務上の必要性があったり、証拠による立証ができなかったりする場合には、パワハラがあったとはされないケースも少なくありません。

侮辱罪にあたるのはどのような言葉?

事実を示さずに相手の社会的評価を低下させる言動は、侮辱罪(刑法231条)に該当します。例えば、具体的な事実を示さずに「馬鹿」「無能」「給料泥棒」といったように人格を否定すると、侮辱罪となる可能性があります。

ただし、全ての暴言について刑事責任を問えるわけではなく、受け手への影響や発言の状況なども踏まえ、違法性の強い行為である必要があります。

パワハラのグレーゾーンにおける対応は?

言葉や発言によるパワハラにはグレーゾーンが存在すると解説しました。

そのため、不適切な発言でも、直ちに違法とは断定しにくいことがあります。特に、業務上の指導の目的がある場合、多少言葉が厳しくても適法となることがあります。こうしたグレーゾーンでは、違法かどうかが曖昧になりやすいですが、パワハラ被害を受けた疑いがあると考えるなら放置してはいけません。違法性の判断が微妙なケースでも、泣き寝入りしているとエスカレートし、深刻化するおそれがあります。

このような場合、発言内容や日時・場所・状況などを記録し、早い段階で会社の相談窓口や弁護士に相談するのが適切です。

言葉や発言によるパワハラだと指摘されたときの加害者側の適切な対応は?

自分では指導のつもりでも、意図せずパワハラだと指摘されることがあります。

社長や上司、管理職などの上位者は、部下に対して強い影響を与えていることを自覚しなければなりません。パワハラだと指摘されても、感情的に反論すればかえって状況を悪化させるおそれがあり、得策ではありません。まずは冷静になり、自身の発言が業務上必要なものか、伝え方が適切だったかを振り返るようにしてください。

被害申告を受けて会社が事情聴取を行う場合、発言の意図や背景を丁寧に説明し、過度な処分とならないよう事情を正確に伝える必要があります。特に、言葉や発言によるパワハラを軽視する会社では、十分な調査なく注意指導や懲戒処分の対象とされたり、人事評価に悪い影響を与えたりといった不適切な結果となるおそれがあります。

「パワハラと言われた時の対応」の解説

言葉や発言によるパワハラを受けたときの被害者側の適切な対応は?

言葉や発言によるパワハラ被害を受けたとき、まずは証拠を残すことが大切です。

身体的な暴力を伴うケースに比べ、言葉や発言のみの場合、パワハラの証拠が残りにくいという特徴があります。発言はできる限り録音やメモを証拠として残してください。そして、証拠を確保したら、それをもとに、「業務上必要な指導であるかどうか」「指導の方法が適切かどうか」といった点を検討します。仮にミスや失敗があったとしても、人格を否定する言葉や威圧的な叱責が許されるわけではありません。

労働施策総合推進法により、ハラスメントの相談窓口を設置することが会社に義務付けられているため、まずは社内の窓口で相談しましょう。社内の窓口がない場合や、機能していない場合、早めに弁護士へ相談してください。

弁護士であれば、パワハラを止めるよう加害者や会社に警告書を送付したり、パワハラ被害が重大なケースでは労働審判や訴訟といった法的手続きで慰謝料や損害賠償を請求するサポートをすることができます。

「パワハラの相談先」の解説

【まとめ】パワハラにあたる言葉一覧

弁護士法人浅野総合法律事務所
弁護士法人浅野総合法律事務所

今回は、パワハラにあたる言葉について、具体例をもとに解説しました。

発言内容が侮辱的であったり、威圧的・脅迫的な言葉を含んでいたりする場合、身体的な暴力を伴わなくても、言葉によるパワハラと判断されます。実際の相談例でも、身体的な暴力を伴うものより、言葉による精神的なパワハラが問題となるケースの方が多いのが実情です。

ただ、言葉の内容だけを切り取っても、「アウト」「セーフ」の線引きを一律に判断することはできません。業務上の指導との境界が争点となることも多く、発言の目的や頻度、言い方、職場での上下関係などを踏まえ、総合的に判断する必要があります。

言葉によるパワハラは、気付かないうちに心身へ深刻な影響を及ぼし、働き続けることが困難になるおそれもあります。少しでも不安を感じた場合は、一人で抱え込まず、早い段階で弁護士に相談して適切な対応を取ることをおすすめします。

この解説のポイント
  • 暴力的な行動を伴う場合だけでなく、発言や言葉だけでもパワハラになる
  • パワハラにあたる言葉は、労働者の権利を侵害し、大きな不利益を与える
  • パワハラ発言かどうかは、内容だけでなく状況や動機、目的も考慮される

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