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浅野 英之
弁護士
弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号44844)。
東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

企業側の労働問題を扱う石嵜・山中総合法律事務所、労働者側の法律問題を扱う事務所の労働部門リーダーを経て、弁護士法人浅野総合法律事務所を設立。

不当解雇、未払残業代、セクハラ、パワハラ、労災など、注目を集める労働問題について、「泣き寝入りを許さない」姿勢で、親身に法律相談をお聞きします。

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パタハラとは?事例や対策、相談窓口についてわかりやすく解説

パタハラは、パタニティ・ハラスメントの略称。女性へのマタハラが問題になるように、近年、男性へのパタハラが問題視されています。パタハラは、男性の育児参加が当たり前になった現代に生まれた、新しいハラスメントとして注目を集めています。

パタハラは、広く言えばパワハラの一種であり、違法な行為です。そして、違法なパタハラの被害に遭ってしまったら、加害者や会社に慰謝料を請求できます。家族を重視する男性を敵視するような悪質な会社では、パタハラは深刻な問題に発展します。起こる前に防がなければ、自分の被害だけでなく家族も犠牲になってしまうため、パタハラの対策も欠かせません。

パタハラに対抗するには、よくある事例や対策を知る必要があります。今回は、社会問題化するパタハラの法律知識について、労働問題に強い弁護士が解説します。

この解説のポイント
  • 男性による育児を理由に嫌がらせするのは、違法なパタハラとして許されない
  • パタハラが行き過ぎれば、不法行為(民法709条)となり、慰謝料を請求できる
  • 実際にあるパタハラの事例や裁判例では、社風や古い体質がその原因となる

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解説の執筆者

弁護士 浅野英之

弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号44844)。
東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

企業側の労働問題を扱う石嵜・山中総合法律事務所、労働者側の法律問題を扱う事務所の労働部門リーダーを経て、弁護士法人浅野総合法律事務所を設立。

不当解雇、未払残業代、セクハラ、パワハラ、労災など、注目を集める労働問題について、「泣き寝入りを許さない」姿勢で、親身に法律相談をお聞きします。

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パタハラとは

パタハラとは、男性の育児休業をはじめとした、育児を理由とした男性に対する嫌がらせのことです。パタハラには法律上の定義はありませんが、パタニティハラスメントの略称、「パタニティ」は、「父性」と訳されます。

初めに、パタハラの基礎知識について解説します。

パタハラの意味

パタハラは、セクハラ、パワハラやマタハラなどと並ぶハラスメント、つまり嫌がらせの一種です。数あるハラスメントのなかでも、パタハラが問題視されたのは最近のことであり、あまり馴染みがないかもしれません。

しかし、これまで「パタハラ」という名称を与えられていなかったがゆえに、違法行為の被害に遭っているとは気付かなかっただけで、実際にはパタハラと同様の被害は昔から存在しています。厚生労働省の調査によれば、男性の育児休業取得率は未だ低く、労働者が我慢しているから明るみに出ていないだけで、表沙汰になっていない被害も相当多くあるはずです。

結婚、そして出産・育児といったライフイベントの重要性は、男女の性別で変わるものではありません。男性であっても家族が大切なのは当然で、「男性だから」という理由で家庭の事情よりも仕事を優先しなければならない理由はありません。

職場の男女差別の例と対応方法」の解説

パタハラの具体例

パタハラがどのようなものかを理解するために、具体例を紹介します。違法なパタハラにあたるケースは、例えば次の通りです。

  • 男性は育休を申請させてもらえない
  • 「お前が子どもを産んだわけではないのになぜ休むのか」と怒られた
  • 「男なのに育児休業を取るなら昇進はない」と発言された
  • 「育児なら妻を休ませればいい」と言われて休みをとれない
  • 育児休業から復帰したら嫌がらせされるようになった

このような典型的なパタハラのケースはいずれも、男性の育児休業を取得させづらくし、男性の育児への参加を妨害します。パタハラが起こるような会社で働いている男性社員は、育児に精を出すほどに、社内では迫害されていきます。

しかし、男女の性別を問わず、育児休業は法律上の権利であり、取れないのは違法です。

育休が取れないことの違法性」の解説

マタハラとの違い

パタハラとよく似たハラスメントに、マタハラがあります。マタハラは、マタニティハラスメントの略であり、妊娠や出産を理由としたハラスメント行為です。

パタハラは父親となる男性社員が対象となるのに対して、マタハラは母親となる女性社員が被害者となります。いずれもハラスメントであり、違法なことは共通です。

その根底には、「男性は仕事、女性は家を守るべき」という古い価値観があります。このような誤った価値観の根付く古い会社ほど、「男性は育児をすべきでない」という風潮が広がっており、パタハラが深刻化する傾向にあります。

マタハラの慰謝料の相場」の解説

パタハラは違法となる

パタハラが軽度の嫌がらせに留まるなら、社内で話し合いをして解決すべきです。仕事を大切にしすぎる会社では、社員のプライベートを軽視されてしまうことも残念ながらありますが、一方で、雇用されている労働者である以上、ある程度の我慢も必要です。

一方で、嫌がらせも度が過ぎれば、何らかの制裁が必要です。行き過ぎた違法なパタハラには、毅然とした対処が必要で、パタハラが違法ならば、不法行為(民法709条)となり、損害賠償責任を追及することができます。社会的な相当性を逸脱するほどに不利益な扱いに対しては、慰謝料を請求することで対抗しなければなりません。

更に悪質なパタハラは、名誉毀損罪(刑法230条)、侮辱罪(刑法231条)といった犯罪行為に該当するケースもあります。

パタハラは、行政指導の対象となることもあります。育児介護休業法25条は、育児休業について事業者が配慮すべき義務のあることを定めています。そして、下記の条文の通り、その配慮については性別を問わず、男性でも当然に対象となります。

育児介護休業法25条

1. 事業主は、職場において行われるその雇用する労働者に対する育児休業、介護休業その他の子の養育又は家族の介護に関する厚生労働省令で定める制度又は措置の利用に関する言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。

2. 事業主は、労働者が前項の相談を行ったこと又は事業主による当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。

育児介護休業法(e-Gov法令検索)

違法なパタハラが「当たり前」になっている会社では、不適切さが理解されないこともあります。しかし、会社が組織ぐるみでパタハラをしてくるとしても、泣き寝入りしてはいけません。

慰謝料をはじめ、損害賠償請求など、その違法の責任を問うため、ぜひ弁護士に相談ください。まずは会社に警告書を送ることで違法性を指摘するところからサポートをはじめ、裁判手続きによる責任追及までお手伝いできます。

労働問題に強い弁護士の選び方」の解説

パタハラを受けたときの相談窓口

次に、パタハラ被害を受けたときの相談窓口について解説します。パタハラ相談は、行政の窓口であれば労働局に、どこに相談したらよいか判断できないときは弁護士が適切です。

一方で、労働問題の相談先には、労働基準監督署もありますが、パタハラの事例は相当重度でない限り労基署が動かない可能性があるため、上記の2つを優先するのがよいでしょう。

労働局

パタハラによる泣き寝入りを避ける手段として、最寄りの労働局への相談が有効です。労働局には、育児休業法についての相談に応じる雇用環境均等(部)室が設けられているからです。

労働局の相談は無料であり、予約は不要です。育児介護休業法の禁止するパタハラに該当すれば、会社に行政指導をしてもらえます。その他、労働局で行われるあっせんによる紛争解決も可能です。弁護士に相談して戦うほどではないが、放置できない嫌がらせは、労働局に相談するのが適切です。

セクハラの相談窓口」「パワハラの相談先」の解説

弁護士に相談する

パタハラの問題は、弁護士に相談することができます。弁護士の法律相談は、ハードルが高く、パタハラのケースでは相談をためらう方もいます。しかし、パタハラ被害は、労使の間に弁護士を入れ、調整が必要なことも珍しくありません。

パタハラを執拗に受け、精神が疲弊すると、出社したり顔を合わせたりするのも酷でしょう。これ以上、被害を拡大しないため、弁護士に依頼し、サポートを受けるべきです。万が一交渉で解決しないときも、弁護士に依頼していれば裁判手続きを活用できます。労働審判や訴訟でパタハラを本格的に争う手続きは、弁護士に任せるのがよいでしょう。

あわせて、パタハラによるうつ病などについて労災申請をすることもでき、その際にも弁護士に助けてもらうことができます。

労働問題を弁護士に無料相談する方法」の解説

違法なパタハラを未然に防ぐ対策

パタハラを未然に防ぐために、最低限講じるべき対策について解説します。

違法なパタハラの原因は、その社風にあることも多いものです。「育児は妻がすべき」という考えだと、育児する男は「変わり者」として嫌がらせされるでしょう。しかし、最近では「イクメン」という言葉も流行したとおり、男性でも育児をします。

大きな不利益を伴うパタハラは決して他人事ではありません。いざ被害にあってから対処したのでは、負担が大きくなってしまいます。

育休の必要性を説明する

上司の世代は、男性の育休など認められない時代だったかもしれません。すると「自分達の頃は厳しかった」「今の若い社員は甘い」といってパタハラに繋がりがちです。古い価値観を押し付けると、現代には合わず、ハラスメントになってしまいます。

法律が改正されて育休を取りやすくなったり、企業が育休取得を推奨したりしても、現場の社員の意識が変わらなければ嫌がらせはなくなりません。

男性社員の立場で、育児休業を取得したいと考えるならば、このような風潮に対抗しなければなりません。そのためには、休業する必要性を丁寧に説明するのが大切です。妻の職業や体調、家庭の状況を伝え、夫として果たすべき役割を、会社や上司に強く主張するようにしてください。

ジェンダーハラスメント」の解説

余裕をもって上司に相談する

育休を取得するのは労働者の権利ですが、一方で、業務に少なからず影響するのは当然です。事前に全く相談なく、突然に申し出れば「迷惑だ」と感じる会社側の不満ももっともです。権利とはいえ、その行使のしかたには配慮が必要となります。

いくら育休を取るのが正当な権利でも、上司や同僚の負担が少なくなるよう、配慮すべきです。育休ともなると、相当の期間、職場を離れるので、引き継ぎや連絡事項など、対応は時間がかかるでしょう。休業までに時間があれば準備ができるので、事前に余裕をもって相談するのが大切です。

育児休暇取得率の高い企業に転職する

そもそも、現代においてパタハラのある企業は、時代遅れの価値観といえます。育児休業を自由に取得できる環境こそが、働きやすい会社を作るために求められています。

今後、結婚や育児を視野に入れるなら、育児休暇の取得率の高い企業に入社すべきです。現在勤務している会社でパタハラを受けたら、退職し、転職するのも1つの手です。

「法定の育児休業を超える休暇が用意されているか」といった点や、実際の利用実績についても重要視して企業選択をしてください。採用面接などで、質問しておくのがよいでしょう。「イクメン企業アワード」など、育児への配慮が企業の価値を向上させる時代になっています。今後は、企業選びの判断要素として、「育児と両立できるか」という点が重要です。

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実際にあったパタハラの事例

実際にあったパタハラ事例についても紹介します。

以下の具体例を見れば、規模の大きい有名な会社でも、残念ながらパタハラが起こり得ることがわかります。報道されるのはごく一例で、実際はパタハラに苦しむ方はもっと多くいます。

三菱UFJモルガン・スタンレー証券のパタハラ訴訟

まず、三菱UFJモルガン・スタンレー証券のパタハラ訴訟です。育休の取得をきっかけにパタハラを受けたと主張し、損害賠償請求に発展しました。

第一審は東京地裁で行われ、請求棄却の判決となりました。原告は外国人男性で、育休後にミーティングが減るなど、業務から外された不利益を主張しましたが、裁判所はこれを認めず、解雇には合理的な理由があると判断しました。

その後、原告は控訴して争ったものの、東京高裁も2022年6月23日、育児休業を理由とした仕事から外したとは認められないとし、控訴を棄却しました。

正当な解雇理由の例と判断方法」の解説

アシックスのパタハラ訴訟

次に、アシックスで起こったパタハラ訴訟。男性社員が、育休から復帰後、不当な部署異動にあったと主張し、アシックスに対し、パタハラを理由に慰謝料440万円などを請求しました。

原告はこの異動で、通勤時間は短くなったものの、オフィス勤務から物流センターに配転され、全く未経験の業務を担当させられることとなりました。異動や、それに伴う不利益があることは、パタハラが違法とされる理由となる可能性があります。

その後、本件は、和解によって終了したことが報道されています。

違法な異動命令を拒否する方法」の解説

カネカ社員のパタハラ告発

2019年4月23日、カネカの男性社員の妻のX(旧Twitter)が話題になりました。その投稿内容は、カネカにおけるパタハラを告発するものでした。ツイートは次の通りです(現在はアカウント削除済)。

信じられない。

夫、育休明け2日目で上司に呼ばれ、来月付で関西転勤と。先週社宅から建てたばかりの新居に引越したばかり、上の息子はやっと入った保育園の慣らし保育2週目で、下の子は来月入園決まっていて、同時に私は都内の正社員の仕事に復帰予定。何もかもあり得ない。

夫は、育休から復帰するとすぐ上司に呼ばれ、関西転勤を命じられたとのこと。その後、会社と話し合いしようとしても取り合ってもらえず、5月31日に退職したようです。

業務に必要な命令ならば、異動命令には従う必要があります。しかし、上記のカネカの例は、違法な異動命令の可能性があります。命令のタイミングからして、育休取得への嫌がらせという不当な動機が強く疑われるからです。違法な業務命令ならば、従う必要はありません。

育休から復帰後の退職」の解説

パタハラを違法だと判断した裁判例

パタハラも行きすぎれば裁判に発展するケースもあります。実際にパタハラを訴えて、違法と判断された裁判例である、医療法人稲門会事件(大阪高裁平成26年7月18日判決)を紹介します。

本事案では、病院勤務の男性看護師が、3ヶ月間の育児休業を取得しました。男性看護師の使用者だった医療法人は、3ヶ月間の不就労を理由として①職能給を昇給せず、②昇格試験を受験させないといった不利益な取扱いをし、労働トラブルに発展しました。

男性看護師はこの取扱いを違法と主張して、昇給後の給料の差額と、慰謝料を請求して争いました。

裁判所は、これらの取扱いがいずれも育児休業を理由とした不利益な取扱いを禁止する育児介護休業法10条に違反すると判断しました。育児休業を取得するのは法律上の権利であり、正当な権利行使に対して経済的な不利益があると、育児休業の取得が抑制されてしまうからです。このような扱いを許しては、権利を保証した趣旨に反し、実質的には育休の取得をためらってしまうでしょう。

また、正当な理由なく、受験資格のある試験の機会を与えなかったことも不法行為(民法709条)に該当すると判断しました。そして裁判所は、給料の差額分など、請求の一部について、会社側に支払いを命じました。

会社を訴えるリスク」の解説

まとめ

弁護士法人浅野総合法律事務所
弁護士法人浅野総合法律事務所

今回は、パタハラについて解説しました。男性の育児などを理由とした嫌がらせは、違法なパタハラであり、決してあってはならない行為です。

男性でも、育児をするのは当たり前とされる世の中になりました。しかし、社長や上司など、上の世代の方のなかには「男性の育児参加」や「女性の活躍」といったキーワードに理解を示さない人もいて、パタハラに陥りがちです。現に、男性の育休取得率は低いままなのが現状です。

男性の育児を軽視するような企業は、違法なパタハラが生じやすい危険な状態にあります。行き過ぎたパタハラは違法であり、被害を受けてしまったら慰謝料を請求することができます。問題を先延ばしにすれば、精神的なストレスが蓄積してしまうでしょう。

パタハラの問題を放置して泣き寝入りするのではなく、労働問題に精通した弁護士に相談して、早急な対処をするのが賢明です。

この解説のポイント
  • 男性による育児を理由に嫌がらせするのは、違法なパタハラとして許されない
  • パタハラが行き過ぎれば、不法行為(民法709条)となり、慰謝料を請求できる
  • 実際にあるパタハラの事例や裁判例では、社風や古い体質がその原因となる

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