パワハラは一般に、上司から部下への行為をイメージしがちです。
しかし、法的には、「優越的な関係」を背景とする限り、部下から上司への言動や同僚間の言動でも、パワハラに該当します。したがって、いわゆる「逆パワハラ」も、違法なハラスメントに変わりありません。人間関係が複雑化している昨今、パワハラの態様も多様です。
実際に、専門知識や集団による影響力によって、部下の方が上司より優位性があるケースも少なくありません。また、パワハラが社会問題化するあまり、部下から「パワハラである」と指摘されることを恐れて指導が不十分となっている上司も少なくありません。
今回は、部下から上司への「逆パワハラ」の具体例と上司側の対処法、訴える方法について、労働問題に強い弁護士が解説します。
- 逆パワハラは部下から上司への嫌がらせだが、通常のパワハラ同様に違法となる
- 逆パワハラは一般のイメージの「逆」であり、理解されにくく対策が遅れがち
- 社内で相談しても逆パワハラが解決しないとき、証拠を集めて訴えることが可能
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逆パワハラとは

逆パワハラとは、部下から上司に対して起こるパワハラのことを指し、「逆ハラ(逆ハラスメント)」と呼ぶこともあります。パワハラ被害の多くは、上司から部下に対して行われますが、逆パワハラは、典型的なパワハラとは「逆」に、部下が加害者、上司が被害者となります。
被害者・加害者が一般的なイメージと逆であること以外、逆パワハラもまた、通常のパワハラと変わりません。パワハラとは、職場における優越的な関係を背景とした言動で、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、労働者の就業環境が害されるものと定義されています(労働施策総合推進法30条の2)。この「優越的な関係」について、単なる職位の上下だけでは決まりません。
実際は、職位が上の「上司」よりも、「部下」の方が優位に立つ場面があり、そのような場合に部下によって不適切な言動が行われれば、逆パワハラに該当します。
なお、優越的な関係があっても、客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、パワハラに該当することはありません。
「労働問題に強い弁護士の選び方」の解説

逆パワハラの具体例

逆パワハラについて理解しやすくするため、具体例で解説します。
よくある逆パワハラは、例えば次のケースです。いずれも、「部下の方が上司より優位である」という場面における嫌がらせです。
部下の方が知識・経験が豊富である場合
分野によっては、部下の方が上司よりも知識・経験が豊富である場合があります。
従来の長期雇用慣行の下では、勤続を重ねるごとに知識・経験が増していくのが通常ですが、働き方が多様化して転職が当たり前になった昨今、部下の方が経験豊富なケースは珍しくありません。例えば、次のケースで、部下の方が優位な立場に立つことがあります。
- IT技術など、若い部下の方が上司よりも知識がある。
- パソコンの設定などに疎い上司が軽んじられる。
- 年配上司の聞き間違いやミスが多い。
- 部下の協力を得なければ業務の円滑な遂行が困難である。
- 中途採用で経験値や熟練度が上司よりも高い。
時代の変化とともに価値のあるスキルは変化しています。そのため、部下の方が新しいスキルを身に付けており、会社からの評価が高いケースもあります。
集団による言動の場合
部下が上司よりも弱い立場といえるのは、あくまで一対一の場合です。
部下であっても、集団になった場合、上司よりも強い立場になるケースがあります。例えば、部下が集団で起こす逆パワハラには、次の例があります。
- 部下が、集団で上司の悪口を言う。
- 上司を仲間外れにし、会話に参加させない。
- 部下全員が、上司の指示を集団で無視する。
- 上司の身体的特徴を馬鹿にした蔑称で呼ぶ。
- 部下が結託し、会社に対して上司の評価を下げるような嘘をつく。
自分の考えが正しいと考えている「モンスター社員」ほど、周囲を巻き込んで逆パワハラを行う例がよく見られます。
「職場いじめの事例と対処法」「職場で無視されるパワハラ」の解説


人間関係を利用する場合
人間関係を利用することで、上司より優位に立つ部下もいます。例えば、社長からヘッドハンティングをされた、役員と先輩後輩関係にあるなど、職場における上司・部下以外の人間関係を利用することで、部下の方が影響力を持つケースがこれに該当します。
上司の指示・命令を無視する場合
部下が上司を軽視し始めると、その指示や命令を無視するようになります。
業務命令が正当である場合、違反すれば注意指導や懲戒処分の対象となり、解雇を検討することも可能です。しかし、これらの処分を行う権限が直属の上司にはない場合、会社が組織として部下の問題行為に対処してくれなければ、逆パワハラの被害を受けてしまいます。
- 残業を命じても定時で帰宅してしまう。
- 上司の指示を無視し、自分のやり方で業務を進めている。
- 「成果が出れば、方法は問わない」という考え方で、指示に従わない。
特に、前述のように部下の方が能力・経験があると、必ずしも上司の指示・命令に従わなくても成果が出てしまい、さらに上司は軽視されていきます。
「違法な残業命令の拒否」の解説

指導が「パワハラである」と指摘する場合
適切な指導なのに「パワハラである」と指摘されることがあります。
弱い立場にある部下をパワハラから守るべきなのは当然ですが、権利意識が強くなり過ぎた結果、正当な指導の範囲であるのに「パワハラ」と指摘を受けるケースが増えています。このような逆パワハラが横行すると、パワハラ被害を申告されることを恐れ、上司が萎縮してしまい、まともな注意指導すらできなくなってしまいます。
上司が萎縮して消極的になれば、職場の秩序はますます乱れます。その結果、部下は育たず、ミスも増え、企業にとって不利益なのは明らかです。そのため、本来であれば、このような逆パワハラについては、「パワハラと指導の違い」を踏まえ、会社が上司を守るべきです。
「パワハラと言われた時の対応」の解説

逆パワハラを受けた上司側の対処法

次に、実際に逆パワハラの被害を受けたとき、上司側の対処法について解説します。
逆パワハラもまた、通常のパワハラと同じく、違法である場合には加害者や会社の責任を追及することができます。そのためにも、直後から証拠を収集しておくことは欠かせません。
逆パワハラの証拠を集める
逆パワハラへの対処法でも、証拠集めの重要性は通常のパワハラと変わりません。
今後、法的責任を裁判で追及する場合に証拠が重要となります。また、それだけでなく、逆パワハラを相談したとき、相談先に信用してもらうためにも証拠は欠かせません。逆パワハラが隠れて行われる場合、録音データが大切な証拠となります。また、逆パワハラ被害を明らかにするため、被害を受けた直後に、「5W1H」を意識して、メモに時系列でまとめておきましょう。

「パワハラの証拠」の解説

社内のハラスメント相談窓口に相談する
次に、逆パワハラを受けたことを会社に相談しましょう。
社長や人事のほか、労働施策総合推進法により義務付けられたハラスメント相談窓口への相談が適切です。窓口設置は義務となっているため、存在しなければそもそも違法です。適切に対処する会社であれば、逆パワハラの相談を受け、上司を守るための対策を講じてくれるでしょう。例えば、会社が行う逆パワハラへの対処には、次のようなものがあります。
- 正当な注意指導であることを会社として示す。
- 業務命令に違反する部下に対して注意指導を行う。
- 悪質な場合は、懲戒処分や解雇を検討する。
- 部下と上司の相性の問題である場合、異動や配置転換を行う。
ただし、逆パワハラは、一般のイメージと「逆」であるため、理解されにくいおそれがあります。「上司側のマネジメント能力不足」といった指摘を受けないよう、部下側が優位性を利用した不適切な言動をしていることについて、証拠で説明することが重要です。
「パワハラの相談窓口」の解説

弁護士に相談する
弁護士であれば、逆パワハラであっても問題性をよく理解してくれます。
労働問題を多く取り扱う弁護士は、通常のパワハラだけでなく、逆パワハラの相談も多く受けています。適切に対処しない会社に対しては、弁護士から警告書を発してもらう手が有効です。逆パワハラの問題が会社に理解してもらえないときでも、弁護士に依頼し、部下の方が優位な立場にあることを説明し、会社に適切な防止措置を求めるのが適切です。
自分の置かれた状況が、逆パワハラに該当するかどうか疑問がある場合、まずは弁護士の無料相談を活用することで解消できます。
「労働問題を弁護士に無料相談する方法」の解説

逆パワハラを訴える方法

次に、逆パワハラを訴える方法について解説します。
逆パワハラを我慢したり放置したりしていると、うつ病や適応障害といった精神疾患を発症するなど、大きな被害が生じてしまうおそれがあります。社内の話し合いでは解決できないとき、労働審判や訴訟といった法的手続きに訴えて、責任追及する必要があります。
逆パワハラを防ぐための適切な対応を怠る会社には、安全配慮義務違反の責任が生じます。部下であろうと上司であろうと、職場での安全は保障されなければなりません。また、直接の加害者(部下)に対して、不法行為(民法709条)の責任を追及することも可能です。これらの根拠によって、逆パワハラによって被った精神的苦痛について慰謝料を請求することができます。
主な法的手続きには労働審判と訴訟がありますが、労働審判であれば、3回以内の期日により、簡易かつ迅速に解決することが期待でき、労働者が会社と争う際によく活用されています。
「労働問題の種類と解決策」の解説

逆パワハラを放置する企業側のリスクと対策

最後に、逆パワハラを放置する企業側のリスクと、講じるべき対策を解説します。
逆パワハラを放置することには、企業にとっても大きなリスクがあります。被害を受けた上司個人の問題だけでなく、組織の秩序が崩壊し、経営にも影響しかねません。
逆パワハラを放置するリスク
部下からの暴言や嫌がらせなどの逆パワハラは、上司に大きな精神的苦痛を与えます。
ストレスを抱え込んだ結果、メンタルヘルス不調に陥り、休職や退職を余儀なくされるケースは少なくありません。この場合、加害者である部下個人だけでなく、問題を放置した会社に対しても、安全配慮義務違反を理由として慰謝料や損害賠償を請求されるリスクがあります。
優秀な管理職が注意指導を行えず、離職してしまうと、職場の環境が悪化し、他の真面目な従業員のモチベーションを低下させたり、連鎖的な離職を招いてしまったりする危険があります。
企業が講じるべき逆パワハラ対策
企業が講じるべき逆パワハラ対策は、通常のパワハラ対策と変わりません。
具体的には、企業としてパワハラを許さないという毅然とした方針を示し、組織としての姿勢を周知することが必要です。その上で、社内にハラスメント相談窓口を設置し、部下から上司への逆パワハラに関する相談も受け付けること、相談しても不利益がないことを周知します。
また、「言った・言わない」の水掛け論を防ぐためにも、問題ある部下に対する注意指導は、書面やメールなどの客観的な記録に残して行うことが重要です。注意指導をしても改善されないときは、配置転換や懲戒処分など、より厳正な対応を検討すべきです。
【まとめ】逆パワハラについて

今回は、逆パワハラの違法性と対処法について、具体例を踏まえて解説しました。
パワハラ被害の多くは、上司から部下に対する言動が原因となります。しかし、上司・部下という関係だけで保護の必要性を決めることはできません。実際には、若手の方が最新の知識を有し、それを理由に、上司に対して優越的な関係を背景としたパワハラを行うケースもあります。
また、部下が集団で上司に抵抗したり、少し厳しく注意されると「パワハラではないか」と反抗したりすることでパワハラが成立するケースもあります。このような職位の上下によらないハラスメントについても、会社は防止すべき義務を負います。また、被害に遭ったときは、通常のパワハラと同じく、慰謝料や損害賠償を請求することが可能です。
部下からの嫌がらせに遭うことは近年増えており、恥ずかしいことではありません。逆パワハラ被害にも適切に対処しなければエスカレートさせてしまうため、加害者や会社への責任追及を検討している方は、ぜひ弁護士に相談してください。
- 逆パワハラは部下から上司への嫌がらせだが、通常のパワハラ同様に違法となる
- 逆パワハラは一般のイメージの「逆」であり、理解されにくく対策が遅れがち
- 社内で相談しても逆パワハラが解決しないとき、証拠を集めて訴えることが可能
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