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浅野 英之
弁護士
弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号44844)。
東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

企業側の労働問題を扱う石嵜・山中総合法律事務所、労働者側の法律問題を扱う事務所の労働部門リーダーを経て、弁護士法人浅野総合法律事務所を設立。

不当解雇、未払残業代、セクハラ、パワハラ、労災など、注目を集める労働問題について、「泣き寝入りを許さない」姿勢で、親身に法律相談をお聞きします。

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職場いじめとは?よくある事例と、相談窓口、対処法を詳しく解説

大人になっても行われるいじめ、それが「職場いじめ」です。職場は、一日の大半を過ごす場であるので、上司や同僚からいじめられたら辛い思いをするでしょう。

いじめが許されないのは当然ですが、社会に出てもなお、理不尽な振る舞いをする人もいます。被害者にしてみれば「なぜ自分だけ職場いじめを受けるのか」は理解できないことでしょう。周囲に相談できず、孤立無援で、退職するまで明るみに出ない陰湿な職場いじめもあります。

しかし、職場いじめを決して許してはいけません。放置すれば、心も体も限界を迎えてしまいます。職場いじめは、パワハラの一種であり、違法なハラスメントです。違法な職場いじめを受けたら、拒絶の意思を示し、訴訟などの法的手段を講じるといった厳正な対処が必要です。

今回は、職場いじめの事例、相談窓口、対処法について、労働問題に強い弁護士が解説します。

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解説の執筆者

弁護士 浅野英之

弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号44844)。
東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

企業側の労働問題を扱う石嵜・山中総合法律事務所、労働者側の法律問題を扱う事務所の労働部門リーダーを経て、弁護士法人浅野総合法律事務所を設立。

不当解雇、未払残業代、セクハラ、パワハラ、労災など、注目を集める労働問題について、「泣き寝入りを許さない」姿勢で、親身に法律相談をお聞きします。

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職場いじめとは

職場いじめとは、職場で発生するいじめのことです。

職場は、価値観の異なる人が、狭い空間を共有して一日の大半を過ごす場所ですから、お互い配慮しなければ、人間関係を保つことはできません。人間関係にヒビが入れば、一方的に攻撃され、職場いじめにつながる事態となります。

「いじめ」というと、学校でのいじめを真っ先にイメージするでしょう。「職場でいじめるのは大人気ない」と思うでしょうが、相談例は少なくありません。

実際、「令和3年度個別労働紛争解決制度の施行状況」(厚生労働省)によれば、総合労働相談コーナーに寄せられる労働相談で最も多いのが「いじめ・嫌がらせ」(1位・86,034件)であり、現在も増加傾向にあります。

「令和3年度個別労働紛争解決制度の施行状況」(厚生労働省)

これほど多くの職場いじめが起こっている原因は、ハラスメントの増加理由と共通します。

職場いじめに悩む方にとって、自分だけの問題ではなく、社会全体の課題だと言えます。これほど多くの人が相談しているのですから、我慢することなく気軽に相談しましょう。

職場いじめは、現場では、学校のいじめより軽視されやすいです。それは、被害者が子供ではなく大人であり「自己責任」と片付けられがちだからです。しかし、職場いじめの被害者になると、助けを求めるのが困難だと分かるでしょう。会社が対策を講じたとしても、職場いじめを根絶させるのは難しいことです。

職場いじめの起こるような問題ある会社では、長時間労働パワハラセクハラなどの他の労働問題が併存し、加害者側としても過酷な労働環境のストレス発散の手段としていじめを行ってしまっているケースもあります。

労働問題に強い弁護士の選び方」の解説

職場いじめによくある事例

次に、職場いじめの具体的な事例について紹介します。

職場いじめは、早期に発見し、対策を打たなければなりません。被害者になりそうなときも、早めの判断が大切です。放置すれば、職場いじめは激化し、エスカレートし、度が過ぎれば犯罪にもなってしまいます。

職場いじめをする側では「冗談」「からかい」と紙一重のこともあります。暴力や暴言があれば明らかですが、区別のしづらい事例もなかにはあります。

以下で紹介する行為はいずれも、慰謝料をはじめ損害賠償請求の対象となりうる職場いじめです。

暴言を吐かれる、暴力を振るわれる

まず、直接の暴言、暴力があれば、違法な職場いじめであることに疑いありません。

  • 頭や腹を殴られる、足を蹴られる
  • 他の社員の面前で「バカ」「アホ」「間抜け」と侮辱される
  • 妻子や両親など、家族を馬鹿にされる
  • 「同じミスをしたら殴る」など、仕事の注意を理由に脅される
  • 私物を壊される、汚される

暴行があれば、不法行為(民法709条)であり、慰謝料を請求することができます。また、暴行罪(刑法208条)、傷害罪(刑法204条)、脅迫罪(刑法222条)といった犯罪が成立し、刑罰を科される可能性も高いです。職場いじめがここまで悪化していれば、直ちに法的措置をとるべきです。

パワハラにあたる言葉一覧」の解説

無視される、仲間はずれ

無視や仲間はずれは、いじめの典型的な手段の1つです。直接的な危害がなくても、精神に大きなダメージを与え、業務遂行の支障となってしまいます。むしろ、陰湿である分、防ぎづらく、長期化しやすい傾向にあります。

  • 挨拶を返してくれない、目線を合わせてくれない
  • 社員全員ににらまれ、監視されている
  • 集団の会話に入ろうとすると避けられ、解散されてしまう
  • 自分にだけ資料が配布されない、ファイルの共有先を教えてもらえない
  • 自分だけ別室や部屋の隅で作業させられる
  • 上司に直接会話してもらえず、他の人を介して指示される
  • 職場の送別会や忘年会に一人だけ招待されない
  • 同期のLINEグループに参加できない

他の社員とコミュニケーションが取れないと、職場での共同作業はできません。ますます業務から置いていかれ、仕事についていけず更なる職場いじめの原因となります。周りの社員にも相談しづらくなり、社内でますます孤立してしまいます。

職場で無視されるのはパワハラ」の解説

過剰な要求をされる

過剰な要求をして、無理難題を押し付けるのも、職場いじめに当たります。達成しようもないノルマや仕事量では、どれほど優秀な人でも無気力になってしまいます。

  • 一日で終わらない量の仕事を任される
  • 未経験の業務なのに指導せず「これくらいできて当たり前だ」と言われる
  • 同じ仕事量、成績なのに、同期と比べて明らかに評価が低い
  • 他の社員が帰るのに「朝までに終わらせるように」と自分だけ残業させられる
  • 「達成できなかったら給料を下げる」と怒鳴られる

これらの要求は、被害者となる人に能力がない、やる気がないという口実作りとなります。要求に応じないと、暴力や暴言、仕事外しなど、他のハラスメントによる処分につながります。

ノルマ未達を理由とする解雇」の解説

必要以上に厳しく注意指導される

仕事でミスをすれば、注意や叱責をされても仕方ありません。未経験の業務や新入社員の場合、上司に指導してもらう必要がありますが、度を超えた叱責は、職場いじめといってよいでしょう。

  • 大声で怒鳴りつけ、厳しく指導する
  • 無意味な反省文を何枚も書かせ、「書き終わるまでは帰らせない」と言われる
  • 必要ないのに人前で怒られる
  • 仕事のミスの原因が、無関係な私生活上の出来事、家族などにあると指摘される
  • GPSのついた携帯電話で、行動を24時間監視される

このような注意指導による職場いじめは、目をつけられると狙い撃ちされ、継続します。誰しもミスはするでしょうが、常に監視されると更に際立ってしまいます。その結果、能力不足というレッテルを貼られ、職場いじめの標的とされてしまいます。

パワハラと指導の違い」の解説

仕事を与えてもらえない

「仕事がなければ楽でいい」と思うかもしれません。しかし実際は、生活の大半を過ごす職場で、役割がないのは苦痛でしかありません。

会社で働く以上、与えられる業務の遂行なしには自分の価値を示すことができません。仕事が全く与えられなければ、自己肯定感は減じていく一方です。

  • 営業職として採用されたが、ゴミ拾い、トイレ掃除しか任されない
  • 「仕事は自分で探すように」と言われ、指示がまったくない
  • 同期と比べて、与えられる仕事量が圧倒的に少ない
  • 簡単な事務作業のサポートしかさせてもらえない
  • 「女性だから」「男性だから」など不合理な理由でプロジェクトから外された

職場いじめの加害者は、いじめの対象を軽視し、人格的に否定し、職場で不要扱いすることによって、苦痛を与えてきます。

仕事を与えないパワハラ」の解説

嫌味や陰口を言われる

嫌味や陰口は表面化しづらいですが、心理的な影響は無視できず、職場いじめだといえます。集団で寄ってたかっていじめるのは、表立っての暴言より精神的被害の大きい場合もあります。

  • 仲の良い友人から、職場で悪評を流されていると聞いた
  • 成績が良いのを妬まれ、「女のくせに調子に乗っている」と言われた
  • 「顔で採用されたから営業成績が悪い」などの嫌味な発言をされた
  • 自分の知らないところで「社長と不倫している」と事実無根の噂を流された
  • 不快なあだ名をつけられている

暴言ほど直接的な攻撃でなくても、発言が職場いじめになることがあります。嫌味や陰口は、差別的な感情を伴うことが多く、慰謝料請求の対象となります。

職場のモラハラの特徴」の解説

休息が与えられない

職場いじめの被害を受けると、休息を与えてもらえないことがあります。

  • 有給休暇をとらせてもらえない
  • 冠婚葬祭など、やむを得ない予定があるのに休日をとれない
  • 「無能なのだから」と言われ、休憩せずに働き続けるよう命じられた

有給休暇は労働者の権利であり、理由なく取らせないのは違法です。休憩もまたルールがあり、どれほど業績が上がっていなくても、6時間以上働いたら45分、8時間以上働いたら1時間の休憩を、労働時間の最中に取らせる義務があります。

「休むな」という要求に応じないと、ますます理不尽ないじめが加速します。このような休息を与えない職場いじめには、休日手当をはじめとした残業代請求、心身の損害が出たときには安全配慮義務違反の慰謝料請求によって対抗する必要があります。

休憩時間を取れなかった場合」の解説

責任の押し付け、成果の横取り

会社とは、組織一丸となって業務遂行し、成果を上げるものです。しかし、職場いじめの加害者は、自分の利益を優先し、責任は押し付けようとします。

  • 上司が監督して防ぐべきミスを、現場の部下のせいにする
  • 評価者が不当に低い評価を付ける
  • 業績が上がった努力を、自分の手柄として社長に報告する

陰湿な加害者ほど、周囲からバレないため、職場いじめの被害者の信頼は崩れてしまいます。その結果、職場いじめに無関係な人からも低評価を受け、社内の居場所を失います。

仕事を押し付けられた時の断り方」の解説

職場いじめのターゲットになりやすい人の特徴

職場いじめは、個人の尊厳を踏みにじる違法行為で、到底許されません。一方で、職場いじめの被害者になりやすい人には、特徴があります。

「いじめられる人が原因だ」というのは明確な誤りで、いじめる人が悪いのは当然なのですが、無意識のうちに当てはまっているなら、対策を練り、職場いじめを防ぐべきです。

同じミスを繰り返す

何度も同じミスを繰り返す人は、マイナスなイメージを抱かれがちです。会社はチームで仕事をする以上、一人のミスは全体に影響します。その結果、ミスばかりしている人は、職場いじめのターゲットになってしまいます。

ミスで迷惑をかけ続けると、周囲も怒りを隠せなくなり、職場いじめにつながってしまいます。

みんなの前でミスを指摘されるパワハラ」の解説

自己主張が苦手である

日頃おとなしく自分の意見を言わない人は、職場いじめの被害者になりやすいです。主体的な行動のないことがストレスだと感じる上司もいます。自己主張が弱いことで「いじめても報復してこなそうだ」と甘く見られがちです。

逆に、自己主張の強すぎる人も、職場いじめの対象となることがあります。「長いものに巻かれろ」「空気を読めていない」といった反発を食らうケースです。会社組織は、大規模になるほど、やっかい事を避けるために秩序を乱す人を排斥します。

協調性欠如を理由とする解雇」の解説

自身の誤りを認めない

社会人は、経験者の指導やアドバイスを受け入れて成長すべきです。部下のためを思って誤りを指摘しても、自身の誤りを認めず反抗されると、「好意を無駄にされた」と感じるでしょう。その結果、社内で「頑固」「話が通じない」などネガティブなイメージを持たれ、職場いじめにつながります。

自分の価値観が正しい、といった固定観念は捨てましょう。言い返すと更に悪化する例は思いの外多く、「仕返しをしよう」などと考えてはいけません。よほど不合理なものでない限り、アドバイスは素直に聞くべきです。

優秀であり、業績が良い

職場いじめは、社員間の妬みや嫉みによっても生じます。容姿が整っていたり、成績が優秀だったりすると、面白くないと感じる社員も少なくありません。

人の努力は、理解されず、「楽して評価されている」と誤解する人もいます。堂々と自信に満ちあふれた人をみて「気取っている」「調子に乗っている」と感じる人がいる会社では、職場いじめが始まってしまいます。できるだけ謙虚な姿勢を心がけ、周囲の反感を避ける必要があります。

労働問題の種類と解決策」の解説

職場いじめへの対処法

次に、職場いじめの被害に遭ったときの対処法を解説します。職場いじめに遭うと「なぜ自分がいじめられるのか」と許せない気持ちでしょう。

人間関係をうまく進める方法は、千差万別であり、正解はありませんが、職場いじめは、単なる不和ではなく、法律問題です。そのため、適切に対処し、被害を最小限に抑える必要があります。

明確に拒絶する

職場いじめへの対策で大切なのは、「いじめ」と感じた時点で速やかに拒絶することです。周囲の雰囲気に流され、受け入れていると思われないよう、毅然とした態度が重要です。会社側からしても、被害者が黙っていると、職場いじめの発覚が遅れてしまいます。

「弱い者いじめ」という言葉の通り、反抗しない人ほど職場いじめに遭いやすいです。仕返ししてやり返すのはよくないですが、我慢して耐える必要はありません。

職場いじめは、挨拶されない、ランチに誘われないなど軽度な段階から始まるもの。ドライに割り切れば我慢して働けるかもですが、放置すればエスカレートします。周囲に溝ができると、これまで親切だった同僚との関係も悪化するでしょう。コミュニケーションがとれないことで業務ができず、ミスが増え、会社内の評価にも影響します。

ただし、加害者によっては強く拒絶すると逆にひどいいじめに発展することもあります。

拒絶するとますます「生意気だ」「調子に乗っている」と反感を買うケースでは、面と向かって対抗するのではなく、次章以降の対応を検討するようにしてください。

職場いじめの証拠を集める

意思表明を明らかにすると同時に、職場いじめの証拠を集めていきます。職場いじめを争っていくためには、証拠が何よりも重要です。証拠があれば、会社に相談して、対応してもらうことができます。職場いじめの加害者を懲戒処分としてもらえるケースもあります。

職場いじめの事例で、収集すべき証拠は、例えば次のものです。

  • 音声の録音、動画
  • 発言内容が記載されたメール、チャット
  • 職場いじめの被害者の作成した日記・メモ
  • 他の社員の目撃証言
  • 医者による診断書

証拠が多いほど、職場いじめの事実を確かなものにできるため、1つ得られたからといって満足しないでください。ただ1回の行為ではなく、継続的、かつ、日常的にいじめられていたと証明できる方が、請求する慰謝料額も高額になります。

パワハラの証拠」の解説

上司に相談する

社内に味方がいれば、職場いじめに対処しやすくなります。寄ってたかって集団でいじめられると、被害者側が一人では立ち向かえません。味方がいないと相当辛いですが、相談もしなければ、見て見ぬ振りをする人も多いです。

陰湿に、こっそりといじめてくる人には、社内でいじめの事実を明らかにするのが有効です。上司の評価を気にする陰湿ないじめ加害者ほど、社内の立ち周りを気にするものです。会社全体として職場いじめに対処できれば、部署異動などの対策を講じることができます。

パワハラの相談を受けたときの対応」の解説

社内、社外の相談窓口を活用する

職場いじめについて、社内、社外の相談窓口を効果的に活用しましょう。

こっそりとされる職場いじめを、社長など上層部が全て把握するのは困難です。社員の人間関係の細部までチェックすることはできません。社内の窓口、内部通報窓口などに相談することで、会社に問題意識を持たせます。悪質ないじめには、異動や懲戒処分により対処されることが期待できます。

社内での相談が不安な場合や、社長が職場いじめを主導するケースなどは、社外に相談しましょう。社外の相談窓口としては、労働基準監督署、労働局、弁護士などが考えられます。

パワハラの相談先」の解説

働き方を変更する

職場いじめへの対処法として、働き方を変更する手もあります。

例えば、酷くなる前に、異動や在宅勤務ができないか、会社に交渉しましょう。職場いじめは集団で行われるので、その集団を抜け出せば、加害者は手出しができません。心身のダメージがひどいときは、休職や退職を申し出ることも検討してください。

改善が見込めないなら、そのような会社は見限り、転職するのも良いでしょう。退職時、会社に責任があるなら失業保険を会社都合にできないかも検討してください。

自己都合と会社都合の違い」の解説

法的手段をとる

職場いじめには、法的な責任が発生します。そのため、職場いじめの被害にあったら、すぐに弁護士に相談ください。違法な職場いじめなのか判断に悩むとき、法的な観点からアドバイスできます。

加害者は自分の行いで被害者が傷ついていても、罪悪感を感じません。そもそも、被害者側の苦痛を認識すらしていないケースもあります。

このとき、法的手段をとることで問題の重大さを気付かせることができます。具体的には、加害者に対し、不法行為(民法709条)を理由に損害賠償請求をします。職場いじめの慰謝料の相場は、50万円〜200万円程度ですが、内容によりますので、次章の裁判例を参考にしてください。

労働問題を弁護士に無料相談する方法」の解説

違法な職場いじめをした人の責任は重大

違法な職場いじめをした加害者側の責任は、非常に重大です。

まず、不法行為(民法709条)の責任が認められると、慰謝料をはじめ、損害の賠償を命じられます。いじめ行為は、加害者が嫌がらせ目的で行うケースが多く、不法行為が成立しやすいです。

いじめの態様がひどいと、刑事責任を負うケースもあります。職場いじめが該当しうる犯罪、科される刑罰は、次の通りです。

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犯罪刑罰
暴行罪(刑法208条)2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料
傷害罪(刑法204条)15年以下の懲役又は50万円以下の罰金
脅迫罪(刑法222条)2年以下の懲役又は30万円以下の罰金

会社もまた、職場いじめに対処するため、懲戒処分や異動、悪質なケースでは解雇なども検討せざるを得ません。見て見ぬふりをした上司や社長、周囲の同僚も、共同不法行為の責任を負う可能性があります。刑事責任も同じく、直接手を下さなくても、命令した上司が共犯となることもあります。

職場いじめを放置した会社も、加害者と同様に法的な責任を負います。

加害者が不法行為をしたとき、「事業の執行」についてしたものならば、会社には使用者責任(民法715条)がありますし、合わせて安全配慮義務への違反ともなります。会社は、労働契約に基づき、信義則上、社員の生命や身体を危険から保護する義務があるからです。

懲戒処分の種類と違法性の判断基準」の解説

職場いじめに関する裁判例

最後に、職場いじめについて判断した裁判例を解説します。

暴言や暴行の職場いじめの裁判例

東京地裁平成22年7月27日判決

上司の部下に対する、次の職場いじめ行為が問題となった事案です。

  • 12月から翌6月頃にかけ、強風設定の扇風機を当てた
  • 「馬鹿野郎」「給料泥棒」「責任を取れ」「てめえこの野郎」「お前の責任をどうとるんだ馬鹿野郎」と叱責した
  • 「給料をもらっていながら仕事をしていませんでした」との文言で、始末書を提出させた
  • 「君の後ろには君だけではなく、君の家族の姿が見えてしょうがない」と発言した
  • 風邪を引いてマスクをしたのに対し「君らの気持ちが怠けているから風邪を引くんだ」と発言した
  • 被害者の配偶者に言及し「よくこんな奴と結婚したな、もの好きもいるもんだな」と発言した

これらの職場いじめに当たる言動について、裁判所は、約140万円の損害賠償を命じました。

名古屋高裁平成20年1月29日判決

本事案は、ユニクロ社員の暴行や暴言を不法行為とし、損害賠償責任を認めた例です。職場いじめとして問題となった行為は次の通りです。

  • 被害者の胸倉をつかんで頭部や背部を壁に多数回打ち付けた
  • 顔面に頭突きをした
  • 精神病であるのを認識しながら「いい加減にせいよ、お前」「おー、何を考えてるんかこりゃあ」「ぶち殺そうかお前。調子に乗るなよ、お前」と声を荒らげて発言した

被害者はこれらの行為によって妄想性障害に罹患しました。第一審はいじめと障害の因果関係を認め、慰謝料500万円を認めましたが被害者が控訴。控訴審も一審判断を維持しつつ、約230万円の支払いを命じました。

東京地裁平成17年10月4日判決

本事案は、家電量販店での社員の暴行、謝罪強制が、不法行為に当たるとした事例。職場いじめとして問題となった行為は次の通りです。

  • 会話練習の際に、怒号を発して、紙筒様の物で頭部を強く約30回殴打した
  • クリップボードの表面と側面を使って、ある程度力を込めて頭部を約20回殴打した
  • 商品取置きに関する問題に激昂し、被害者の大腿の外側膝付近を3回にわたって強く蹴った
  • 虚偽の電話連絡について怒鳴りつけて叱責した
  • 左頬を手拳で数回殴打し、右大腿部を膝を使って蹴り、頭部に対して肘や拳骨で殴打した

裁判所は、直接の加害者の責任だけでなく、家電量販店の使用者責任、代表者の共同不法行為責任も認めました。

各暴行ごとに10万円〜100万円の慰謝料、加えて入通院慰謝料も約100万円を相当とされました。更に、加害者は刑事責任を問われ、暴行罪で起訴され、罰金30万円に処せられています。

嫌味や陰口による職場いじめの裁判例

東京高裁平成24年11月29日判決

上司に退職を強要され、人格権を侵害されたとして、被害者が損害賠償を請求した事例。職場いじめとして問題になった発言は、次の通りです。

  • 「いつまでしがみつくつもりなのかなって」「辞めていただくのが筋です」「懲戒免職とかになったほうがいいんですか」などの表現を用い、長時間の退職面談を行った
  • 「1年を過ぎて、OJTと同じようなレベルしか仕事ができない人が、もう会社はそこまでチャンス与えられないって言ってるの」「もう十分見極めたから」
  • 「懲戒になると、会社辞めさせられたことになるから、それをしたくないから言ってる」
  • 「この仕事には、もう無理です。記憶障害であるとか、若年性認知症みたいな」

裁判所は、これらの言動が違法な退職強要に当たると判断し、不法行為責任として慰謝料20万円の支払いを命じました。

東京地裁平成19年10月15日判決

上司の言動が原因で、被害者が精神障害を発症して自殺に及んだと判断された事例。被害者は、職場いじめによって食欲が落ち、最後には遺書を残して自殺に至りました。

問題となった上司の言動は、例えば次のものです。

  • 「お前、対人恐怖症やろ」
  • 「病院の訪問をせずに給料を取るのは給料泥棒だ」「病院を回っていないならばガソリンの無駄だ」
  • 「存在が目障りだ、居るだけでみんなが迷惑している」「おまえのカミさんも気がしれん、お願いだから消えてくれ」
  • 「何処へ飛ばされようと俺は甲野は仕事しない奴だと言いふらしたる」
  • 「肩にフケがベターと付いている。お前病気と違うか」

裁判所は、被害者の自殺について業務起因性を認めています。

過労死について弁護士に相談する方法」の解説

過度な注意指導による職場いじめの裁判例

東京高裁平成17年4月20日判決

本事案は、上司の部下に対する以下の行為が、職場いじめとして問題になりました。

  • 「意欲がない、やる気がないなら、会社を辞めるべきだと思います」というメールを、被害者のみならず、職場の同僚数十名に送信した
  • 「あなたの給料で業務職が何人雇えると思いますか。あなたの仕事なら業務職でも数倍の実績を挙げますよ」という記載があった

裁判所は、指導や叱咤激励の表現としても、許容される限度を逸脱していると評価し、損害賠償請求を認容しました。

仲間はずれによる職場いじめの裁判例

東京高裁平成5年11月12日判決

高校の教諭を被害者とし、学校における職場いじめが不法行為に当たるかが争われました。具体的には、仕事外し、職員室内での隔離、第三職員室への隔離、自宅研修といった過酷な処遇が認定されました。

学校の措置がエスカレートした結果、13年間もの長きに渡り、一切の職務を奪い、放置し、退職を待つだけであったとされ「懲戒解雇以上に過酷な処遇」とも評価されています。結論として、裁判所は、不法行為の成立を認め、600万円の損害賠償を命じました。

裁判で勝つ方法」の解説

まとめ

今回は、職場いじめに関する基本的な法律知識を解説しました。

職場いじめは、労働者の働く喜び、幸福感を着々と奪っていきます。職場では仕事に集中したいでしょうが、いじめを受けるとそれどころではありません。エスカレートした職場いじめは、労働者の心身の健康に、甚大なダメージを与えます。

また、いじめと明確に言えるケースばかりではありません。むしろ、職場いじめかどうかグレーで、被害者が我慢してしまうケースほど問題は大きいです。相談をためらうべきではなく、一人で抱え込むのは避け、弁護士に相談ください。

職場いじめは許されるものではなく、加害者や対処しなかった会社の責任を追及すべきです。

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