取引先との関係を良好に保つのに、接待が重要な役割を果たすことがあります。男女問わず、取引先との会食に参加した経験はあるでしょうが、特に女性営業にとっては注意を要する場面です。接待の場は、無理な要求や過剰な接待を強要されるリスクが、少なからずあるからです。
女性営業に接待を命じるケースがありますが、あえて「女性」である合理的な理由がなければ、違法なセクハラの疑いもあります。性接待、お酌やデュエットの強要、取引先の社長に触られるといったセクハラがあるなら違法であり、たとえ業務命令であっても応じる必要はありません。
接待の場でセクハラ行為の被害に遭ったら、加害者本人だけでなく、加害者の勤務先や、自社に対しても責任を追及できる可能性があります。
今回は、接待で女性営業が気をつけるべきポイントや、万が一性接待の強要を受けた場合の対処法について、労働問題に強い弁護士が解説します。
- 接待の強要は、性的な意図があれば違法なセクハラ、無くてもパワハラになる
- 違法なセクハラにあたる接待の命令に応じる必要はなく、断固として拒否すべき
- 接待で行われたセクハラの責任は、防止しなかった会社にも追及できる
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女性営業が接待で守るべき基本
接待は、ビジネスにおける「潤滑油」として、重要な役割を果たします。
恩義や人情を重視する商慣習と相性がよく、長年にわたり日本のビジネス文化の一つとなってきました。接待による信頼関係は、取引の継続や、非公式な交流を通じたビジネスチャンスの拡大のために、とても重宝されます。
女性ならではの気遣いや柔軟さを生かし、接待の現場で女性営業が活躍する企業は多いです。しかし、接待の場にはリスクもあるため、参加する女性営業としては対策を講じておく必要があります。健全な接待ならよいですが、お酒が入ると、性的な接待や過度な要求、セクハラが発生しやすい状況となることも少なくありません。「仕事だから」「盛り上げなければ」と、真面目な人ほど悩みを抱え込みがちですが、違法なセクハラに屈してはなりません。
以下ではまず、女性営業が接待で守るべき、基本的な心構えを解説します。
接待の目的を明確にする
接待は、プライベートの付き合いではなく、あくまでビジネスの一環でなので、果たすべき目的(ゴール)があります。業務を超えた個人的な関係を求めるのは不適切であり、過剰な要求を断る勇気を持つことが大切です。
節度を守って境界線を引く
次に、境界線をしっかりと守ることです。接待の場では、個人のプライバシーには触れず、身体的な距離も空けるようにしてください。
精神的にも、身体的にも、距離が近いことはセクハラとなる可能性が高く、毅然とした対応が必要です。女性から隙を見せないよう、過剰な飲酒や夜遅くまでの付き合い、密室などは避け、自己管理を徹底しなければなりません。
「会社のプライベート干渉の違法性」の解説
証拠を収集して会社に報告する
最後に、証拠を集め、会社に報告することです。あくまで業務としての接待では、その場の出来事を逐一会社に報告すべきです。不適切な要求やセクハラがあったなら、内容を記録し、社内の相談窓口に連絡しましょう。
適切に対処してくれる会社なら、接待中の違法行為について、加害者やその勤務先に警告するなどの方法で、女性営業を守ってくれることが期待できます。
「セクハラの相談窓口」の解説
接待で女性営業に起こる労働問題について
次に、接待で女性営業に起こる、特有の労働問題について解説します。
「女性だから」と接待の道具にされるのは不当です。男女問わず、差別なく活躍できるのが当然ですが、接待で女性だけが犠牲になる例は、残念ながら多く存在します。
違法な性接待を強要される
接待の場で女性営業に起こる最大の問題が、違法な性接待を強要されることです。
性接待とは、性的行為、性的な魅力を手段とした接待のこと。重度の場合、キスやハグ、性交渉を武器に接待するよう命じられることもあります。接待の場では、しばしば顧客や取引先と親密に交流することが求められますが、親密さも過剰になれば、不適切な要求に発展します。
性接待の強要は、強要罪(刑法223条)に該当する犯罪行為です。性接待を命じた人だけでなく、性接待に応じた取引先の人も、不同意わいせつ罪(刑法176条)、不同意性交等罪(刑法177条)といった刑事責任を問われるおそれがあります。
性的な魅力を生かした接待が暗黙の了解になっていると、プレッシャーをかけられて性接待から逃れられないケースは少なくありません。危険性に気付いても、職場の人間関係を大切にする人ほど断りづらく、悪質な会社ほど「接待要員」の人選に注意しているものです。
「犯罪となるセクハラ」の解説
セクハラを受ける
女性社員が、接待の場でセクハラを受けてしまうことがあります。前章のように接待そのものが性接待の場合だけでなく、接待の現場はセクハラが発生しやすい状況だといえます。
会社からの接待の命令がセクハラにあたるケース
接待で性犯罪に巻き込まれるリスクがある場合や、性接待を暗示する発言がある場合など、接待の命令そのものがセクハラに該当するケースがあります。例えば、次の接待命令は、セクハラになります。
- 性的魅力を利用して顧客を引き寄せるよう命じる
- カラオケでのデュエットの強要
- 取引先の社員とのタクシー同乗を強要される
- 取引先の社長と二人きりで二次会に行くよう命じられる
- 露出度の高い服装を要求する
- 接待中は、必ず取引先の社長の隣に座るように言う
- 積極的にボディタッチをするように指示をする
- 取引先の社員とのチークダンスを強要される
- 接待を拒否すると不利益がある
実際に性的な行為まで及ばずとも、接待を命じられる際の発言や言葉、やり取りで嫌な気持ちになったなら、その命令自体がセクハラだといってよいでしょう。
「セクハラ発言になる言葉の一覧」の解説
接待中に取引先や顧客からセクハラを受けるケース
接待中に、取引先や顧客から受けた言動がセクハラにあたることもあります。例えば、接待の場で起こるセクハラには、次のものがあります。
- 取引先の社長から肩、ひざに手を置かれる
- 接待中に、取引先の社長に胸や尻をさわられる
- 会食の席が不必要なほど近い
- 容姿や外見、プライベートに関する発言をされる
- 接待中に男性が過激な下ネタで盛り上がる
- 二次会で個室に誘われる
- 個人的に食事やホテルに誘われる
接待を受ける側に回ると、気持ちが大きくなり、酒を飲んでいることも相まって、過剰な要求、性的な発言をしやすいものです。被害を受ける女性社員の側でも、セクハラを断ったことによる自社への影響が気になり、抵抗しづらいという特徴があります。
「飲み会でのセクハラ」の解説
長時間労働や残業代の未払い
性的な被害のほかにも、接待によって生じる労働問題があります。それが、接待による長時間労働や、残業代の未払いのトラブルです。
接待は、業務時間外、ときには夜間や週末に実施されます。女性営業にとって、このような接待が続くと、長時間労働や過労の原因となることがあります。業務の一環なのに、かかった時間が「労働時間」として把握されないと、過剰労働が常態化し、心身が疲弊してしまいます。
接待した分の残業代が支払われない問題もあります。本来、会社の命令によって行われた接待は業務であるはずが、仕事終わりの食事会、休日のゴルフコンペといったものは、業務とは扱われず、残業代が支払われていない例が多いです。接待後に自宅に帰る手段がなく、タクシー代や宿泊代が個人負担になることも、経済的にダメージとなります。
「長時間労働の問題」の解説
接待への参加を強制される
接待の参加を強制されるのも問題です。性的な魅力を接待に悪用しようとする会社ほど、女性を確実に集めようとして、女性営業に参加を強制する傾向にあります。
接待への参加を強要されると、長時間労働を引き起こし、プライベートな時間まで仕事に侵食されるおそれがあります。しかも、深夜遅くまで、場合によっては終電過ぎや朝方まで接待があると、睡眠不足による体調悪化も懸念されます。
接待に参加するよう強く要求するにとどまらず、拒否したら社内の評価が低下したり、将来の出世に影響したりといった不当な扱いをする企業もあります。接待の拒否を理由に「仕事への姿勢が不十分だ」などと言われのは正当な評価ではなく、女性営業にとって大きな不利益です。
「不当な人事評価によるパワハラ」の解説
勘違いさせないために接待で女性が守るべきマナー
次に、勘違いさせないために、接待で女性が守るべきマナーを解説します。
接待の場では、信頼関係を深めるのが目的ですが、距離が近すぎると、相手がプライベートな関係だと勘違いし、セクハラに走ってしまうことがあります。女性営業は、接待で相手を誤解されないよう、マナーや振る舞い、適切な行動を意識することが大切です。
適切な距離感を保つ
接待の場で最も重要なことの一つが、距離感を保つことです。接待で、男女の距離が近すぎたり、過度に親しげな態度を取ったりすれば、相手に誤解を抱かせる原因となりかねません。
過剰なボディタッチはやめ、物理的な距離を保つようにしてください。飲み物を注いだり料理を取り分けたりする際も、近づき過ぎないことを意識しましょう。プライベートな話題に深入りせず、仕事に関連する会話にとどめ、カジュアルになりすぎないよう注意してください。
個人的な話題に発展する場合は、軽く答えたり、別の話題を振ったりするといったかわし方を身につけましょう。
「取引先からのセクハラ被害」の解説
ビジネスにふさわしい服装で臨む
接待の場でも、ビジネスの一環であることを忘れず、服装は、仕事にふさわしいものを選ぶべきです。派手すぎるファッション、女性の魅力をアピールする服装、露出の高い服装は、相手に勘違いさせる可能性があるため、控えてください。ビジネススーツが最も適切であり、アクセサリーやメイクについても、仕事にふさわしい程度に抑えるようにしてください。
飲みすぎないように注意する
接待での飲酒は、避けては通れない場面も多いものの、飲み過ぎに注意が必要です。酔いすぎると、気が緩み、自己防衛できなくなってしまいます。酔っ払ってフランクになりすぎると、接待相手にも「気を許している」といった誤解を与えてしまいます。
自分の適量を知って飲みすぎない、という自己管理はもちろん、場の雰囲気をわきまえ、周囲にも飲酒を勧めすぎないよう注意してください。お酒によって気が大きくなると、セクハラが発生してしまいやすくなるからです。
「勘違いセクハラ」の解説
明確に仕事としてのスタンスを示す
接待は、取引先をもてなすことを意味するため、機嫌を損ねず、良い気分になってもらえるよう振る舞う方が多いでしょう。しかし、セクハラ被害に遭いそうなときは、拒絶の意思を示し、「嫌がられている」と気付かせることが大切です。
接待なのに「自分に好意がある」と思い上がる加害者もいます。しっかりと拒絶しないと勘違いされ、セクハラがエスカレートするおそれがあります。接待中も、常に自分がビジネスの場にいることを意識し、「仕事の一環である」というスタンスを崩さないようにするのが大切です。
「セクハラ問題に強い弁護士に相談すべき理由」の解説
接待におけるトラブルの適切な対処法
最後に、接待におけるトラブルへの適切な対処法を解説します。
本解説の通り、会食の席上などで問題行為が多かったり、性的な意図で接待を強要、命令されたとき、被害者側としては「セクハラ」として対応すべきです。そのような接待を命じられたら、違法なセクハラだと強く主張しましょう。
違法な接待の命令は拒否できる
違法なセクハラが予想されるなら、危険な場所には出向かないのが最善です。接待の強要がセクハラの場合や、ハラスメントが起こる可能性が高い接待には、参加しないでください。純粋にビジネスの接待なら正当な業務命令ですが、違法なセクハラならば拒否しても構いません。
はじめから拒否すべき接待は、例えば次のケースです。
- 接待相手から以前にセクハラ被害を受けたことがある
- 性接待をするようほのめかされている
とはいえ、社内で当然の風習となっていると、面と向かって接待を断るのは難しい場合もあります。性的な魅力を活用した接待の犠牲になるのは、新入社員などの若い女性社員であることが多いです。一人で断るのが難しいなら、弁護士のサポートを受けるのが適切です。
セクハラ問題を多く取り扱う弁護士なら、セクハラに該当するような接待について、代わりに拒絶の意思を伝えてもらうことができます。
「残業命令の断り方」の解説
接待中に被害に遭ったら中断して帰宅する
命じられた段階では違法性が明らかでなくても、接待中にセクハラされるなど、被害に遭ったら、すぐにその場を離れ、中断し、帰宅するようにしてください。セクハラが発生した場合にまで、我慢して接待し続けるように、という業務命令に従う必要はありません。
接待を中断し、帰宅することで、拒絶の意思を明示することができます。むしろ、我慢して従い続けると、いつのまにか会社からも体の良い「接待要員」として扱われる危険があります。女性だからといってそのようなポジションに甘んじる必要はありません。
配慮や遠慮は、逆効果となることが多いです。「場の空気を壊さないよう」「取引先の機嫌を害さないように」と、積極的にお酌したり盛り上げ役に徹したりすれば、かえって「正当な業務命令だった」という相手の反論を強めるおそれがあります。
仕事以外の誘いは断る
取引先の接待は、あくまで業務の一環ですから、プライベートの時間まで捧げる必要はありません。いくら得意先だとしても、仕事以外の誘いに応じる必要はありません。失礼な対応にならないよう円満に終わらせるには、お礼を言いながらやんわり、丁重に断るのがよいでしょう。
ただし、自分の身が危険なケースや執拗に誘われるケースでは、無礼や会社の評判を気にしている場合ではなく、断固として断るべきです。
セクハラされたら会社に相談する
接待中にセクハラをされたら、真っ先に勤務先に相談してください。
社内にハラスメント相談窓口が設置されているなら、速やかに報告しましょう。そのような窓口は、社員同士のハラスメントだけでなく、顧客や取引先から受けた事案の相談も聞いてくれます。
会社として問題ありと判断した場合、加害者の所属する会社にクレームを入れるなどの対処をしてくれます。会社組織として事態を重く受け止めてくれれば、加害者を異動させたり、懲戒処分としたりといった対策を講じてくれることが期待できます。
「セクハラ加害者の責任」の解説
会社が対応してくれない場合は弁護士に相談する
会社に相談しても誠実な対応をしてくれない場合は、弁護士に相談し、勤務先の会社、加害者本人やその所属する会社に責任追及をすることもできます。
弁護士に相談することで実現可能な方針は、次の4つです。
勤務先の会社に慰謝料を請求する
勤務先が誠実に対応しない場合、慰謝料をはじめとした損害賠償を請求できます。
使用者には、雇用する労動者の安全を守る義務(安全配慮義務)があり、その一環として、セクハラを防止する義務があります。セクハラ被害が防止されず、安心して職場で働けないなら、安全配慮義務違反があったといえます。
「安全配慮義務」の解説
加害者とその使用者の責任を追及する
性的な接待の命令、強要があったり、接待の場でセクハラやパワハラがあったりする場合、その命令や強要、ハラスメントは不法行為(民法709条)であり、加害者に対して慰謝料を請求することができます。
また、加害者が接待を受けているのも、業務の一環としてですから、「事業の執行について」の損害であり、加害者の所属する会社に使用者責任(民法715条)を追及できます。
残業代を請求する
性的な接待を命令、強要する会社は、ブラック企業であり、労働時間の把握や管理も不十分で、残業代も適切に払われないケースも多くあります。
顧客や取引先との会食は、業務として行われている以上は「労働時間」です。たとえ終業時刻後であっても業務の一環であり、「1日8時間、1週40時間」という法定労働時間を超えて行われれば、残業代を請求できます。
「労働時間の定義」の解説
接待の拒否を理由とする不当な処分を争う
古い体質の会社ほど、「女性は接待要員」「新人は接待くらい貢献すべき」といったブラックな考えを持つ人もいます。接待の強要、命令を拒絶すると、報復として「接待に協力しないなら解雇だ」「接待要員としても使えないなら、明日から来なくてよい」などと伝えられ、不当な処分を受けてしまう危険があります。
弁護士に相談すれば、このような不当な処分、解雇についても、争うことができます。
「不当解雇に強い弁護士への相談方法」の解説
まとめ
今回は、接待における女性営業の注意点について解説しました。
ビジネスにおいて接待が必要な場面もありますが、女性社員にとっては注意すべき点が数多くあります。健全な目的によるものならよいですが、性接待である場合や、セクハラが黙認されてしまっている場合は、断固として拒否しなければなりません。「女を使って契約を取れ」というように、暗に性的な接待をするようプレッシャーをかけられることもあります。
不適切な接待は、違法なセクハラに該当するため、決して受け入れるべきではありません。接待をめぐる被害に遭った女性社員は、加害者はもちろん、加害者の勤務先や自社に対しても、セクハラを防止しなかった責任を追及することができます。
不適切な要求を受けてしまったら、証拠を残し、速やかに弁護士にご相談ください。
- 接待の強要は、性的な意図があれば違法なセクハラ、無くてもパワハラになる
- 違法なセクハラにあたる接待の命令に応じる必要はなく、断固として拒否すべき
- 接待で行われたセクハラの責任は、防止しなかった会社にも追及できる
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【セクハラの基本】
【セクハラ被害者の相談】
【セクハラ加害者の相談】
- セクハラ加害者の注意点
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