営業職だと、接待が業務の一環として求められることがあります。取引先との会食や飲み会などは、実際には取引維持や顧客獲得を目的とした重要な仕事です。
しかし、終業後に接待が続き、深夜まで帰宅できない日が重なると、「残業にならないのだろうか」「接待の残業代はもらえないのだろうか」と疑問を抱く方も少なくありません。経費での飲食とはいえ、取引先に気を遣い続ける時間は、純粋な飲み会とは大きく異なります。
結論として、接待は、会社の指揮命令下にある業務と評価されるなら、それは労働時間にあたり、残業代を請求することができます。
今回は、接待が残業として扱われる基準、労働時間に含まれるケースについて、裁判例を踏まえながら、労働問題に強い弁護士が解説します。
- 接待は、業務の一環と認められれば労働時間であり、残業代を請求できる
- 労働時間かどうかは、接待の指示や参加強制の有無、業務との関連性などによる
- 接待が深夜や休日に及んだ場合には、さらに高い割増率が適用される
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接待でも労働時間にあたれば残業代を請求できる
接待とは、取引先や顧客・見込み客に、飲食その他の便益を提供する営業活動です。
結論として、接待も、労働時間に該当すれば残業代を請求できる可能性があります。接待は、食事やゴルフなど、趣味や遊びで行う活動を含みますが、あくまで業務の一環です。「接待だから残業代は出ない」「接待は残業ではない」という考えは誤りです。
残業代の対象となるかどうかは「接待かどうか」ではなく「労働時間かどうか」で決まります。労働時間とは、使用者の指揮命令下にある時間を指し、名目ではなく実質で判断されます。そのため、終業時刻後であっても、業務命令で強制された接待などは労働時間になり得ます。

労働基準法37条は、法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えれば、通常の給料の1.25倍(25%割増)の時間外割増賃金(いわゆる残業代)を支払う義務を会社に課しています。接待が労働時間と認められれば、残業時間に算入されて残業代が発生する可能性が高いです。終業時刻後の会食や飲み会、休日のゴルフなどは、所定労働時間の範囲外で行われる典型例です。
二次会、三次会と続き、午後10時を超えると深夜労働になります。深夜労働(午後10時〜翌午前5時の労働)には、1.25倍(25%割増)の深夜手当が発生し、深夜残業(深夜労働かつ時間外労働)であれば1.5倍(50%割増)となります。
もっとも、接待が労働時間になるかは、参加の経緯や強制の程度などによって異なるため、後述「接待が労働時間となり、残業代が発生するケース」で詳しく解説します。
「労働時間の定義」の解説

接待が労働時間に含まれるかの判断基準

「接待でも労働時間にあたれば残業代を請求できる」と解説したように、残業代の有無を知るには、労働時間の基本と、その判断基準を理解しておく必要があります。
労働時間の基本的な考え方
前述の通り、労働時間とは、使用者の指揮命令下にある時間を指します。このことは、裁判例(三菱重工業長崎造船所事件:最高裁平成12年3月9日判決)でも示されています。
ただし、労働時間になるかどうかは、名称や形式ではなく「実態」で判断します。そのため、所定労働時間外(始業前や終業後、休日など)でも、実質的に指揮命令があれば労働時間に該当します。
接待の場合の具体的な判断要素
では、上記の基本を踏まえ、接待が労働時間になるかどうか、判断の際に考慮すべき要素を順に解説します。実際は一つの項目だけで決まるわけではなく、複数の事情を総合考慮して判断されるため、個別のケースごとの検討が必要となります。
明示または黙示の指示があるか
業務命令として指示がある場合、明らかに労働時間に該当します。「担当顧客の接待に参加するように」と指示されるケースが典型例で、むしろ断れば業務命令違反となります。
このような明示の指示のほか、断りづらい雰囲気があった、参加が当然視されていた、業務カレンダーに入力されていたなど、事実上の強制である場合も、黙示の指示があったとして労働時間に該当する可能性が高いです。
参加が任意かどうか
接待への参加が任意であれば、労働時間には該当しません。完全な自由参加であれば、残業代が生じないのは当然です。
しかし、強制力が強いほど、労働時間になりやすくなります。強制であると明言されていなくても、断ったら不利益があったり、評価や昇進に影響したり、事実上全員参加の慣行があったりする場合、労働時間に当たる可能性が高いです。
業務に関連しているか
業務に関連しているかどうかも、重要な判断基準となります。
接待が業務の一環として行われるとき、それは単なる「飲み会」ではなく、取引維持や契約交渉といった業務上の目的があります。接待で商談が進んだり、事実上発注先が決まってしまったりするケースもあります。
このように業務との関連性が高いほど、その接待は労働時間と評価されやすくなります。
会社がどれほど関与しているか
会社の関与の程度が高いほど、労働時間になりやすいと考えられます。
業務の一環として行われる接待であれば、日時や場所は会社や相手方が指定するなど、少なくとも一社員に決定権はないことが多いです。参加者についても「好きな友人と飲みに行く」わけではなく、業務の目的に沿った人選がなされます。
また、接待の費用が経費として会社持ちであり、終了後に報告が義務付けられているといった要素があると、さらに労働時間と評価される可能性が高まります。
時間的・場所的な拘束が強いか
時間的・場所的に拘束が強いほど、業務と評価されやすく、労働時間となります。
例えば、開始・終了時刻が決まっていて、原則として途中退席が許されない場合、その接待は業務としての色彩が強いといえます。「食事の後はカラオケに行く」などのように、二次会への移行も必須となっている場合にはなおさらです。
この場合、二次会、三次会なども業務と評価される場合、その間の移動時間についても顧客対応をしなければならず、労働時間と評価される可能性があります。
「残業代の計算方法」の解説

接待が労働時間となり、残業代が発生するケース

前述の通り、接待であっても「労働時間」に該当すれば残業代が発生します。
ただし、全ての接待が残業時間になるわけではなく、実態が重視されます。以下では、接待が労働時間と評価されやすい典型例を解説します。
接待への参加を強制された場合
接待の労働時間性を判断する上で、最重要なのが「参加が強制かどうか」です。
明示的に業務命令として参加を指示されている場合はもちろん、次のような事実上の強制によって参加せざるをえない場合も、労働時間と判断される可能性が高いケースです。
- 業務命令として出席を指示された。
- 「取引先の担当者は必ず会食に同行する」という社内ルールがある。
- 不参加だと人事評価に影響する。
- 接待をしないとノルマ未達として低評価を受ける。
- 接待に参加しない社員は重要な案件から外される。
- 断ると叱責や嫌味など、パワハラ的な言動がある。
このように、接待が事実上の義務となっている場合、会社の指揮命令下にある時間と評価され、労働時間に該当します。
営業活動として行われた接待
接待が重要な営業手段となっている企業も少なくありません。
取引維持や契約締結を目的とする会食は、まさに業務そのものといえます。例えば、以下のような行為は、オフィスでの営業活動や客先訪問と、本質的に変わりはありません。
- 商談の延長としての会食
- 契約締結を目的としたゴルフ接待
- 顧客維持のために定期的に開催される懇親パーティ
接待が業務に必要不可欠なら、労働時間と評価され、法定労働時間を超えて働けば残業代の対象となります。
接待中に業務が発生した場合
接待の場で、具体的な業務を指示されたり、作業が生じたりする場合も、労働時間性は強まります。例えば次のケースは、労働時間となり、残業代を請求できます。
- 接待パーティの司会進行や段取りを命じられた。
- 会話内容を記録し、報告書を作成するよう指示された。
- 宴会の準備や片付けを担当した。
- 送迎や運転を業務として命じられた。
- 接待中に具体的な商談や契約交渉を行った。
実際、社長や上司と同席している接待では気が休まらず、部下の立場では色々と気を回したり、命令や指示を受けたりしやすい状態といえます。たとえ飲食を伴っていても、実質的には労務提供が行われれば、労働時間と評価されます。
「違法な残業の断り方」の解説

接待を労働時間と評価された裁判例
接待を労働時間であると評価した裁判例に、国・大阪中央労基署長(ノキア・ジャパン)事件(大阪地判平成23年10月26日判決)があります。
この裁判例では、取引先との会食・接待が労働時間に含まれるかが争点となり、裁判所は、次の事情を重視し、当該接待を業務の延長であると評価しています。
- 会社が接待の必要性を承認していたこと
- 接待費用を会社が負担していたこと
- 労働者本人が業務上の必要性を強く認識して行っていたこと
- 会社側もその必要性を十分に認識していたこと
特に、単なる親睦的な会食ではなく、業務遂行上重要な意味を持つ接待として位置づけられ、会社もその前提で多額の費用を支出していた点が重視されています。その結果、接待や会食の時間について、過重労働を認定する際の「労働時間」に算入すべきと判断しています。
接待で残業代が生じないケースの具体例

もっとも、接待であれば必ず残業代が発生するわけでもありません。
接待は業務の色彩が強い一方で、実態によっては「労働時間」といえず、残業代の対象とならないケースもあります。以下では、接待が残業時間に算入されにくい具体例を解説します。
業務時間内に行われた接待
接待が業務時間内に行われたなら、業務そのものでも残業代は請求できません。
残業代が発生するのは、原則として1日8時間・週40時間を超えて働いた場合や、法定休日や深夜に労働した場合であって、業務時間内に働く対価は、既に給与として支払われています。
営業職の中には、事業場外みなし労働時間制、裁量労働制といった特殊な労働時間制が適用されていたり、会食や訪問が中心でオフィスワークの時間が少なかったりする人もいます。この場合、決められた時間を超えて働かなければ、接待でオフィス外で働いたとしても残業代は発生しません(ただし、賃金の支払い対象なのは当然です)。
なお、営業職では固定残業代(みなし残業)が導入される例もありますが、「何時間分が固定で払われ、超えた分はいくら請求できるのか」が不明確だと、制度そのものが無効となる可能性があります。未払いを見過ごさないよう注意しておいてください。
「固定残業代」の解説

懇親目的の会食の場合
懇親目的の会食でも、途中から仕事の話題になることも珍しくありません。
しかし、目的があくまで親睦であり、私的な色彩が強く、参加が任意なのであれば、直ちに労働時間とは評価されず、残業代が発生しないこともあります。職場の人や取引先と集まれば、共通の話題は「仕事」ですから、業務の話になるのは自然です。その程度にとどまり、会社の指揮命令下にあるとまではいえない場合、その会食は残業時間には含まれません。
ただし、行きたくないなら拒否できるのが前提です。名目が「懇親会」でも、参加が事実上強制されていたり、断ると不利益があったりといった場合は、労働時間と判断される余地があります。
本当に自発的に行われた場合
会社が出席を強制したり、参加を命じたりせず、社員が自発的に行う会食やゴルフなども、労働時間にはあたりません。たとえ仕事関係者や取引先が同席していても、会社の指揮命令下にない私的な活動であれば、残業代の対象にはなりません。
例えば、取引先の担当者と個人的に親しくなり、休日に友人として飲みに行くケースは、業務ではなく、賃金や残業代の支払い対象にもなりません。
ただし、本当に自発的なものかはよく検討してください。少なくとも、次のような状況があるなら「自発的」とはいえず、事実上の業務命令と評価されます。
- 過剰なノルマが課され、接待なしでは達成できない。
- 接待を断ると案件や担当から外される。
- 同席しないと後から叱責・嫌味などの圧力を受ける。
接待の残業代を請求するために必要な証拠

接待の時間について残業代を請求する場合、最重要となるのが証拠の確保です。
通常の残業であれば、タイムカードなどの勤怠記録が残ります。しかし、接待は社外で行われることが多く、会社が「残業」として扱っていないと記録に反映されず、典型的な残業の証拠が存在しないケースが少なくありません。
そのため、接待特有の事情を裏付ける証拠を、意識して集めなければなりません。
- 接待への参加を求めるやり取り
例えば、上司からのメールやチャットにおける出席依頼、日程調整のやり取りなどが役立ちます。メールなどで「必ず同行してください」などの記載があれば、指揮命令があったことを基礎づける証拠にもなります。 - カレンダーやスケジュール表、予定表など
会社で共有された業務予定に入力されていれば、その接待が私的な飲み会ではなく、業務の一環であることを示す証拠となります。 - 営業日報や報告書など
事後に営業日報や報告書の提出を求められた場合、そのことが業務性を裏付ける事情となるとともに、そこに記載された時間が、残業時間を示す証拠として役立ちます。 - 領収書や経費精算書
経費処理されていることが分かれば、業務に関連した接待であることを示せます。レシートなどに時間が記載されていれば、会食の終了時刻を証明することも可能です。
接待の残業代請求では、単に「遅くまで飲んでいた」という事実を証明するだけでは足りず、参加を命じられたことなど、業務目的だったことを示す証拠を積み重ねることが重要となります。接待はタイムカードに記録が残らない分、証拠の収集が成否を分けます。
十分な証拠がそろえば、接待の時間についても残業代請求が可能です。会社に交渉しても誠実な対応をしてくれないときは、弁護士が代わりに請求したり、労働審判や訴訟といった法的手続きに移行したりすることも検討してください。
「残業代請求に強い弁護士に無料相談する方法」の解説

接待と残業代に関するよくある質問
最後に、接待と残業代に関して、よくある質問に回答しておきます。
接待の移動時間は労働時間になる?
接待中の時間だけでなく、移動時間も、労働時間にあたる可能性があります。
会社から飲食店やゴルフ場といった接待の場所を指示された場合、そこまでの移動も労働時間に含まれる可能性があります。特に、上司と同行したり、荷物を運んだりといった業務が指示された場合はなおさら、指揮命令下にあると判断されやすくなります。
一方、「ゴルフ場へ直行直帰」というように、通勤に近い性質で、その間の自由行動が保障されている場合、労働時間とは認められないケースもあります。
ゴルフ接待は労働時間にあたる?
ゴルフでの接待も、その実態によっては労働時間に該当します。
ゴルフは一緒にいる時間が長く、営業活動の一環としてプレー中の商談が行われた場合、業務色が強いと考えられます。この点は、「接待の場合の具体的な判断要素」の基準で判断すべきであり、飲み会や食事でも、ゴルフでも変わりはありません。
休日に行われる接待は残業になる?
休日の接待が労働時間と評価されれば、休日労働となります。
時間外労働の場合には通常の1.25倍(25%割増)であるのに対し、休日労働の場合には1.35倍(35%割増)とされ、より高い割増率が適用されます。
接待後の二次会は労働時間に含まれる?
二次会についても、一次会と同様に、その実態により判断します。
参加を求められて断れない状況であった場合や、商談や接待が継続していた場合、二次会についても労働時間と評価され、残業代を請求できます。
これに対し、一次会終了後は自由参加となり、参加しなくても不利益がないのであれば、二次会以降は労働時間とは認められないケースもあります。「二次会に付き合うのが当然」「帰るのはノリが悪い」といった企業風土がある場合、実質的な強制がないかどうかをよく検討してください。
【まとめ】接待と残業代について

今回は、接待と労働時間や残業代の関係について解説しました。
接待は終業後に行われることが多いものの、会社の指揮命令下に置かれ、業務の一環として参加が求められる場合、その時間も労働時間に該当する可能性があります。そして、既に1日8時間の労働の後に接待に行った場合、その時間は残業時間となり、残業代を請求することができます。
完全に自由参加で、業務性が乏しい場合、労働時間と認められないこともありますが、参加が事実上強制されていないかの見極めは慎重に行わなければなりません。接待の時間について残業代を請求できるかどうかは、個別の事情によって結論が変わるので、参加の経緯や会社の関与、会食の目的などを丁寧に整理して判断してください。
接待に関する残業代の未払いでお悩みなら、早めに弁護士へご相談ください。残業代の対象となるかどうかについて、法的な観点からアドバイスします。
- 接待は、業務の一環と認められれば労働時間であり、残業代を請求できる
- 労働時間かどうかは、接待の指示や参加強制の有無、業務との関連性などによる
- 接待が深夜や休日に及んだ場合には、さらに高い割増率が適用される
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