ノルマが厳しく、自分で商品を買わざるを得ない状態が「自爆営業」の典型例です。
自爆営業は、企業が販売目標を達成するために、従業員に過度な負担を強いる行為であり、明確に強要される場合だけでなく、断った人の評価を下げるといった暗黙のものも含まれます。形式的には任意の購入とされても、自爆営業をせずにノルマ未達になると出世できなかったり、給料を減らされたりするなら、事実上強制されたのと同じことです。
自爆営業は、労働基準法違反や、違法なパワハラに該当するおそれがあるため、泣き寝入りしないためにも、違法性の判断基準と対処法について理解しておくべきです。
今回は、自爆営業の具体例や理由、違法となる基準や実際に被害に遭ったときの対処法について、労働問題に強い弁護士が解説します。
- 自爆営業は形式上任意でも、実質的な強制や評価・給与の不利益があれば違法
- 労働基準法違反や違法なパワハラ、安全配慮義務違反などの問題が生じる
- 違法な自爆営業に従う必要はなく、拒否して証拠を残し、弁護士に相談すべき
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自爆営業とは

自爆営業とは、企業が従業員に対し、販売ノルマを達成するために、自社商品やサービスを自腹で購入させる行為を指します。その背景には、ノルマ未達を理由に、上司や企業が優越的な地位を利用して、自腹で購入するよう心理的な圧力を加えていることがあります。
以下ではまず、自爆営業の具体例や原因など、基本知識について解説します。
自爆営業の具体例
本来、営業成績は、顧客への販売により達成すべきですが、それが困難な場合に従業員に負担を転嫁しようとするのが、自爆営業の典型例です。例えば、次のようなケースがあります。
- 保険業界
契約件数ノルマ達成のため、自ら保険に加入し、身内に契約を依頼する場合 - 郵便・金融関連
年賀状や各種金融商品などの販売目標を補うための自腹購入を促す場合 - アパレル業界
自社ブランドの商品を購入し、着用や売上貢献を求められる場合 - 通信業界
回線契約数を増やすための自己契約や知人勧誘を強制される場合。
売上目標に届かない分を自ら購入する「自腹購入」が典型例ですが、自分だけでなく家族や友人、知人に対する購入を強制されるケースもあります。いずれも、形式上は「任意」として扱われますが、実際には厳しいノルマに追い立てられ、断りづらい状況に陥る点が特徴です。
なぜ発生するのか?自爆営業の原因
自爆営業が起こる原因は、企業の制度や職場環境にある構造的な問題です。
高すぎる販売目標やノルマを設定されている場合、通常の営業活動だけでは達成困難となり、従業員が自ら購入することで数字を埋め合わせざるを得ない状況に追い込まれます。さらに、営業成績が給与や昇進に直結する制度があると、ノルマ未達は大きな不利益につながるため、無理をしてでも達成しようとして自爆営業をしやすい心理状態となってしまいます。
周囲の従業員が自爆営業を行っている環境では、「自分だけやらないわけにはいかない」という心理が働きます。明示的に会社から指示されなくても、「自爆営業をするのが当然」という職場の風土があると、実質的には強制につながってしまいます。
「パワハラが発生する原因」の解説

自爆営業は違法?法律上の問題点

次に、自爆営業の法的な問題点について解説します。
自爆営業を強要することは、労働者に経済的な負担を与えるのはもちろん、精神的にも大きなストレスを加えるため、違法なパワハラに該当する可能性があります。多くの場合、社長や上司が優越的な地位を利用して、自爆営業するよう指示したり、圧力をかけたりしているからです。
自爆営業の指示や命令が違法な場合には、従う必要はありません。職場の空気としてやらざるを得ない状況だとしても、一人が従えば悪い慣行が定着してしまいます。
賃金全額払いの原則違反
労働基準法24条は賃金支払いのルールを定め、発生した賃金全額を労働者に払う義務を使用者(会社)に課しています(賃金全額払いの原則)。ノルマ未達でも、働いた時間に対して給与が発生し、ノルマを補填するために自腹を切らせることは、全額払いの原則に違反する違法な行為です。
賃金全額払いの原則は、中間搾取によって労働者の生活を困窮させないためのルールであり、ノルマを達成できないとしても給与を減らすことは正当化されません。労働契約において、労働者が労務を提供し、使用者が賃金を支払うのであり、労働者に金銭的負担を課すのは不適切です。

労働基準法24条に違反して給与の一部に未払いが生じた場合、「30万円以下の罰金」という刑事罰の対象になります(労働基準法120条)。
「給料未払いの相談先」の解説

不当な減給処分
自爆営業は、ノルマ未達を理由としたペナルティの側面があります。
制裁を意味する経済的負担には「減給」がありますが、労働基準法による上限があり、具体的には、懲戒権の行使としての減給は、1回の額が平均賃金の1日分の半額、総額が一賃金支払期における賃金総額の10分の1を超えることはできません(労働基準法91条)。
制裁として命じられる自爆営業は、事実上、減給処分と同じ効果を有しているのに、この制限を守らずに行われることが多く、違法であるのが明らかです。労働基準法91条に違反する減給については、「30万円以下の罰金」という刑事罰の対象となります(労働基準法120条)。
「減給の違法性」「不当な人事評価によるパワハラ」の解説


賠償予定の禁止違反
目標の売上に届かなかったことを理由に、ペナルティとして商品の在庫を強制的に買い取らせる行為は、労働基準法16条の「賠償予定の禁止」に違反します。 営業目標を設けることは許されても、未達に対して違約金や罰金を定めたり、商品代金を負担させたりすることは違法です。
労働基準法16条違反の賠償予定を定めた場合、「6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金」という刑事罰の対象になります(労働基準法119条)。
パワハラ
自爆営業の強要は、違法なパワハラ(パワーハラスメント)に該当します。
社長や上司といった職場で上位にある者が、その優越的な地位を利用し、売上目標を達成するために自腹で購入するよう強く求め、その圧力によって部下の自由な意思を侵害しているからです。業務命令や指示は、業務上必要かつ相当な範囲である必要があるところ、たとえノルマ未達だとしても、自爆営業を強要するような指示は、到底業務の範囲内とは言えません。
「パワハラと指導の違い」の解説

安全配慮義務違反
会社には、労働者の安全と健康を守る義務(安全配慮義務)があります。
ハラスメント行為を防止し、従業員を守らなければならず、過剰なノルマや自爆営業の強要によって精神的ストレスを与え、心身の健康を損なった場合、法的な責任が生じます。労働者は、同義務違反を理由として、会社に対して慰謝料や損害賠償を請求することができます。
特に、長期間にわたり自腹購入が常態化している場合や、パワハラ的な言動が伴う場合には、職場環境自体が不適切であると判断されやすくなります。
公序良俗違反
違法な自爆営業に該当する契約は、公序良俗違反として無効となる可能性があります(民法90条)。優位な立場を利用し、従業員に不必要な自社商品を無理やり買わせる行為は、社会的にも問題視され、公序良俗に反すると考えられるからです。
強要罪・詐欺罪
悪質な自爆営業の強要は、刑事責任に発展するおそれもあります。
暴行や脅迫によって義務のない行為を強制した場合には強要罪が成立し、「3年以下の懲役」という刑事罰の対象となります(刑法223条)。例えば、「購入しなければ評価を下げる」「解雇する」といった発言は、脅迫と評価され、強要罪が成立する可能性があります。
また、「会社のために必要」「みんな協力している」などと誤信させ、不要な商品やサービスを契約させる点で、これにより従業員が経済的な損失を被った場合、詐欺罪として「10年以下の懲役」という刑事罰の対象となるおそれもあります(刑法246条)。
ただし、実際のところは、職場の問題が刑事事件に発展するケースは相当悪質なものに限られるため、例外的であると考えるべきです。
違法となる自爆営業の強要の具体例

ノルマの存在が直ちに違法なわけではないものの、自爆営業に至る場合、違法と評価される可能性が高いです。以下では、違法となる典型的なケースについて解説します。
購入しない場合の不利益を明示する場合
評価や処遇などの不利益に直結するなら、違法なパワハラに該当します。
「商品を購入しなければ人事評価を下げる」「昇進させない」など、不利益を明示する場合、実質的には購入強制であることが明らかであり、違法となります。購入そのものは私的な行為なのに、実際は業務の評価に結びつけることは不適切と言わざるを得ません。
給与から強制的に天引きされる場合
ノルマ未達分について、商品代金を給与から一方的に差し引く行為は、労働基準法に違反する可能性が極めて高い典型例です。「賃金全額払いの原則違反」となるため、たとえ同意書などを取得しても、職場の上下関係の中で拒否できない状況であれば、真意に基づく同意があったとは言えません。
退職や解雇を示唆される場合
違法性が非常に強いのは、「ノルマ未達なら辞めてもらう」「買わないなら居場所はない」など、退職や解雇を示唆されるケースです。このような言動は、労働者の地位を脅かす形で自爆営業を強制しており、パワハラに該当するのはもちろん、不当解雇として争える場合もあります。
「ノルマ未達成を理由とする解雇」の解説

自爆営業を強要された場合の対処法

次に、自爆営業を強要されたとき、労働者がどのように対処すべきかを解説します。
自爆営業でノルマを強要されても、従う必要のない違法行為だと理解できたでしょう。しかし、いわゆるブラック企業の中には、未だに自爆営業を強要する会社は多いものです。
自爆営業は明確に拒否する
自爆営業の中には、明らかに強要されるものばかりでなく、労働者側が空気を読んで従っているケースもあります。自ら進んで購入していると、その違法性が曖昧になってしまいます。営業成績を上げるなら正しい努力をすべきであり、自爆営業は明確に拒否してください。
証拠を保管する
次に、違法な自爆営業であることの証拠を残すことが重要です。
労働者として証明すべきなのは、不当に高いノルマを課されていたこと、自爆営業を明確に指示されたこと、自腹購入せざるを得ない状況であったことといった事実です。次のような資料が、自爆営業の違法性を証明するための役に立ちます。
- 高すぎるノルマ設定
- 上司からの指示を示すメールや書面
- 口頭で自爆営業を示唆された際の録音データ
- 売上目標の記録
自爆営業が違法なパワハラにあたる場合や、拒否したことを理由に不当解雇される場合、労働審判や訴訟などの裁判手続きで事実を認定してもらうには、証拠が不可欠です。


社内の窓口に相談する
次に、社内で解決できる可能性がある場合は、社長や人事、コンプライアンス窓口などに相談しましょう。自爆営業の強要が、部署や上司の独断で行われているケースでは、会社としての問題であることを認識させれば、改善が図られる可能性があります。
労働基準監督署に告発する
自爆営業の強要は、労働基準法24条の賃金全額払いの原則に違反するため、同法に違反する行為を監督する行政機関である労働基準監督署が相談先として最適です。助言指導や是正勧告のほか、悪質な違法が続いている場合には、逮捕・送検といった刑事処分が行われることもあります。
「労働基準監督署への通報」の解説

早めに弁護士に相談する
会社との紛争が激化する場合には、労働者一人で解決するのは限界があります。
強い立場にある会社と対等に戦うためには、弁護士のサポートが有効です。自爆営業のように違法な状態を強要されている場合、弁護士の力を借りて、正しい法律知識に基づいて交渉することで、労働者としての正当な権利を実現することができます。

弁護士から警告を送っても自爆営業がなくならない場合は、労働審判や訴訟などの法的手段で争いましょう。例えば、自爆営業によって失った賃金の請求や、拒否した場合の解雇などの不利益処分の撤回を求める請求などが考えられます。
「労働問題に強い弁護士の選び方」の解説

自爆営業に関するよくある質問
最後に、自爆営業に関して、よく寄せられる質問に回答しておきます。
自爆営業を断って解雇されたら?
解雇には「客観的に合理的な理由」「社会通念上の相当性」が必要であり、これらを満たさない場合は不当解雇として違法・無効となるところ(労働契約法16条)、単なるノルマ未達成や自腹購入の拒否は、解雇を正当化する理由とはなりません。
むしろ、自腹購入の強要が違法なパワハラになるとき、拒否するのが正しい対応であり、それを理由に解雇されたら不当解雇として争うことができます。
「不当解雇に強い弁護士への相談方法」の解説

自爆営業に応じて購入してしまった費用は返金される?
自爆営業を防ぐための企業側の対策は?
企業としても、自爆営業を防ぐ必要があります。
安全配慮義務の観点から、違法なパワハラにあたる自爆営業が起こらないようにし、対策を講じることが重要です。企業が組織的に指示しなくても、上司が成績を上げるために指示したり、社員が自発的に従ってしまったりするケースがあるからです。
対策としては、現実的に達成可能なノルマ設定に見直すことが第一となります。ノルマに無理がなければ、自爆営業に手を染める人を減らせます。そして、自爆営業が違法であることを全社的に周知した上で、相談窓口を整備し、被害に遭っている人が気軽に相談しやすくすることで問題の発覚を早めることが重要です。
「パワハラの相談先」の解説

【まとめ】自爆営業は違法

今回は、自爆営業について、法的な観点から解説しました。
自爆営業は正当な営業努力とは到底いえず、強要すれば違法なパワハラとなります。ノルマ未達を理由に自腹購入を強要する行為は、労働基準法違反や違法なパワハラに該当するため、加害者となった社長や上司だけでなく、企業の法的責任を問うことができます。
重要なポイントは、ノルマなどで追い詰められて「断れない状態」で購入したなら、「任意」とは言えないという点です。少しでも不当な圧力を感じたり、自分が欲しくもないものを買わされたりしたなら、証拠を確保して、責任追及を検討しましょう。
自爆営業に悩んでいる人は、自分を責めてはいけません。むしろノルマが厳しすぎる可能性もあるため、一人で抱え込まず、弁護士に相談してください。
- 自爆営業は形式上任意でも、実質的な強制や評価・給与の不利益があれば違法
- 労働基準法違反や違法なパワハラ、安全配慮義務違反などの問題が生じる
- 違法な自爆営業に従う必要はなく、拒否して証拠を残し、弁護士に相談すべき
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