セクハラをした労働者に、長期間の自宅待機を命じるケースがあります。
セクハラをしたことを理由に自宅待機が長引くと、懲戒解雇などの重い処分も予想されます。自宅待機で出社できないと、相談相手もおらず、冷静になれないでしょう。長引けば不安が募ります。セクハラが違法なのは当然ですが、不当な扱いが正当化されるわけではありません。
気付かないうちに不当な処分を受けてしまわないよう、セクハラを理由とした自宅待機命令の違法性や、待機中の扱いについて正しい法律知識を得ておく必要があります。
今回は、セクハラを理由とした自宅待機命令と、その対処法について、労働問題に強い弁護士が解説します。
- セクハラ加害者には、再発や証拠隠滅の防止のために自宅待機命令が出される
- 自宅待機命令は業務命令であり、従う必要があるのが原則
- セクハラが事実でも、あまりに長すぎる自宅待機命令は権利濫用となる
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セクハラ加害者に対する「自宅待機命令」とは?

会社でセクハラをしてしまい、自宅待機を命じられるケースがあります。
セクハラ加害者に対する自宅待機命令は、会社が労働者に対して行う業務命令の一種と位置付けられ、再発や証拠隠滅の防止を目的としています。セクハラ加害者となった労働者としては、まずは業務命令に従う必要があります。
会社の業務命令権
会社は、雇用契約に基づき、事業を円滑に遂行するための指揮監督権を有しています。その一環として、労働者の業務遂行につき指示し、命令をする権限(業務命令権)を行使できます。

業務命令の内容について、会社は広い裁量を有しています。そのため、セクハラを行った疑いがある場合、自宅待機をさせる業務命令も有効となる場合が多いでしょう。ただし、被害申告が明らかに虚偽である場合などは、業務命令権の濫用として違法・無効となるケースもあります。
「自宅待機命令の違法性」の解説

根拠規定は不要
前述の通り、セクハラをした際に受ける自宅待機命令は、業務命令の一種です。
雇用契約上の指揮監督権限を基礎とするため、特別な根拠規定は必要としません(なお、通常は雇用契約書や就業規則に業務命令権が規定されます)。したがって、セクハラに対して自宅待機命令をするときには、会社が特に根拠を明示せずに行ったとしても、違法にはなりません。
10人以上の労働者を使用する事業所では、就業規則の届出が義務とされます(労働基準法89条)。就業規則は周知する必要があるため、確認できない場合は違法です。
セクハラ加害者として自宅待機命令を受け、就業規則を確認したいときは、社長、人事部もしくは直属の上司に「就業規則を見せてほしい」と依頼してください。
「自宅待機命令」と「出勤停止」の違い
「自宅待機命令」と「出勤停止」は、いずれも「会社に出勤できない」という点は共通しますが、区別が必要です。自宅待機命令は、再発や証拠隠滅の防止を目的とした業務命令であるのに対し、出勤停止は、懲戒処分の一種です。したがって、自宅待機命令は、懲戒処分などの制裁の準備であり、制裁そのものとは異なります。
「懲戒処分の種類と違法性の判断基準」の解説

自宅待機命令に従う必要あり
セクハラを理由とする自宅待機命令は、会社の業務命令であるため、労働者としては従って自宅に待機する義務があります。
自宅待機命令に従わなかった場合、その命令が正当なものであれば、「業務命令違反」であり、就業規則に基づいて懲戒処分の対象になり得ます。セクハラに対する懲戒などの制裁と、セクハラを理由とする自宅待機命令に違反したことによる制裁は別物であり、二重処罰にはなりません。
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セクハラで自宅待機になるケースと理由

次に、セクハラをした加害者が、自宅待機命令となるケースとその理由を解説します。
合理的な理由なく業務命令を発することは違法です。しかし、「セクハラの加害者である」ということは、自宅待機命令を下す大きな理由となります。
セクハラ再発防止のための自宅待機命令
セクハラをした労働者が常習犯である場合や、加害者であるという自覚がない場合、処分を考えている間に新たなセクハラ被害を生む危険があります。
加害者が、セクハラの言動を認めず、否認していたり、反省の態度を示さなかったりした場合は尚更です。これらのケースでは、セクハラ加害者を一旦自宅待機にする必要があります。これ以上のセクハラ被害者を増やさず、継続してストーカー行為に発展させないためです。
「セクハラ冤罪の対策」の解説

被害者への配慮のための自宅待機命令
被害者への配慮として、自宅待機をさせて距離を置かせるケースがあります。
セクハラの内容が悪質で、被害が深刻なケースほど、加害者と被害者を同じ職場に居させるのは適切ではありません。同じ職場でこれ以上働かせておけない場合、被害者側が我慢を強いられるのは不当であり、加害者側を自宅待機にすべきです。
特に、中小企業やベンチャー、スタートアップなど、小規模な会社の場合、異動や配置転換が難しく、自宅待機命令以外では被害者と加害者を引き離せないこともあります。
「セクハラの加害者側の対応」の解説

証拠隠滅の防止のための自宅待機命令
セクハラ加害者が責任を認めないとき、証拠隠滅が懸念されます。
例えば、被害者や目撃者に圧力をかけたり、証拠となる書類やメールなどを削除したりといった証拠隠滅が行われると、事実関係の把握が困難になってしまいます。そのため、セクハラの事実を否定している場合ほど、証拠隠滅のおそれが高く、自宅待機を命じられやすくなります。
証拠隠滅を防止するための自宅待機命令の場合、調査が完了するまでの待機が必要となりますが、会社もまた、調査を迅速に完了させなければなりません。
「セクハラの証拠」の解説

自宅待機中に賃金は発生する?

次に、セクハラをして自宅待機命令を受けた際の賃金について解説します。
賃金は発生するのが原則
労働者は、労務提供の対価として賃金を受け取ることができます。ノーワーク・ノーペイの原則から、労務に従事しなかった分の賃金は受け取れませんが、自宅待機は業務命令であるため、賃金は発生するのが基本となります。この点は、懲戒処分の一種である出勤停止との大きな違いです。
出勤停止では賃金が発生しない
一方、懲戒処分である出勤停止となった場合は賃金が発生しません。「出社できない」という点は共通ですが、懲戒処分の一種である出勤停止は、労働者の非違行為に対する制裁として課されるもので、ノーワーク・ノーペイの原則が適用されるからです。
自宅待機で賃金が発生しないケース
ただし、会社が自宅待機を命じた場合でも、加害者側に原因があるときは賃金が発生しません。例えば、セクハラ加害が事実であり、再発や証拠隠滅の危険が高いときは、自宅待機とせざるを得ない理由があるため、その間の賃金は発生しない場合があります。
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自宅待機命令の効力を争える?
では、セクハラをしても、自宅待機命令の効力は争えるのでしょうか。
合理的な理由がないなど、不当な業務命令の効力は争うことが可能です。しかし、セクハラは違法行為なので、自宅待機命令の効力を争うとしても細心の注意が必要です。
業務命令権の濫用は違法
会社には、業務命令権について広い裁量が認められています。
そのため、セクハラ行為が事実であれば、再発や証拠隠滅の危険があり、自宅待機命令は有効であると考えられます。しかし、業務命令の内容に正当性がない場合や、労働者に過大な不利益がある場合は、権利濫用として違法・無効となります。
例えば、軽度のセクハラに対して、非常に長期間の自宅待機を命じるような業務命令は、権利濫用として違法・無効となる可能性もあります。

労働審判で争う方法
権限を濫用した違法な業務命令を下された場合、従う必要はありません。
違法な業務命令に従わなかった結果、不利益な処分を受けた場合は、労働審判を利用して業務命令の違法性や処分の効力を争うことができます。違法な業務命令に従わなかったことで解雇された場合、不当解雇として争い、社員としての地位の確認を請求できます。

「労働問題の種類と解決策」の解説

正当な理由と相当性が必要
会社の業務命令が適法であるためには、次の2つの要件が必要となります。
- 業務命令に正当な理由があること
- 業務命令の内容が社会通念に照らし相当であること
ただし、セクハラをして自宅待機命令になった場合には、再発防止や被害者への配慮、証拠隠滅防止など、「業務命令の正当な理由」は認められやすいといえます。したがって、セクハラを理由に自宅待機を命じられている場合には、その期間が、「社会通念に照らし相当といえるかどうか」が争いのポイントになります。
適正な自宅待機の期間とは?
セクハラを理由とした自宅待機は、通常、懲戒処分の前段階で行われます。
どのような懲戒処分が適正かを調査するため、自宅待機を命じるのが通常です。調査が完了するまでの間は、再発や証拠隠滅の防止、被害者への配慮のため、加害者を職場から引き離す必要があるので、数日間、あるいは数週間、自宅待機を命じることは社会通念に照らして相当といえます。実務では、自宅待機期間を1~2週間と定めている会社が多いようです。
しかし、ヒアリングや懲戒処分の内容を決める審議が完了しており、自宅待機を継続する必要がないにもかかわらず待機が解除されない場合、社会通念上相当な範囲を逸脱した違法な業務命令になると考えられます。
「懲戒処分の決定までの期間」の解説

長期の自宅待機=違法ではない
自宅待機の業務命令が、社会通念上不相当であれば違法・無効と判断されやすくなります。しかし、セクハラを理由とした長期の自宅待機命令が、必ずしも違法とまでは言い切れません。
ヒアリングや審議にかかる時間は、そのセクハラの事案によって異なるからです。自宅待機の期間が数ヶ月に及ぶからといって、必ずしも違法な業務命令になるとは限らないので注意が必要です。長期間の自宅待機命令の違法性が気になる労働者の方は、弁護士にご相談ください。
「労働問題を弁護士に無料相談する方法」の解説

セクハラで自宅待機となった後の懲戒処分

最後に、自宅待機となった後の懲戒処分について解説します。
自宅待機中は、その後に懲戒処分を下すための調査や準備が行われることが多いため、何らかの処分が下される可能性が高いと考えられます。
セクハラに下される懲戒処分の種類
一口に「懲戒処分」といっても、その内容や処分の重さは様々です。会社の就業規則に定められる懲戒処分には、次のようなものがあります。
- 戒告・譴責
- 減給
- 出勤停止
- 降格
- 諭旨解雇
- 懲戒解雇
セクハラ行為の重大性と、懲戒処分の程度のバランスが取れていなければ、不当処分として違法・無効となるため、重すぎる処分は争うことが可能です。
「セクハラの始末書の書き方」の解説

二重処罰にならない?
一つの行為で二重に処分をすることは「一事不再理(二重処罰の禁止)」に違反します。
セクハラを理由に自宅待機命令を受けた後、同じセクハラで懲戒処分を下すことは、一見するとこれに違反するようにも見えます。しかし、自宅待機命令は業務命令であり、制裁を目的とした懲戒処分ではないため、二重処罰にはなりません。
セクハラは懲戒解雇になりやすい?
セクハラで自宅待機になったら「懲戒解雇されるのでは」という誤解もあります。
しかし、自宅待機命令を下されたからといって、必ず懲戒解雇になるとは限りません。懲戒解雇は、解雇権濫用法理により厳しく制限されており、「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」がなければ、不当解雇として違法・無効となるからです(労働契約法16条)。
セクハラ行為が不同意わいせつ罪、不同意性交等罪のような犯罪に当たるような重度のケースは別として、軽微なセクハラでいきなり懲戒解雇とすることは許されません。不相当に厳しい処分を受けたときは、労働審判や訴訟で処分の効力を争うことができます。
「セクハラを理由とする懲戒解雇」「懲戒解雇を争うときのポイント」の解説


【まとめ】セクハラと自宅待機命令

今回は、セクハラを理由とした自宅待機命令について解説しました。
セクハラの加害者は、重い責任を負います。セクハラ行為をしたことについては大いに反省すべきですが、不当な扱いを受け入れなければならないわけではありません。会社の下す自宅待機命令や、その待機中の扱いが不適切ではないか、よく検討してください。
再発や証拠隠滅を防止するために、セクハラ加害者に自宅待機を命じるケースは少なくありませんが、まだ調査中であれば、過大な不利益を負うべきではありません。
セクハラを理由とした自宅待機命令や、その後の懲戒処分について不安を感じている方は、ぜひ一度弁護士にご相談ください。
- セクハラ加害者には、再発や証拠隠滅の防止のために自宅待機命令が出される
- 自宅待機命令は業務命令であり、従う必要があるのが原則
- セクハラが事実でも、あまりに長すぎる自宅待機命令は権利濫用となる
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