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浅野 英之
弁護士
弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号44844)。東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

企業側の労働問題を扱う石嵜・山中総合法律事務所、労働者側の法律問題を扱う事務所の労働部門リーダーを経て、弁護士法人浅野総合法律事務所を設立。

不当解雇、未払残業代、セクハラ、パワハラ、労災など、注目を集める労働問題について、「泣き寝入りを許さない」姿勢で、親身に法律相談をお聞きします。
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戒告とは?懲戒処分における意味と労働者への影響、譴責との違いを解説

解説の執筆者

弁護士法人浅野総合法律事務所

代表弁護士

浅野英之

東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。第一東京弁護士会所属(登録番号44844)。

不当解雇、残業代、セクハラ、パワハラ、労災などの労働問題について、「泣き寝入りを許さない」姿勢で、親身に法律相談をお聞きします。

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何度も注意指導されても改めないと、「戒告」という処分を下されることがあります。

戒告は、軽度の懲戒処分であり、「処分の入口」とも言えます。より重い処分の「警告」を意味し、企業秩序を乱す行為を改善させるための指摘でもあります。無断欠勤から勤務外の不適切な行為まで幅広いものが対象となりますが、あくまで軽度な場合に限られます。

戒告は他の懲戒に比べれば軽いものの、「制裁」には違いなく、労働者に悪影響を与えます。そのため、戒告を受けた労働者は、会社の言い分を把握し、「懲戒事由に該当するか」「適切な手続きが踏まれているか」といった観点から、正当な処分かどうかを検討する必要があります。

不当な戒告の被害に遭ったら、撤回を求めて争うべきです。処分の違法性の判断にあたっては、過去の裁判例が参考になります。

今回は、戒告の定義、類似の処分との違いから、不当なケースの争い方まで、労働問題に強い弁護士が解説します。

この解説のポイント
  • 戒告は、懲戒処分の中でも軽度なもので、軽微な企業秩序違反に下される
  • 軽度とはいえ制裁の意味合いがあるため、正当な理由なく行われれば違法
  • 不当な戒告処分を受けたら、理由を通知書などで確認して撤回を求める

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目次(クリックで移動)

戒告とは

はじめに、戒告の意味と内容など、基本的な法律知識を解説します。

戒告の意味と内容

戒告とは、問題行動のあった労働者に対し、注意を促すための懲戒処分です。

懲戒処分は、企業秩序違反に対する制裁(ペナルティ)であり、戒告はその中でも軽度の処分です。「かいこく」と読み、外資系では英語で「warning(ワーニング)」と呼ぶこともあります。

戒告は、注意指導を繰り返しても問題が改善されない場合に通告されます。労働者に問題があると使用者が考えると、まずは口頭の注意、書面による指導から始まり、懲戒処分を経て解雇に至ります。この流れの中で、戒告は「処分の入口」ということができます。

戒告は、労働者の非違行為を注意し、再発防止を促す目的で下されます。そのため、戒告とされたからといって「辞めさせる対象」「問題社員」といった扱いとは限りません。あくまで、改善をさせ、今後も社内で活躍してもらうためのものです。

懲戒処分における戒告の位置付け

戒告は、懲戒処分の一種であり、最も軽い処分に位置づけられます。

懲戒処分の種類は会社が定めるもので、法律上の決まったルールはありませんが、一般的には軽い順に次のように決められている例が多いです。なお、正確に知るには、勤務先の就業規則を確認してください。懲戒処分は就業規則の相対的必要記載事項なので、懲戒を行うには就業規則にあらかじめ定め、労働者に周知する必要があります(労働基準法89条)。

  • 戒告
    企業秩序違反の行為について厳重に注意し、改善を求める処分
  • 譴責
    厳重注意をして改善を促すとともに、始末書を提出させる処分
  • 減給
    非違行為のあった労働者の賃金を減額する処分
  • 出勤停止
    一定期間の間、出勤を停止させ、制裁としてその間は無給とする処分
  • 降格
    非違行為のあった労働者の役職や資格を下げる処分
  • 諭旨解雇・諭旨退職
    退職届を提出するように勧告し、拒否した場合には解雇ないし退職扱いとする処分
  • 懲戒解雇
    懲戒として行われる解雇。懲戒の中で最も重い処分

他の懲戒処分と比べ、戒告は不利益が小さいようにも見えます。しかし「戒告による労働者への影響は?」で後述の通り、戒告も「制裁」には違いなく、対内的にも対外的にも、その悪影響は労働者が想像するよりも大きいものです。

戒告は、最も軽い処分であるため、軽度の業務命令違反やハラスメントなどに対する制裁として用いられますが、さらに重い処分の「警告」でもあります。改善可能な問題について、いきなり解雇に踏み切ることは適切ではなく、労働者が争えば不当解雇として違法・無効となります。そこで、まずは軽い処分を行い、段階的に重くしていく方法が取られ、戒告はその初期段階です。

したがって、戒告を軽く見てはならず、問題がある場合には改善し、納得いかない場合は反論をする必要があります。「荒立てたくない」「円満解決したい」という気持ちなら、無料相談や後方支援を申し込むのがおすすめです。

労働問題を弁護士に無料相談できる?」の解説

戒告とその他の懲戒処分などとの違い

戒告の性質や内容をよく理解するには、類似する他の処分との違いを知るのが有益です。

注意指導との違い

労働者に対して改めるよう求める点では、戒告は注意指導と共通します。

戒告と注意指導の違いは、制裁である懲戒処分かどうかという点です。注意指導は制裁的な意味合いはなく、業務命令の一環として日常的に実施されるものです。

譴責との違い

譴責は、労働者に対して始末書を提出させて将来を戒める処分です。

戒告と譴責はいずれも懲戒処分ですが、その違いは始末書の提出を伴うかどうかの点にあります。始末書を提出させる「譴責」は、「戒告」より一段階重い処分とされます。

訓告との違い

訓告は、公務員に対して行われる懲戒には至らない程度の処分です。

ただし、その後に行われる重度の処分の「警告」という意味合いがある点では、民間企業における戒告と似た機能を有します。

なお、懲戒処分の名称やレベル、内容は法律で決められているわけではないため、民間企業でも、軽い懲戒処分や、その前の処分として訓告を定めるケースもあります。

懲戒処分の種類と違法性」の解説

戒告の根拠

次に、戒告を行う根拠について、法律と就業規則の2つの観点から解説します。

戒告は、軽度とはいえ懲戒処分であるため、労働者に不利益を及ぼします。そのため、就業規則上の根拠なく行う場合は違法であり、撤回を求めて争うべきです。不当処分が疑われるとき、まずはその根拠となる条項を確認するようにしてください。

戒告の法律上の根拠

労働基準法をはじめとした法律には、懲戒処分を規制する条文はあるものの、その処分を直接根拠付ける法律上の規定はありません。使用者は、企業の秩序と規律を維持する運営者として、当然に固有の懲戒権を有します。労働契約法15条が、不当処分を違法・無効とすることを定めている通り、労働法も懲戒権の存在を前提としています。

戒告の就業規則上の根拠

懲戒処分は就業規則の相対的必要記載事項なので、根拠が就業規則に定められていない限り、処分を下すことができません(労働基準法89条)。裁判例でも「使用者が労働者を懲戒するには、あらかじめ就業規則において懲戒の種別及び事由を定めておくことを要する」と判断されています(フジ興産事件:最高裁平成15年10月10日判決)。

懲戒処分は、企業秩序違反に対する制裁罰という性質を持つので、事前に予告されていなければ労働者の自由を過度に制約するおそれがあります。そのため、戒告処分とするには、その対象となる行為、理由と、処分内容などを、就業規則に定めておく必要があります。

就業規則と雇用契約書が違う時の優先順位」の解説

不当な戒告処分は違法になる

就業規則に根拠がある場合でも、どのような処分でも許されるわけではありません。

会社が、懲戒処分の事由に該当すると主張していても、その処分が違法であり、争える場合があります。労働者の行為の性質、態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合には、懲戒権の濫用として無効になります(労働契約法15条)。

つまり、たとえ問題社員だったとしても、従業員を戒告とするには「客観的に合理的な理由」「社会通念上の相当性」の2つが法的な要件となるのです。

戒告は軽度の処分なので、「客観的に合理的な理由」は、さほど重度のものは求められない傾向があります。とはいえ、注意指導をしていない能力、軽微なミスなどは、たとえ戒告であっても相当とは言えません。一定の理由があっても、戒告という手段にふさわしい重さである必要があります。

さらに、「労働者に辞めてもらうために戒告を悪用する」といったように、動機・目的が不当である場合も、権利濫用として無効になります。戒告は、その後も在職して就労し続けることを前提とした処分であり、辞めさせるために用いるのは不適切です。懲戒処分だとしても戒告にとどまる程度の軽い理由しかないなら、それに見合った扱いをすべきであり、過度に居づらくなり、辞めざるを得ないと感じる場合は、違法である疑いがあります。

戒告処分が下されるケースの具体例

次に、戒告処分が下されるケースの具体例を解説します。

戒告の対象となるのは、使用者に迷惑をかける行為や、労働者の非について、現時点では重大な損害が生じておらず、指摘することで改善の余地のあるものです。労働者に有利な情状があるなど、重度の処分が相当であるとは言えない場合、戒告が適しています。

勤怠の不良(無断欠勤、遅刻、早退など)

戒告になりうる1つ目のケースは、無断欠勤やずる休み、遅刻・早退など、勤怠の不良に該当する場合です。勤怠不良は、度重なる場合は懲戒処分を行った上で、最終的には解雇に至るものですが、初期段階では、戒告によって警告を与えるのが適切です。

戒告が有効とされた裁判例では、次の行為が対象とされました。

  • 正当な時季変更権の行使を無視し、有給休暇を取得した(最高裁平成3年12月13日判決)

無断欠勤を理由とする解雇」の解説

業務態度の不良(不適切な態度、反抗など)

戒告になりうる2つ目のケースは、業務態度が良くない場合です。

例えば、不適切な態度を取ったり反抗的であったりすることは、一度で解雇するのは重すぎるとしても、戒告とされるケースがあります。

戒告を有効と判断した裁判例では、次の行為が対象とされています。

  • 教育訓練を目的とした残業命令を正当な理由なく3回以上拒否した(大阪地裁平成10年3月25日判決)
  • 正当な理由なく4つの業務命令に従わなかった(東京地裁平成29年8月10日判決)

勤務時間中の軽度な規則違反

3つ目に、勤務時間中の軽度な規則違反も、戒告になるケースの典型例です。

ただし、企業の規則には様々な種類があり、戒告に値するのは軽微なものに限られます。具体的には、企業秩序や他の社員に与える影響、会社の損害や緊急対応の必要性といった観点から、その影響が小さいものの、制裁を加えるべき程度には達している場合に、戒告とされます。

例えば、戒告になる規則違反は、次のケースです。

  • 過失によるものだが、度重なる違反を戒める必要がある場合
  • 故意による問題行為だが会社に損害はなく、改善が期待できる場合

協調性の欠如を理由とする解雇」の解説

職務怠慢

戒告になりうる4つ目のケースが、職務怠慢を理由とする場合です。

職務の怠慢は、過失というよりは故意に近く、許されることではありません。しかし、「甘え」から来る場合も多く、初期の段階で注意すれば改善が期待できます。これまでの貢献がある場合など、すぐに重度の懲戒処分や解雇とするのは過大である場合、戒告が適切です。

例えば、次のケースで戒告になる可能性があります。

  • 業務時間中に、私用のメールのやり取りをしていた。
  • 業務時間中にネットサーフィンしていた。
  • 注意すれば避けられた簡単なミスを繰り返した。

なお、これらの軽微なミスは、まずは注意指導を徹底すべきであり、戒告とはいえど初めから懲戒処分にするのは重すぎると判断される可能性もあります。

軽度のハラスメント

戒告になりうる5つ目のケースが、ハラスメント加害のうち軽度なものです。

刑事罰になるほどの重度のハラスメント加害は解雇が検討されますが、「場の空気に乗ってしまった」「不用意な発言をしてしまった」といった程度の場合、戒告が検討されます。戒告が有効とされた裁判例には、次のハラスメントを対象としたものがあります。

  • 日本国籍を有しない部下に「あなた何歳のときに日本に来たんだっけ?日本語分かってる?」と発言(辻・本郷税理士法人事件:東京地裁令和元年11月7日判決)
  • 妊娠中の女性社員に「腹ぼて」「胸が大きくなった」と発言(東芝ファイナンス事件:東京地裁平成23年1月18日判決)
  • 育児で短時間勤務中の部下に、帰宅後の遅い時間の頻繁な業務報告を求めた(アクサ生命保険事件:東京地裁令和2年6月10日判決)

なお、パワハラセクハラなどの労働問題は、被害者側において慰謝料請求をはじめとした責任追及が問題となるのは当然ですが、加害者側でも、冤罪だったり不当に重く処罰されたりした場合には、弁護士のサポートを受けることができます。

パワハラ加害者の解雇」「セクハラ加害者の解雇」の解説

業務外で会社の信頼を損なう行為

戒告になりうる6つ目のケースが、業務外における会社の信頼を損なう行為です。

業務外における不適切な行為は、全てが処分の対象となるわけではありません。プライベートは自由に行動して良いのが原則であり、会社の信頼を損なう行為に限って処分が検討されます。そのため、社内で業務時間中に行われた行為よりも処分のハードルは上がります。殺人や強盗といった重大犯罪であったり、痴漢としてメディア報道されて企業名が明らかにされたりといったケースでない限り、戒告にとどめるケースが多いです。

痴漢を理由とした解雇」の解説

戒告処分にする具体的な手続きの流れ

次に、戒告処分が下される際の具体的な流れについて解説します。

戒告をするにあたり、使用者は適正な手続きを踏まえて決定しなければなりません。労働者側でも、どのような手続きが必要かを知れば、戒告の不当性を判断するのに役立ちます。

STEP

問題行動についての事実確認と証拠収集

懲戒事由に該当すると判断されると、その事実の存否が確認されます。

当事者の主張に齟齬のあるケースでは、証拠を収集して事実を認定します。調査が十分でなく事実無根の場合には、戒告は権利濫用となる可能性があります。社内メールの送受信記録や貸与スマホのGPS、パソコンの利用履歴の照会など、場合によっては調査会社や弁護士の力を借りることもあります。

STEP

労働者に対する弁明の機会の付与

次に、労働者に弁明の機会が与えられます。

弁明の機会は、懲戒事由に関する意見を陳述する場であり、労働者の視点では、自分の言い分を伝える重要な機会として最大限に活用すべきです。

なお、全ての懲戒処分について弁明の機会を与えるのは懲戒権の発動を硬直化するおそれがあり、戒告のように軽度の処分の場合、その付与を義務付ける規定を置かない会社もあります。また、懲戒解雇ほど厳密な手続きは求められず、処分前にヒアリングの機会があったことで実質的に弁明がなされたと判断されるケースもあります。

STEP

戒告処分の決定と当事者への通知

戒告が相当であると判断されると、処分が決定され、労働者に通知されます。

戒告は軽度とはいえ懲戒処分なので、通知は書面で行うのが適切です。戒告通知書を交付されたら、記載された理由、適用する就業規則の条文を確認してください。妥当な場合は二度と同じ行為をしないよう改善に努めるべきです。

戒告の目的は改善を促すことにあるため、労働者の納得感が重視されます。そのため、納得のいくまで理由を説明されない場合や、反論を全く考慮してもらえていない場合には、会社に対してより詳しい説明を求める必要があります。

STEP

戒告処分後の記録と再評価

戒告処分後は改善状況が記録され、それに基づいた評価が下されます。

つまり、戒告をされたことが、人事的な評価の場でもマイナスに考慮されることがあるわけです。戒告が嫌がらせなどの不当な目的に基づく場合、処分後の対応が杜撰になるおそれがあります。戒告後の行動について改善案や指針が示されないのは問題があります。また、一度戒告の対象とした行為を、再び懲戒処分の対象とするのは二重処罰に反し、許されません。

弁明の機会から解雇までの手順」「懲戒処分の決定までの期間」の解説

戒告による労働者への影響は?

戒告は、懲戒の中では軽い処分といえど、違反行為に対するペナルティにほかなりません。戒告による不利益を理解し、不当処分であれば自身の権利のために会社と争う必要があります。

職場における評価の低下

まず、戒告とされると、職場における評価が低下するおそれがあります。

「戒告処分になった」という事実は、注意指導では改善しないほどの問題点があることを意味し、人事評価においてマイナスとなります。懲戒処分の社内公表は、対象者の名誉に関わるため、個人を識別できない形でされるのが通常ですが、問題ある会社だと見せしめ的に張り出すこともあります。この場合、本来の戒告にはふさわしくないほど大きなダメージを受けてしまいます。

そうでなくても、どこからともかく噂が立って戒告の事実が知れ渡り、会社に居づらくなることもあります。ベンチャーや中小企業など、小規模な会社ほど事実上の影響は大きいといえます。

職場いじめの事例と対処法」の解説

労働者のキャリア(昇給や昇格、出世)への影響

戒告は、労働者の今後のキャリアにも悪影響を与えます。具体的には、社内の評価を左右するために昇給や昇格を止めたり、出世のハードルとなったりすることがよくあります。

会社によっては、表沙汰にしていなくても、懲戒処分を受けたことを昇給や昇格をさせない事由として内規に定めている例があります。戒告を受けたことでその後の出世の道が閉ざされたと感じる場合、不当な人事評価である危険もあります。

戒告は軽度な処分ですが、「戒告されたことがない労働者」と比較すれば、劣後して扱われるのが現状です。社内でこれ以上の活躍が望めないと感じたら、退職して転職するのも有効な手です。不本意にも望まない退職となってしまうなら、残業代請求や退職金、会社都合での失業保険の請求など、労働者の権利を侵害されないよう退職前にしっかり準備してください。

退職したらやることの順番」の解説

経済的な不利益(賞与や退職金への影響)

戒告によって経済的な不利益を被るおそれもあります。

1つ目が、ボーナス(賞与)への影響です。賞与の有無や金額には会社の裁量が幅広く認められます。多くの会社では、勤務態度や成績、貢献度、給与額などを考慮要素としてボーナスを決定する仕組みになっており、戒告を受けていない労働者と比べ、戒告を受けたことで貢献度が低いと判断されると、ボーナスカットをされる危険があります。

2つ目が退職金への影響です。退職金には、貢献に対する評価という性質があります。諭旨解雇や懲戒解雇になったときは退職金を減額、不支給とする条項を定める企業が多いですが、戒告によって規程上の退職金が減ることは稀です。ただ、退職金の額は、給料や役職に連動するのが通例なので、戒告で昇給や昇進が遅れると、本来もらえたはずの退職金が少なくなる事態が予想されます。

退職金がもらえないケース」の解説

転職時の履歴書への記載

戒告は、社内で改善するための処分なので、対内的な効果はともかく、対外的には悪影響は少ないのが基本です。少なくとも、懲戒解雇のように転職の支障とはなりづらいと考えられます。

ただし、全く影響がないとは言い切れません。戒告の事実が面接で明らかになることもあり、その場合には転職活動の妨げになりかねません。積極的に戒告された旨を申告する義務はないものの、懲戒歴を尋ねられた場合は回答する必要があります。

なお、履歴書には「賞罰」の欄が設けられた様式もありますが、「賞罰」とは刑事罰を指すのであり、懲戒処分である戒告をされたことまで記載する必要はありません。

履歴書の賞罰」「経歴詐称」の解説

戒告による心理的な影響

最後に、戒告の影響は、法律上のものに留まらず、心理的な影響も無視できません。

戒告によって労働者にストレスや不安が生じるのは当然で、「会社に目をつけられた」と感じることで就労意欲を損ない、モチベーションや自己評価の低下を招いてしまいます。

自分だけが戒告になると、上司や同僚に疎外されたように感じたり、将来のキャリアが閉ざされたと思い込んでしまったりする方もいます。精一杯取り組んだつもりなのに戒告の対象とされると、自分の行動が否定されたように感じ、モチベーションを維持できなくなります。

これらの心理的影響は、責任感の強い人ほど大きく、うまく対処しなければうつ病や適応障害を発症してしまうこともあります。なお、不当な戒告処分によって心身の健康や体調を崩した場合には、労災(業務災害)であると考えられ、労災保険による補償を得られるほか、誤った判断をした会社に慰謝料請求などの責任を追及すべきケースです。

労災の慰謝料の相場」の解説

戒告処分に関する裁判例

次に、戒告処分に関して判断した裁判例を紹介します。

戒告処分を争った結果、適法と判断されたケース、違法と判断されたケースのそれぞれを知ることで、自身の戒告処分が有効なものかどうかを知る助けとなります。

戒告を有効であると判断した裁判例

東京地裁令和元年11月7日判決(辻・本郷税理士法人事件)

部下に対する差別的言動、厳しい叱責がパワハラに当たるとして訓戒処分とされ、就業規則で必要とされた手続きの履践がないとして争われた事案です。

裁判所は、就業規則には釈明または弁明の機会についての規定があるが、機会付与の方法までは定めておらず、処分前になされた調査で、弁護士が中立的な立場で聴取をしていることから釈明の機会の付与の方法として適切だったと判断しました。

そして、訓戒が最も軽い処分であることからすると、相当性についての意見聴取がなされなかったからといって必要な手続きが不足するとまではいえないとし、有効であると判断しました。

東京地裁平成23年1月18日判決(東芝ファイナンス事件)

妊娠中の女性社員に対するセクハラ発言を理由に戒告となり、適正な手続きを尽くしたかどうかという点が争われた事案です。

裁判所は、処分前に事情聴取があった点や、自らの申出により部長と面会の機会を得ていた点をもって労働者の主張を採用せず、戒告は有効と判断しました。

なお、問題となった発言の具体的状況が訴訟前に明らかにされなかった点について、裁判所は、戒告が最も軽度な処分であることからして、発言の具体的な日時や状況が判明しなかったとしても手続的な相当性を欠くとまではいえないとしました。

以上の通り、戒告処分の軽さからして、求められる弁明の機会などの手続きも簡易なもので足りると判断される裁判例があるため、厳密な手続きがないというだけの理由で無効とはならない可能性が高いと考えられます。

戒告を違法であると判断した裁判例

東京地裁平成31年2月25日判決(学校法人大東文化学園事件)

大学講師のゼミ生に対する不適切なメール送信が、アカハラとして懲戒規程に該当するとして戒告にされた事案です。

裁判所は、大学教員として相応しくない行為であり、学生に不快な思いをさせたとしながら、それまで通りゼミや演習に積極的に参加し、打ち解けた様子のメールのやり取りをしている点から就学に悪影響を及ぼしたとまではいえないとしました。

そして、全体として相当手厳しい表現はあるものの奮起と努力を促す趣旨と理解することができ、特定のゼミ員を寵愛しているとは考えられないとして、懲戒事由に該当しないと判断しました。

広島地裁平成5年4月14日判決

有給休暇を申請した郵便局員が、時季指定変更権が行使されたのに申請通りに休暇を取ったことから、無断欠勤とその際の暴言を理由に戒告とされた事案です。

裁判所は、有給休暇を取ると最低配置人員を欠くものの、使用者が通常の配慮をすれば勤務割を変更して代わりの勤務者を配置できたことから、事業の正常な運営を妨げるとはいえず時季変更権の行使を無効と判断しました。

暴言についても、上司が有給休暇の取得について具体的な検討をせず、直ちに時季変更になると発言したことに端を発しており、職員の権利への配慮を欠くため、発言内容のみを責めるのは相当でないとし、結論として使用者の主張する信用失墜行為ないし非行に当たらないとして、戒告は違法であるとしました。

労働者が裁判で勝つ方法」の解説

その他の戒告処分について

最後に、「戒告」という用語が用いられるその他の場面についても解説しておきます。

国家公務員・地方公務員の戒告処分

公務員に戒告処分が下される場面があります。公務員の戒告は、民間企業の懲戒処分とは違い、法律上の明確な根拠があります。

国家公務員法82条1項(抜粋)

職員が次の各号のいずれかに該当する場合には、当該職員に対し、懲戒処分として、免職、停職、減給又は戒告の処分をすることができる。

一 この法律若しくは国家公務員倫理法又はこれらの法律に基づく命令(国家公務員倫理法第五条第三項の規定に基づく訓令及び同条第四項の規定に基づく規則を含む。)に違反した場合

二 職務上の義務に違反し、又は職務を怠つた場合

三 国民全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあつた場合

国家公務員法(e-Gov法令検索)

地方公務員法29条1項(抜粋)

職員が次の各号のいずれかに該当する場合には、当該職員に対し、懲戒処分として戒告、減給、停職又は免職の処分をすることができる。

一 この法律若しくは第五十七条に規定する特例を定めた法律又はこれらに基づく条例、地方公共団体の規則若しくは地方公共団体の機関の定める規程に違反した場合

二 職務上の義務に違反し、又は職務を怠つた場合

三 全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあつた場合

地方公務員法(e-Gov法令検索)

公務員の懲戒処分は、戒告、減給、停職、免職の4つがあります。公務員でも民間企業と同じく「戒告」は最も軽い位置付けです。懲戒事由も、概ね一般企業と同じですが、「全体の奉仕者たるにふさわしくない非行」という観点で判断するのが公務員ならではの特色です。国や地方公共団体は「懲戒処分の指針」に基づいて懲戒の程度を決定します(代表的な事例について標準的な処分の種類を掲げた基準で、国家公務員は人事院、地方公務員は各地方公共団体のサイトで確認できます)。

なお、不当な戒告処分を受けた場合、行政上の不服申立てや行政訴訟で解決します。

教員の戒告処分

教員も、公立の場合は、前章の通り地方公共団体から戒告処分を受けます。また、私立学校の教員は、民間企業と同じく、本解説の通りに戒告される可能性があります。

公務員として働く場合は、都道府県教育委員会が定める詳細な基準が参考になります。体罰や生徒に対するいじめなど、教育現場に特有の行為類型を非違行為として掲げている点が特徴です。例えば、東京都教育委員会は次のケースが戒告に値すると定めます。

  • 体罰を行った場合
  • 暴言又は威嚇を行った場合で、児童・生徒の苦痛の程度が重いとき(欠席・不登校等)
  • 常習的に暴言又は威嚇を繰り返した場合
  • 暴言又は威嚇の内容が悪質である場合
  • 暴言又は威嚇の隠ぺい行為を行った場合
  • 児童・生徒へのいじめ又は児童・生徒間のいじめへの加担若しくは助長を行った場合
  • 性的な冗談・からかい、食事・デートへの執ような誘い、性的羞恥心を害するような言動等を行った場合(交際を求める、正当な理由なく自宅に入れたり、所属長の承認を受けることなく、自家用自動車等に同乗させたりする等を含む。)
教職員の主な非行に対する標準的な処分量定(東京都教育委員会)

弁護士の戒告処分

弁護士は、弁護士会に登録し、独立した存在として活動します。

弁護士法や所属弁護士会、日弁連の会則への違反、所属弁護士会の秩序・信用を害したり、職務の内外を問わず「品位を失うべき非行」があったときは、懲戒を受けます(弁護士法56条)。

弁護士の懲戒処分は、戒告、業務停止、退会命令、除名の4種類であり、戒告は、反省を求めて戒めることを内容とする最も軽い処分です。

【まとめ】戒告について

弁護士法人浅野総合法律事務所
弁護士法人浅野総合法律事務所

今回は、懲戒処分の一つである戒告について詳しく解説しました。

戒告は、軽度の懲戒処分ではあるものの、会社によって悪用されると労働者の被害は思いの外大きいものと言わざるを得ません。賞与の評価が下がったり、退職金に影響したり、出世や昇給などのキャリアアップの支障となったりするなど、決して無視できない処分です。

戒告を受けた場合、その理由を確認し、そもそも処分に値する行為があったかどうかを検討してください。あわせて、事実関係が適切に調査されたか、処分前に弁明の機会が付与されたかなど、手続き的な観点からも、会社に不適切な対応がないか、注意する必要があります。

万が一、違法・不当な戒告であることが疑われる場合、早期に労働問題に精通した弁護士に相談することが大切です。

この解説のポイント
  • 戒告は、懲戒処分の中でも軽度なもので、軽微な企業秩序違反に下される
  • 軽度とはいえ制裁の意味合いがあるため、正当な理由なく行われれば違法
  • 不当な戒告処分を受けたら、理由を通知書などで確認して撤回を求める

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