企業内の不正行為や、組織の規律に違反した行為が発覚したとき、懲戒処分を下されることがあります。しかし、懲戒処分の決定までの期間は、相当長引くケースも少なくありません。
懲戒待ちの期間が長引くと、対象となった労働者にとってはストレスや不安が増し、仕事や私生活に大きな支障となります。処分決定までに期間がかかるほど、懲戒解雇を含む重大な処分となる傾向にあります。重大な事例では、処分までの自宅待機を命じられ、長期化するほど、仕事できない期間が続いてしまいます(横領やハラスメントなどの責任が明らかだと、再発防止を目的とした自宅待機は「無給」のこともあり、経済的な損失もあります)。
今回は、懲戒処分の調査から決定に至るまでの一般的な期間について説明し、待つ期間が長くなりやすい理由や対処法について解説します。
- 懲戒処分の決定までの期間の相場は、予定される処分の重さによって異なる
- 手続きの慎重さは大切だが、労働者の負担を減らすため迅速に進めるべき
- 懲戒処分待ちの期間が長すぎるとき、催促するかどうか、先に弁護士に相談する
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懲戒処分の決定までの期間の相場
まず、懲戒処分の決定までの期間の相場について解説します。
懲戒処分が下されるまでの期間は、対象となる不正行為の内容や会社の状況により異なります。ただ、懲戒処分待ちの不安を少しでも解消するために、問題行為を指摘されてから調査、弁明の機会、そして処分の決定に至るプロセスを理解し、一般的な期間の相場を知っておきましょう。
懲戒処分の決定までのプロセスと期間
懲戒処分の決定まで、全体でどれほどの期間がかかるかを知るには、そのプロセスの流れを理解し、それぞれのどれくらいの期間がかかるのが通常かを知るのが有益です。
懲戒処分という重大な不利益を労働者に与えるには適正な手続きを踏む必要があるため、処分までの流れは次の手順で進むのが通例です。
不正行為の発覚
不正行為や規律違反が発覚すると、社内の調査が開始されます。問題の発覚は、横領や不正受給の場合は会社の調査や決算などの手続きによって、セクハラやパワハラなどのハラスメントは被害者が社内の相談窓口に申告することで発覚するケースが多いです。
調査の開始と初動対応
使用者による初動対応は、事実関係の調査から始まります。関係者の聞き取りを行い、書面などの客観的な証拠の裏付けを取って事実を確定させます。処分の対象者だけでなく、被害者や目撃者からも話を聞くため時間のかかるプロセスであり、数日から数週間かかります。
再発防止が必要なときは、一時的な部署異動や自宅待機を命じられることもあります。
弁明の機会の付与
事実関係が固まったら、処分の対象者に弁明の機会を付与し、反論を聴取します。重度の処分が予定される場合は特に必要性が高く、懲戒解雇では必ず反論の機会を設けるべきです。初動の調査の終了から弁明の機会の付与までは、あまり期間を置かないことが通例です。
懲戒委員会の開催
就業規則で定めている場合は、懲戒委員会を開催します。外部の専門家や弁護士が関与することもあります。複雑な事案の調査では、数週間から数ヶ月の期間がかかることもあります。
懲戒処分の決定
以上の調査の結果、会社として処分のレベルを決定します。調査結果の検討が必要となったり、法的な側面の評価について弁護士のアドバイスを得る必要があったりすると、その分だけ期間が長くかかる傾向にあります。
懲戒処分の通告
社内で処分内容が決まると、当事者に懲戒処分決定通知書を交付して通告します。
処分が通告された後、実施までの間に数日から数週間の猶予を設け、当事者の異議申立てや再調査の機会を与えるケースもあります。
以上の通り、懲戒処分の決定までの期間は、調査の開始から処分の実施まで、全体で数ヶ月に渡ることがあります。当然ながら、労働者に与える不安感などを考慮すれば迅速に進めるべきではあります。しかし一方、処分の公正さを担保するには、弁明の機会の付与など労働者を保護するための手続きもあり、適正な手続きの保障を受けるためにも、焦るばかりではいけません。
「懲戒解雇の手続きの流れ」の解説
軽度の懲戒処分となる場合の期間の目安
懲戒処分の決定までにかかる期間は、その処分の重さによっても異なります。
例えば、譴責や戒告といった軽度の懲戒処分は、問題ある欠勤や遅刻、早退などといった軽微な規律違反の改善させるために下されます。いわば、懲戒処分に至らない注意指導と紙一重で、求められるプロセスや手続きも少ないため、短期間で処分が決まるケースも少なくありません。内容や状況によっても異なりますが、全体を通じてもかかる期間は数日から2週間程度が多いです。
- 初動調査:数日から1週間程度
- 弁明の機会:数日
- 処分の決定と通告:数日から1週間程度
→ 全体:数日から2週間程度
軽度の懲戒処分では、会社の定めによって懲戒委員会の対象とされないケースもあります。軽度の懲戒処分は、改善を促して今後の活躍を求めるためのものなので、迅速に対応し、労働者に必要以上の負担を与えないよう配慮するのが適切です。
「懲戒処分の種類と対処法」の解説
重度の懲戒処分となる場合の期間の目安
これに対して、処分の内容が重度になるほど、決定までには長期間かかります。
例えば減給や出勤停止、降格といった重度の懲戒処分は、それだけ重大な規律違反や不正に下される処分であり、プロセスが厳密になされ時間がかかるのが通常です。事実の調査にも複数の関係者の聴取を要し、証拠集めにも時間がかかります。多額の横領ケースなどは、領収書や納品書を突き合わせてエクセルにまとめるなどの膨大な作業となることもあります。法的な判断の難しい事案だと、弁護士の見解を聞いて意見書を作成してもらうこともあります。
全体を通じて、数週間から2ヶ月といった長い期間がかかることもあります。
- 初動調査:数週間から1ヶ月程度
- 弁明の機会:1週間
- 懲戒委員会の開催:1週間から2週間
- 処分の決定と通告:数日から1週間程度
→ 全体:数週間から2ヶ月程度
重度の懲戒処分は、慎重に進める必要があり、長期化する傾向にあります。ただ、懲戒解雇や諭旨解雇ではない場合は、やはり処分後も仕事を続けることになる以上、負担が大きくなりすぎないよう配慮しなければなりません。懲戒待ちの期間が長すぎる場合には、ただ我慢して待つのではなく、対応が必要なこともあります。詳しくは「懲戒処分までの期間が長いときの対処法」参照。
懲戒解雇の場合の期間の目安
懲戒処分のなかでも最も重いのが、懲戒解雇です。
懲戒解雇のデメリットは非常に大きく、懲戒解雇を予定するケースでは、弁明の機会の付与や懲戒委員会の開催といった手続きについて、時間をかけて丁寧に進める必要があります。裁判例のなかには、手続きが適正でなかったことを理由に、懲戒解雇を無効であると判断した例もあります。手続きは慎重に進められる結果、懲戒解雇が決定されるまでの期間は長期化することが多いです。
- 初動調査:数週間から1ヶ月程度
- 弁明の機会:1週間
- 懲戒委員会の開催:1週間から2週間
- 処分の決定と通告:数日から1週間程度
→ 全体:数週間から2ヶ月程度
懲戒解雇となる事由には、刑事事件化するような横領事件や職場内での暴力、強度のセクハラや機密情報の漏洩といった重大なケースがあります。秩序の維持、再発や証拠隠滅の防止のため、懲戒解雇が決まるまでの間は自宅待機とされ、出勤を取りやめるよう命じられるのが通常です。
なお、犯罪行為に該当するような不正行為が明らかであったり、逮捕されていたりするケースでは、速やかに懲戒解雇の判断が下るケースもあります。
「懲戒解雇を争うときのポイント」の解説
懲戒処分待ちの期間が長くなる理由
前章で説明した懲戒処分の決定までの期間は「長すぎる」と感じる方も多いのではないでしょうか。懲戒処分待ちの期間が長くなる理由には、以下のような原因が関係しています。
懲戒処分の調査が複雑である
懲戒処分の調査は、単純な事実確認にとどまらず、多くの観点からの検討を要します。被害者と加害者、目撃者それぞれの証言が食い違うこともあるので、証拠を集めて分析し、調査するなどといった必要があるとどうしても時間がかかります。場合によっては、弁護士などの専門家や、調査会社の協力を求めることもあり、調査期間を延ばす要因となります。
とはいえ、慎重に調査を進めることが理由で期間が長くなるのは、結果的に労働者にとってもメリットとなることです。
関係者が多く調整が必要である
調査対象者だけでなく、関係する同僚や上司など、多数の人への聞き取りが必要なケースでは、懲戒処分の決定までの期間は更に長くなる傾向にあります。関係者にとっては、懲戒処分の調査は業務そのものではなく、仕事の合間を縫ってスケジュール調整することは用意ではありません。
また、それぞれの証言や調査結果をもとに検討し、適切な処分を決めるために経営陣や顧問弁護士などが何度も協議を重ねる必要があることも、期間が延びる原因となります。
重大な処分ほど適正な手続きが必要となる
「懲戒処分の決定までの期間の相場」で前述の通り、重度の懲戒処分を予定しているほど、事前の手続きは慎重に進めなければなりません。労働者の権利を保護するため、弁明の機会や異議申立ての機会を与えるといった配慮が必要となるためです。
そのため、懲戒処分の手続きでは、「迅速性」と「公正性」という相反する目標のいずれをも達成するために、速やかに、しかし丁寧に進める必要があります。
「労働問題の種類と解決策」の解説
懲戒処分までの期間が長すぎると労働者に不利益がある
懲戒処分までの期間が長引くと、労働者に様々な不利益が生じます。
まず、何よりも処分の結果を待つ間に不安やストレスを抱えるでしょう。その先に懲戒解雇などの重い処分が予想されると、精神的な負担は更に大きくなります。長期間に渡って処分結果を待たなければならないと、仕事のモチベーションが低下し、生産性や業務効率に影響してしまいます。
懲戒解雇が予想されるような重大なケースでは、処分の確定するまで自宅待機を指示され、労働者の非が明らかな場合には無給とされ、経済的な損失を負うこともあります。当然ながら、処分の内容によっては将来の昇進や昇給といったキャリアに影響します。仮に、解雇を免れて復帰できても、懲戒処分までの期間が長引いた結果、実際はどうあれ「問題社員」のレッテルを貼られ、職場の人間関係が壊れるなどして孤立させられる危険もあります。
ひいては、長期間の精神的なストレスによって、うつ病や適応障害といった精神疾患を引き起こすおそれがあります。このような労働者の不利益を最小限に押さえるためにも、懲戒処分の決定までの期間は、慎重さとのバランスを保ちながら、できるだけ短縮する努力が求められます。
「労働条件の不利益変更」の解説
懲戒処分までの期間が長いときの対処法
懲戒処分の決定までの期間が長引いたときの労働者の負担は大きいので、このような状況に対処するための方法を検討することが重要です。
催促するかどうかは慎重に検討する
懲戒処分がなかなか下されないとしても、催促するかどうかは、状況に応じて慎重に検討すべきです。過度に急かすと、必要な調査が十分されず、不利な処分に繋がるおそれもあります。
期間が長いことを厳しく非難するのではなく、まずは直属の上司に根回しをしたり、人事部門に照会したりといった方法で、穏やかに進捗状況の確認を依頼してみてください。また、催促する際は、進捗状況と処分の見通しについて具体的に聞くのがおすすめです。
弁護士に相談してアドバイスを求める
とはいえ、懲戒処分のプロセスがいつまでも進まず、長期間かかっていると不安でしょう。会社に厳しく当たるよりは前に、労働問題に精通した弁護士の助言を求めるのが重要です。経験豊富な弁護士なら、様々な懲戒事例に対応した経験から、あなたのケースの懲戒待ちが「長すぎて不当だ」といえるかどうかをアドバイスしてくれます。
専門家の意見によって安心感が得られれば、冷静に対応できるようになるメリットもあります。
「労働問題に強い弁護士の選び方」の解説
弁明書を送付しておく
処分待ちの期間中に、弁明書を会社に送付しておけば、自身の事実認識や主張を明確に伝えることができます。
弁明の機会を付与されるにしても、それはあくまで会社が「処分すること」を目的としたもので、労働者にとって有利な意見が十分反映されるとは限りません。懲戒処分の決定までの期間が長いケースほど重大な処分が予想され、時間的な余裕があるならばしっかりと記憶を喚起し、時間をかけて弁明書を作成するべきです。
「始末書の拒否と強要された時の対応」の解説
不当な懲戒処分を争う準備をする
最後に、懲戒処分を待つ期間を使って、いざ不当な処分が出てしまった場合に備えて争う準備をしておきましょう。特に着手してほしいのが、関連する証拠の収集や整理です。メールやメモなどが多くあるとき、処分が出たらすぐに争えるよう、利用できる証拠を手元に確保しておきます。
また、時間を有効活用するために、この段階で法律相談を受け、依頼すべき弁護士を選んでおくのがお勧めです。処分前から状況を共有し、相談しておけば、すぐにサポートを受けることができます。
「懲戒解雇のその後の人生」の解説
問題行為から長期間経過後にされた処分は無効となる可能性がある
ここまで、懲戒処分の決定までの期間がどれほどかかるかを解説しました。
懲戒待ちの期間が長くなるほど不安が募るでしょうが、一方で、問題行為から長期間経過後にされた処分は、無効となる可能性があります。不当処分や不当解雇の疑いがあるなら、会社の処分を甘んじて受け入れるのではなく、不服を申し立てて争うことも検討してください。
無効になる法的な理由
解雇は、労働者に不利益を与えるため、厳しく制限されます。解雇権濫用法理により、客観的に合理的な理由、社会通念上の相当性がなければ、違法な「不当解雇」として無効となります(労働契約法16条)。懲戒解雇は最も重い処分なので、特に厳密に判断され、不当解雇になりやすいです。
また、懲戒処分についても同様に、客観的に合理的な理由がなく、社会通念上相当でない場合には、不当処分として無効になります(労働契約法15条)。
「社会通念上の相当性」が認められるには、問題行為の重さと、処分の程度のバランスが取れている必要がありますが、問題行為を当面放置して期間が経過しているときは、「重度の処分、特に懲戒解雇などをするほどの問題ではなかったのではないか」と考えることができます。したがって、隠れてこっそりされていて、問題行為から期間が経過して初めて発覚したといった例外的な事情のない限り、期間が経過してからなされた処分や解雇は、違法となる可能性が高いものです。
「懲戒解雇を弁護士に相談すべき理由」の解説
長期間経過後の処分を無効と判断した裁判例
裁判例でも、長期間経過後にされた懲戒解雇が争われ、無効と判断された例があります。ネスレ日本懲戒解雇事件(最高裁平成18年10月6日判決)は、職場における上司に対する暴行事件から7年以上経過した後に行われた諭旨退職処分を、権利濫用として無効であると判断しました。
本件各事件から7年以上経過した後にされた本件諭旨退職処分は……(中略)……処分時点において企業秩序維持の観点からそのような重い懲戒処分を必要とする客観的に合理的な理由を欠くものといわざるを得ず、社会通念上相当なものとして是認することはできない。そうすると、本件諭旨退職処分は権利の濫用として無効というべきであり、本件諭旨退職処分による懲戒解雇はその効力を生じないというべきである。
ネスレ日本懲戒解雇事件(最高裁平成18年10月6日判決)
なお、どれほどの期間が経過したら、不適切な扱いだといえるかは、その不正や問題行為の内容と、処分のバランスによって判断する必要があります。懲戒処分までの期間が長すぎて不安なときは、まずは無料相談で弁護士の話を聞くのも有益です。
「労働問題を弁護士に無料相談する方法」の解説
まとめ
今回は、懲戒処分の決定までの期間と、懲戒待ちの期間が長すぎる場合の対策を解説しました。
懲戒処分の決定までの期間は、不正行為の内容や組織のルールといった個々の事情によっても異なりますが、一般的な相場はあります。そして、相場の目安を大きく超え、懲戒処分がなかなか決まらず待たされ続けるのは労働者にとって酷であり、違法な扱いとなる可能性があります。待機期間が長引くと、ストレスや不安による精神的な影響があるのみならず、懲戒処分までの自宅待機が無給とされると経済的な損失も生じます。
懲戒待ちの期間が長すぎるときも焦ってはいけません。深刻な処分が予定される事案では、催促が逆効果となるおそれもあります。むしろ懲戒待ちの期間は、証拠集めや弁明の準備、不当な処分を争うための弁護士への相談といった過ごし方をするのが有意義です。
しっかり準備をしておけば、いざ不当な処分を受けたときも争うことができます。懲戒処分決定までの期間が長すぎて不安なとき、その内容によっても判断が異なるので、個別の事情に合わせたアドバイスを得るためにぜひ弁護士に相談ください。
- 懲戒処分の決定までの期間の相場は、予定される処分の重さによって異なる
- 手続きの慎重さは大切だが、労働者の負担を減らすため迅速に進めるべき
- 懲戒処分待ちの期間が長すぎるとき、催促するかどうか、先に弁護士に相談する
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