懲戒解雇は、会社が労働者に対してする処分のなかで最も厳しいもの。
単なる解雇とは異なり、労働者が被る不利益は甚大です。
この事態を表し、「懲戒解雇は人生終了」と揶揄されることも……。
懲戒解雇は会社からの「制裁」とも言われるように、否定的な評価を大いに含みます。
懲戒解雇後に、転職先がなかなか決まらないと、自分が無価値な存在に感じるでしょう。
収入は途絶え、貯金が無くなるなど、懲戒解雇された人のその後は、悲惨なケースもあります。
しかし、懲戒解雇は無効なケースも多く、不当な解雇ならば撤回を要求すべきです。
特に懲戒解雇は、いわゆる「人生終了」という最悪の事態を避けるべく、争うのが通常です。
正当な理由のない処分なら、あきらめてはいけません。
懲戒解雇で、その後の人生が全て台無しになるわけではありません。
冷静な対処によって軌道修正するのが大切です。
汚名返上し、人生を逆転したいなら、懲戒解雇後こそ適切な方法を知るべきです。
今回は、懲戒解雇でも人生終了ではない理由と、その後の対処法を、労働問題に強い弁護士が解説します。
【解雇の種類】
【不当解雇されたときの対応】
【解雇理由ごとの対処法】
【退職勧奨への対応】
【不当解雇の相談】
懲戒解雇が人生終了といわれる理由

「懲戒解雇は人生終了」と言われるのは、相応の理由があります。
懲戒解雇には多くの悪影響があります。
その影響は、仕事上のものはもちろん、私生活へも影響します。
その結果、懲戒解雇は「社会的な意味で生きていけなくなる」というイメージが強いです。
本当に死ぬわけではないものの、死んだも同然で、「人生終了」と例えられるのです。
このような懲戒解雇は、労働者への死刑宣告、つまり「極刑」に値すると考えられています。
懲戒解雇された人を雇う会社はない
懲戒解雇された人を雇う会社はないという事情が、「人生終了」と言われる1つ目の理由。
そもそも、懲戒解雇は、懲戒処分のなかでも一番重い処分です。
業務上横領、犯罪に当たる重度のセクハラなど、企業秩序を著しく害する重大な行為に限って下されます。
もし、重大な違法行為をした社員を抱え、再び同様の行為をすれば会社の信用に関わりますし、取引先や顧客にも損害を与え、責任問題にまで発展する危険もあります。
リスクを排除しようとする会社ほど、懲戒解雇されたとわかっている人は雇いません。
採用段階で明らかになれば、即不採用とするでしょう。
そのため多くの会社は、退職理由証明書、離職票を提出させ、前職の退職理由を把握しようとします。
(金融業、警備業や上場企業など、信頼性を重視する会社は特にその傾向にあります)
退職理由の種類と、自己都合と会社都合の違いは、次に解説します。
再就職できなくなる
採用の競争に負け、再就職できないという事情が、「人生終了」と言われる2つ目の理由。
懲戒解雇の過去を積極的に確認する会社でなくても、発覚すれば不採用の場合が多いでしょう。
同じ能力の応募者ならば、キャリアに傷のない者を選ぶのが当然。
人気の業界、倍率の高い会社ほど、他の候補者に劣後するおそれは高まります。
また、「懲戒解雇は人生終了」というイメージは、労働者本人のやる気も奪っていきます。
懲戒解雇が原因で働く意欲がなくなれば、再就職はより困難です。
懲戒解雇の直後は、負の感情に支配されるでしょう。
応募先からのお祈りメール、不採用通知にやる気を折られ、ますますふさぎ込みがちです。
「自分は社会的な価値がない」と思い込み、長期間働かない期間が続けば、再出発のための心理的なハードルは更に高くなります。
突然給料がなくなる
懲戒解雇によって突然給料がなくなるのも「人生終了」と言われる理由です。
会社は、解雇する場合には30日以上前に予告しなければならず、予告しない場合は解雇予告手当として30日分以上の平均賃金を支払う義務があります(労働基準法20条)。
しかし、懲戒解雇はその例外で、予告せずに即日解雇できます。
(なお、解雇予告手当を払わないためには、労働基準監督署の除外認定を要します)。

労働契約が、懲戒解雇のよって終了すれば、当然それ以降の給料は支払われません。
今後の生活の目処が立たず、退職後にあてにできるお金もなくなります。
退職金が不支給または減額となったり、失業保険の給付にも制限がかかったりします。
懲戒解雇を機にローンが払えず、夫婦関係に亀裂が入り、離婚に至るなど、私生活への悪影響があれば、まさに人生終了といえる事態となってしまいます。
懲戒解雇されても人生終了ではない

前章の通り、懲戒解雇には「人生終了」と言われる理由があります。
しかし、実際には、懲戒解雇されてもなお、今後の人生が台無しになるわけではありません。
解雇後に転職して他社で活躍したり、起業して成功を収めたり、好転した人生を送る人は多くいます。
懲戒解雇は、裁判で無効とされる例も多く、正当な解雇かどうかも疑う余地があります。
客観的に合理的な理由なく、社会通念上相当でなければ、懲戒解雇は違法であり、無効です(労働契約法16条)。

戦って勝てるならば、人生終了とあきらめる必要はありません。
たとえ懲戒解雇が適法でも、失業保険を受ける権利があります。
転職活動をし、他の仕事を探すこともできます。
懲戒解雇が制裁なのは、あくまで社内の問題であり、社外では、他の求職者と同じく、職探しができます。
懲戒解雇でも、賃貸借契約や借金、カードローンが打ち切られることはありません。
失わない保証をきちんと理解し、生活を維持すべきです。
退職金についても、懲戒解雇だからといって必ず不支給または減額になるわけではありません。
裁判例でも、退職金規程上の根拠のみならず、懲戒の原因が「それまでの勤続の功を抹消するほどの著しい背信行為」といえない限り、不支給にすることは違法だと判断したケースもあります(大阪高裁昭和59年11月29日判決など)。
確かに、多くの会社は懲戒解雇された人の採用を控える傾向にあります。
一方で、人手不足で困る会社が多いのも事実。
十分な能力を示せれば、懲戒解雇されても採用してもらうことができるでしょう。
帝国データバンクの調査によれば、50.1%の会社が「正社員が足りない」と回答しています。

懲戒解雇されても人生を悲観する必要はなく、新たな人生のきっかけとなる可能性は十分あります。
不当解雇を弁護士に相談する方法は、次に解説します。

懲戒解雇された人のその後の対処法

懲戒解雇が、必ずしも人生終了の伏線になるわけではありません。
しかし、そうはいっても、懲戒解雇となった人のその後がどうなっているか不安でしょう。
懲戒解雇の後にどんな選択をするかは自分次第であり、選択肢は複数あります。
良い道筋を選べるよう、選択肢ごとの将来の展望について解説します。
懲戒解雇を隠して就職する
まず、懲戒解雇を隠して就職する手があります。
隠すというと悪いことをしているように感じ、不安かもしれません。
経歴詐称になるとすれば、転職先でも更に解雇されるリスクがあります。
しかし、懲戒解雇を隠すのが、すべて経歴詐称になるわけではありません。
裁判例でも、面接時に、懲戒解雇などの経歴を自発的に申告すべき義務はないとされます(中央タクシー事件:長崎地裁平成12年9月20日判決、学校法人尚美学園事件:東京地裁平成24年1月27日判決など)。
自己に不利な事実の回答を避けたいと考えるのは当然です。
採用面接などで、聞かれない限りは懲戒解雇を隠して就職してよいのです。
履歴書にも「退職」とだけ記載し、その理由は書かないようにします。
前職に発行を求める退職証明書にも、不利になる事項は記載しないよう求められます。
労働者の請求しない事項について、前職の会社が記載するのは違法です(労働基準法22条3項)。
懲戒解雇が転職時にバレない方法は、次に解説します。
懲戒解雇を素直に伝えて理解を得る
懲戒解雇を隠しても、後から発覚する可能性は捨てきれません。
入社後の言動、提出書類の記載事項や噂話など、その原因は様々です。
嘘を付いたのでなくても、隠していたと思われれば、信用を失うおそれがあります。
懲戒解雇を素直に伝え、理解を得た方がよいケースもあります。
少しでも再就職の可能性を減らさないために、次のポイントを押さえましょう。
- 懲戒解雇に至った経緯を具体的に伝える
- 不当解雇だと思うときは、自分の意見をあわせて伝える
- 改善すべき点については今後の努力を伝える
- 過去の落ち度から学んだ点、今後に活かせる点を伝える
- 前向きな姿勢をアピールする
曖昧な伝え方だと、かえってやましい気持ちがあると受け取られ、マイナス評価は避けられません。
全く別の業界に転職することで、懲戒解雇を理解してもらいやすくなることもあります。
ある業界では許されない問題行為も、別の業界ではさほど問題視されない例もあります。
懲戒解雇の原因となった事情が、業務に影響しない業界や会社を選べば、転職の成功率を上げられます。
懲戒解雇を家族には隠し通す
懲戒解雇が不当ならば、戦うのに家族にサポートしてもらうのもよいでしょう。
一人で抱え込むより、精神的、金銭的な助力を得られます。
しかし、家族には隠し通したい事情のあるケースもあります。
家族の心配ごとを増やしたくない場合など、嘘を付きたい場面もあるでしょう。
ただ、隠し通すとしても、出勤時間の変更や収入の減少、保険証の返却、離職票の受領といったタイミングをきっかけに、発覚してしまうことも少なくありません。
独立起業する
懲戒解雇を転機として、独立起業する方法もあります。
面接で落ち続けてしまう、内定先はあるけれど待遇に納得いかない、解雇した会社を見返したいなど、再就職が叶わないのは、もはや雇われるのに向いていないのかもしれません。
独立起業する大きなメリットは、再就職せずとも生計を立てられること。
事業がうまくいけば、「人生終了」どころか大きく逆転できます。
経営向きで、前職の収入以上の大きな利益を得る方もいます。
懲戒解雇といえど、会社を設立し、事業をするのには全く支障になりません。
独立してうまくいくと、前職から嫌がらせを受ける可能性もありますが、違法なのは明らか。
裁判例では、前職の会社が「懲戒解雇をした」といった内容の文書を配布したケースで、独立起業した元社員に対する名誉毀損罪が成立しています(宮崎地裁都城支部令和3年4月16日判決)。
ただし、独立起業では、引き抜き行為や競業避止義務違反に注意が必要です。
裁判例でも、懲戒解雇の後、前職と同じ清掃サービス事業を営み、解雇前に担当した顧客に営業活動をした事案で、競業避止義務違反が認められています(ダイオーズサービシーズ事件:東京地裁平成14年8月30日判決)。
独立時に問題視されがちな競業避止義務についても参考にしてください。

違法な懲戒解雇は無効となる

そもそも、懲戒解雇が違法で無効なら、その後の人生に悲観する必要はありません。
違法な懲戒解雇は、むしろ会社側に責任があるからです。
下された処分が違法ではないか、疑いがあるなら、慎重に検討してください。
違法な懲戒解雇の不利益は大きいため、その責任はしっかりと追及すべきです。
違法な懲戒解雇の典型例は次のケース。
- 就業規則に記載のない懲戒解雇
懲戒解雇をする権利そのものの記載のないケースのほか、就業規則に記載のない理由に基づく懲戒解雇も許されない - 弁明の機会が付与されない懲戒解雇
- 理由を間違えている懲戒解雇
病気で欠勤しているにもかかわらず勤怠不良として扱われた、事実無根のハラスメントを理由とするなど - 契約時の条件と異なる懲戒解雇
合意していない転勤を拒否したことを理由とする懲戒解雇など
上記のようなケースなら、懲戒解雇の撤回を求めて争っていくと共に、懲戒解雇によって働けなくなった期間分の平均賃金と遅延損害金を請求することで、「人生終了」といった最悪の事態を回避できます。
違法な解雇の争い方は、次の解説を参考にしてください。

懲戒解雇されてもあなたの人生の価値は変わらない

最後に、懲戒解雇されてしまったときに、最も大切な心構えを解説します。
それは「懲戒解雇されても、あなたの価値は変わらない」ということです。
懲戒解雇はあくまで、解雇をした会社の価値判断です。
確かに、価値を否定されたかのように感じますが、その会社での意味付けに過ぎません。
会社との関係だけが人生の全てではありません。
人は誰しも、仕事だけでなく、家族や友人など多様な人間関係のなかで生きています。
懲戒解雇があっても、その会社に勤める自分ではなくなっただけ。
他の社会的な関係における価値までは奪われません。
人間としての本来的な価値を失わないのは当然、仕事でも他社で活躍できる人材の可能性があります。
ましてや、自分自身で自尊心を傷つける必要はありません。
もちろん、問題行為を指摘されているなら、反省する態度が必要なケースもあります。
しかし、思い悩んで投げやりになるのでなく、冷静に対処していくのが好転へのポイントです。
違法な懲戒解雇ではないか、不当解雇ではないかは、必ず確認するようにしてください。
懲戒解雇を不当解雇であるとして争う方法は、次に解説します。

まとめ

今回は、懲戒解雇が人生終了だと言われる理由と、その対策を解説しました。
懲戒解雇は非常に重いペナルティのため、先の見えない恐怖で押しつぶされそうになるでしょう。
しかし、絶望する必要はありません。
「懲戒解雇になったら人生終了」というのは、適切な対策を打つ限り、真実ではありません。
懲戒解雇となっても、第二の人生を歩む人は多くいますし、逆転の好機としている人もいます。
懲戒解雇後の対処によって、その後の人生は良い方向にも悪い方向にも変わります。
むしろ懲戒解雇を、ブラック企業を立ち去れる良いきっかけにできれば、新たな人生を歩めます。
その場合、自分に不利な懲戒解雇を隠すことも、経歴詐称にはならないよう対処できます。
【解雇の種類】
【不当解雇されたときの対応】
【解雇理由ごとの対処法】
【退職勧奨への対応】
【不当解雇の相談】