突然、会社から難しい資格の取得を要求されて困った、という労働者から法律相談を受ける例があります。悪質な会社だと、資格を取得できないのを理由に、減給や降格とされるケースもあります。
個人の技能が重視される昨今、資格にまつわるトラブルが多数報告されています。資格に関するこのような嫌がらせケースは、「資格ハラスメント」と呼ばれ、社会問題化しています。ハラスメントというと、セクハラやパワハラが有名ですが、近年はマタハラやアルハラ、大学におけるアカハラなど、様々なハラスメント問題が報道され、話題になっています。
資格ハラスメントもまた、このような新しいハラスメント問題の一態様です。新しい問題ゆえに「資格ハラスメントという言葉になじみがない」という方も多いでしょう。しかし、セクハラ、パワハラ同様に、身近に潜む問題で、決して他人事ではありません。
今回は、資格ハラスメントの基礎知識と、被害にあったときの対処法を、労働問題に強い弁護士が解説します。
- 資格が重視される現代の新しいハラスメントだが、パワハラの一種
- 資格ハラスメントの背後には、退職勧奨やリストラなど、会社の真の意図が隠れている
- 資格ハラスメントにあったら、慰謝料請求、残業代請求などで対策できる
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資格ハラスメントとは
資格ハラスメントとは、会社が労働者に資格の取得を強要し、資格が取得できない場合には昇進昇給をせず、または減給、降格、退職勧奨など、このことを理由にして不利益な扱いをする「ハラスメント(嫌がらせ)」です。つまり、資格にまつわることを理由にした嫌がらせ全般を指します。「シカハラ」と略されることもあります。
資格ハラスメントは、職場の優越的な地位を利用してなされます。その多くは、会社から労働者に対する、業務命令権の一環として行われるからです。したがって、資格ハラスメントは、新しいタイプのパワハラの一種だといってよいでしょう。
資格ハラスメントをはじめとした労働問題は、弁護士に相談することで解決できます。
「労働問題に強い弁護士の選び方」の解説
資格ハラスメントの具体例
資格ハラスメントには様々なケースがあります。
現代は、なんでも「ハラスメント」と呼ばれる時代になりました。酒に関するアルハラ、タバコや臭いに関するスメハラなど、ハラスメントはあらゆる場面で起こるもの。そのため、どのようなケースが資格ハラスメントと呼ばれるのかを知るには、具体例が大切です。
ハラスメントをよく理解しなければ、違法な取扱いをされても気付かず我慢してしまうでしょう。逆に、適切な命令なのに不満を言えば、問題社員のレッテルを貼られるおそれもあります。もちろん、自分が加害者になるのを避けるためにも、ハラスメントの知識は大切です。
資格ハラスメントを具体的にイメージするため、その典型例を紹介します。
- 「個人のスキルアップ」とメリットを強調し、精神論を押し付ける
- 業務の役に立たない資格取得を命じられる
- 資格取得を求めながら、業務時間中の勉強は禁止する
- 業務に要する資格にかかる教材費、受験料が自己負担にされる
- 資格取得に必要な勉強で、残業を強いられる
- 資格が取れなかったのを理由に馬鹿にされる
- 難関資格なのに、不合格だと低評価される
- 就業規則が変更され、資格取得が昇進・昇格の条件となった
- 資格試験に不合格となったら、退職勧奨された
- 休日返上で長時間、資格の勉強をし、過労で倒れた
上記にあてはまるような嫌がらせを受けたら、資格ハラスメントを疑いましょう。また、上記はあくまで例であり、これにあてはまらなくても資格ハラスメントのこともあります。違和感はすぐに弁護士に相談する必要があり、小さな疑問のケースでは無料相談が役立ちます。
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なぜ資格ハラスメントをするの?
資格ハラスメントが違法の疑いがあるのに、会社はなぜやめないのでしょうか。資格ハラスメントが起こってしまうのには、理由があります。
会社が、資格の取得を労働者に強要する目的は、会社側のメリットにあるケースが多いです。ただし、実は、その「本音と建前」が異なることもあり、本来の目的は別にあることもあります。
リストラ目的の資格ハラスメント
「資格が取れなければ降格」「昇給昇格はないと思え」「不合格なら会社を辞めてもらう」など…。資格取得をきっかけに精神的、肉体的に追い詰め、「会社を辞めたい」という気持ちにさせる手があります。手っ取り早く人件費を削減しようという、資格ハラスメントの真の目的が見え隠れするとき、リストラ目的の資格ハラスメントの可能性があります。
表向きは「個人のスキルアップのため」「自己啓発のため」と謳っても、実際は能力の低い労働者をふるいに掛けるつもりで資格取得を強要しているケースは、決して少なくありません。
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経営悪化を理由とする資格ハラスメント
資格ハラスメントは、最近急増した新しいハラスメントです。資格ハラスメントが問題化した背景には、コスト削減と優秀な人材の獲得といった経営上の問題があります。
効率良く人材コストを削減するために、「資格強要による追い出し」という手法が活用されます。これが、経営悪化から始まる資格ハラスメントです。会社からすれば、追い詰めた結果、資格が取得できれば人材育成の手間が省けるし、資格を取得できない労働者は冷遇すれば勝手に退職してくれるので、まさに一石二鳥です。
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退職勧奨を目的とする資格ハラスメント
更に、はじめから退職勧奨を目的とした資格ハラスメントもあります。能力に見合わない資格取得を命じれば、資格をとれなかった労働者は自分を責めてしまいます。「能力がないのでは」と疑問を持ち、自主的に退職してしまう労働者もいます。このような点で、資格ハラスメントは、退職勧奨の一手段としても利用されるのです。
資格ハラスメントは違法なパワハラになる?
資格ハラスメントは、新しく問題化したハラスメントの一種。
しかし、法的にはまったく新しいものではありません。資格ハラスメントは、広い意味では、違法なパワハラの一種であり、その理由が資格取得にあるだけです。
パワハラとは?
パワハラは、職場内での優位な立場を利用して、適正な業務の範囲を超えて、精神的・肉体的な苦痛を相手に与える行為、または、相手の職場環境を悪化させる行為のことをいいます。
「資格ハラスメント」は、資格の取得を命じるパワハラです。上司から部下に対して行われますが、一般的に「パワハラ」は、部下から上司、先輩後輩などの個人的な人間関係を利用したパワハラもあります。
被害を受けた労働者が退職を余儀なくされる、うつ病になる、といった実害を伴うパワハラは、不法行為(民法709条)に該当する違法な行為だと考えられています。
「パワハラの相談先」の解説
資格ハラスメントは違法なパワハラ?
パワハラには大きく分けて6つのタイプがあります(パワハラの6類型)。
資格ハラスメントは、このうち、「過大な要求」に当たる可能性が高いです。
「過大な要求」とは、対象労働者にとっては負担が重すぎる要求をし、要求に従って課題を達成できない労働者には不利益な取り扱いをする、という嫌がらせをするタイプのパワハラです。ノウハウの分からない新人に仕事を丸投げする、残業しないと達成できないノルマを課し、達成できなければ人事評価を下げる、といった行為がこのタイプのパワハラになります。
資格ハラスメントは、対象となる労働者に取得困難な資格を要求し、資格を取得できなければ不利益な取り扱いをする点で、「過大な要求」をするタイプのパワハラに該当する可能性があります。
「不当な人事評価」の解説
「過大な要求」の判断基準
資格ハラスメントが違法なパワハラになるかどうかは、資格取得の強要が一般的に見て「過大な要求」といえるかどうかで判断されます。
資格がなければそもそも業務に付くことができないなら、「適正な業務の範囲」です。その資格取得は、必要不可欠な要求といえ「過大な要求」には当たりません。
過大性の判断要素としては、次のような事情が挙げられます。
- 資格と業務との関連性
- 資格試験の難易度
- 教材費や受験料が労働者の負担かどうか
- 勤務時間中の資格勉強をしてよいかどうか
- 休日及び勤務時間後の試験勉強を命じられているかどうか
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資格ハラスメントの対処法
次に、万が一、自分が資格ハラスメントにあったとき、どう対処してよいかを解説します。いざ資格取得を強要され、ハラスメントを受けたとき、その直後の対応を知っておいてください。
不当な要求を拒否する
「過大な要求」に該当する資格取得の要求は、違法なパワハラです。そのため、資格の取得を強要されても、要求にしたがう必要はまったくありません。
ただし、要求を拒否するにしても、会社には居続けたいというケースもあるでしょう。このような場合、資格取得が業務に必要あると考えるのであれば、残業代の請求で対応する方法が有効です。
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弁護士に法律相談する
資格取得の要求に従わなかったために減給や降格、解雇などの不利益処分を受けることもあります。このようなケースでは、労働審判や民事裁判で処分の効力を争うことができます。
そのほかにも、資格ハラスメントを原因として、何らかの損害を受けかねません。それでも労働者は、会社を訴えて、救済を受けることが可能です。
お悩みのケースが違法な資格ハラスメントにあたるかどうか、どのような救済手段を利用できるか、といった点について詳しく知りたいなら、ハラスメント問題に精通した弁護士への相談が役立ちます。相談の際は、以下の解説を参考に、できるだけ証拠を収集し、持参しましょう。
資格にまつわる労働問題への対処法
最後に、資格ハラスメントで受ける被害の種類に応じ、利用可能な救済手段について紹介します。
以上では、違法な資格ハラスメントへの対処法を解説しました。「実際にどのような救済を受けられるか」をより詳しく知る必要があります。資格ハラスメントによる被害は、労働問題としては様々な種類に分類されるからです。
労災補償の請求
資格取得のためにサービス残業や休日返上を繰り返して勉強に励む方がいます。その結果、過労で倒れ、心身に障害が残った、というケースでは、労災による対処法が最適です。
過労による脳梗塞や心筋梗塞、過酷な要求によるうつ病の発症や自殺は、最悪の結果。しかし、資格の取得を強要するようなブラックな会社だと、こんな被害も跡を絶ちません。
違法な資格ハラスメントと、発病や死亡との間に因果関係が認められれば、それは労災(業務災害)です。会社や上司に、不法行為に基づく慰謝料をはじめ、損害賠償を請求できます。労働者の任意でなく、業務命令となる資格取得の強要なら、業務による危険といえ、労災なのが明らかです。
「労災について弁護士に相談すべき理由」「労災の慰謝料の相場」の解説
残業代の請求
「過大な要求」に当たるタイプのパワハラは、労働者にサービス残業を強要しがちです。残業代がもらえなくても、資格取得のため、暗黙のうちに働き続けるのを強制しているからです。このタイプのパワハラが横行する会社が、残業代をきちんと払うとは限りません。
労働者は、労働基準法の定める法定労働時間を超えて働けば、残業代を請求できる権利があります。資格ハラスメントのケースでも、勤務時間中に資格試験の勉強をさせてもらえないため、やむを得ず就業時間後や休日に、残業をして勉強したという場合、その勉強時間が業務命令に拘束された労働時間に当たり、残業代や休日手当を請求できる可能性があります。
残業代を正しく請求するには、労働時間の考え方や、労働基準法にしたがった残業代の計算方法を知る必要がありますので、下記解説も参考にしてください。
地位や労働条件の回復
理不尽な資格取得の要求に従わず、あるいは資格を取得できなかったために、減給や降格、解雇等の不利益処分を受けた場合は、「資格ハラスメントが違法だ」と主張して、各処分の効力を争う方法が有効です。
減給処分が違法なら、減給分の未払い賃金を請求できます。降格や解雇が違法なら、地位確認請求をすることで、従来の地位や労働条件の回復が可能です。
労働審判や民事裁判等の手続が必要になりますが、被害の相談と合わせて弁護士に依頼することで、労働法についての知識・経験が必要な手続の進行をサポートしてもらうことができます。
「解雇を撤回する方法」「不当解雇の解決金の相場」の解説
まとめ
今回は、資格ハラスメントに関する基礎知識と、ハラスメント被害の対処法を解説しました。
資格ビジネスが横行しており、役に立つのか怪しい資格も乱立しています。もっともらしい資格を求められれば、「業務に必要なもの」と思い込んでしまう方もいます。明らかに過酷な要求なのに従い、疲弊してしまっている労働者は多いものです。
しかし、一見必要なものにみえても、よく確認すると不要な資格も少なくありません。悪質なブラック企業では、労働者をふるいにかけ、辞めさせるために資格取得を迫ります。違法な資格ハラスメントに従う必要はなく、資格がとれずに不利益な扱いを受けたら、法的に争うこともできます。
- 資格が重視される現代の新しいハラスメントだが、パワハラの一種
- 資格ハラスメントの背後には、退職勧奨やリストラなど、会社の真の意図が隠れている
- 資格ハラスメントにあったら、慰謝料請求、残業代請求などで対策できる
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【パワハラの基本】
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