少子高齢化、労働力人口の減少などによって、人材不足がさけばれる中、やる気のない社員であっても雇い続けておかなければならない、という中小企業も少なくないのではないでしょうか。
しかし、やる気のない同僚がいると、その分、他の社員のモチベーションが下がってしまうことも当然のことです。
同僚が仕事にやる気を見せないとき、会社にいってクビ(解雇)にしてもらうことはできないのでしょうか。同僚の立場にある労働者としては、どのように対応したら適切なのでしょうか。
やる気のない同僚にイライラしている労働者の方に向けて、その仕事の負担が重くのしかかってきてしまう際の対応について、労働問題に強い弁護士が解説します。
目次
1. やる気のない同僚のなにが問題?
ここ最近の人材不足にともない、会社では、業務時間の短縮など、人手不足への対応を余儀なくされています。
やる気のない社員であっても、「いないよりはまし。」という状況もあいまって、会社もなかなか、やる気のない社員に対して、強く注意指導をすることができず、ましてや解雇(クビ)などできない状況が続いています。
しかし、労働者の立場では、人材不足とはいえども、やる気のない同僚が会社に居続けることには、次のような問題点があります。
1.1. 他の労働者の負担が重くなる
ある労働者に、どの程度のやる気があるか、どの程度の早さで仕事をこなすことができるかはさておき、会社としての人員管理は、人数でカウントせざるを得ません。
そのため、ある労働者が、まったく仕事に対してやる気を示さないと、一緒にはたらく他の労働者の負担が、非常に重くなってしまいます。
このことは、同僚として働く労働者から、今回解説するような不満を抱かせる原因となります。
1.2. 職場の環境が悪くなる
更には、労働者にやる気がないことは、職場全体の雰囲気を非常に悪くします。
労働者として雇用している場合には、「完全歩合制」とすることは違法である以上、やる気がなくても、一定の給与を支払う必要があります。「最低賃金法」もあり、やる気がないからといって、あまりに低い給与とすることはできません。
そのため、仕事をしてもしなくても、一定の給料がもらえるとなると、どうしても仕事を頑張っている労働者のやる気までなくさせてしまうことになります。
2. まずは会社に相談する
会社が、やる気のない労働者に対する対処に、なかなか踏み切らないのも、「人員が少ない」というのが最大の要因です。
しかし、他の社員のやる気まで失わせている現状を、会社がしっかりと理解をするようになれば、会社も、職場環境の改善に踏み切ってくれる可能性もあります。
そこで、まずは会社に対して次のような点をしっかり説明し、改善を促すようにしましょう。
- やる気のない一部の社員のせいで、職場の環境が悪くなっていること。
- やる気のない一部の社員が原因で、退職者が出たり、仕事が忙しくて長時間労働となっている社員が出たりしていること。
- やる気のない社員とやる気のある社員との間の不公平感が問題となり、全体的に職場のモチベーションが下がっていること。
やる気のない同僚についての相談をしたことによって、やる気のある労働者が不利益な取り扱いを受けることは違法であり、不適切なことですので、まずは率直に相談してみるのがよいでしょう。
3. やる気のない社員を辞めさせることはできる?
明らかにやる気がなく、勤務態度の悪い同僚は、会社にも害であることが明らかです。同僚の労働者としての立場であっても、会社の利益を思うあまり、「辞めてもらいたい。」と思うこともあるのではないでしょうか。
労働者が会社に対して、やる気のない社員を解雇すべきであると進言することはできるのかどうかについて、弁護士が解説します。
3.1. 処分を決めるのは会社である
いくら勤務態度が悪く、やる気がまったく見られない社員であっても、会社の経営判断としては、いてもらったほうがよい、という場合もあります。
そのため、やる気のない社員に対して、解雇をするかどうか、その他の処分(例えば、懲戒処分、注意指導など)でとどめるのかを決める権利は、会社にあります。
自分のモチベーションが下がってしまうほどの不公平感を抱くとしても、労働者の立場では、その問題社員の処分、解雇などを決定することはできません。
3.2. 進言はしてもよい
しかし、会社が、やる気のない問題社員についての現状を、正しく理解していない可能性は否定できません。
会社の経営判断としては、「いないよりはいたほうがまし。」というのであっても、それは、その他の社員に対する非常に大きな悪影響について、全く考慮に入れていない可能性もあるからです。
したがって、やる気のない問題社員を会社が解雇せずに放置しておくことによって、職場環境にどのような悪影響があるかを会社に進言することは、積極的に行った方が適切な対応が期待できるといってよいでしょう。
3.3. やる気のない社員との人間関係に注意
やる気がない、勤務態度が悪いことが事実であったとしても、そのことを、ある同僚の労働者から会社に伝えられたことをその人が知れば、「告げ口された。」と悪感情を抱くに違いありません。
会社がその社員に、どのように伝えて注意指導、懲戒処分、解雇などの処分をするかは会社次第ですが、伝わり方によっては、他の社員からのクレームが原因であることが伝わってしまうこともあるでしょう。
「やる気のない社員を解雇してほしい。」と労働者からクレームがあがったことが知られてしまうことによって、その社員との間でトラブルに発展しないよう、やる気のない社員であろうとも、人間関係には注意しなければなりません。
4. どうしても会社が納得しなかったら?
「問題社員」といえども、解雇をするかどうかを決定するのは、会社であって、同僚の労働者ではありません。
会社の決定がないにもかかわらず、「問題社員」に対して仕事を与えなかったり、冷たくあたったり、さらには人格否定的な暴言を吐いたりしてしまえば、「パワハラ」として別の労働問題となってしまいかねませn。
したがって、会社が、問題社員の悪影響にまったく気づかない場合には、まずは自分のやるべきことを淡々とこなすのが一番でしょう。
5. まとめ
今回は、会社内にあきらかにやる気のない問題社員がいるときに、同僚の労働者としてどのような対応をしたらよいかについて、弁護士が解説しました。
人手不足の昨今といえども、やる気のない問題社員が社内にいることの悪影響は、非常に大きいと言わざるを得ません。
問題社員を解雇する権利を有する会社に、やる気のない問題社員の影響が、その人の生産性の低下だけでなく、職場環境全体におよぶものであることを気付いてもらい、早急な対処をしてもらうことが重要となります。