育休を取得後に、「そのまま復職せず退職したい」と考える方からの相談例があります。
保育園に入れない、育児と仕事の両立に不安がある、家庭の事情が変わったなど、辞める理由は様々ですが、一方で、「復帰しないで辞めてよいのか」「育児休業給付金の返還などのペナルティはないか」といった疑問が多く寄せられます。
結論として、育休後に復帰せず退職することは法的に問題ありません。ただし、育児休業給付金は職場復帰が前提とされており、離職する前提だと受給できません。知らずに進めると、不正受給となってペナルティを受けるおそれもあるため注意してください。
今回は、育休後に退職できるかという点、復帰せず退職する具体的な方法、育児休業給付金の注意点まで、労働問題に強い弁護士が解説します。
- 育休後に復帰せず退職することは違法ではなく、復帰の義務はない
- 育児休業給付金は職場復帰を前提とした制度であり、退職予定だと対象外
- 育休明けの退職は可能でも、円満に退職するためには伝え方に注意する
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育休後に復帰せず退職することはできる?

結論として、育児休業(育休)の取得後、復帰せずに退職することは可能です。
実際に、保育園に入れない、育児と仕事の両立が難しい、家庭や配偶者の状況が変わったといった理由で、復職せずに退職を選択する人は少なくありません。「育休で迷惑をかけたなら、復帰するのが当たり前」という会社もありますが、法的に復帰の義務はありません。
ただし、次章「育児後の退職と育児休業給付金の注意点」の通り、職場復帰を前提とした育児休業給付金の受給ができなくなるなどの不利益があるため、注意が必要です。
法律上は育休明けの退職が可能
労働者には、原則として自由に退職できる権利があります。
民法627条1項では、期間の定めのない雇用契約について、原則として2週間前に意思表示をすれば退職できると定められています。育休の前後でも同様で、取得したからといって復職する法的義務は生じません。あくまで育休は「休業する権利」であり、「復帰の義務」はない点が重要です。
したがって、育休の期間中や終了時に退職を申し出ること自体は、法律上問題ありません。
会社の就業規則や誓約書との関係
一方で、企業にとって、できる限り長く働いてほしいという気持ちは当然です。
就業規則や社内ルールで「育休は復職を前提とする」といった規定を置いたり、育休申請時に「必ず復職する」といった誓約書を出させたりする企業もあります。ただし、これらの書類も、あくまで制度の前提を確認し、協力を促すにすぎず、退職を禁止する効力はありません。
これらの規程類や誓約書が直ちに違法なわけではないものの、労働者の退職の自由を制限することはできません。仮に、「復帰しなければ違約金を支払う」といった内容であるときは、労働基準法16条の定める「賠償予定の禁止」に反して違法です。
ただし、実際には引き止めのトラブルが起こることもあるため、「育休後に円満退職するためのポイント」の通り、退職の伝え方に注意を要します。
「職場の男女差別の例と対応方法」の解説

育児後の退職と育児休業給付金の注意点

育休後に退職するとき、気になるのが「育児休業給付金はどうなるか」という点です。
結論として、育休取得後に退職することになっても、既に受給した給付金の返還は不要です。ただし、当初から復帰の予定がなかった場合などは不正受給とされるリスクがあります。
原則として返還は不要
育児休業給付金の要件を満たして支給される限り、育休中に事情が変わって退職に至った場合でも、退職時点までに受給した給付金を返還する必要はありません。なお、育休中に退職する場合の支給対象期間については、次のような制度改正に注意してください。
- 令和7年4月1日以後に退職した場合
退職日当日までが支給対象期間となります。 - 令和7年3月31日以前に退職した場合
退職日を含む支給単位期間の一つ前までが支給対象となります。
したがって、受給済みの分の返還は不要ですが、退職後は当然支給されないため、具体的な金額や期間については事前に確認してから退職を決断するのが安心です。
最初から退職前提であった場合は支給対象外となる
注意が必要なのが、当初から復職する意思がない(退職を前提とする)場合です。
育児休業給付金は、育休後の職場復帰を前提とした制度です。そのため、最初から退職するつもりで申請しても、そもそも支給要件を満たしません。それにもかかわらず、給付金を受給すると不正受給となり、不正のあった日から支給が停止され、受給額を全額返還しなければなりません(返還命令)。また、悪質な場合、不正受給した額の2倍までの納付が命じられ(納付命令)、合計で3倍の金額の支払いを命じられることがあります。
復帰予定と偽って申請したり、退職状態なのに在籍だけ残したり、不適切な受給に会社が協力したりといったケースは、不正受給の典型例です。一方、当初は復帰予定だったが、やむを得ない事情で退職した場合は「原則として返還は不要」の通り、不正受給とはなりません。
育休後に円満退職するためのポイント

次に、育休後の退職を円満に進めるためのポイントを解説します。
育休後に復帰せず退職すること自体は可能ですが、伝え方や進め方によっては会社との関係が悪化するおそれがあるので注意が必要です。
育休の期間を確認する
まずは、自身の育児休業(育休)の期間を確認しましょう。
育休制度は、育児介護休業法に定められた法律上の制度であり、法的な保障を下回ったり、制度が存在しなかったりする場合は違法です。法律上の育休期間は、次の通りです。
【産前産後休業】
- 産前休業
出産予定日の6週間前(多胎妊娠の場合は14週間前)から、請求により取得可能です。
- 産後休業
出産翌日から8週間は原則として就業が禁止されます(6週間経過後、医師が認めた業務への復帰は可能です)。
【育児休業】
- 原則的な期間
原則として子が1歳に達する日までの間、請求すれば育児休業を取得できます。 - 1歳6ヶ月までの延長
子が1歳に達した時点で、次のいずれかにも該当する場合は、1歳6ヶ月に達する日まで育児休業を延長することができます(①労働者本人又は配偶者が育児休業をしている場合 ②保育所に入所できない等、1歳を超えても休業が特に必要と認められる場合、③1歳6ヶ月までの育児休業をしたことがない場合) - 2歳までの再延長
子が1歳6ヶ月に達した時点で、依然として保育所に入所できない等の事情がある場合には、さらに2歳に達する日まで再延長が可能です。 - パパ・ママ育休プラスによる延長
両親が共に育児休業を取得する場合、子が1歳2ヶ月に達するまでの間で、最大1年間の育児休業を取得できる制度です。

したがって、育児休業(育休)は原則として1年、最長で2年まで取得することができます。そして、いずれの段階でも、退職すること自体は違法ではありません。
「育休が取れない場合の対処法」の解説

有給休暇を消化する
退職前に年次有給休暇が残っている場合、消化してから退職することが可能です。
育休からそのまま退職するケースでも、退職日を調整し、復帰後に有給休暇を消化してから退職する方法が考えられます。会社には時季変更権がありますが、既に退職が確定している場合、他に取得できる日が存在しないため、事実上行使が制限されます。
有給休暇は労働基準法上の権利であり、未消化のまま退職すると不利益になってしまうため、必ず退職前に確認しましょう。
「有給休暇を取得する方法」の解説

退職理由を会社に伝える
円満退職を目指す場合、その理由の伝え方が重要なポイントです。
会社としては復帰を前提に人員配置を調整している場合もあり、感情的な対立から強い引き止めに遭うこともあります。できる限り角が立たないよう、まずは「育児との両立が難しい」といったやむを得ない事情を伝えるようにしましょう。また、育休後に退職するときは、感謝の気持ちを伝え、会社への不満を前面に出さないように注意してください。
法的には退職は自由であり、詳細な理由を述べる必要はないものの、事情を説明して理解を得る方がトラブルの防止につながります。
「会社の辞め方」の解説

育休後に退職する際の注意点

次に、育休後に退職する労働者が注意しておくべきポイントを解説します。
育休後の退職では失業保険の延長が可能
育休後に退職した場合でも、要件を満たせば失業保険を受給できます。
ただし、失業保険は、労働の意思と能力があることが要件なので、育児や家事に専念する予定で、すぐには就職できない状態である場合は受給できません。妊娠、出産、育児などの理由で引き続き30日以上職業に就くことができない場合には、受給資格者の申出により、本来1年である受給期間を最大4年間まで延長することができます。
したがって、育休後の退職では、育児が落ち着いて再就職が可能な状態になってから失業保険を受給できるよう、先送りにできます。
「失業保険をもらう条件と手続き」の解説

保育園の利用条件を確認する
育児休業中に保育園への入園が内定していた場合、育休明けの復帰が前提とされることがあります。この場合、在職証明書などが示せないと、内定が取り消されたり退園の対象となったりするおそれがあるため、退職を選ぶ場合は、その後の保育の計画を立てておく必要があります。
育休を理由とした退職強要は違法
育児休業は法的な権利であるため、申請や取得を理由とした不利益な取扱いは禁止されます。
例えば、育休明けに、減給や降格をされたり、解雇されたり、「育休を取ったから辞めてほしい」というように退職を強要されたりするケースが見られますが、いずれも違法な扱いであり、会社の責任を追及することができます。
「退職強要の対処法」の解説

育休後の退職に関するよくある質問
最後に、育休後の退職に関するよくある質問に回答しておきます。
育休後の退職は「ずるい」「もらい逃げ」と言われる?
育休後の退職を「ずるい」「もらい逃げ」と評価するのは誤りです。
育児休業(育休)は、育児介護休業法上の制度であり、要件を満たせば取得できます。また、育児休業給付金は、雇用保険の被保険者として当然の権利です。したがって、決して「ずるい」わけではなく、正当な権利の行使です。
ただし、育児休業給付金は職場復帰を前提とした支援なので、当初から退職前提であれば受け取れません。また、育児休業中に退職を決断した場合、伝え方が不適切だと、「もらい逃げ」というネガティブな印象を抱かれかねません。このことを理解し、退職を伝えるときは誠実な態度を心掛けるべきです。
育休中に転職活動してもよい?
育休中の転職活動も直ちに違法とはなりませんが、注意点があります。
まず、転職を前提として積極的に活動していると、復帰を前提としている育児休業給付金は受け取ることができないおそれがあります。また、育児休業は「育児」を目的とするものであるため、就業規則に違反して懲戒処分の対象とされるおそれがあります。
一方で、労働者には職業選択の自由があり、育休中でなくても転職活動は自由に行うことができるため、過度に制限することは違法となる可能性があります。
【まとめ】育休後の退職について

今回は、育休後に退職することについて、注意点とともに解説しました。
育休後に復帰せずに退職することも、労働者の自由であり、違法にはなりません。ただし、雇用保険の育児休業給付金は本来、職場復帰を前提としているため、育休開始の当初から離職することが決まっている場合、給付の対象外となります。当初から復帰の意思がなかったと判断される場合、不正受給とみなされるリスクもあるため慎重に対応しなければなりません。
育休後すぐに辞めることで周囲から「ずるい」という印象を抱かれると、ハラスメントの対象とされるおそれがあるため、円満に退職するための伝え方にも注意が必要です。
育休と退職のタイミングでは、育児と今後のキャリアの両立を見据え、納得のいく決断をするためにも、ぜひ一度弁護士に相談してください。
- 育休後に復帰せず退職することは違法ではなく、復帰の義務はない
- 育児休業給付金は職場復帰を前提とした制度であり、退職予定だと対象外
- 育休明けの退職は可能でも、円満に退職するためには伝え方に注意する
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