妊娠を理由に解雇することは法律で厳しく禁止され、不当解雇となります。
妊娠中の女性労働者に対する解雇は、労働基準法と男女雇用機会均等法で制限され、具体的には、産前産後休業期間とその後30日間の解雇、妊娠・出産等を理由とする不利益な扱いが禁止され、また、妊娠中と出産後1年以内の解雇については、会社が妊娠などを理由とするものでないことを証明しなければならないとするのが法律のルールです。
「妊娠したなら辞めてほしい」「うちでは続けられない」といった対応を受け、納得できないまま退職を余儀なくされるケースは少なくありません。しかし、妊娠を理由とする解雇は不当解雇として争うことが可能なので、泣き寝入りしてはいけません。
今回は、妊娠を理由に解雇された場合にどのように対処すべきか、会社をクビにされた妊婦が不当解雇を争う方法について、労働問題に強い弁護士が解説します。
- 妊娠を理由とした解雇は法律で厳しく禁止され、不当解雇として違法・無効
- 労働基準法、男女雇用機会均等法で、妊産婦の保護が定められている
- 妊娠を理由とされた疑いがあるとき、解雇理由を確認して証拠を集める
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妊娠を理由に解雇されたら違法

結論として、妊娠を理由に解雇されたら、不当解雇として違法・無効となります。
妊娠や出産は、個人の自由な判断に任せられるべきであり、これによって職場で不利な扱いを受けるのは不適切です。そのため、妊娠・出産と解雇の関係について、労働基準法と男女雇用機会均等法に厳しい制限が定められています。
産前産後休業期間とその後30日間の解雇制限(労働基準法19条)
労働基準法19条は、産前産後休業期間とその後30日間の解雇を制限しています。
したがって、この期間中はそもそも、解雇すること自体が一律に禁止されています。産前産後休業は、産前6週間(多胎妊娠の場合は14週間)、産後8週間とされます(労働基準法65条)。この保護は、正社員に限らず、契約社員やアルバイト、パートなどの非正規でも同様です。これに違反する解雇は違法・無効であるとともに、「6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金」という刑事罰の対象とされます(労働基準法119条)。
なお、制限期間中に解雇そのものを行うことはできませんが、解雇予告を行うことは可能であるとされています。
「解雇制限」の解説

妊娠等を理由とする不利益取扱いの禁止(均等法9条3項)
男女雇用機会均等法9条3項は、妊娠等を理由とした不利益な取扱いを禁止しています。
具体的には、女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、産前産後休業を請求または取得したこと、その他の妊娠・出産に関する事由(軽易業務への転換請求、母性健康管理措置の申出、妊娠に起因する能率低下等)を理由に、解雇その他の不利益な取扱いをすることを禁じています。禁止される不利益には、解雇のほかに、減給や降格、担当業務の変更なども含まれます。
判例(広島中央保健生協事件:最高裁平成26年10月23日判決)は、この規定を均等法の目的を実現するための強行規定であるとされており、これに違反する措置は違法・無効となります。
また、不利益な取扱いが妊娠・出産等の事由を「契機として」行われた場合、原則として当該事由を「理由として」なされたものと解釈され、厚生労働省の指針(Q&A)によれば、妊娠・出産等の事由終了から1年以内の不利益取扱いは、この「契機として」いるものと判断されます。
妊娠中・出産後1年以内の解雇に関する特則(均等法9条4項)
妊娠中と出産後1年以内の解雇は、解雇理由の証明責任(立証責任)が転換されています。
男女雇用機会均等法9条4項は、妊娠中と出産後1年を経過しない女性労働者に対してなされた解雇は無効であると規定しています。ただし、事業主(会社)がその解雇が妊娠・出産等の事由を理由とするものではないことを証明した場合、無効とはなりません。
裁判例(社会福祉法人緑友会:東京地裁令和2年3月4日判決)では、単に妊娠等を理由としないことを主張するだけでは足りず、それと無関係な「客観的に合理的な理由」の主張・立証が必要とされています。つまり、妊娠以外の解雇理由は、形式的なものでなく、実質を伴う具体的なものでなければなりません。
「職場の男女差別の例」の解説

解雇権濫用法理(労働契約法16条)
最後に、妊娠中の解雇についても解雇権濫用法理が適用されます。
そのため、仮に妊娠・出産を理由とした解雇ではないことを会社が証明できたとしても、その解雇に「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」が認められない場合は、不当解雇として違法・無効となります(労働契約法16条)。

「不当解雇に強い弁護士への相談方法」の解説

妊娠を理由に解雇された場合の対処法

次に、妊娠を理由に解雇された場合の対処法について解説します。
前章の通り、妊娠を理由とした解雇や、近接した時期における解雇は、不当解雇として違法・無効となる可能性が高いため、会社と争う方法を知っておきましょう。
解雇理由を確認する
最初に、会社に対して解雇理由を確認しておきましょう。
妊娠・出産などを理由とする解雇は不当ですが、このような問題のある解雇だと真正面から認める会社はないでしょう。しかし、解雇理由を詳細に確認することで「妊娠以外に思い当たる理由がない」ことを示せれば、翻って「妊娠が理由である」と証明することができます。
労働基準法22条により、労働者が求める場合には、会社は解雇の理由を書面(解雇理由証明書)で通知する義務を負います。
妊娠による解雇であることの証拠を集める
次に、妊娠による解雇であることを示す証拠を集めてください。
会社は妊娠以外の解雇理由を説明するのが通常ですが、妊娠が解雇理由に影響していないか、「妊娠がなければ解雇されなかった」と言えないかなどの点で、因果関係を慎重に見極めてください。解雇のタイミングが妊娠の報告や産休・育休の申出直後であることからも推認することが可能です。
したがって、以下のような証拠を集めておくと役に立ちます。
- 上司からの注意指導の履歴
- 会社とのやり取りのメールやチャット、録音など
- 人事評価の記録の推移
- タイムカードや勤怠データ
会社の説明の一貫性も重要で、妊娠を報告した途端に、これまで全く指摘されなかった能力不足やミスを問題視されるといった不自然さは、妊娠を理由とした解雇を疑わせる事情となります。
「不当解雇の証拠」の解説

妊娠以外の解雇理由について反論する
会社が妊娠以外の解雇理由を指摘する場合は、それに対する反論もしておきましょう。
例えば、「妊娠以前から勤務態度が悪かった」といった指摘を突然受けるケースです。前述「妊娠を理由に解雇されたら違法」の通り、男女雇用機会均等法9条3項・4項と厚生労働省の指針により、妊娠・出産後1年以内の解雇理由の立証について特別な扱いがされています。
ただ、男女雇用機会均等法9条4項により、会社側が「妊娠を理由とするものではないこと」を証明しない限り解雇が無効とされる場合でも、できる限り有利な解決を勝ち取るには、労働者側でも「妊娠以外に告げられた解雇理由が正当でないこと」を説明しておくのが有益です。
「解雇が無効になる具体例と対応方法」の解説

弁護士に相談する
妊娠を不当解雇として争うために、早い段階で弁護士に相談しておきましょう。
弁護士は、労働問題に関する相談を受け、法的なアドバイスをすることが可能です。妊娠を理由に不当解雇された場合、会社と交渉したり、労働審判や訴訟を遂行したりすることができます。納得いく解決のためにも、会社の不当な扱いに悩む場合、まずは無料相談を活用しましょう。
特に、妊娠中で出産予定日が近い場合、育児の負担が大きい場合などでは、一人で不当解雇を争うのは現実的に難しい場合も多く、弁護士のサポートを受けるのが有益です。

「労働問題に強い弁護士の選び方」の解説

労働基準監督署に申告する
労働基準監督署は、労働基準法などの法令違反を監督する行政機関です。
一般的な解雇は、労働基準法違反ではなく民事事件であるため、労働基準監督署が動かない傾向にあります。しかし、前述の通り、産前産後休業中とその後30日間の解雇は労働基準法違反となり、「6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金」という刑事罰の対象となるため、労働基準監督署に申告すれば、調査や是正勧告が行われる可能性があります。
したがって、弁護士に相談するとともに、労働基準監督署へ申告しておくことも、妊娠を理由とした解雇のトラブルでは有効な対処法となります。
「労働基準監督署への通報」の解説

解雇の撤回を求める
証拠の収集が済んだら、会社に対し、解雇の撤回を要求しましょう。
妊娠を理由とした解雇は法律で厳しく制限されるため、事実と証拠に基づいて冷静に伝えれば、会社にも大きなリスクがあると理解させることができます。会社への通知は、内容証明を利用することで記録に残しながら進めるのがおすすめです。

内容証明にて争う意思を伝えたら、証拠を示したり弁護士のサポートを受けたりしながら、会社との交渉を進めましょう。会社が、妊娠を理由とした解雇の違法性を理解し、法的手続きに発展した場合のリスクを感じれば、解雇を撤回してもらえることが期待できます。
交渉で合意した場合は、その内容を合意書に残すことも大切です。解雇を撤回させて復職する方法のほか、合意退職とする代わりに解決金を受け取る「金銭解決」を求めることもできます。
「解雇を撤回させる方法」「不当解雇の解決金の相場」の解説


慰謝料を請求する
労働基準法19条、男女雇用機会均等法9条に違反する解雇は、倫理・道徳に反した男女差別であり、公序良俗に反して違法性が強いとされ、不法行為(民法709条)と判断される傾向にあります。
そのため、労働契約上の地位確認や未払賃金(バックペイ)だけでなく、精神的苦痛に対する慰謝料や、解雇されなければ受給できたはずの出産育児一時金・育児休業給付金相当額の損害賠償が認められた事例も存在します(社会福祉法人緑友会:東京地裁令和2年3月4日判決など)。
「不当解雇の慰謝料」の解説

労働審判や訴訟で争う
交渉で解決することができない場合は、労働審判や訴訟といった裁判手続きに進みます。
労働審判は、簡易、迅速かつ柔軟に解決することを目的とした労働者保護のための手続きであり、不当解雇の争いを解決するのに適しています。ただし、話し合いによる解決(調停)を重視するため、基本的には、解決金を受領することで退職する「金銭解決」となるケースが多いです。
したがって、解雇撤回と復職を求めて徹底的に争いたい場合は、最初から訴訟による方法を選択する方が適切なケースもあります。
「労働問題の種類と解決策」の解説

妊娠を理由に解雇された労働者側の注意点

次に、妊娠を理由とした解雇を争う労働者が注意すべきポイントを解説します。
妊娠を理由とした嫌がらせはマタハラになる
妊娠を理由にした解雇が違法であるだけでなく、その他の不利益な扱いも許されません。
解雇まで至らなくても、妊娠や出産といった女性特有のライフイベントを理由に、減給や降格、異動、配置転換、退職勧奨といった不利益な取扱いをすることも許されません。妊娠を理由として職場環境を悪化させる行為全般が、違法なマタハラに該当し、慰謝料請求の対象となります。
男女雇用機会均等法11条の3は「職場における妊娠、出産等に関する言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置等」を定めます。これは、妊娠中や出産後の女性が働きやすい環境を整えるために、企業に一定の措置を講じることを義務付けるものです。妊娠や出産に配慮のない言動はマタハラとして社会問題化しており、安全配慮義務の観点から、企業は防止義務を負います。
「マタハラの慰謝料の相場」の解説

妊娠を理由とする解雇は会社都合退職となる
妊娠を理由に解雇された場合、それによる離職は、失業保険でも会社都合退職扱いとなります。
失業保険では、解雇は原則として「特定受給資格者」として会社都合退職とされます。労働者の責めに帰すべき重大な理由のある解雇(重責解雇)に限って自己都合退職扱いとなるものの、そもそも妊娠を理由とする解雇が制限されるため、重責解雇となることは考え難いです。
会社都合退職であれば、7日間の待機期間の経過後、給付制限なくすぐに失業保険を受給することができます。ただし、就労の意思と能力が要件となるため、妊娠や出産によって働くことができない場合、少なくとも当面の間は、失業保険を受給できないおそれがあります。
「失業保険の手続きの流れと条件」の解説

妊娠を理由とした退職勧奨に応じる必要はない
解雇ではなく、会社から自主的な退職を促される退職勧奨を受けるケースもあります。
退職勧奨そのものは直ちに違法とはなるわけではないものの、妊娠や出産を理由として退職を迫ることは男女雇用機会均等法に禁止された不利益な取扱いとなります。前述の通り、妊娠・出産から1年以内の不利益な取扱いは、妊娠や出産を契機としたものと判断されます。
しつこく退職を求められても、労働者に応じる義務はありません。納得がいかない場合は、決して退職届にサインせず、退職の合意をきっぱりと拒否することが重要です。
育休中の解雇も無効の可能性が高い
妊娠を理由とした解雇の違法性について解説しましたが、その後の育児への配慮も必要です。
そのため、育児休業中の解雇についても違法となる可能性が高いです。育児介護休業法10条は、育児休業を取得したことを理由とする不利益な扱いを禁止しています。また、育児休業を取得した労働者は、育休終了後は元の職務に復帰するのが基本であり、会社は復職を妨げてはなりません。
そして、前述の通り、労働契約法16条によって解雇には「客観的に合理的な理由」が必要とされるところ、育休取得を理由とするのは合理的でなく、不当解雇であることが明らかです。
「育休から復帰後の退職」の解説

妊娠中の女性労働者が受けられる法律上の保護

最後に、妊娠中に受けることのできる法律上の保護について解説します。
妊娠を理由とした解雇が違法であるだけでなく、妊娠中の女性労働者は法律によって様々な保護を受けられます。会社には、クビを宣告しないだけでなく、適切な配慮が義務付けられます。
軽易業務への転換義務
妊娠中の女性労働者が請求した場合、軽易な業務へ転換すべきことが使用者(会社)に義務付けられています(労働基準法65条3項)。「軽易な業務」には、職種や業務内容の変更だけでなく、早番から遅番へといった労働時間帯の変更も含まれます。
会社が新たに軽易な業務を作る義務まではないとされますが、配置可能な業務へ調整する努力は必要であり、違反した場合は「6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金」という刑事罰の対象となります(労働基準法119条)。
危険有害業務の就業制限
労働基準法では、母性保護の観点から妊産婦等の就業制限が定められています。
具体的には、妊産婦(妊娠中および産後1年を経過しない女性)に、重量物を取り扱う業務、有害ガスを発散する場所における業務、その他妊娠、出産、哺育等に有害な業務をさせることが禁止されます(労働基準法64条の3)また、妊娠中の女性について坑内労働が禁止され、産後1年を経過しない女性が申し出た場合も同様とされています(労働基準法64条の2)。
【まとめ】妊娠を理由とする解雇

今回は、妊娠した女性労働者が、突然解雇を通告されたときの対応を解説しました。
妊娠を理由とする解雇は、原則として法律で禁止されるため、不当解雇として違法・無効となります。「妊娠したから辞めてほしい」と明示的に伝えられた場合はもちろん、形式上は自主退職とされても、辞めざるを得ず、実質的には退職を強要されたケースも、争うことが可能です。
一方で、全てのケースが違法となるわけではなく、産前産後休業中とその後30日間を除けば、妊娠などを理由とするものではないことを会社が具体的に証明すれば、解雇は有効となります。合理的な理由があるかどうかや、妊娠との関連性が重要なポイントとなるため、解雇の経緯や証拠を整理して、争うべきかどうか、冷静に判断しなければなりません。
万が一、妊娠を理由に不利益な扱いを受けた場合、早い段階で証拠を確保し、労働審判や訴訟といった裁判手続きで争うことを検討するため、弁護士に相談してください。
- 妊娠を理由とした解雇は法律で厳しく禁止され、不当解雇として違法・無効
- 労働基準法、男女雇用機会均等法で、妊産婦の保護が定められている
- 妊娠を理由とされた疑いがあるとき、解雇理由を確認して証拠を集める
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