時短勤務でも残業があると、結局フルタイムに近い働き方になることがあります。
育児や介護と両立するために短時間勤務の制度を利用していると、「残業は違法ではないか」という疑問を抱く方も多いのではないでしょうか。
実際は、育児介護休業法の定める時短勤務(育児・介護を理由に所定労働時間を原則6時間に短縮する制度)でも、残業が一切できないわけではありません。ただし、育児や介護の状況によって法的に制限されるほか、残業時間や残業代の計算方法に注意を要します。企業側が制度をよく理解するとともに、労働者はどのような場合に残業を断れるのかを知る必要があります。
今回は、時短勤務と残業の関係について、違法となるケース・ならないケースの違い、残業時間の考え方や残業代の計算方法まで、労働問題に強い弁護士が解説します。
- 時短勤務でも残業は違法ではないが、残業命令には36協定や契約上の根拠が必要
- 育児介護休業法の要件を満たすと、所定外・時間外・深夜業の制限がある
- 時短勤務の残業では、所定(6時間)と法定(8時間)の違いに注意する
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時短勤務でも残業は違法ではない?

はじめに、時短勤務なのに残業があることは違法なのかについて解説します。
時短勤務(育児短時間勤務制度)は、育児介護休業法に基づいて所定労働時間を原則6時間に制限する制度です。想定外に残業が長くなると育児や介護の支障となりかねませんが、短時間勤務中の労働者であっても、残業を命じること自体を禁止する法律の規定はありません。
時短勤務(育児短時間勤務制度)とは
前提として、時短勤務(育児短時間勤務制度)の内容を解説しておきます。
時短勤務とは、育児や介護と仕事を両立するために、労働者の申出により、1日の所定労働時間を原則6時間とする措置のことを指します。育児介護休業法23条に基づき、制度の導入は事業主(会社)の義務とされます。この制度の趣旨は、3歳までの時期の子の養育には、特に手がかかるため、保育所の送り迎えなどの時間を確保することが雇用継続のために重要であるという点にあります。
具体的な制度の内容や要件は、次の通りです。
対象となる労働者の要件
- 3歳に満たない子を養育していること
- 育児休業中ではないこと(休業後は可能)
- 日々雇い入れられる労働者ではないこと
- 1日の所定労働時間が6時間を超えていること
適用除外と代替措置
労使協定を締結した場合、特定の労働者については時短勤務の対象から除外できます。ただし、業務上の困難を理由に対象外とした労働者に対しては、代替措置が必要です。
【労使協定で除外できる労働者】
- 雇用期間が1年未満の労働者
- 1週間の所定労働日数が2日以下である労働者
- 業務の性質や実施体制に照らして所定労働時間の短縮措置を講ずることが困難な業務に従事している労働者
【代替措置の義務】
- 育児休業に関する制度に準ずる措置
- フレックスタイム制
- 始業・終業時刻の繰上げ・繰下げ(時差出勤)
- 託児施設の設置運営またはこれに準ずる便宜の供与
- テレワーク(在宅勤務等)の措置
時短勤務でも残業させること自体は違法ではない
結論として、時短勤務でも残業させること自体は違法ではありません。
時短勤務(育児短時間勤務制度)はあくまで、所定労働時間を6時間に短縮するという制度であり、その前後の残業については規制していません。したがって、時短勤務中でも残業を命じることが可能です。ただし、一般的な残業命令の根拠として、以下の点を守る必要があります。
- 36協定を締結し、労働基準監督署に届け出ること
- 残業命令について就業規則や雇用契約書に根拠があること
- 適正な残業代を支払うこと
もっとも、一律禁止ではないものの、育児をしていることへの配慮が必要であり、「毎日残業がある」「長時間労働が常態化している」といった扱いは不適切です。また、通常の労働者と同じく、上記の要件を満たさない場合(36協定がない、契約上の根拠がない、残業代が未払いであるなど)、残業命令は違法であり、拒否することが可能です。
加えて、時短勤務の労働者を保護するために、次章「時短勤務者に対する残業制限の内容」のように法律上の残業制限があります。
「違法な残業の断り方」の解説

時短勤務者に対する残業制限の内容

次に、時短勤務(育児短時間勤務制度)の労働者に対する残業制限について解説します。
前章の通り、残業が原則禁止ではないものの、育児介護休業法では、時短勤務中をはじめとした育児を行う一定の労働者の請求により、残業が制限・免除される制度が設けられています。いずれも、時短勤務と併用できますが、要件を満たす限り、時短勤務者でなくても利用可能です。
次の3つの残業免除が認められており、例外的に事業主が拒否できる場合があります。
所定外労働の制限(残業免除)
3歳に満たない子を養育する労働者が請求した場合、事業主(会社)は原則として、所定労働時間を超えて労働させることはできません(育児介護休業法16条の8)。
時間外労働の制限
小学校就学の始期に達するまでの子を養育する労働者が請求した場合、月24時間、年150時間を超える法定時間外労働をさせることはできません(育児介護休業法17条)。
深夜業の制限
小学校就学の始期に達するまでの子を養育する労働者が請求した場合、深夜労働(午後10時から午前5時まで)を制限する義務があります。
事業主が残業制限を拒否できる例外
以上の残業の制限には、以下の2つの例外があります。
事業の正常な運営を妨げる場合
事業主(会社)は、事業の正常な運営を妨げる場合、制限の請求を拒むことができます。ただし、その判断は慎重に行う必要があり、代替要員の確保など、十分な努力を尽くしてもなお事業運営が困難な状況でなければならず、単なる業務上の必要性や繁忙期であることだけでは認められません。
労使協定を締結した場合
一定の場合には、労使協定を締結することで、制限の対象外とすることができます。労使協定で除外できるのは、次の労働者です。
【所定外・時間外の制限の除外対象】
- 雇用期間が1年未満の労働者
- 1週間の所定労働日数が2日以下である労働者
- 日々雇い入れられる労働者
- 配偶者が専業主婦(主夫)や育児休業中である労働者
【深夜業の制限の除外対象】
- 雇用期間が1年未満の労働者
- 1週間の所定労働日数が2日以下である労働者
- 日々雇い入れられる労働者
- 所定労働時間の全部が深夜にある労働者
- 深夜に保育または介護のできるなどの条件を満たす16歳以上の同居家族のいる労働者
「残業代請求に強い弁護士への無料相談」の解説

時短勤務者はどこから残業時間になる?

では、時短勤務(育児短時間勤務制度)では、どこから残業になるでしょうか。
原則的な労働時間制の場合、法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超える時間を残業として扱うのが基本ですが、時短勤務の場合には所定労働時間が6時間となるため、どこからを残業と扱うかが問題となります。
通常の労働時間と時短勤務の違い
まず、「通常の労働時間」と「時短勤務の労働時間」の違いを理解してください。
原則的な労働時間制では、法定労働時間(1日8時間・週40時間)が上限とされ、これを超えると時間外労働(残業)となります。フルタイムの正社員は、1日8時間勤務の人が多いでしょう。一方、時短勤務の場合、所定労働時間は原則6時間に短縮されます。「所定労働時間」とは、法定労働時間の範囲内で労使の合意によって定める、実際に働く時間を言います。
法定時間外残業と所定時間外残業の区別
時短勤務の残業時間がどのようなものか考えるにあたり、次の2つの区別が大切です。
- 法定時間外残業
法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超える労働のことです。労働基準法により、通常の1.25倍(25%割増)の割増賃金の支払いが義務付けられています。 - 所定時間外残業(法定時間内残業)
労働契約で定めた時間(所定労働時間)を超える労働のことです。所定労働時間を超えても、法定労働時間を超えなければ割増賃金の支払が義務付けられず、どのような賃金を支払うか(割増賃金か通常の賃金か)は労働契約で定めることができます。

一般の正社員でも、例えば1日7時間30分勤務とすれば、所定時間外残業(法定時間内残業)が生じます。これに対して時短勤務者は、所定労働時間が8時間未満であることが通常なので、残業をすれば、自ずと所定時間外残業(法定時間内残業)が発生することとなります。
この場合、その所定時間外残業(法定時間内残業)に対して、25%割増が必要となるのか、それとも通常の賃金でよいのかは、勤務先の就業規則や労働契約の定めに従います。
「労働時間の定義」の解説

時短勤務者の残業代の計算方法
次に、時短勤務(育児短時間勤務制度)の残業代の計算方法について解説します。
時短勤務であっても、残業代の計算式は変わらず、「残業代の計算方法」に基づいて「基礎単価 × 割増率 × 残業時間」として算出します。

時短勤務に特有の計算方法の注意点
前章「時短勤務者はどこから残業時間になる?」のどの時間に残業したかによって計算方法が異なりますが、時短勤務の場合、この残業代の考え方が少し複雑になり、「所定労働時間(原則6時間)」と「法定労働時間(1日8時間)」で分けて考える必要があります。
- 所定労働時間を超えて8時間以内の労働
会社が定めた勤務時間(例:6時間)を超えるため「残業」ではありますが、法定労働時間内に収まっています。この部分については、就業規則や労働契約に定められた扱いに従いますが、割増なしの通常賃金で支払われることが多いです。 - 1日8時間を超えた労働
法定労働時間を超えるため、法律上の時間外労働となり、労働基準法に基づいて25%以上の割増賃金の支払いが義務付けられています。 - 深夜の労働(午後10時〜翌午前5時)
時短勤務であっても、深夜に労働した場合には25%以上の割増賃金(深夜かつ残業であれば50%以上)の支払いが義務付けられています。
時短勤務の残業代計算の具体例
時短勤務の残業代について、具体例で解説します。
基本給が月25万円、所定労働時間が1日6時間、年間休日が120日という例で解説します。
月平均所定労働時間は122.5時間(= (365日-120日)×6時間÷12ヶ月)となり、残業代の基礎賃金25万円をこれで割り、1時間あたりの基礎単価は2,041円となります。
所定時間外労働(法定時間内残業)が10時間、法定時間外残業が5時間のケースだと、残業代計算の具体例は、次の通りです。
- 所定時間外労働(法定時間内残業)
2,041円 × 10時間 = 2万0,410円 - 法定時間外労働
2,041円 × 1.25 × 5時間= 1万2756円 - 残業代の合計
3万3,166円(= 2万0,410円 + 1万2,756円)
なお、時短勤務に変更した際、今後の残業が予定されないことから固定残業代(みなし残業)などの費目がカットされることがありますが、その場合、残業が生じた際の残業代が未払いとなる可能性が高いため、注意が必要です。
時短勤務なのに長時間残業させられる場合の対処法

では、時短勤務なのに長時間の残業をさせられるとき、どうしたらよいでしょうか。
残業は可能だとしても、時短勤務であり、育児をしていることへの配慮を欠く場合、違法の可能性が高いと考えて対処すべきです。時短勤務である場合、育児に悪影響が及ぶような残業は、制限や免除を求めたり、拒否したりするのが原則となります。
違法な残業命令は拒否する
時短勤務なのに長時間の残業をさせられるのは違法であり、拒否することができます。
一定の残業を命じられるものの、育児や介護への配慮が必要です。特に「時短勤務者に対する残業制限の内容」の残業制限の請求が無視されている場合、違法性は強いです。これらの制度は、事業主(会社)に義務付けられ、労働者が請求すれば、会社の同意や承諾は必要ありません。
時短勤務なのに毎日のように長時間の残業を命じられると、結果的にフルタイムと変わらない働き方になってしまいます。同制度の趣旨に反し、残業命令が権利濫用となる可能性もあります。
会社に配慮を求める
会社には、労働者の健康と安全に配慮する義務(安全配慮義務)があり、育児や介護を行う労働者には、その事情も踏まえた配慮が必要となります。残業命令が形式上は適法に行われていても、実態として過度な負担になっている場合、同義務の違反として違法となります。家庭と仕事の両立が、労働者の心身の健康を害しないよう、会社は十分に配慮しなければなりません。
残業代を請求する
時短勤務でも、残業をしたのであれば残業代を請求できます。
十分な配慮なく長時間の残業を強いてくる会社では、残業代が未払いとなっていることがあります。サービス残業を強制されることは、労働者にとって不利益しかありません。「安く働かせよう」という不当な動機のある会社では、残業代を請求することで残業が抑制できることもあります。
「残業代の請求書の書き方」の解説

弁護士に相談する
最後に、不当な扱いが止まらない場合、速やかに弁護士に相談してください。
弁護士に依頼すれば、時短勤務に配慮するよう、内容証明で警告書を送り、強く要求することができます。合わせて、残業代やハラスメントの慰謝料といった金銭を請求することで、会社からの不当な扱いを抑止する効果が期待できます。
時短勤務(育児短時間勤務)や残業制限の利用には、複雑な要件が定められていて、労働者一人では「違法かどうか」「どう対処すればよいか」が理解できないことも少なくありません。弁護士に法的なアドバイスを求めることで、育児と仕事の両方を守ることが重要です。
「労働問題に強い弁護士の選び方」の解説

時短勤務と残業に関するよくある質問
最後に、時短勤務と残業に関するよくある質問に回答しておきます。
時短勤務なのに毎日残業は違法?
時短勤務中でも残業は可能ですが、常態化すると違法の可能性があります。
時短勤務者には、育児に対する配慮が必要であり、連日のように残業を命じることは不適切と考えられます。また、労働者は「時短勤務者に対する残業制限の内容」で解説した所定外労働の制限(残業免除)、時間外労働の制限などにより、残業を減らす(もしくは、なくす)ように請求することができます。
さらに、育児などの家庭の事情を考慮せずに長時間労働を命じることは、労働者の健康と安全に配慮する義務(安全配慮義務)に違反するおそれもあります。
時短勤務中に残業を断ったら不利益扱いされる?
時短勤務(育児短時間勤務制度)の利用や残業制限の請求を理由として不利益な取扱いをすることは、育児介護休業法で厳格に禁止されています。
具体的には、減給や降格、解雇、人事考課や賞与査定における低評価、不利益な配置転換といったことは許されません。裁判例でも、時短勤務を希望する者に対して「パートになるしかない」と契約変更を強要したケースで、違法であると判断されています(フーズシステム事件:東京地裁平成30年7月5日判決)。
妊娠や出産、育児を理由とした嫌がらせは、違法なマタハラとして社会問題にもなっており、会社に対して慰謝料の請求が可能です。
「マタハラの慰謝料」の解説

アルバイトやパートでも時短勤務を利用できる?
時短勤務(育児短時間勤務制度)や残業制限は、雇用形態を問わず適用されます。
したがって、正社員だけでなく、アルバイトやパート、契約社員でも、3歳未満の子を養育するなどの要件を満たせば利用可能です。育児をしていることを理由に雇い止めをしたり契約更新の上限を設定したりすることも許されません。
ただし、日々雇用される者や、労使協定による除外(1年未満や週2日以下の労働者など)については、例外的に対象外とされます。
管理職(管理監督者)扱いだとどうなる?
労働基準法41条2号の「管理監督者」に該当する場合、事業主(会社)には時短勤務(育児短時間勤務制度)を講じる義務がありません。ただし、仕事と子育ての両立支援の観点から、管理監督者に対しても準じた制度の導入が望ましいとされています。
なお、会社から管理職として扱われていても、その実態が管理監督者の要件を満たさない場合、時短勤務の措置を講じる義務があります。
「管理監督者と管理職の違い」の解説

【まとめ】時短勤務中の残業の違法性

今回は、時短勤務と残業の関係と、その違法性について解説しました。
時短勤務でも、直ちに残業が違法なわけではありません。ただし、育児や介護に配慮すべき制度を利用しているのに、残業が多すぎるのは不適切です。法律上の制限がある上に、労働者の安全と健康に配慮する義務(安全配慮義務)を負うため、自由に残業を命じられるわけではありません。
残業が許される場合でも、時短勤務は原則として所定労働時間が6時間に制限されるため、残業時間の考え方として「所定労働時間」と「法定労働時間」の区別が重要となります。どちらに該当するかで、その時間の働きに対する残業代の計算方法が変わるからです。
時短勤務は、本来、仕事と家庭の両立を支えるための制度であり、過度な残業を求められた場合、違法の可能性があります。適切な働き方を守るため、ぜひ弁護士に相談してください。
- 時短勤務でも残業は違法ではないが、残業命令には36協定や契約上の根拠が必要
- 育児介護休業法の要件を満たすと、所定外・時間外・深夜業の制限がある
- 時短勤務の残業では、所定(6時間)と法定(8時間)の違いに注意する
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