有給休暇を取得するのは、労働基準法に定められた権利です。
忙しいと、有給休暇が取れないのが当たり前になってしまっている方もいます。
ブラック企業だと、さまざまな理由で、有給休暇を取らせないようにしてきます。
企業の小規模なほど、労働者が1人いないだけで仕事が回らないこともあります。
是が非でも、有給休暇をとらせないよう阻止するでしょう。
実際、日本の有給休暇の取得率は、非常に低いです。
有給休暇が取れるのは、正社員に限りません。
アルバイトやパート、派遣でも、有給休暇を取ることができます。
勤務先が、有給休暇の取れない職場なら、ブラック企業に搾取される人生は止めましょう。
適正な権利を主張して、転職を考えるべきかもしれません。
今回は、有給休暇の取得のしかたについて、労働問題に強い弁護士が解説します。
有給休暇が取れないのは違法であり、すぐ弁護士に相談すべきです。
【有給休暇のとり方】
【退職時】
【有給休暇の違法な扱い】
【休暇の知識】
有給休暇がなぜ取れないのか?

なぜ、有給休暇が取れないのでしょうか。
「有給休暇が取れない」と相談する方には、大きく分けて2つの理由があります。
まずは、有給休暇の取れない理由を洗い出し、適正に取得できるよう対策しましょう。
有給休暇がとれない理由は、労使の双方に存在します。
そして、その理由ごとに、対策が異なります。
「有給休暇が取れない」と悩む労働者は、自分の理由がどちらかチェックしてください。
有給休暇は、労働者を保護するため、適度な休みを与える制度。
労働基準法で保障された、重要な権利です。
なので「有給休暇を取れない」という状況は、非常事態といってよいでしょう。
会社が有給休暇を拒否する理由
1つ目が、会社側の理由です。
つまり「会社が有給休暇を拒否するために、有給休暇が取れない」というケース。
ブラックな会社ほど、有給休暇を取らせません。
有給休暇は、給料をもらいながら休む制度。
取らせないほうが、労働者を、搾取することができるのです。
むしろ、有給休暇を取らせてしまうと、給料を要するのに労働はしてもらえません。
悪質な会社ほど、「有給休暇を与えなければならない」という義務は理解しています。
有給休暇を拒否する手口は次のとおり。
明示的で意図的なものだけでなく、黙示的なものもあります。
会社の都合で、こっそりとこの義務を破ってくるのです。
- 「当社には、有給休暇の制度がない」と主張する
- 「有給休暇を取得するなら昇進せない」と発言する
- 有給休暇を取得した労働者を、パワハラ、いじめの対象とする
- 有給休暇の理由を聞き、「理由が適切でない」と拒否する
- 有給休暇を許可制とし、承諾しない
- 有給休暇の制度、取り方を、労働者に説明しない
明示的に拒否するのは、違法性が大きいのは当然。
そうでなくても、会社は内心「有給休暇を取得せず我慢してほしい」と考えることが多いもの。
事実上、有給休暇が取りづらくても、あきらめてはいけません。
有給休暇と明らかに拒絶されたら、次の解説を参考にしてください。
労働者が有給休暇を取らない理由
2つ目が、労働者側の理由です。
「有給休暇を取れない」と悩んでいながら、実は自分であきらめてしまっているケース。
「どうせ取れないだろう」とあきらめてはいけません。
日本の労使関係では「協調」を重視する考えが根強く残ります。
「私が休んだら誰がやるのか」と責任感があるほど、有給休暇を取らず頑張るでしょう。
有給休暇を取らない労働者の、気持ちはよく理解できます。
- 他の社員もみな、有給休暇を取らずに働いている
- 有給休暇を取ろうとしても、誰も引き継ぎに応じてくれない
- 有給休暇をとったしわよせがいくと、他の社員から白い目で見られる
- 有給休暇の申請先となっている上司が、嫌味たっぷりに対応する
しかし、このような労働者の気持ちは、会社によって誘導されています。
いわば「有給休暇を取るな」という洗脳ともいえるでしょう。
有給休暇は、「権利」ですから、決して不当な欠勤やサボりではありません。
正しく行使するのであれば、堂々と胸を張ってよいのです。
有給休暇の取得により、業務に支障を生じさせない責任は、むしろ会社にあります。
「有給休暇を取ったら業務が回らない」というなら、会社の労務管理に問題があります。
労働問題に強い弁護士の選び方は、次に解説します。

有給休暇の取得時にチェックすべきポイント

有給休暇の取得を検討しているならば、労働法の知識を理解しなければなりません。
さもなければ、会社の言い分が正しいかどうか、判断できません。
有給休暇についてよく知れば、会社が拒絶したときにもその不当性がよくわかるでしょう。
「会社の対応がおかしい」「不当な権利侵害だ」とわかれば、後ろめたさは払拭できます。
会社に、説得的に説明することができ、有給休暇の申請にも気後れしないでしょう。
労働基準法で認められた有給休暇の日数
はじめに、有給休暇を取得する権利が発生しているかどうか、確認しましょう。
有給休暇を取得できる日数は、労働基準法で定められています。
法律上の義務なので、会社が勝手に決められるのではありません。
会社が定めた条件を満たさなくても、労働基準法の基準により有給休暇を取得できます。
労使の合意があったとしても、労働基準法に反すれば違法であり、無効です。
フルタイムの正社員だと、6ヶ月働くと10日の有給休暇が取得できます。
さらに、勤務年数が1年ごとに、付与される休暇の日数が増加します。
労働基準法に定められた、有給休暇の日数は、次のとおりです。
継続勤務年数 | 労働日 |
---|---|
6ヶ月経過 | 10日 |
1年6ヶ月経過 | 11日 |
2年6ヶ月経過 | 12日 |
3年6ヶ月経過 | 14日 |
4年6ヶ月経過 | 16日 |
5年6ヶ月経過 | 18日 |
6年6ヶ月以上 | 20日 |
なお、有給休暇の権利が発生するには、全労働日の8割以上働く必要があります。
なので、労働日のうち2割以上を休んでしまうと、有給休暇はもらえません。
なお、労働者の保護のため、業務上の傷病、妊娠や出産、介護などによる休業は、有給休暇の出勤日数を算定するにあたり、労働日には含まれません。
短時間労働者でも有給休暇は発生する
有給休暇は、正社員のみの権利だというのは誤解です。
パートやアルバイト、派遣社員など、短時間労働者にも、有給休暇は発生します。
ただし、短時間労働者が有給休暇を取得するには、一定以上の勤務時間を要します。
また、取得できる日数についても、正社員と比べ、割合的に少なくなっています。
具体的に、発生している有給休暇の日数に疑問のある場合、弁護士に相談ください。
有給休暇の時効は2年
有給休暇の時効は、2年間です。
これは「発生した有給休暇の権利を、2年間までは繰り越せる」という意味です。
この点で、「有給休暇の消滅時効」の問題は、「有給休暇の繰越」とも呼びます。
1年間で消化しきれなかった有給休暇は、将来2年間にわたり、利用し続けることができます。
有給休暇を取得する理由に制限はない
有給休暇を取得するのに、理由の制限はありません。
問題ある会社では、有給休暇の申請書に理由を書かせる対応がありますが、違法です。
理由によっては休暇取得が拒否されてしまうと、不当な扱いを許してしまいます。
有給休暇が自由に取れるように、その利用の目的を回答する義務はないこととなっています。
仕事に息抜きに使うとき、プライベートな理由は知られたくないでしょう。
理由を告げるよう強制されれば、ますます取りづらくなってしまいます。
有給休暇を取得して遊びに行く労働者に、後ろめたさを感じさせ、休暇をあきらめさせようとするなら、妥当とはいえません。
有給休暇の疑問は、弁護士の無料相談で解消できます。

有給休暇の時季変更権とは

有給休暇は妨げられないのが原則ですが、例外として「時季変更権」があります。
時季変更権は、業務への支障などの要件のもと、会社が有給休暇の時季を変更する権利です。
時季変更権は、有給休暇という権利に対する例外なので、厳しい要件を満たさなければなりません。
時季変更権を行使されたら、その対応が不当でないかチェックが必要です。
業務に支障のある有給休暇は、時季を変更できる
会社は、有給休暇を取得することを拒否できません。
しかし、一定の要件のもと、その時季を変更するのは許されます。
つまり「取得するな」とはいえないが「有給休暇は後にしてくれ」とはいえるのです。
この会社の権利が、「時季変更権」。
時季変更権は、有給休暇の取得が、業務に支障である場合に行使できます。
業務の必要性と、労働者の休暇の必要性のバランスを調整するために設けられた制度です。
労働基準法39条5項に、次のとおり定められます。
労働基準法39条5項
使用者は、前各項の規定による有給休暇を労働者の請求する時季に与えなければならない。ただし、請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与えることができる。
労働基準法(e-Gov法令検索)
ただし、時季変更権を行使した結果、まったく有給休暇が取得できないなら違法です。
例えば、どの時期も多忙で、結局休暇がとれないなら、拒否したに等しいでしょう。
また、退職日が決まっている場合にも、労働日が足りなくて休暇がとれないケースがあります。
時季変更権を行使する場合にも、いつ有給休暇がとれるか示し、労働者に配慮せねばなりません。
有給休暇を買い取るかは会社の自由
有給休暇を買い取る制度が会社に整備されていることがあります。
有給休暇を消化できない場合に、「残った有給休暇を、その日数分の給料に換える」という制度です。
未消化の有給休暇について、労使の合意があれば買い取りは適法です。
ただ、労働者の心身に配慮した「休む権利」なので、事前に買い取ることはできません。
事前の買い取りを許してしまえば、有給休暇が取れなくなってしまうからです。
次の場合には、労働者に不利益がなく、有給休暇の買い取りが認められます。
- 法律の義務以上に与えられた有給休暇の買い取り
- 時効(2年)で消滅した有給休暇の買い取り
- 退職までに消化しきれなかった有給休暇の買い取り
有給休暇の買い取りは、就業規則などにルールが定められています。
買い取ってもらえる場合にあてはまるか、事前にチェックしましょう。
なお、買い取りはあくまで会社の判断です。
労働者から有給休暇を買い取るよう請求する権利はないので、注意が必要です。
有給休暇の取得を拒否された時の対応

有給休暇を拒否する会社の対応は、違法の可能性が高いもの。
なので、有給休暇を拒否されたら、会社と争い、正当な権利の実現に向け、交渉せねばなりません。
とはいえ、有給休暇のみをもって大きなトラブルとするのは得策ではありません。
まずは話し合いからはじめ、交渉で解決できるようにすべきです。
有給休暇を拒否された時、労働者がとるべき適切な対応を解説します。
決してあきらめずに申請し続ける
有給休暇を取得できない例には、「労働者が断念してしまっている」ケースも多いです。
自身があきらめてしまっている場合、まずは労働者側の考えを改めるべき。
周囲への配慮はわかりますが、有給休暇を優先すべきです。
会社からのプレッシャーに負け、申請をあきらめれば、有給休暇は取れないでしょう。
むしろ会社には、有給休暇を取得しても業務を支障なく進められるよう努力すべき義務があります。
業務の調整やシフトの調整、代替要員の確保など、さまざまな工夫がありえます。
拒絶されたら、代替の日程を提案する
会社から、有給休暇を拒絶されたら「時季変更権の行使ではないか」を検討しましょう。
(労働法の知識のない会社は、時季変更権を知らないおそれもあります)
時季変更権の行使が正しくされていれば、望んだ日には休めません。
ただ、時季変更権ならば「永久に休めない」のではなく「申請した日に休めない」というだけ。
時季変更権の行使をされ、有給休暇を断られたら、直ちに代替日を提案します。
すべての代替日の提案を拒否されるなら、それは正しい時季変更権とはいえません。
実質的に、有給休暇の取得を、違法に拒まれているに等しいといえます。
有給休暇の買い取りを交渉する
すでに退職が迫っているとき、退職前にすべての有給休暇を消化できないこともあります。
退職日までの全労働日について、有給休暇とするよう申請しましょう。
時季変更権は、あくまで、休暇の取得日を変更できるにすぎません。
なので、退職間近の労働者には変更する日程がなく、時季変更権の行使は許されません。
したがって、退職直前ならば、有給休暇をしっかりとることができます。
なお、業務引き継ぎが残るとき、会社から、有給休暇の買い取りを交渉されることがあります。
円満に退職でき、かつ、適正な給料相当額が払われるなら、交渉に応じてもよいでしょう。
退職前の有給休暇の買い取りについて、次に解説します。

有給休暇を取れない時、弁護士に相談すべき理由

有給休暇が取得できないとき、会社の圧力に負けないためにも、弁護士のサポートが有用です。
複雑な、有給休暇に関する法律知識を理解し、アドバイスをもらえるからです。
会社からいわれた反論が、正しいかどうかわからないときがあります。
特に、本解説のように、時季変更権が行使されるケース。
会社が適切に対応するならば、一時的には、望んだ日には休めないことになります。
しかし、その対応が正しいものなのか、判断に迷うこともあるでしょう。
労働者側で、有給休暇について法律知識が不足するとき、弁護士に判断してもらうべきです。
素人判断で、有給休暇をあきらめてしまうのはもったいないでしょう。
有給休暇の残日数についても、会社が誤っていることもあります。
会社の計算や考えを、鵜呑みにするのではなく疑い、こちらでも対策しなければなりません。
有給休暇を不当に取らせない会社では、その他の労働問題も頻発するでしょう。
あわせて、未払い残業代やセクハラ、パワハラなど、改善すべきトラブルについても相談できます。
労働問題の種類と、その解決方法は、次に解説します。

まとめ

今回は、有給休暇を取得する方法について解説しました。
有給休暇は、労働基準法で認められた労働者の権利。
いかなる状況だったとしても、「有給休暇が取れない」ということはありません。
有給休暇を取得するのに、後ろめたい気持ちを抱く必要はありません。
社内の雰囲気から、有給休暇をとりづらいとすれば、会社がそう仕向けているのでしょう。
取得を拒絶されたら違法のおそれが強く、正当な権利の実現を目指して戦うべきです。
それでも有給休暇が取れないときは、弁護士が代わりに交渉することができます。
ぜひ、速やかに相談ください。
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