MENU
浅野 英之
弁護士
弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号44844)。
東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

企業側の労働問題を扱う石嵜・山中総合法律事務所、労働者側の法律問題を扱う事務所の労働部門リーダーを経て、弁護士法人浅野総合法律事務所を設立。

不当解雇、未払残業代、セクハラ、パワハラ、労災など、注目を集める労働問題について、「泣き寝入りを許さない」姿勢で、親身に法律相談をお聞きします。

→労働問題弁護士ガイドとは
★ 労働問題を弁護士に相談する流れは?

有給休暇の買取は違法が原則!例外的に認められる場合と金額の計算方法

有給休暇は、仕事からのリフレッシュのため労働者に認められた法律上の権利。6ヶ月以上勤務すれば有給休暇は付与されます(労働基準法39条1項)。全て消化し尽くしたいですが、様々な理由で実現できないのも実情です。

相談者

忙しすぎて有給をとれない…せめて買い取らせたい

相談者

社内に有給休暇をとらせない空気があり困っている

休暇を利用できないなら、「せめてお金だけでも払ってほしい」と感じるでしょう。あるいは「休みは要らないから給料を上げてほしい」という相談者もいます。時効で消えていく有給休暇を見ていると、長く働くほど損した気分になります。

しかし、有給休暇の買取は「違法」であるのが原則です。買取りを許せばその分の休暇が取れなくなり、労働者に不利益だからです。そのため法的にも、有給休暇の買取は労働基準法39条1項違反と評価されます。その結果、会社に求めても、有給休暇の買取に応じてもらえないケースが多いです。

ただし一方で、有給休暇の買取が禁止なのは労働者保護の観点からなので、労働者を害しない例外的なケースでは、買取りが適法となります。交渉で買い取ってもらえれば、失うはずだった有給分の金銭を受け取れるのです。なお、買取り可能な場合も、その方法や、代わりにもらえる金銭の計算方法についても理解しておかないと損します。

今回は、有給休暇の買取の違法性と、認められる場合を、労働問題に強い弁護士が解説します。

この解説のポイント
  • 有給休暇は、労働者の正当な権利であり、買い取って奪うのは違法
  • ただし、労働者に不利益のない場面であれば、例外的に買い取ることができるケースあり
  • 買い取ってもらえる場合も、交渉によりできるだけ有利な条件と金額で合意する

\ 「今すぐ」相談予約はコチラ/

目次(クリックで移動)

解説の執筆者

弁護士 浅野英之

弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号44844)。
東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

企業側の労働問題を扱う石嵜・山中総合法律事務所、労働者側の法律問題を扱う事務所の労働部門リーダーを経て、弁護士法人浅野総合法律事務所を設立。

不当解雇、未払残業代、セクハラ、パワハラ、労災など、注目を集める労働問題について、「泣き寝入りを許さない」姿勢で、親身に法律相談をお聞きします。

\相談ご予約受付中です/

労働問題に関する相談は、弁護士が詳しくお聞きします。
ご相談の予約は、お気軽にお問い合わせください。

有給休暇の買取は違法となるのが原則

有休休暇の買取りは、違法となるのが原則です。

そもそも有給休暇は、給料の発生する休暇のこと。労働基準法39条で、一定期間勤めた社員への有給休暇の付与が会社の義務とされます。

社員の心身のリフレッシュが主な目的であり、

  • 労働者側にとっては権利、いわば「ご褒美」
  • 会社にとっては義務、いわば「社員への配慮」

といった位置づけの法制度です。生活と仕事のバランスを取るため、正社員はもちろん、バイトや派遣でも要件を満たす限り取得できます。

労働基準法39条(年次有給休暇

1. 使用者は、その雇入れの日から起算して六箇月間継続勤務し全労働日の八割以上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割した十労働日の有給休暇を与えなければならない。

(……2項以下、略……)

労働基準法(e-Gov法令検索)

有給休暇の詳細は「有給休暇の取得方法」参照。

有給休暇を取れば、労働日の労働義務が免除され、給料をもらいながら休めます。労働者への配慮を意味するので、法律の要件を満たすなら必ず付与せねばなりません。

有給休暇が、多忙や人手不足を理由に未消化となっている企業もしばしばありますが、更に今回解説するような「有給休暇の買取」を会社が強制的に進められるともなれば(いわゆる「有給休暇の買上げ」、その分の休暇はそもそも付与すらされないことになります。このような理由で、有給休暇の買取りは労働基準法39条1項に反し、違法なのです。

有給休暇は、労働者に休暇を与えて十分な休息を確保し、ワークライフバランスを保つという重大な意味を持ちます。買取りを認めてしまえば、この趣旨をないがしろにし、労働者を不当に害することにつながりかねません。

有給を買い取りすることが違法なのは、行政の解釈(昭30.11.30基収4718号)でも次の通り示されています。

年休は、労基法39条1項が定める客観的条件が揃うことで発生する権利のため、買上げ予約をしたり、本来なら請求できるはずの年休日数を減らしたり与えないことは、違法である。

昭30.11.30基収4718号

違法なわけですから、次章の通り買取には応じてもらえないのが基本です。

休日と休暇の違い」の解説

有給休暇の買取には応じてもらえないのが基本

有給休暇の買取とは、一定の金銭を対価に、その代わりに有給休暇を与えた形すること。これにより会社が一方的に休暇の請求権を労働者から奪うことを意味します。

買い取られた休暇の請求権は、法的には、消化しないまま放置されます。すると、2年の時効によって消滅し、その後の請求はできなくなってしまいます。

有給休暇の買取は違法が原則なので、認められないのが基本。たとえ労働者が望んだとしても許されません。法律上の権利である有給休暇を失うと、精神的、肉体的なダメージが甚大であることが理由です。

「同意があれば許される」といった抜け道を作れば、悪質なブラック企業ほど、無理やり労働者が同意したことにして有給休暇を取り上げてしまう事態が容易に想像できます。

したがって、前章の通り有給休暇の買取は違法が原則であり、買取には応じてもらえないのが基本ですが、次章の通り例外的に買い取ってもらえるケースもあります。

労働問題を弁護士に無料相談する方法は、次に解説します。

有給休暇の買取が認められる例外的なケース

次に、例外的に有給休暇を買取が認められるケースについて、具体例で解説します。買取が認められるケースにあてはまるなら、労働者が会社に交渉することで、買い取ってもらえる可能性があります。

ここまで、有給休暇の買取は違法が原則で、応じてもらえないのが会社側の対応の基本と解説しました。しかし、買取りが禁止されたのは、労働者保護の趣旨であることからして、買取を許しても労働者を不当に害しないなら、許される場合もあります。つまり、例外的に、買取が合法となり、認められるケースもあるわけです。

労働契約の終了によって消滅する有給休暇の買取

労働契約の終了後は、有給休暇を取ることはできません。

「休暇」とはつまり、労働義務を免除することなので、会社を辞めた後は労働義務はありませんから、当然に休暇の請求ができなくなります(このことは、解雇や退職など、退職の理由によっても変わりません)。

円満退社なら、退職日を後ろ倒しして有給を消化できますが、次のような事情があってどうしても全てを使い切れないケースもあります。

  • 転職先の入社日が決まり、退職日を調整できない
  • 解雇、休職満了など、労働者が日付を変更できない退職理由である
  • 業務の引継ぎの都合上、有給消化できない

こうした労働契約の終了により消滅する有給休暇の買取は、違法ではありません。労働者保護という有給休暇の本来の趣旨からしても、退職してどうせなくなる有給休暇を買い取るなら、労働者に不利益はないからです。したがって、退職時に消滅する有給休暇は、会社に求めれば買い取ってもらえる可能性があります。

特に円満退社の際は、会社の指示する業務引継ぎを最後までまっとうする代わりに、取得できず余ってしまった有給休暇をまとめて取得し、1〜2ヶ月の有給消化を経て退職するケースも少なくありません。

また、退職合意書ガーデンリーブとして記載したり、退職勧奨のパッケージの1つの条件として有給買上げが提案されたりする例もあります。

(参考:退職勧奨とは?

時効によって消滅する有給休暇の買取

有給休暇の時効は2年です。そのため、休暇請求権の発生から2年が経過すると、時効消滅してしまいます。つまり、今年の有給休暇は翌年まで繰り越せますが、翌々年には消滅します。

時効でなくなってしまう有給休暇なら、買取を許しても労働者に不利益はないため、その分の金銭を支払って買い取ることが許されています(既に時効消滅した有給休暇を、事後的に買い取ることも許されます)。

なお、有給休暇の買取を、事前に予約しておくことは労働者を害するので違法です。

行政解釈(昭和30年11月30日基収4718号)によれば、時効消滅する年休に対して金銭を払うことを事前に約束することは、それが休暇取得を認めない意図がある場合は違法と評価されます。

会社が法定の日数を超えて付与した有給休暇の買取

有給休暇の買取が違法となる根拠は、労働基準法39条1項です。そのため、同条項の義務付ける日数を超えて付与した休暇なら、買取が許されます。そのような買取なら、労働者のために法定された最低限付与すべき日数は守られるからです。

このような理由で買い取ることが許される休暇は、例えば次のものです。

  • 特別休暇
  • バースデイ休暇、アニバーサリー休暇など
  • その他、労使の契約で独自に定めた、福利厚生の意味を持つ休暇

なお、これらの休暇は法律上、有給である必要もなく、無給休暇とされることもあります。

有給休暇を取得する方法」の解説

有給休暇を買い取ってもらう場合の金額はいくら?

さて、いざ有給休暇を買い取ってもらえるケースに該当するとして、気になるのは対価となる金額、つまり「いくらで買い取ってもらえるのか」という疑問でしょう。

有給休暇を買い取る際の金額には計算方法が4つあります。

4つの計算式のどれで計算してもよく、いずれを選択するかは会社が決めることができます(通常賃金、平均賃金、標準報酬月額の3つは、実際に有給休暇を取得した場合に払われる賃金の計算方法としても使えるのに対し、4つ目の会社が決める額は、買取りをする場合にのみあてはまる方法です)。

通常賃金での買取の場合

通常賃金は、簡単にいうと、いつも通り働いた場合もらえる1日の給料です。計算方法は、次のようになります。

  • 通常賃金 = 月給 ÷ 月平均所定労働日数
  • 有給休暇の買取額 = 通常賃金 × 買い取る休暇の日数

これは、残業代の計算方法における残業代の単価の計算式と共通します。

平均賃金での買取りの場合

平均賃金は、労働基準法の定める手当や補償の金額の基準となる賃金です。平均賃金は、月給制の場合は直近3ヶ月の賃金総額を、期間の総日数で割って算出します。

  • 平均賃金 = 直近3ヶ月の賃金総額 ÷ 当該期間の総日数(暦日数)
  • 有給休暇の買取額 = 平均賃金 × 買い取る休暇の日数

賃金総額には、通勤手当、精勤手当などの毎月支払われる手当を含みますが、ボーナスや歩合などの臨時で払われるものは含みません。

標準報酬月額での買取りの場合

標準報酬月額は、健康保険、厚生年金保険など公的な保険料の算定に用いる基準です。具体的には、以下のように算出します。

  • その年の4~6月の3ヶ月間の賃金の合計額 ÷3ヶ月 = 月平均額
  • 算出した月平均額を、保険料額表の等級区分に当てはめ、標準報酬月額を算出する

そして、標準報酬月額で有給休暇を買い取る場合、金額は次の計算方法によります。

  • 標準報酬月額 ÷ 月の日数 = 日割りの標準報酬月額
  • 有給休暇の買取額 = 日割りの標準報酬月額 × 買い取る休暇の日数

会社が定めた金額での買取りの場合

以上の3パターンはいずれも、実際に有給休暇を取得した場合に払われる賃金を参考に対価を決める方法ですが、こうした基準によるのでなく、会社が自由に金額を定めることもできます(例えば、1日あたり1,000円、未消化の有給休暇を全てまとめて5万円、といった提案です)。

というのも、有給休暇の買取そのものが、労働者に不利益を与えないようなケースに限って例外的に認められるものですから、いくらだと算出しても、労働者を不当に害することはないわけです。ただし、労働者としては、できるだけ合理的な金額になるよう交渉をすべきであり、あまりに安すぎる場合には、それで合意しないほうがよいケースもあります。

会社を退職したらやることの順番」の解説

労働者が有給休暇を買い取ってもらうための方法と、注意点

有給休暇の買取が例外的に許されるケースがあると解説しました。しかし、これにあてはまるとしても、要求に必ず応じてもらえるとは限りません。「買取を承諾するかどうか」は、あくまで会社が判断することです。

したがって、できる限り有給休暇を買い取ってもらいたければ、交渉して、自身に有利な譲歩を引き出さねばならず、買い取らせる方法を理解する必要があります。

できるだけ有給休暇を取得する努力をする

まずは「例外的に違法でない場合にも、買い取ってもらえるかは会社次第」という点を理解し、買取りを第一に目指すのでなく、有給休暇をできるだけ取得する努力を優先しましょう。そもそも買い取る有給休暇を残さず退職できるなら、問題は生じず、円満に解決できます。

有給買取は「必ず」ではないので、有給消化の方が有給買取より有利と考えてよいです。有給の本来の趣旨からしても、余暇を得て心身を休めるべきで、無理は禁物。有給休暇を取得しやすくする努力に、例えば次の方法があります。

【退職時】

  • 退職日を先送りする
  • 転職先の入社日をずらしてもらう
  • 業務引継ぎをリモートや書面での伝達で行う

【在職時】

  • 他社員の休暇に協力し、周囲の理解を得る
  • 業務内容を共有し、自分でなくても進められるようにする
  • 希望日のできるだけ前に、有給取得の意向を伝える
  • 繁忙期に有給休暇を取らないなど、社内状況にも配慮する

退職日がまだ決まっていないなら、全ての日数を取得して退職すべきです。「事業の正常な運営を妨げる場合」には会社は時季指定権を行使できますが、退職してしまう場合だと他に変更して取得できる日がなく、この権利行使は許されないと考えられています。

退職予告期間(2週間)」の解説

会社のメリットを伝えて買取を交渉する

有給休暇の買取には、会社との交渉を要します。より有利な条件で買取に応じさせるには、会社側のメリットを伝えるのが有効。労働者が、交渉時に会社に伝えるべきポイントは、例えば次の点です。

  • 社会保険料の負担が少なくて済む
    退職日を先延ばしにして給料を払うよりも、有給休暇を買い取る方が、社会保険料の負担が増えずに済みます。
  • 労使のトラブルを回避できる
    会社が社員を一方的にやめさせると不当解雇になる可能性があるところ、労働者から自主的に退職するならば、労使紛争を避けることができます。

(参考:退職勧奨と解雇の違い

なお、有給休暇の買取りに応じてくれる場合も、明らかな低額で合意しては、やはり損した気持ちになりますから、「有給休暇を買い取ってもらう場合の金額」を参考に、できるだけ妥当な金額になるよう交渉してください。

合意書を締結する

交渉がまとまったら、必ず約束の内容を書面化すべきです。口約束では、後から守られなかったとき、合意したことを立証できなくなります。言った言わないの争いを避けるには、合意書が必須なのです。

相談者

買い取ると言っていたのに突然買取はやめたといわれた

相談者

就業規則に買取規定があるのにその通りの額でなかった

有給休暇の買取りがよく争いになる退職時には、労使いずれの立場からも、退職合意書を取り交わしておく意義が十分にありますから、会社からも書面締結を提案してくる可能性が高いです。

清算条項が記載されると退職後の請求はできないため、残業代など未払いがないか必ずご確認ください。また、厳しすぎる退職後の競業避止義務など、不利な条項があるならサインを拒否すべきです。なお、辞めたくないのに辞める必要はありません。

違法なパワハラとなる退職強要」の解説

会社に有給休暇を買い取る義務はない

有給休暇の買取は違法だが、例外的に適法となるケースもあると解説しました。しかし、これを超えて、会社に有給休暇を買い取る義務があるわけではありません。そのため、希望しても応じてもらえない可能性もあります。

その意味で、メリット、デメリットやリスクを提示しながら、交渉せねばなりません。会社との交渉を一人で進めるのが困難なら、ぜひ弁護士に相談ください。

一方で、就業規則や雇用契約書で「有給休暇を買い取る」と明記する会社もあります。

この場合は、要件を満たす限り、契約上の買取り義務が生じます。社内の規程類に義務規定が存在しないか、事前にご確認ください。

なお、契約上の買取り義務があるはずなのに、それでもなお買い取ってくれない場合には、労働審判や訴訟といった法的手続きによって、有給休暇買取分の金額を請求できます。

労働問題に強い弁護士の選び方」の解説

まとめ

弁護士法人浅野総合法律事務所
弁護士法人浅野総合法律事務所

今回は、有給休暇の買取についての法律上のルールを解説しました。

有休休暇について近年の法改正があったものの、消化率は今なお低いままです。「どうせ消化できないなら有給休暇を買い取ってほしい」という労働者の思いも当然の結果です。

しかし「有休休暇の買取は違法となるのが原則」と解説しました。労働基準法39条は、一定の条件を満たす社員に有休休暇を付与する義務を定めており、それを一方的に買い取られてしまってはこの義務に違反したこととなるからです。

そして、例外的には買取が適法となるケースもあるものの、あくまで労働者保護の観点から許された配慮だというだけで、買取りが義務付けられているというわけではありません。そのため、うまく交渉しなければ、買取りに応じてくれない会社が多いです。自ら主張し、有利に立ち回らねば、失敗に終わってしまいます。買取ってもらえるケースでも、代わりにもらう金銭が低い場合は強く交渉せねばなりません。

有給休暇は労働者に認められた権利で、それを理由に不利益に扱われるのは許されません。休暇、休日の扱いでお悩みの労働者は、ぜひ一度弁護士に相談ください。

この解説のポイント
  • 有給休暇は、労働者の正当な権利であり、買い取って奪うのは違法
  • ただし、労働者に不利益のない場面であれば、例外的に買い取ることができるケースあり
  • 買い取ってもらえる場合も、交渉によりできるだけ有利な条件と金額で合意する

\ 「今すぐ」相談予約はコチラ/

目次(クリックで移動)