ガーデンリーブは、外資系の退職時によく提案される、退職前の在職期間を延長する制度です。
本来は、企業秘密を守るといった会社側の目的によるものですが、外資系企業のパッケージ交渉では、退職する社員への優遇として付与されるケースもあります。
一言でガーデンリーブといえど、労使の合意により様々な制度設計があり得ます。
内容によっては退職者に有利にも、不利にも働きます。
法律に定められた制度でなく、企業が自由に設計する制度なので、その内容をよく吟味して進めねばなりません。
今回は、ガーデンリーブの意味や期間、注意点を、労働問題に強い弁護士が解説します。
- ガーデンリーブの意味は、退職前の一定期間、有給で就労を免除するもの
- ガーデンリーブの目的は、企業秘密の漏えい防止と、退職の促進にある
- ガーデンリーブは労使の合意によるものなので、納得いくまで交渉をする必要がある
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★ 外資系の労働問題まとめ
ガーデンリーブとは

ガーデンリーブとは、退職まで仕事をしなくても給料が支払われる期間のことです。
英語で直訳すると「庭いじり休暇」。
仕事をせずに給料を受け取れる、つまり、ガーデニングなどの趣味にも時間を費やすことができる休暇という意味で、発祥の地イギリスでは伝統的な制度のようですが、日本では外資系企業などを中心に活用例が見られます。
そのため、日本におけるガーデンリーブは、法律に定められた制度ではありません。
労使の合意によって決められるため、ガーデンリーブの有無は、雇用契約書や就業規則といった労働条件を示す書類、退職合意書のように退職時の条件に関する労使の合意を示す書類などによって確認できます。
ガーデンリーブの期間は、3ヶ月〜6ヶ月が相場となっていますが、決まったルールはありません。
具体的な期間は、その会社の慣行や役職、ガーデンリーブの目的によっても異なります。
ガーデンリーブの目的
ガーデンリーブは、給料を払うのに労務は免除する点で、会社には一見してデメリットしかありません。
(逆にいえば、働かなくても給料をもらえる点で、労働者にとっては良いこと尽くしです)
それでもなお会社がガーデンリーブを設けるのは、目的があるからです。
典型的な目的は、次の2つです。
① 企業秘密の漏えいの防止
企業秘密は、高度な情報戦でもあるビジネス競争において大切。
ノウハウや知識を有する社員がすぐ競合に転職、起業すれば、大切な資産である企業秘密の流出は不可避です。
そのため会社にとって、退職予定者が一定の期間、働かないことが重要となる場面があります。
最新情報にアクセスせず、スキルを磨かなければ、保有する情報は陳腐化します。
一方で、退職者による情報漏えいを防ぐため、秘密保持や競業避止義務の誓約書も活用されます。
しかし、誓約書はその有効性が問題となることがあります。
また、せっかく誓約書によって特約を結んでも、労働者が違反してしまえば重要な情報は漏えいされてしまい、会社としては、事後的に損害賠償請求をできるにとどまります。
そのため、退職後の情報の不正な利用を「物理的に」不能にするため、ガーデンリーブを活用するのです。
② 退職の促進
以上のように企業秘密の漏えいの防止のために編み出されたガーデンリーブですが、日本では、退職の促進を目的として、外資系企業を中心に活用されるケースがあります。
日本では海外に比べて解雇が制限されており、外資系では、辞めてほしい社員にパッケージを提案して退職勧奨することがよく行われます。
このとき、ガーデンリーブは、働かなくても給料のもらえる、いわゆる有給休暇と同じ意味で、パッケージの一環として会社から提案されます。
労働者に退職してもらいやすくするため、退職金の増額交渉などとともに、退職条件の一種としてガーデンリーブの付与が検討されているのです。
この場合、①の場合と異なり、競業避止義務は課されないのが通常です。
退職後の競業避止義務についての解説も参考にしてください。
よくあるガーデンリーブの例
ガーデンリーブの目的によって、その具体的な内容も様々ですが、一般的には、退職の意思表示をした後、一定期間をガーデンリーブとし、その期間中は仕事をしなくても給料を支給すること、その代わり、労働者は他の会社のために働いてはならないことなどを定めます。
企業秘密の漏えいの防止を目的とする場合には、守秘性の高い情報を扱うことが明らかとなった時点で、雇用契約書などにガーデンリーブが明記される例があります。
一方で、退職を促進させる目的などでは、退職時の合意書においてガーデンリーブを定める例もあります。
誓約書の効力については、次に解説しています。

ガーデンリーブのメリット・デメリット

次に、ガーデンリーブのメリット、デメリットを解説します。
ガーデンリーブは、労働者への配慮として与えられる例が多いもの。
定義からして、働かなくても給料がもらえるわけなので、メリットがあるのは明らかです。
しかし、会社としても一定の目論見のもとに休暇を付与しています。
必ずしもメリットになるばかりでなく、デメリットの大きいガーデンリーブもあるため注意を要します。
転職時の息抜きができる
ガーデンリーブにより、仕事を辞める前に長期の休暇を取得できます。
就労中にはできなかった旅行や趣味など、自分の時間を充実させることができます。
一方で、雇用関係はまだ終了せず、給料や福利厚生を受け取れるので、収入面の不安を感じることもありません。
会社に在籍していたことになるので、経歴の空白も防ぐことができます。
転職の準備ができる
企業が、一定期間のガーデンリーブによって企業秘密の漏えいを避けようとするとき、その後の転職には制限が加えられないケースも少なくありません。
このとき、退職後の競業避止義務を負わず、転職や企業を自由に行えるメリットがあります。
また、ガーデンリーブ期間中の就労を免除してもらえば、転職の準備に充てることができます。
スキルアップに意欲的な労働者にとって、情報収集や知識の向上などキャリアアップの役にも立ちます。
前職の顧客との連絡については、次に解説しています。
知識経験が陳腐化する
ガーデンリーブ後の転職や起業は、全くの無制約とはいきません。
ガーデンリーブで足止めを食らう間に、専門知識を最大限発揮する機会が失われるおそれがあります。
その結果、あまりに長いガーデンリーブは、転職や起業のハードルとなりかねません。
情報化社会となった現代において、必要となる技能や情報は、早いスピードで変化します。
せっかく価値ある知識を身につけても、ガーデンリーブ中に無価値なものになる危険は十分あります。
意に反した退職を迫られる
パッケージとしてのガーデンリーブを会社から提案されるとき、意に反した退職を迫られるおそれがあるというデメリットはあります。
日本では、解雇権濫用法理によって解雇は制限され、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合には、違法な不当解雇として無効となります(労働契約法16条)。

これに対して、ガーデンリーブをはじめ、有利な退職条件を提案し、退職の勧奨をするとき、労働者が合意してしまえば、有効に会社から追い出されてしまいます。
このとき、ガーデンリーブ期間中の給料がもえらるとしても、特別退職金として金銭を受領するのに比べて、もらえる金額が少なくなってしまう危険があります。
退職勧奨のよくある手口と対処法は、次の解説をご覧ください。

ガーデンリーブを経て退職する際の注意点

次に、ガーデンリーブを経て退職するときの注意点を解説します。
労働者は、在職中の経験で得た多くの知見を活かすことを前提に退職します。
その方が、転職するときの人材としての価値が高まるのは当然。
自ずと、ガーデンリーブによって企業秘密を保持したい会社とは、利害が対立します。
合意内容を確認し、禁止事項に注意する
ガーデンリーブを経て退職するときは、その合意内容を確認してください。
そもそも、ガーデンリーブは労使の合意のよって行われるものなので、就業規則や雇用契約書、退職合意書に記載のないときには、労働者の同意なくして強制されることはありません。
会社によってはガーデンリーブ中の禁止事項を定めるケースもあります。
このとき、退職間際の余計な争いを避けるとともに、自分の行動に無用な制限をかけないためにも、どのようなことが禁止されてしまうのか、必ず確認しなければなりません。
なお、ガーデンリーブ期間中は、労働する必要がないのが原則ですが、完全に労働義務が免除されないケースもあります。
例えば、「会社からの連絡には応じる必要がある」といった条項が規定されていたり、業務の引き継ぎが求められていたりするとき、完全に自由な休暇とは言い切れないこともあります。
退職の引き継ぎと有給休暇の関係についても詳しく解説しています。
過大な義務を負うことは拒否する
ガーデンリーブを経て退職した後も、競業避止義務を負うと、不利益が過大になるおそれがあります。
競合他社への転職は、労使で合意をしない限り禁止されないのが原則です。
そして、退職後の競業避止義務について、労働者の営業の自由(憲法22条1項)を侵害するため、その有効性は厳格に判断されるのが裁判例の傾向です。
ガーデンリーブと引き換えに、過大な義務を負うことは拒否しなければなりません。
誓約書への署名は拒否できる
会社からガーデンリーブが提案されても、必ず応じなければならないわけではありません。
速やかに転職し、実用的な知識を鮮度の高いうちに使いたい方もいるでしょう。
誓約書に署名してしまい、後に紛争化すると、労働者にとって不利な結論となることもあります。
例えば、次の裁判例のケースをご覧ください。
- 東京地裁平成5年1月28日判決
秘書代行業を営む会社を退職後、顧客を奪って同種の営業をしたとして、500万円の損害賠償が命じられた例 - 東京地裁平成23年7月22日判決
営業用資産、顧客の住所録などの重要書類を持ち出し、新たに設立した会社で利用した点につき、約500万円の損害賠償が命じられた例
このように、会社の不利益について賠償を命じられてしまわないよう、不利な内容の誓約書についてはサインを拒否することができます。
退職合意書へのサインを拒否するときの注意点もあわせてご覧ください。

パッケージとしてのガーデンリーブの交渉方法

最後に、ガーデンリーブがパッケージの一部として提案されるとき、その交渉過程で理解すべきポイントを解説します。
会社の言うがまま受け入れるのではなく、必ず交渉しておきましょう。
ガーデンリーブの延長を交渉する
パッケージとしてのガーデンリーブの提案はあくまでお願いであり、命令ではありません。
したがって、会社の提案に必ず従わないといけないわけでもありません。
辞めたくないならその旨を明確に示しましょう。
辞めてよいと考える場合も、ガーデンリーブの条件については交渉可能です。
転職活動に期間が必要な場合には、有給で在籍できるガーデンリーブの延長を交渉するケースがあります。
期間中に受け取れる金銭の増額を交渉する
また、ガーデンリーブを経て退職する方向の場合に、その際に受け取れる金銭の増額を交渉することもできます。
ガーデンリーブの期間中の給料はもちろん、退職時にもらえる退職金、特別退職金などを含め、総額でいくらの金額が受領できるか、確認する必要があります。
交渉は口約束で終わらせるのではなく、その内容を必ず合意書に記載し、証拠化してください。
退職条件の交渉は、弁護士を窓口として、代わりに行ってもらうのが有益です。
退職金を請求する方法については、次に解説しています。
ガーデンリーブ中の退職を可能にしておく
ガーデンリーブが長いほど、転職活動に充てられる期間が豊富に確保できます。
しかし一方で、転職に成功し、行きたい会社に内定が得られた場合、ガーデンリーブは速やかな退職の妨げになります。
転職先が、必ずしもガーデンリーブの期間が満了するまで待ってくれるとも限りません。
このような場合に備え、ガーデンリーブの途中でも退職できる条件とするよう、交渉しておきましょう。
ガーデンリーブが、企業秘密の漏えい防止の目的にある場合は、会社としても短縮は難しいかもしれませんが、パッケージとしてのガーデンリーブの場合だと、労働者の利益になるよう、途中退職を認めてくれるケースも少なくありません。
(また、早期退職して残期間がある場合は、特別退職金として別途支給されるようにするなど、損しないよう交渉することも必要です)
労働問題に強い弁護士の選び方は、次の解説をご覧ください。

まとめ

今回は、外資系でよく用いられるガーデンリーブの制度について解説しました。
ガーデンリーブの本来の目的は、企業秘密の漏えい防止にあります。
企業が競争力を保持するためにも、秘密保持の重要性は高いもの。
ですが、企業秘密の過度な保護により労働者の活躍の機会が奪わてはなりません。
そのため、退職時の交渉でガーデンリーブが提案されたら、内容が不当でないか、チェックを要します。
また、退職を促すためのパッケージとしてガーデンリーブが提案されたときは、十分な内容かを吟味し、金額を増額したり、期間を延長したりといった交渉をすべき場合もあります。
このとき、ガーデンリーブは、これまで積み上げたキャリアや貢献と引き換えに手に入れる重要なものです。
慎重な検討を要する場合は、安易に合意してしまう前に、労働問題に詳しい弁護士に相談ください。
- ガーデンリーブの意味は、退職前の一定期間、有給で就労を免除するもの
- ガーデンリーブの目的は、企業秘密の漏えい防止と、退職の促進にある
- ガーデンリーブは労使の合意によるものなので、納得いくまで交渉をする必要がある
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