営業の現場では、経費を利用して活動するのが通常。
営業マンだと、接待交際費、交通費などの名目で、経費を申請し、会社に請求するでしょう。
費用にある程度の裁量が認められなければ、営業活動はうまくいきません。
しかし裁量が悪用されると、経費の不正請求が起こってしまいます。
突然、魔が差して経費を不正請求してしまうと、処分を受けるおそれがあります。
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架空の経費を計上し、私的に流用してしまった
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経費を使い込んでしまい、不正に多く計上した
こんなケースも、「後悔先に立たず」。
横領額によっては、懲戒処分のなかでも厳しい、懲戒解雇となる危険があります。
さらに、業務上横領罪や背任罪にあたり、刑罰を受けるおそれもあります。
今回は、営業にありがちな経費の不正請求と、その処分について、労働問題に強い弁護士が解説します。
- 経費の不正請求は、労働者の私利私欲から、会社のための利益上積みまでさまざまある
- 経費の不正請求のリスクは、単なる返金だけではおさまらず、会社の不利益は大きい
- 経費の不正請求がバレたら、まず謝罪して誠意を見せ、返金を申し出る
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経費の不正請求にあたる事例
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経費の不正請求は、営業職や役員など、経費に裁量が与えられている人ほど起こしがち。
わざと経費を多めに請求するケースは当然、気付かぬうちに不正経費を請求してしまった例もあります。
経費の不正請求にあたる、よくある事例について解説します。
より巧妙かつ悪質なケースを知り、違法な扱いをしていないかどうか、検討してください。
交通費の不正請求
通勤手当の申請などの際、実際にかかったより多くの交通費を請求するのは違法です。
交通費の不正請求は、さまざまなやり方があります。
- 実際に利用していない経路を申請する
- 実際の住所とは違う場所を申請する
- 転居したのに、住所変更の申請をしない
- 短い距離を徒歩で移動し、交通費を請求する
通勤交通費だけでなく、営業の移動の交通費、駐車場代などの不正請求のケースもあります。
いずれも、1回あたりは少額なのでバレにくく、経費の不正請求としては頻繁に行われます。
交通費の不正請求について、次に詳しく解説しています。
カラ出張
カラ出張とは、出張していないのに、出張したと見せかけ、出張旅費をだましとる不正請求です。
出張旅費や宿泊代、飲食代、現地での移動費などの経費が、不正に請求されます。
悪質なケースでは、会社の目をあざむくため、一旦は自分のクレジットカードで決済した履歴を残し、決済後に出た領収書で経費の精算をし、その後に決済をキャンセルして払い戻すという方法もあります。
接待交際費の不正請求
接待交際費は、経費の費目のなかでも、特に広い裁量が認められます。
「業務に関係するかどうか」を明確に判断するのが難しいためです。
優秀な営業ほど、接待交際費を活用して仕事をとりますから、ある程度大まかにならざるをえません。
しかし、その分、接待交際費は不正請求されがちです。
顧客の接待、取引先との会食なら問題ないですが、次のケースは不正請求であり、違法です。
- プライベートの食費を、経費で落とす
- 家族や友人との食事を、顧客との会食だと嘘をつく
- 1人でいったキャバクラを、経費として請求する
- 取引先との会食で、相手の人数を水増しして不正請求する
- 飲食店から白紙の領収書をもらい、金額を水増しして書き込む
経費の使い込み
経費に充当する分として、一定の預り金が渡されたとき、それを使い込んでしまうケースがあります。
経費精算の手間を省くため、まとまった経費を渡された例で起こる問題。
このとき、不正請求せずとも、使い込めるので、不正をする心理的ハードルは下がります。
プロジェクト単位で経費が設定されたのに、利益調整のため、経費の付け替えをしてしまう例もあります。
経費を自分のものにして横領したわけではないものの、不適切な方法に違いはありません。
経費の私的流用
経費の私的流用もまた、不正請求の典型例です。
つまり、業務に関連する経費だと装い、実際に自分のプライベートのためにお金を使う行為です。
業務に関連する出費なら経費ですが、私的な出費にあてれば、不正請求となってしまいます。
悪質な経費の私的流用は、例えば次のケースです。
- 会社のルールで認められないタクシー代を請求する
- 私物を経費で買う
- 自分が家で使う物を、顧客へのプレゼントとして経費を請求する
- 法人カードを勝手に使って買い物する
会社のポイントを勝手に使う
会社の家具家電、備品などの購入を任されることがあります。
これらの物品の購入費は、経費なのは当然ですが、ポイントの問題も気にしておきましょう。
というのも、購入の際につくポイントもまた、会社のものだからです。
会社のポイントを勝手に使ってしまったのがバレると、経費の不正請求だといわれる危険があります。
例えば、次のケースです。
- 業務用PCを購入する際につくポイントを、自分のカードにつける
- 会社のポイントを勝手に使って、私物を購入した
- ポイントで受けられるサービスを、私的に流用した
経費の不正請求が会社に与える影響
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経費の不正請求が、会社に与える不利益は、労働者が思うよりもとても大きいです。
そのため、不正に計上した分の経費を返還するだけで許されるとは限りません。
会社への大きな悪影響が理解できれば、経費の不正請求への厳しい処分も理解いただけるでしょう。
利益が減少する
企業の利益は、「売上」から、かかった「経費」を引いて算出されます。
そのため売上が増えても、経費がそれ以上に増えれば、利益は減少してしまいます。
経費を不正に請求した結果、必要以上の経費がかかれば、利益が少なくなってしまうのです。
経費の不正請求があると、本来なら不要だった経費がかかります。
これにより会社は、本来なら得られたはずの利益を損してしまいます。
経営判断を誤る
企業経営は、利益予測を立てながら行います。
そのため、正しい経営判断をするためには、売上と経費を正しく把握しなければなりません。
労働者が、経費を不正請求したり、上積みして計上した結果、会社の数字は正しくないものになります。
すると、経営判断を誤る危険があります。
利益が不正に操作されれば、プロジェクトや店舗の撤退、投資の増加などの経営判断ができません。
結果、会社に多くの損失を与える危険があります。
脱税になる
企業の払う税金は、利益に対して課されます。
そのため、経費が不正に計上されれば、企業の払う税金が、本来より少なく算出されます。
しかし、その経費が不正なら、税額を不当に減額する行為であり、脱税になる危険があります。
経費の計上が不正だった結果、脱税だと認定されれば、未払いの税金を払う必要があります。
悪質だと評価されれば、延滞税、加算税など余計な出費がかかるとともに、刑事罰のおそれもあります。
企業の信用が低下する
最後に、不正があれば、企業イメージが低下します。
経費を不正に計上する企業だと明らかになれば、問題視され、ニュースなどで報道される危険も。
労働者の経費の不正請求が、ひいては企業の社会的信用を低下させてしまうのです。
労働者の目先の利益のために経費を不正請求すると、思いのほか大事になってしまいます。
取引停止や顧客離れにつながり、優秀な人材の採用ができなくなるなど、会社の存亡の危機に陥ります。
労働問題に強い弁護士の選び方は、次の解説をご覧ください。
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経費を不正請求した労働者への処分は?
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前章のとおり、経費の不正請求の重大性について、ご理解いただけたでしょう。
次に、会社に大きな損失を与えかねない経費の不正請求に、どんな処分がされるか解説します。
横領額以上の不利益を与える問題行為なので、それ相応の責任追及が待ち受けています。
部署異動
経費の不正請求が発覚したら、今後は、経費についての裁量は持たせてもらえないでしょう。
これまで営業や、金銭を扱う業務に従事していても、部署異動を命じられる可能性があります。
経費についての不正が事実なら、部署異動には応じざるをえません。
なお、不当な異動の拒否については、次に解説しています。
懲戒処分
次に、懲戒処分の制裁を下される危険があります。
懲戒処分は、企業秩序を満たした労働者に下される制裁のこと。
懲戒処分は、軽い順に、戒告、譴責、減給、出勤停止、降格、諭旨解雇・諭旨退職、懲戒解雇などの種類があります。
なかでも最も重大なのが懲戒解雇で、不正の額によってはクビになることもありえます。
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「懲戒処分の種類と違法性の判断基準」の解説
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解雇
懲戒処分のなかでも一番重いのが、懲戒解雇。
また、懲戒解雇まで至らなくても、普通解雇されるケースもあります。
労働者を懲戒解雇するには、就業規則に、その理由と効果が書かれていなければなりません。
経費の不正請求について、懲戒解雇にできる根拠が記載されているか、確認しておいてください。
横領を理由とした解雇と、横領額の関係は、次に解説しています。
刑事罰
経費の不正請求は、社内での責任だけでなく、刑事責任を負うこともあります。
つまり、犯罪となり、刑事罰が下されるケースです。
経費の不正請求があたりうる罪には、次の3つがあります。
- 業務上横領罪(刑法253条)
「業務上自己の占有する他人の物を横領した」場合に、「10年以下の懲役」となります。 - 詐欺罪(刑法246条)
「人を欺いて財物を交付させた」場合に、「10年以下の懲役」となります。 - 私文書偽造罪 (刑法159条)
領収書を改ざんする不正など、有印の私文書を偽造すると「3月以上5年以下の懲役」となります。
業務上の地位を利用して、もらってはいけないお金を不正に得るのは犯罪です。
厳しく処罰されても、仕方ありません。
会社が、被害者として告訴した場合、逮捕される危険があります。
業務上の地位を利用して、もらってはいけないお金を得てしまうことは、「業務上横領」として刑事罰を受け、厳しく処罰されるからです。
経費を申請することは、労働者としての地位に基づいて業務上行うものです。
経費の不正請求がバレた時の対処法
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経費を不正請求してしまった労働者は、事後になって責任を完全に逃れることはできません。
しかし、誠実な対応もせず、反省の色もないようでは、より重い責任追及が予想されます。
懲戒解雇、刑事罰など、重大な制裁を回避するためにも、正しい対処法を知ってください。
謝罪し、誠意を見せる
一時の目先のお金欲しさに目が眩んだのでしょうが、悔やんでもなかったことにはできません。
経費の不正請求について、謝罪し、誠意を見せるのが、事後対応としては最善です。
反省の態度を示せば、会社からの懲戒処分を免じてもらえる可能性があります。
また、刑事責任が追及されるとしても、情状酌量の余地があります。
謝罪は、事実を包み隠さず離すのがよいでしょう。
「まだ隠している不正があるのでは」との印象を抱かれるのはマイナスしかありません。
経費の不正請求は、経営面、税務面でも会社に余計な手間をかけます。
手元の資料はすべて開示し、事実関係を整理して説明すれば、許してもらいやすいです。
不正に受領した経費を返金する
不正に受領した経費については、返金を申し出るようにします。
会社には多くの不利益がありますが、なにはともあれ、得た利益の返還が、最も大切だからです。
経費の不正請求が長期間だと、合計すると多額になることも。
このとき、返還については分割払いの交渉をする手もあります。
完全なる私的流用ではなく、会社の損失を補填したり、経費の付け替えをしていたりなどといったケースだと、労働者の手元には利益が残っていないこともあります。
私利私欲ではなく会社のためにしたことは、情状面で考慮される可能性があります。
損害賠償に応じる
経費の不正請求のリスクは、単に返金するだけではなくなりません。
会社には、不正に取得された経費以上のデメリットがあるからです。
そのため、返金だけではなくならない会社の損失について、賠償請求されるおそれがあります。
厳しい処分を免れるために、このような損害賠償に応じるのも有効。
賠償に応じていることもまた、情状面で有利に考慮される事情だからです。
ただし、会社から請求された損害額が妥当かどうか、検討が必要です。
自主退職する
最後に、経費の不正請求を謝罪して、許してもらえても、その会社での活躍は望めないでしょう。
まして、懲戒解雇など厳しい処分を受けそうなら、自ら身を引く手も有効です。
つまり、自主退職を申し出るということです。
責任をとって自主退職することは、情状面でも一定の考慮がされます。
ただし、退職の効果はすぐには生じず、退職を申し出た後で解雇されるリスクもあるので注意を要します。
なお、横領が冤罪なら反論しなければなりません。
詳しくは、次の解説をご覧ください。
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まとめ
![弁護士法人浅野総合法律事務所](https://roudou-bengoshi.com/wp-content/uploads/2022/03/asanosougou-zentai.jpg)
今回は、経費の不正請求について、具体例をあげて解説しました。
経費の不正請求をした労働者の責任は重く、バレてしまったとき、適切な対応を知る必要があります。
不正に請求された経費が、たとえ少額でも、横領した金額以上の大きな不利益を会社に与えます。
つい魔がさして経費を不正請求してしまっても、できるだけ誠実な対応を心がけましょう。
経費の不正請求が発覚し、会社から指摘された方、対応は弁護士にお任せいただけます。
懲戒処分や解雇など、厳しい責任を負わされる前に、ぜひ一度弁護士に相談ください。
- 経費の不正請求は、労働者の私利私欲から、会社のための利益上積みまでさまざまある
- 経費の不正請求のリスクは、単なる返金だけではおさまらず、会社の不利益は大きい
- 経費の不正請求がバレたら、まず謝罪して誠意を見せ、返金を申し出る
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