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交通費を不正請求したら横領?バレたら懲戒処分?解雇?

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運営元:弁護士法人浅野総合法律事務所

労働者として会社に雇用されている場合、自宅から会社までの通勤にかかる「交通費」は、会社が出してくれる、という雇用契約が多いのではないでしょうか。

しかし、労働法の専門的な考え方ですと、これは当然のことではありません。むしろ、法律上は、労働者が会社に来るまでの交通費は、「労働者負担」が原則で、しっかり契約で決めておかなければ、会社に負担してもらうことすらできません。

「会社が交通費を負担する」という内容の雇用契約だったとき、労働者は、交通費を請求するためには会社の定める書式にしたがって、最寄り駅や通勤経路を申請するやり方が一般的です。しかしこのとき、会社の目を欺いて横領をすることが、比較的容易にできてしまう会社があります。

また、出張交通費・宿泊費などの申請の際に、嘘をついて交通費を多く申請してしまうこともあります。

今回は、つい魔がさして、交通費を多めに申請してしまったり、通勤経路を水増しして請求してしまったりした場合に、「横領となるのか?」、「懲戒解雇・懲戒処分となってもしかたないのか?」について、労働問題に強い弁護士が解説します。

「横領トラブル」の法律知識まとめ

「交通費は必ず会社負担」はウソ!

サラリーマンの場合、通勤交通費、通勤定期を会社が負担してくれることは、ごく一般的な風習(ルール)となっています。

しかし、労働法の専門的な考え方によれば、「労働」は「持参債務」といって、「職場まで労働者が自力で来て、働く」ことが原則とされています。そのため、雇用契約(労働契約)で例外的に「交通費は会社負担」と定めない限り、「交通費は労働者負担」が原則なのです。

交通費の横領の問題を考えるにあたって、まず初めに、あなたの働いている会社では「会社側が交通費を負担してくれるのかどうか」を、入社前にチェックしてください。交通費に関するルールは、就業規則もしくは雇用契約書に記載されています。

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交通費は「労働者の自己負担」が労働法上の原則的ルールであることから、労働者と会社との間で合意をすれば、次のような扱いも、必ずしも違法とはなりません。

  • 交通費を「全額労働者の負担」とすること
  • 会社が労働者に支給する交通費について、一定の上限額を設けること
    例:交通費は月4万円を上限とする(ただし、会社が事前に承認をした場合は、この限りではない。)
  • 会社の近辺に住む労働者に対して、金銭面での優遇をすること
    例:近接居住手当、住居手当

「どこからどこまでの範囲が、交通費の横領になるのか」をチェックする際には、労使間で合意している交通費のルールがとても重要です。

交通費横領の3つの手口・方法

「会社が労働者に対して、通勤交通費を支給してくれる」という内容の雇用契約を締結していた場合には、労働者は会社の定める方法にしたがって交通費の申請をし、給与とともに交通費の支払を受けることができます。

交通費を会社に申請するときは、会社所定の書式にしたがって行うのが通常ですが、正しい交通費の金額を知るためには、少なくとも次の3つの事項を知らせる必要があります。

  • 自宅の最寄り駅
  • 自宅から会社までの交通手段、通勤経路
  • 通勤交通費の金額

「どこに住むか」が労働者の自由である以上、交通費の申請はある程度労働者に任せざるを得ません。

そのため、労働者が、申請を間違ったり、故意に会社をだまそうとしたりする場合には、会社から本来よりも多めに交通費をだまし取る、というケースも少なくありません。

自宅住所を偽る

第一の手口・方法は、「自宅の最寄り駅」を偽る方法です。つまり、虚偽の住所を伝えることによって交通費を横領する手口です。

実際住んでいる住所よりも遠くの住所に住んでいることにして会社に申請すれば、遠距離の交通費を支払ってもらうことができ、交通費を横領することができます。

例えば、「実際は恋人の家に同棲しているが、実家に住んでいることにする」、「会社の近くに引っ越したのに、住所変更の申請をしない」といった手口・方法です。

この手口の場合、必ずしも労働者が悪意でやっていなくても、「住所変更を忘れていた」という過失による場合にも、交通費のもらいすぎにつながってしまうため注意が必要です。

チェック
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不合理な経路を申請する

第二の手口・方法は、「自宅から会社までの通勤経路」を偽る方法です。

遠回りをすれば、その分交通費が不当に高くなってしまうため、「合理的な経路で交通費の申請をする必要がある」というルールのある会社がほとんどです。就業規則や雇用契約書に記載がなくても、常識的に考えて、あまりに遠回りなルートを申請すれば、許されない横領行為となるおそれがあります。

「合理的な経路」とは、最短経路、もしくは、最安の交通費で通勤できる経路のことをいうとすることが一般的です。「最短経路が乗り換えが多すぎる」といった場合、交通費の総額があまり変わらないのであれば、ある程度柔軟に話合いに応じてくれる会社もあります。

とはいえ、不必要、かつ、不自然に長すぎる経路を申請し、交通費を騙し取ることは、違法の疑いがある「交通費の横領」にあたります。

より安い交通手段で通勤する

第三の手口・方法は、「通勤手段」を偽る方法です。

自宅が会社の近くであったり、乗換え駅が近くにあったりする場合には、その区間を徒歩や自転車で通勤しよう、と考える労働者もいることでしょう。

徒歩や自転車で通勤することは、健康にはよいことですが、「事実の通り」に会社に申請をしておかないと、交通費を横領したり、だましとったりすることにつながりかねません。

というのも、徒歩や自転車で実際には移動した経路について、電車代をもらっている場合には、労働者は交通費をもらいすぎていることになり、すなわち、横領となってしまうからです。特急料金を請求しながら、特急に乗らず各駅停車に乗る行為も同様に、交通費のもらいすぎになります。

交通費を多くもらうことの責任

労働者が、会社から交通費を多くもらいすぎた場合には、責任追及を受けるおそれがあります。特に、故意に不正請求を行った場合には、その責任は大きなものとなります。

労使関係(雇用関係)における「法的な責任」を考えるときには、次の3つの観点から考える必要があります。

  • 民事上の責任(民法違反)
  • 刑事上の責任(刑法違反)
  • 雇用関係における責任(雇用契約違反)

それぞれ、民事上の責任については「民法」の不法行為、刑事上の責任については「刑法」の業務上横領罪、雇用関係における責任については雇用契約書・就業規則に定められた企業秩序順守義務違反が問題となります。

弁護士が順に解説していきます。

交通費の横領は犯罪?【刑事責任】

まず、交通費横領をしてしまった労働者にとって、最も重い責任が「刑事上の責任(刑法違反)」です。

具体的には、「会社をだまして、交通費をだましとった。」といえる場合には、刑法上の「詐欺罪」(刑法246条)にあたり「10年以下の懲役」となります。また、「業務上の地位を利用して、金銭を得た。」といえる場合には、刑法上の「業務上横領罪」(刑法253条)にあたり、同様に「10年以下の懲役」となります。

刑法の条文は、次の通りです。

刑法246条(詐欺罪)

1. 人を欺いて財物を交付させた者は、10年以下の懲役に処する。
2. 前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。

刑法253条(業務上横領)

業務上自己の占有する他人の物を横領した者は、10年以下の懲役に処する。

会社の従業員でなければ交通費申請をして交通費をもらうことはできないことから、交通費の横領は、「従業員としての業務上の地位を利用した」と考えられ、「業務上横領罪」という重い犯罪として処罰されます。

たかが交通費、少額の得、と甘い考えでいると、犯罪となって「前科」となってしまうおそれがあります。実際、金額が多額になると、逮捕、送検され、処罰されるケースもあります。

交通費の横領は懲戒処分?解雇?【雇用契約違反】

次に、会社内の問題行為について、会社が労働者に対して下す制裁(ペナルティ)が、「懲戒処分」です。「懲戒処分」は、企業秩序を乱す行為に対して、会社が下す処分のことです。

交通費をだまして嘘の申請をし、余分に受け取るという行為が、会社の秩序を乱していることは明らかです。少額とはいえ、許しておいて全労働者が行えば、経営に影響しかねません。

懲戒処分には、譴責(けん責)、戒告といった軽いものから、懲戒解雇などの重い処分まであります。

  • 譴責(けん責)・戒告
  • 減給・降格
  • 出勤停止
  • 諭旨解雇・諭旨退職
  • 懲戒解雇

交通費の横領については、けん責、戒告、減給など、退職を前提としない軽度の懲戒処分とするケースが多いのではないでしょうか。

ただし、軽度の懲戒処分に留められるのは、横領した交通費の金額がそれほど高額ではなかったり、「申請を忘れていた」など、悪質性、違法性の低い場合です。

横領した交通費の金額が多額であったり、注意を受けたにもかかわらず継続的に行っていたり、あえて巧妙に隠蔽していたりといった悪質なケースでは、懲戒解雇、諭旨解雇など重度の懲戒処分が許されるケースもあります。

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もらいすぎた交通費の返還【民事責任】

懲戒処分や刑事罰など、交通費を騙し取ったり、横領したりした労働者の責任は当然のこと、それ以外にも、実際にだまし取った交通費は、会社に返還しなければなりません。

この交通費の返還は、民事上の返還義務であり、法律の専門用語では「不当利得の返還請求権」といいます。

つまり、本来よりももらいすぎた交通費は、故意であろうと過失であろうと、会社の計算間違いであろうと、結局は労働者から会社へ返還しなければならないわけです。

再チェックで「バレる!」交通費の横領

会社は、労働者から交通費の申請があったときは、インターネット上の路線検索などを利用して、その申請が正しいかどうか、チェックをすることが一般的です。

「少額の横領だからバレないだろう」、「うちの会社の人事は杜撰だから、交通費の調査など行っていないはず」と甘く見ている労働者もいるかもしれませんが、一方で、交通費の横領がバレて、大変なことになって法律相談に来る方も後を絶ちません。

他方、先ほど解説した交通費横領の手口・方法の中には、労働者の申請書を再チェックしただけではバレない手口・方法もあります。例えば「引越ししたことを隠して、旧住所から通勤していたことにして交通費をだまし取る方法」、「申請後に、一部の経路を徒歩や自転車通勤とする方法」の場合、申請書を見ただけでは、会社が横領を見破ることはできません。

しかし、会社側に横領がバレてしまうケースはよくあります。

なぜバレる?交通費の横領がバレる理由

交通費横領は、今回の解説で説明しているとおり、企業秩序を乱すため懲戒処分の対象となったり、解雇となったり、最悪のケースでは刑事罰が科せられたりする可能性もある、重大な違反行為です。

また、労働者1人あたりは少額でも、全員分を合計すると、交通費も相当な高額になりますから、会社としても横領を野放しにはできません。

労働者が考えているよりも、会社は交通費の横領を真剣に突き止めようと調査しています。

経費削減などの理由で、労働者の交通費申請を再チェックし、より安い経路への切り替えを指示したり、わざとだまし取った交通費の横領を発見したりするケースも少なくありません。

横領がバレた後の流れ

交通費横領がバレてしまった場合には、会社は調査を行い、懲戒処分に向けた手続きを進めることとなります。

交通費の横領がバレてしまい、雇用契約上の責任追及、民事責任の追及、刑事責任の追及が行われる、よくある流れについて解説します。

step
1
事情聴取・懲罰委員会(懲戒委員会)

まず、会社が「交通費の不正・横領があるのではないか?」という疑問を抱いた場合には、徹底的に調査をし、客観的な証拠をもとに「裏どり」を行います。

「裏どり」をした後に事情聴取をされるため、事情聴取の際に嘘に嘘を重ねて塗り固めようとすると、更に「悪質な横領だ」という印象を強めることとなります。

違法性が強度な横領では、単なる人事による事情聴取にとどまらず、懲罰委員会(懲戒委員会)が開かれることもあります。この場合には、懲戒解雇など、より重度の懲戒処分が予定されていると考えられます。

step
2
謝罪・返金の合意

交通費の横領をしてしまった労働者側の対応策の第一歩は、まずは「謝罪」です。たとえ故意がなく、かつ少額なケースであっても、悪いことには違いありませんので、きちんと謝罪をしましょう。

そして、不正請求をし、横領してしまった交通費について、その金額分の返金を申し出てください。

この点で、労働者側でも、会社側の調査と並行して、横領額の調査が必要です。過去の通帳履歴、SuicaなどICカードの使用履歴、スケジュール帳、カレンダーなどを参考に、記憶喚起をしてください。

step
3
告訴・刑事事件化

ここまでの流れを受け、会社内における処分と民事上の責任(返金)を終えたとしても、違法性の強度な横領で、被害者(会社)の処罰感情が強い場合には、刑事事件化してしまうこともあります。

会社が告訴するケースでは、刑事事件として早めの「情状弁護」による対応が重要となります。

交通費横領がバレた労働者の「正しい対応」

過去に、甘い誘惑に負けて交通費を横領してしまった場合、労働者側の正しい対応は、「謝罪文を提出し、返金を申し出る」ということです。

会社にバレてしまってからでも、適切な対応を行わないよりは行ったほうがよいですが、「バレてから焦って対応した」と思われるよりも、できる限り早く対応し、誠意を見せるほうがお勧めです。

謝罪文の書式・ひな形

会社に提出する謝罪文の書式・ひな形のサンプルと、そのポイントをお示ししますので、参考にしてみてください。

謝罪文

株式会社○○○○
代表取締役社長○○○○ 様

この度は、私の軽率かつ非常識な交通費の横領行為により、貴社の秩序を乱し、かつ、貴社に損害を与えてしまったことについて、深く謝罪申し上げます。

自身の軽率な金銭欲に流され、私的な使い込みを行い、貴社にご迷惑をお掛けしまして、大変申し訳ございませんでした。

つきましては、私の横領した金額XXXX万円を、全額直ちにお返しするのが当然のことと理解しておりますが、手持ちの状況を勘案し、毎月XX万円ずつ返済をさせていただきたいと存じます。

この度の私の非違行為について、いかなる処分も甘んじて受けます。また、同時に退職届を提出しますので、私の進退については貴社のご判断に従います。

改めて、この度の私の行いにより、貴社に多大なる損害を与えましたこと、再度お詫び申し上げます。大変申し訳ございませんでした。

XXXX年XX月XX日
XX部XX課
○○○○ ㊞

ココがポイント

  • 「事実関係を認め、謝罪する」ことを第一目的とし、弁明・言い訳と解釈される記載を行わない。
  • 返金を申し出る。自身の都合により一括返済が難しい場合であっても、できる限り早期かつ短期の分割返済を申し出る。
  • 自身の懲戒処分及び解雇など進退に関することについて、自分の考えを記載し、寛大な処分を求める。

合意書の書式・ひな形

返金を申し出て、会社が横領額の受領に応じてくれた場合には、労使間での合意を「合意書」などの書面に残すことがあります。

合意書の書式・ひな形のサンプルと、そのポイントをお示ししますので、参考にしてみてください。

合意書

株式会社○○○○(以下「甲」という)と、△△△△(以下「乙」という)とは、乙が甲においてXXXX年XX月XX日からXXXX年XX月XX日までに行った一連の交通費横領行為(以下「本件」という)について、以下の通り合意した。

第1条
乙は、本件交通費横領行為を行い、甲よりXXXX万円の交通費を不正に受領したことを認め、甲に対して誠心誠意謝罪する。

第2条
乙は、甲に対して、上記金員XXXX万円について、XXXX年XX月XX日限り一括して、甲の指定する金融機関に対して振込送金の方法によって支払う。なお、振込手数料は乙の負担とする。

第3条
甲は、乙の謝罪を受け入れ、これ以上の処罰を望まない。

第4条
甲及び乙は、両当事者間に、本合意書に記載する以外の一切の債権債務関係のないことを、相互に確認する。

本合意書成立を証するため、本合意書を2通作成し、甲乙各自1通を保管する。

XXXX年XX月XX日
(甲)株式会社○○○○ 代表取締役社長○○○○ ㊞
(乙) ○○○○               ㊞

ココがポイント

  • 謝罪文と同様、まずは「謝罪と返金」を第一目的として作成する。
  • 会社が合意してくれる場合には、「刑事事件化し処罰を望むことはない」旨の嘆願条項を記載する。
  • 合意書に記載した返済義務以上の債権債務関係の存在しないことを「清算条項」として記載する。

「横領トラブル」は、弁護士にお任せください!

今回は、労働者が会社から交通費をもらうときの注意点、特に、交通費の横領、騙し取り行為の、労働者側の責任について、弁護士が解説しました。

法令遵守(コンプライアンス)意識の低い会社では、交通費申請が自己申告制で、かつ、事後チェックを行わないなど、労働者が悪意をもって横領をしようとすれば容易にできてしまう会社もあります。「最近使いすぎてしまった…」、「給料が低くて報われない…」など、つい誘惑に負けてしまうことがあります。

しかし、交通費を実際よりももらいすぎてしまうことは違法であり、故意に放置し続けた場合には、犯罪にもなりかねない危険な行為です。

交通費をもらいすぎてしまったときは、すぐに会社に申告をし、懲戒解雇・懲戒処分とならないよう防御しなければなりません。自身の行為の違法性に疑問がある労働者の方は、労働問題に強い弁護士に、お気軽に法律相談ください。

「横領トラブル」の法律知識まとめ

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弁護士浅野英之(弁護士法人浅野総合法律事務所 代表)

弁護士浅野英之(弁護士法人浅野総合法律事務所 代表)

弁護士法人浅野総合法律事務所(東京都中央区銀座)の代表弁護士(第一東京弁護士会所属)。 不当解雇、未払残業代、セクハラ、パワハラ、労災など、近年ニュースでも多く報道される労働問題について、「泣き寝入りを許さない」姿勢で、親身に法律相談をお聞きします。

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