たまに出張があると、業務の気分転換となって楽しいものですが、頻繁に出張があったり、それが遠方で移動時間がかなり長かったりすると、出張が憂鬱になる場合があります。
遠方の出張ばかりを命じられると、非常に負担が大きく、不安、不満を抱く労働者も少なくないのではないでしょうか。
- 「少しは賃金が上がらないものか。」
- 「出張日当、手当は出ないのだろうか。」
- 「出張している期間について適正な残業代が支払われているのだろうか。」
と不安、疑問に思う労働者の方も少なくないのではないでしょうか。
特に、現代の交通網の発展によって、遠方の出張であっても、国内であれば、日帰りで往復できる場合が非常に多くなってきました。
ブラック企業では、できる限り経費を抑え、労働力を酷使しようと考えますから、宿泊出張など認められるわけもなく、遠方出張からの帰着が深夜遅くとなるケースもあります。
出張期間中の労働時間の算出、残業代の計算については、一般的な理解と少し乖離している部分もあり、裁判例も合わせた労働法の正確な理解が必要です。
「出張期間中の残業代に未払があるのではないか?」と不安、不満な労働者は、労働問題に強い弁護士のご相談ください。
1. 出張のための移動時間は残業代の対象とはならない
出張が遠方、遠距離となり、移動時間が相当な長時間となる場合には、「早朝に出発し、帰着するのは深夜になる。」といったケースも少なくありません。
遠距離出張を繰り返し指示されると、「この長時間の移動時間には、別の賃金が発生するのが普通なのではないか。」という労働者の気持ちもよくわかります。
しかし、出張中の移動時間は、通常の通勤と同じ性質の時間であるとされ、労働時間には算出されず、したがって、法定労働時間を超えたとしても残業代を請求することはできません。
賃金支払いの対象となる「労働時間」とは、使用者の指揮命令下に置かれている時間をいいます。これに対し、出張の移動時間は、睡眠時間に充てたり、読書をしたりといった、労働者による自由利用が可能な時間であるためです。
裁判例でも同様に、使用者が具体的な業務を命令していない以上、出張のためであったとしてもその移動時間は労働時間に算出されず、また、残業代請求権も発生しないと判示されています。
日本工業検査事件(横浜地裁川崎支部昭和49年1月26日判決)出張の際の往復に要する時間は、労働者が日常出勤に費やす時間と同一性質であると考えられるから、右所要時間は労働時間に算入されず、したがってまた時間外労働の問題は起こり得ないと解するのが相当である。
以上の通り、出張のための移動時間は、特に具体的な業務を会社から命令されない限り、労働者が自由に利用することが保証されており、労働時間に該当しないのが原則です。
しかし、出張の際の移動時間に、次のように具体的な業務命令が会社からなされている場合には、会社の指揮監督下にあるのは明らかですから、労働時間に該当することとなります。
- 移動中の物品の監視を命令されているケース
- 移動中の病人の看護を命令されているケース
- 移動時間を利用した具体的な作業を命令されているケース
したがって、会社の指揮監督下にある場合には、出張の移動時間と業務時間とを合わせて法定労働時間を超える場合には、残業代支払請求が可能となります。
2. 出張中の労働時間の算出方法
会社は、労働者の実労働時間を適切に把握し、その労働時間にしたがった残業代を支払う義務があります。
しかし、出張の場合には、会社の事業場外で就労することになるため、タイムカードの打刻など、通常の方法によって労働時間を把握することが困難です。
通常の方法以外の方法によっても労働者の労働時間を把握することが困難な場合には、「事業場外みなし労働時間制」を導入し、所定労働時間、もしくは、労使協定を締結した時間だけ労働したものとみなす制度を利用することが考えられます。
ただ、次のケースでは、会社による具体的な労働時間の把握が困難とはいえないものと考えられています。
- 出張先の事業所で業務に従事する場合
- 労務を監理する権限を有する上司と一緒に出張する場合
- 出張のスケジュールが細かく決められている場合
すると、労働時間の把握が困難とはいえず、「事業場外みなし労働時間制」を適用することはできません。この場合には原則に戻って、法定労働時間を超える労働には、残業代支払請求権が発生することとなります。
3. 出張中に休日がある場合の取扱い
出張がある程度の日数となる場合には、平日だけの出張では足りず、出張期間中に休日があるケースがあります。
出張の移動日が休日となり、平日に出張先で業務を開始するためには、休日中に移動をしておく必要がある場合も少なくありません。
このように、出張期間中あるいは移動日が休日となる場合、「出張中の残業代」の問題はどのように考えるべきでしょうか。
結論からいうと、出張期間中であっても、休日は休日として取り扱うのが原則です。したがって、休日にも具体的な業務命令を受けて業務を行ったという場合でない限り、出張期間中であったとしても、残業代が発生することはないこととなります。
これに対し、出張期間中の休日に、具体的な業務命令がなされたり、または、黙示の業務命令に基づいて休日労働を行ったという場合には、休日割増賃金の請求を行うことができます。
4. まとめ
出張期間中の残業代についての基礎知識を解説しました。
出張期間中といえども、基本的には、通常の業務と同様に考えるところから出発します。
ただ、出張期間の取扱は、会社によって様々であり、会社によっては就業規則にあたる出張規程を設けていたり、就業規則において出張期間中の事業場外みなし労働時間制を定めていたりなど、特別な対応をしている場合があります。
まずは会社のルールを調べ、労働法に従って適法な扱いであるかを検討した上で、残業代の請求を検討するとよいでしょう。
残業代請求を検討している方は、労働問題に強い弁護士へご相談ください。