運送会社の違法な長時間労働の問題は、非常に深刻です。
運送会社など、運転業務を行う会社では、トラック運転手の労働時間が、売上に直結します。「運転させればさせるほど、会社が儲かる。」というわけです。
しかし、他方で、運転業務が労働者の心身に及ぼす影響は非常に重大であり、通常の事務作業などに比べて、長時間労働が労働者の心身の健康を害する危険性が非常に高い業務です。
そのため、運送会社の長時間労働防止のための指針が厚生労働省から出されているほか、労働基準監督署も運送会社に対する監視の目を強め、送検事例も非常に多い業種です。
それでもなお、労働基準法違反の違法残業は後を絶たず、適切な残業代が支払われていない運送会社も少なくありません。
今回は、運送会社のトラック運転手の違法な長時間労働、残業について、未払い残業代請求に強い弁護士が解説します。
1. 運送会社の違法残業はキケン!!
トラック運転手に違法な長時間労働を強要する運送会社は、実際のところ非常に多いです。このことは、労基署による送検例が多いことからも明らかです。
運送会社の違法残業は、会社内での事務作業に比べて、次のような危険につながるおそれが高い悪質な行為です。
- 長時間労働によって睡眠不足となり、居眠り運転
- 長時間労働を早く終わらせようと焦ってスピード違反
- 長時間労働のストレスから脇見運転
運送会社の悪質な長時間労働の結果、死傷者を伴う重大な交通事故につながる可能性があることから、労働者はもちろん、社会的にも非常に危険な行為です。
そのため、労働基準監督署も監督を強め、送検例も多く存在する他、悪質な場合には逮捕されるケースも少なくありません。
2. 悪質なブラック運送会社のチェックポイント
運送会社には、長時間労働、残業代未払いを繰り返す、悪質な「ブラック運送会社」が多く存在すると説明しました。
とはいえ、きちんと残業代を支払った上で、適切な労務管理を徹底し、残業時間が長くなりすぎないようにしている運送会社も存在します。
あなたの勤務している運送会社が、次のようなケースに当てはまる場合には、違法残業を強要するブラック企業である可能性を疑った方がよいでしょう。
2.1. 違法な残業代の未払い
まず、ブラック運送会社に最もよくある問題点が、違法な残業代の未払いです。
トラックドライバーをはたらかせるだけはたらかせて、それに見合った給与は与えない、というわけです。
- 採用時に支払うと言われた残業代が支払われていない。
- 残業代が固定額で、どれだけ働いても残業代が増えない。
- 歩合給が導入され、残業代が一切支払われない。
- 残業代の計算方法を教えてもらえない。
- 残業代の内訳が、雇用契約書、給与明細などから明らかではない。
- 就業規則を見せてもらうことができない。
以上のケースのいずれの残業代未払いのケースも、違法である可能性が非常に高く、労働基準法にしたがって計算した適正な残業代を請求できます。
以上のあてはまる運送会社ではたらいているトラックドライバーは、すぐにでも残業代請求をした方がいいといえますが、注意したいのは「給与体系」です。
ブラック企業な運送会社の中には、トラックドライバーの給与体系を非常に複雑にし、残業代の計算がしづらかったり、法律に照らして残業代が発生するのかどうかをわかりにくくしたりするからです。
名称不明な手当、計算根拠のわからない賃金が多く区分けされて支払われていたり、控除項目が多く設定されているような給与体系の場合、残業代を請求するときには、残業代計算を得意とする弁護士にご相談ください。
歩合給、固定残業手当、固定残業代、事業場外みなし制などの特殊な制度を導入している場合も同様です。
2.2. 違法な長時間労働
会社は、労働者が心身の健康を崩さないように、労働時間があまり長くなりすぎないように管理する義務を負っています。これを、安全配慮義務といいます。
しかし、悪質なブラック運送会社では、安全配慮義務違反を無視して、労働者に違法な長時間労働を強要します。
- 早出掃除、体操、後片付けなど、拘束時間が非常に長い。
- 休憩が取れず、食事は運転の合間にトラック内でとる。
- 次の運転業務との合間がなく、睡眠は運転の合間にトラック内でとる。
以上のケースはいずれも、長時間労働を会社が管理できておらず、これによってトラックドライバーの心身の健康が侵害されれば、会社による安全配慮義務違反という違法な行為となります。
2.2. パワハラによる過酷な労働環境
違法な残業代未払い、長時間労働について、会社が「労働法の知識にとぼしかった。」というだけであれば、まだ救いようがあります。
労働者の悲鳴に近い要求に対し、要求を受け入れないばかりか、さらに違法なパワハラによって追い打ちをかけるのが、ブラック運送会社です。
- 売上、ノルマが非常に厳しく、下回ると罰金がある。
- トラック使用料が売上から引かれるため手取り給与が少ない。
- 業務中の事故による修理費は、運転手が全額負担。
- 社長や上長に文句を言うとパワハラの対象となる。
- 有給休暇の取得を求めても、拒否される。
運送会社の長時間労働は、あなたの健康に深刻な被害をもたらします。心身が悲鳴を上げ、限界となる前に、弁護士に依頼して残業代請求などの対策を講じるべきです。
限界を迎え、過労死、過労自殺などの最悪の事態となってしまった後では手遅れです。ブラック企業に殺される前に、残業代請求をすることによって、労働力の酷使に歯止めをかけましょう。
3. 運送会社の残業を理由とする送検ケース
運送会社が違法な残業を理由として、送検されたケースは、直近では次のような例があります。
運送会社の悪質な違法残業は、非常に危険であることから、労基署も注意の目を光らせています。
送検ケースの中には、業務中に、くも膜下出血、脳出血などの脳の病気や、心臓に関する病気になって、労災申請をきっかけに発覚するケースも多いですが、心身を壊してからでは遅いといわざるをえません。
4. 残業代請求によって身を守る
運送会社の違法な長時間労働によって、あなたの心身の健康が害されるだけでなく、危険な交通事故を起こしかねませんから、違法な長時間労働に対抗しなければなりません。
とはいえ、「労働者」という弱い立場にあるトラックドライバーにとって、運送業務を拒否することは非常に勇気のいることです。
なぜ運送会社が長時間労働を強要するのかといえば、その分の残業代を支払わなかったり、固定残業代以上の残業代を支払わなかったりといった扱いによって、労働力をタダで使い、利益を上げるためです。
したがって、長時間労働をした分の適切な残業代を請求すれば、残業代を支払いたくない運送会社は、それ以降、違法な長時間労働の強要を行わないようになる可能性が高いといえます。
ブラック運送会社に酷使されている運転手の皆様は、まずは適切な残業代請求をするところから始めましょう。
4.1. 弁護士から内容証明を送付してもらう
まずは、違法な長時間労働をストップさせ、未払いとなっている残業代を支払ってもらう第一歩として、弁護士から、労働者側の主張をまとめた「通知書」を、内容証明によって送ってもらいます。
内容証明によって送ることの意味は、その後に労働審判や訴訟といったトラブルとなった場合に、残業代を請求するという交渉をしていた事実を、客観的に証明するためです。
この際に弁護士名義で残業代請求を行うことによって、会社側にプレッシャーを与え、「労働者の請求を無視する。」といった最悪の対応を防ぐことができます。
4.2. 残業代請求の証拠を整理する
残業代請求を行う場合、トラックドライバーの側には、労働時間を証明するための証拠がなく、運送会社がすべて保管しているケースがほとんどです。
そこで、次のような労働時間を証明するための証拠を、先ほどの内容証明とともに会社に対して請求をし、残業代の計算をする準備をします。
- タイムカード
- 業務日報・運転日報
- 配車票
- タコグラフ(デジタコデータ)
- 車載カメラのデータ
- 業務報告メール
- 携帯電話の発着信(特に「荷受け」の連絡)
- 配送時刻のデータ
- アルコール検知記録
残業代請求に必要な証拠のうちの多くは、運送会社の事務所、営業所に保管されていることがほとんどですので、証拠収集のためには、開示してもらうように求めなければなりません。
会社が残業代請求の証拠収集に協力してくれることはマレですから、弁護士による内容証明のときに、証拠の提出も合わせて要求します。
労働時間、運転時間を証明する証拠が集まったら、労働基準法にしたがって、適切な残業代を計算します。
運送会社のトラックドライバーというと、「残業代は支払われないのが当然」「残業代請求は困難」と思いがちですが、実はそうではありません。
上に列挙した証拠からわかるとおり、運送会社特有の証拠が多くあります。これは、運送業を行うためには、トラックの運行を管理しなければならないからです。
そのため、残業をした事実、その労働時間を示す証拠は、客観的に多く残っています。適切な方法をとれば、運送会社はむしろ、残業代を多く獲得しやすい業種であるとすらいえるでしょう。
4.3. 労働審判・訴訟で残業代を請求する
以上の弁護士による交渉の結果、運送会社がすなおに残業代支払いに応じてくれる場合には、和解によって残業代を獲得することができます。
しかし、ブラック運送会社の場合、本来支払わなければいけない残業代を免れているにもかかわらず、残業代の請求に応じないケースも少なくありません。
ブラック運送会社が残業代支払いに協力しない場合には、これ以上交渉を続けていても進むことはありません。そこで、弁護士に依頼し、労働審判、もしくは、訴訟の方法によって残業代を請求してもらいましょう。
5. ドライバーの残業代請求への会社の反論は?
トラックやバス、タクシーのドライバーの場合、残業代を請求されるおそれがあることは会社も予想しており、反論を準備している場合も少なくありません。
特に、残業代請求をよく受けている運送会社の場合には、残業代請求に対する反論には慣れたものではないでしょうか。
そこで、会社がよく行う、運転手の残業代請求に対する反論について、果たして会社の反論が正しく残業代をあきらめなければならないのか、それとも、ブラック企業の言い訳に過ぎないのかを、弁護士が解説します。
5.1. ドライバー(運転手)は個人事業主?
ドライバーによる残業代請求に対する会社の反論の1つ目は、「ドライバー(運転手)は個人事業主であるから、残業代はそもそも発生しない。」というものです。
残業代は、雇用をしている労働者であるからこそ請求できる権利であって、個人事業主である場合には残業代を請求することはできません。
しかし、車両を自分で準備し、他の会社の仕事も受けているようなドライバーでもない限り、「ドライバー(運転手)は個人事業主だから。」という反論で、残業代を支払わないことは違法であると考えてよいでしょう。
5.2. 無事故手当は残業代に含まれる?
運送業の会社の中には、給与の中に「無事故手当」という項目があるケースがあります。そして、ドライバーによる残業代請求に対する会社の反論の2つ目として、この無事故手当が残業代に充当される、というものがあります。
しかし、「無事故手当」は、あくまでも事故がなかったことに対して、ドライバー(運転手)個人の評価として支払われるものであって、残業代に充当されるものではありません。
5.3. 皆勤手当は残業代に含まれる?
運送会社の、残業代請求に対するよくある反論の3つ目は、「皆勤手当に、残業代が含まれている。」という反論です。
しかし、皆勤手当もまた、さきほど解説した無事故手当と同様、欠勤をしなかったことに対する高評価として、会社が労働者に対して支払うものであって、残業代の一部として支払うものではありません。
また、皆勤手当が、すべてのドライバーに一律に支給されているような場合には、労働時間に対する賃金であるとして、残業代の計算において、基本給と同じ扱いと考えるべきケースもあります。
6. 【体験談】運送会社に対する残業代請求
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- ご相談までの経緯
私は、東京に上京して、大学を卒業後、新卒で、社員数数十人程度の運送会社に、トラックのドライバーとして入社しました。ドライバー歴は10年です。
私は当時、トラックの運転が好きで、東京の道にも非常になれていましたから、東京を中心として、店舗への配送業務に配属されることとなりました。
今年で、トラック運転手として勤続15年になりますが、無事故無違反で真面目に働き、会社には大きな貢献をしてきたいという自負があります。
私の仕事は、店舗への配送業務のため、店舗が開店するよりも前に荷物を出荷しなければならないことから、朝は非常に早起きをして出社しなければなりません。あたりの暗い深夜ころに起床し、自宅のある埼玉県から東京の本社へ向かい、荷物を受け取って、各店舗を回ります。
運転業務だけならまだよいのですが、運転業務を終えて、東京にある本社に戻ると、業務日報の作成、東京本社内の掃除、翌日の積荷の管理など、運転業務以外にもやらなければならない業務が多くあります。そのため、これら全ての業務を終了すると、あっという間に夜になっています。
そこからまた、東京本社から埼玉の自宅へ戻ると、睡眠時間をほとんど確保できません。そのため、週に何日かは、東京本社内で、トラックの中で仮眠をとって次の日の運転業務に臨むこととなります。
5年前に結婚して、埼玉に持ち家を購入したことから、家のローン、妻子の生活費は、私の両肩に重くのしかかってきます。現在の長時間労働ですと、他の仕事を合間に行うのも困難ですが、会社は「残業代は基本給に含まれているから、労働時間が長くなっても残業代を支払うことはできない。」の一点張りで、残業代に関する詳しい説明をしてくれません。
私も労働法に関する知識はあまりなく、おそらく残業代が支払ってもらえるのではないかとは思うのですが、会社の人事担当の人に強く言われると、あまり自身がありません。
- 弁護士による労働問題の解決
長時間労働に苦しむ中、運転業務の待ち時間に、ふと「残業代が発生しないのはおかしいのではないか。」と思い立ち、スマートフォンで「運送業、残業代」で検索し、浅野総合法律事務所が労働問題に力を入れていることを知りました。
電話で問い合わせをすると、トラック運転手であっても残業代請求が可能であるということだったので、初回相談にいくことにしました。
急な相談だったので、とりあえず手元にあった給与明細と、労働時間について自分で作成したメモ帳を持っていきましたが、残業代請求が可能なケースであるという弁護士の回答にほっとしました。早速、弁護士の指示に従って追加の資料、証拠を準備し、残業代を計算してもらい、会社に対して残業代を請求しました。
新卒からお世話になった会社に残業代を請求するのはどうなのかと悩んでいましたが、「残業代は、働いた分の正当な対価であるから後ろめたい気持ちになる必要はない。」という弁護士の言葉に勇気が出ました。
弁護士と相談しながら残業代の請求額を決めていくうちに、自分のように明け方近くから深夜まで働いている場合には、深夜割増賃金によって、更に高額の残業代が請求可能であると知りました。労働法の知識はやはり重要です。
その後、弁護士名義の内容証明を送付した結果、会社から弁護士に対して連絡があり、話し合いによって残業代の支払を得ることができました。また、その後は、適切な残業代が支払われるようになった一方で、会社としても高額の残業代を支払いたくないのか、無理な長時間労働の強要はなくなり、埼玉の自宅で家族と共に十分な睡眠時間と休日を満喫することができるようになりました。
- ご相談までの経緯
法律相談事例は、運送業、運送会社に勤めるトラックドライバーに関するご相談いただける労働問題の具体例をあげたもので、実際の法律相談の内容とは異なります。
実際の相談では、弁護士は、弁護士法で守秘義務を負っていますので、相談内容をホームページ上で公開したり、秘密を漏らしたりすることは、絶対にありません。
労働問題にお悩みの方は、安心して、労働問題を得意とする弁護士へご相談ください。
7. まとめ
運送会社(運送業)ではたらく労働者の方に向けて、トラックドライバーの長時間労働、違法な残業代未払いについて解説しました。
数ある業種の中でも、トラックの運転手ほど、長時間労働で酷使され、悪質なブラック運送会社によってキケンな目にあわされている方はいません。
ご自身の労働環境が、労働基準法違反となるとお考えのトラックドライバーさんは、ぜひ労働問題に強い弁護士に法律相談してみてください。