玉突き人事は、一人の異動が引き金となり、次々と他の従業員の配置転換が行われる現象のことです。人事異動が「玉突き」のようにして起こることからこの名が付けられましたが、予期せぬ異動やポジションの変更が起こり、労働者に大きなストレスを与えることが多いです。
玉突き人事を拒否することは可能なのでしょうか。更に、「玉突き」の最終的な結果として、退職を余儀なくされる場合、どう対処すべきでしょうか。会社の人事権といえど、一方的な異動は違法となることがあります。特に、玉突き人事だと、「玉突き」に遭った側にとっては、理由のない不当な異動であることも少なくありません。
今回は、玉突き人事の仕組みと、異動や退職をせざるを得なくなった労働者の具体的な対処法について、労働問題に強い弁護士が解説します。
- 玉突き人事で、理由なく異動させられてしまうと、労働者にとって不利益が大きい
- 辞めさせる目的があるなど、違法な玉突き人事なら、拒否することができる
- 玉突き人事の結果、退職せざるを得ないなら、その前に会社の責任を追及する
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玉突き人事とは
玉突き人事とは、一つの人事異動で生じた欠員を補充するため、複数の配置転換が連鎖してなされる現象を指します。ビリヤードの「玉突き」で、一つの玉が他の玉に衝突して連鎖して動くのと同じく、一人の異動が引き金となって次々と人事異動が続く様子を表現しています。
組織変更や異動の結果として、やむを得ず、玉突き人事が起こることがあります。組織のポジションは限られており、外部からの登用も常に成功するとは限りません。その結果、異動によって生じた欠員は、社内の人員で穴埋めするしかないと、玉突きが生じます。代替要員が見つかりづらい高度なスキルを有する社員の退職、不祥事による予期せぬ異動といった場面では、玉突きが起こりやすい状況となります。
玉突き人事は会社の都合によって進みますが、「玉突き」を食らった側の労働者にとっては突然の異動となり、大きな負担となってしまいます。
組織再編に伴う玉突き人事
玉突き人事が最もよく起こるのが、組織全体の大きな再編があるケースです。
例えば、部署が新設されたり、統廃合されたりした結果としてポジションが増減すると、その結果として、現在の人事を大きく変更しなければならなくなります。部門の再編によって責任者が必要となるなどして、ある社員が抜擢されると、その異動によって生じた欠員を穴埋めするために、別の社員が連鎖的に配置転換され、玉突き人事が発生します。
昇進に伴う玉突き人事
重要なポジションに昇進する人がいる場合にも、玉突き人事が生じやすいです。
昇進、昇格によって、その人が元いたポジションは空くこととなり、それを埋めるために、他の従業員が異動する必要が生じます(下の役職から出世させて埋める場合もあれば、他の部署から同格の社員を配置転換させることもあります)。このような異動は連鎖することが多く、空いたポジションに部下を昇格させれば、その部下のポジションを補うために異動が必要となります。
「左遷の特徴と対処法」の解説
降格に伴う玉突き人事
当然ながら、逆に、降格が連鎖してしまうパターンもあり得ます。
例えば、外部からの登用によって部長ポストを奪われた人が降格させられ、更に下のポジションにいた人の降格を誘発するといったケースです。このとき、降格が連鎖した結果、「玉突き」の最終地点にいる人は、組織にとって不要な人材となり、退職を余儀なくされることもあります。
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横滑りの玉突き人事
「縦型」だけでなく、「横型」の玉突き人事もあります。つまり、同格の社員であっても、転勤などによって異動が発生した結果、玉突きが起こってしまうケースです。
よくあるのが、部署間で横にスライドする異動によって起こる玉突き人事です。例えば、ある部署の部長が、隣の部署の責任者を兼任していたところ、その部署の部長が新規事業に引き抜かれて異動、その後、その穴埋めとして異動が連鎖し、玉突き人事となるようなケースです。
玉突き人事によって思わぬ不利益を受けてしまったとき、労働問題に精通した弁護士に相談し、早急に対処しましょう。
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玉突き人事は拒否できるか
次に、玉突き人事を拒否できるか、解説します。
玉突き人事は、会社にとっての都合で行われます。
人材をできる限り節約して業務を継続し、不必要な社員を追い出す効果があるからです。
しかし、労働者にすれば突然の異動にモチベーションが下がります。
玉突き人事で、人生設計を見直さなければならないのは不満でしょう。
マイホームを購入した矢先など、玉突き人事が予想外のキャリアとなることも。
玉突き人事は、急を要し、検討の時間がなく、無計画になりがちです。
違法な玉突き人事は拒否できる
人事権は、会社の権利であり、異動にはある程度の裁量があります。
そのため、労働者は人事異動を拒否できないのが原則。
しかし、会社都合でされる玉突き人事には、無理やりなものも多くあります。
そのなかには、人事権の行使が違法なケースも少なくないもの。
違法な玉突き人事は無効であり、拒否することができます。
「不当な人事評価」の解説
玉突き人事が違法となるケースとは
玉突き人事が違法なら、拒否して、リスクを回避できます。
玉突き人事が違法となるケースとは、具体的には、次のとおりです。
- 会社に、人事異動を命じる権利がないケース
- 権利はあっても、命令が権利濫用となるケース
- 法令で禁止された差別のケース命令が法令で禁止されている差別にあたること
命令権の根拠は、就業規則に定められます。
ただ、職種や勤務地を限定する合意をしていれば、その範囲を超える人事は違法です。
明示に合意しなくても、専門職種で採用されたなら、他の職種には変更できません。
この点から、次の玉突き人事は違法です。
- 予定されていない他の職種に転換された
- 資格を要する専門職種を、平社員に降格させた
また、命令権の濫用といえるのは、業務上の必要性がなかったり、不当な動機・目的があったり、通常感受すべき程度を著しく超える不利益があったりする場合です。
- 玉突き人事の移動先で、人員補充の必要性がない
- 退職させたい社員を、あえて玉突き人事の対象に選ぶ
- 玉突き人事の結果、遠方の事業所の所属とする
過去の裁判でも権利濫用が認められた事例があります(公益財団法人えどがわ環境財団事件:東京高裁平成27年3月25日判決など)
「違法な異動命令を拒否する方法」の解説
モチベーションは高く保つ
玉突き人事を拒否するにせよ、モチベーションは高く保たねばなりません。
玉突きの対象となると、穴埋め要員と思ってしまいがち。
「軽視された」と希望を失い、仕事をおろそかにすれば会社に付け入るすきを与えます。
玉突き人事を拒否するなら、異動が不当だと主張するためにも熱意を見せましょう。
人の代わりに異動させられるのは納得いかないでしょう。
「不当解雇に強い弁護士への相談方法」の解説
玉突き人事で出世できる例もある
玉突き人事も悪いことばかりではありません。
玉突き人事の結果として、出世できるケースもあるからです。
縦パターンの玉突き人事は、降格させられる例もありますが、昇格や昇進もあります。
このとき、役職に応じた昇給が期待できますし、時間の自由も効くようになります。
横パターンの玉突き人事は、短期的な不利益は大きく、不満につながるケースも多いもの。
ただ、長い目線で見れば、出世できる可能性もあります。
多くの部署や職種を経験するのは、社内での活躍につながりやすくなるからです。
一時的に収入が下がっても、経験値やスキルが蓄積すれば人材の価値は高まります。
マイナスの玉突き人事の被害にあうのも、その部署や職種が合っていないのかもしれません。
玉突き人事による横のスライドが、結果的に、適正ある仕事を見つける機会となる例もあります。
出世して管理職となるとき、不当な処遇を受けないよう注意してください。
管理職のリスクは、詳しくは次の解説をご覧ください。
「管理職を辞めたい場合」「名ばかり管理職」の解説
玉突き人事で退職させられた時の対処法
最後に、玉突き人事を受け、退職する際に、どう対処すべきかを解説します。
玉突き人事を受けても、辞めなければならないわけではありません。
しかし、玉突き人事の結果として、退職せざるをえないケースがあります。
不要な社員として雑に扱われ、玉突きでスミに追いやられる例があります。
継続して働くのが難しいほど不利益を負わされれば、会社と争うべきです。
玉突き人事の理由を聞く
まず、玉突き人事の理由を聞くのが大切です。
その理由は、具体的に知らなければならないので、深堀りして確認してください。
玉突きで異動した先の部署に問題がある場合、人事異動では問題は解決しません。
離職率の高いポジションに玉突きで追いやられたら、辞めさせる目的かもしれません。
玉突きの多くは、「ポジションが空いたから」という理由を主張されます。
つまり、穴埋めのために仕方ないというわけ。
しかし、裏に別の目的があるなら、その玉突き人事は不当であり、違法性がある可能性あり。
対象となった労働者の不利益が大きすぎないか、確認が必要です。
代替案を提案する
玉突き人事の理由をはっきりさせ、回避したいなら代替案を提案しましょう。
玉突き人事をする会社の理由をつぶしていくのがポイントです。
次のステップで、順に検討してください。
- そもそも玉突き人事が必要か
→玉突き人事をしなくても、新規採用など、他の方法があるか - 欠員の出た部署・ポジションは必要か
→その部署・ポジション自体が不要なのではないか - 補充が必要だとして、なぜ他の社員でなく自分が対象なのか
→他の社員に担当させたほうが活躍できるのではないか
特に、あなたの人事の不利益が大きいなら、それに相当する必要性を説明させましょう。
会社もまた、代替案を提案されてはじめて気づくこともあります。
玉突き人事の不当性を争う
以上の検討の結果、玉突き人事が不当なときは、会社と争い、撤回を求めてください。
違法であると説得的に示せれば、撤回を勝ち取れるケースもあります。
会社が、話し合いに誠意をもって応じないなら、裁判手続きが必要です。
具体的には、訴訟より簡易な制度で、労働者保護を目的とした労働審判の申立てがお勧め。
違法な玉突き人事を強要されたなら、慰謝料請求をすることもできます。
「裁判で勝つ方法」の解説
退職する
マイナスとなる玉突き人事の対象となったら、潔く退職するのも一つの方法。
というのも、不利益の大きい玉突き人事は、あなたの評価が低いことを示すからです。
退職するならば、玉突き人事による異動に応じなくて済みます。
その分、不利益は回避できます。
しかし、会社を辞めざるを得ない点には、補償を求めたいところでしょう。
また、会社が辞めさせるまでは考えていないとき、退職させてもらえない危険もあります。
退職前に弁護士に依頼し、サポートを受ければ、こういった退職に伴う不利益を回避できます。
なお、自主的に退職するならば、その退職は「自己都合」。
失業保険に、2ヶ月の給付制限期間が付くほか、受け取る金額も少なくなります。
一方、会社による不当な玉突き人事は、会社都合の退職となることもあります。
会社都合の退職が勝ち取れるのは、例えば以下のケース。
- 新しい部署で労働時間が深夜帯に変更された。
- 異動に伴い賃金が大幅に減額された。
- 遠方への転勤だが住宅手当が全く支給されない。
- 玉突き人事を拒否したら、強度のハラスメントを受けた。
- 親族を常時看護しなければならない。
「転勤を理由に退職できる?」の解説
転職する
継続して働きたいなら、玉突き人事でも転職活動をしておくべきでしょう。
玉突き人事は、会社にとっては重要な労務管理の手段。
従わずに退職すれば、会社から損害賠償請求を受ける危険もあります。
しかし、玉突き人事で退職せざるをえないのは、労働者に非はありません。
嫌がらせを受けても、屈せず、転職活動をするようにしてください。
「退職したらやることの順番」の解説
まとめ
今回は、玉突き人事が違法となるケースを中心に、対処法を解説しました。
玉突き人事は、経営判断によって避けられないこともあるものの、被害に遭った労働者を退職に追い込んでしまう場合には、被害は甚大です。労働者の権利を理解し、適切に対処することが大切です。正当な理由のない異動や、意思に反して退職を強要されることは、違法となる可能性が高いです。冷静になって、必要な法的手段を講じることで、自身の権利を保護する必要があります。
玉突き人事は、会社にとって急を要する場合が多く、労働者への配慮が不十分となりがちです。違法な玉突き人事の被害に遭ったなら、断固として拒否し、会社と戦わなければなりません。玉突き人事に巻き込まれ、結果的に辞めざるを得なくない方は、ぜひ弁護士にご相談ください。
- 玉突き人事で、理由なく異動させられてしまうと、労働者にとって不利益が大きい
- 辞めさせる目的があるなど、違法な玉突き人事なら、拒否することができる
- 玉突き人事の結果、退職せざるを得ないなら、その前に会社の責任を追及する
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