人事異動が、玉突きで起こることがあります。
玉突き人事は、労働者にマイナスのイメージで使われますが、プラスもあります。
玉突きの結果として、昇進、出世できるケースもあるからです。
しかし、玉突きで、突然の異動を命じられ、退職させられるのは回避したいところ。
今までやってきた仕事と180度違う仕事だと、戸惑いや驚きも当然です。
自分の成長が加味された選抜なのか、それとも玉突きで穴埋めしたに過ぎないのか……。
判断が難しいケースも多いものです。
会社の人事権といえど、一方的な異動は不当な場合もあります。
今回は、玉突き人事によるトラブルへの対処法を、労働問題に強い弁護士が解説します。
- 玉突き人事はデメリットばかりでなくメリットもあるが、労働者にとって不利益は大きい
- 辞めさせる目的があるなど、違法な玉突き人事なら、拒否することができる
- 玉突き人事の結果、退職せざるをえないなら、その前に会社の責任の追及を検討する
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★ 不当人事の労働問題まとめ
玉突き人事とは
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玉突き人事とは、ある人事で生じた欠員を補充するため、やむなく次の人事異動をすること。
異動が、ビリヤードで突かれた玉のように連鎖するので、こう呼ばれます。
玉突き人事は、さらなる玉突き人事を生みます。
ある部署の欠員を補充すれば、他の部署の人員が不足し、連鎖してしまうからです。
人手不足の解消は、外部からの中途採用や新卒の募集など、異動以外の手もあります。
しかし、緊急性が高いと社内人員から充てざるをえず、さらにポストの空きが生じます。
玉突き人事では、ポストが空き、補充には急を要します。
そのため、通常の人事異動よりも突発的に行われるのが特徴です。
労働者からすれば、予期するのが難しい人事異動ということになります。
玉突き人事の対象
では、どういったポストが玉突き人事の対象となるのか。
玉突き人事の対象となりやすい労働者には、特徴があります。
玉突き人事の対象となるのは、欠けた人員に劣らない社員です。
欠員を埋めなければならないのは、そのポストが会社にとって重要なものだから。
さもなくば、通常の異動や採用を待たずに玉突き人事をする必要はありません。
このとき、単なる「穴埋め要員」ではなく、十分な評価をされているのです。
しかし、玉突き人事は、マイナス評価によっても起こります。
玉突きで、降格が連鎖してしまうケースがその典型。
このとき、玉突き人事は、労働者にとって不利益となります。
他に同僚がいるのに玉突きの対象で降格となったら、社内の評価が低いおそれがあります。
縦パターンの玉突き人事
玉突き人事には、その異動の種類によって、縦と横のパターンに分けられます。
縦パターンの玉突き人事は、連鎖的に、次の異動が起こるケースです。
- 昇進・昇格(上方向の異動)
- 降格(下方向の異動)
縦の玉突きは、上司の抜けた穴を埋めるために、部下が昇進するパターンが典型例です。
部長が退職し、その枠を埋めるために副部長が昇進、さらにその枠を……といったパターン。
ただ、その逆もあります。
例えば、外部からの登用によって部長ポストを奪われて降格させられるケース。
そのさらに下のポジションへと降格が連鎖してしまえば、玉突き人事となります。
このとき降格の連鎖だけでなく、不要な人材とされれば退職を余儀なくされることもあります。
退職勧奨のよくある手口と対処法は、次に解説します。
横パターンの玉突き人事
横パターンの玉突き人事もあります。
横の玉突きは、配転や転勤など、さまざまな異動の方法によって起こります。
よくあるのが、部署間で横にスライドする異動で起こる玉突きです。
例えば、A部署の部長がB部署を兼任し、B部署の部長が横にスライド、その後、その部署の長も配転させられて、異動が連鎖し、玉突き人事となるようなケースです。
玉突き人事による不利益は、弁護士に相談できます。
労働問題に強い弁護士の選び方は、次に解説します。
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玉突き人事は拒否できるか
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次に、玉突き人事を拒否できるか、解説します。
玉突き人事は、会社にとっての都合で行われます。
人材をできる限り節約して業務を継続し、不必要な社員を追い出す効果があるからです。
しかし、労働者にすれば突然の異動にモチベーションが下がります。
玉突き人事で、人生設計を見直さなければならないのは不満でしょう。
マイホームを購入した矢先など、玉突き人事が予想外のキャリアとなることも。
玉突き人事は、急を要し、検討の時間がなく、無計画になりがちです。
違法な玉突き人事は拒否できる
人事権は、会社の権利であり、異動にはある程度の裁量があります。
そのため、労働者は人事異動を拒否できないのが原則。
しかし、会社都合でされる玉突き人事には、無理やりなものも多くあります。
そのなかには、人事権の行使が違法なケースも少なくないもの。
違法な玉突き人事は無効であり、拒否することができます。
「不当な人事評価」の解説
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玉突き人事が違法となるケースとは
玉突き人事が違法なら、拒否して、リスクを回避できます。
玉突き人事が違法となるケースとは、具体的には、次のとおりです。
- 会社に、人事異動を命じる権利がないケース
- 権利はあっても、命令が権利濫用となるケース
- 法令で禁止された差別のケース命令が法令で禁止されている差別にあたること
命令権の根拠は、就業規則に定められます。
ただ、職種や勤務地を限定する合意をしていれば、その範囲を超える人事は違法です。
明示に合意しなくても、専門職種で採用されたなら、他の職種には変更できません。
この点から、次の玉突き人事は違法です。
- 予定されていない他の職種に転換された
- 資格を要する専門職種を、平社員に降格させた
また、命令権の濫用といえるのは、業務上の必要性がなかったり、不当な動機・目的があったり、通常感受すべき程度を著しく超える不利益があったりする場合です。
- 玉突き人事の移動先で、人員補充の必要性がない
- 退職させたい社員を、あえて玉突き人事の対象に選ぶ
- 玉突き人事の結果、遠方の事業所の所属とする
過去の裁判でも権利濫用が認められた事例があります(公益財団法人えどがわ環境財団事件:東京高裁平成27年3月25日判決など)
違法な異動命令の拒否について、次の解説を参考にしてください。
モチベーションは高く保つ
玉突き人事を拒否するにせよ、モチベーションは高く保たねばなりません。
玉突きの対象となると、穴埋め要員と思ってしまいがち。
「軽視された」と希望を失い、仕事をおろそかにすれば会社に付け入るすきを与えます。
玉突き人事を拒否するなら、異動が不当だと主張するためにも熱意を見せましょう。
人の代わりに異動させられるのは納得いかないでしょう。
不当解雇はすぐ弁護士に相談すべきです。
不当解雇に強い弁護士への相談方法は、次に解説します。
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玉突き人事で出世できる例もある
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玉突き人事も悪いことばかりではありません。
玉突き人事の結果として、出世できるケースもあるからです。
縦パターンの玉突き人事は、降格させられる例もありますが、昇格や昇進もあります。
このとき、役職に応じた昇給が期待できますし、時間の自由も効くようになります。
横パターンの玉突き人事は、短期的な不利益は大きく、不満につながるケースも多いもの。
ただ、長い目線で見れば、出世できる可能性もあります。
多くの部署や職種を経験するのは、社内での活躍につながりやすくなるからです。
一時的に収入が下がっても、経験値やスキルが蓄積すれば人材の価値は高まります。
マイナスの玉突き人事の被害にあうのも、その部署や職種が合っていないのかもしれません。
玉突き人事による横のスライドが、結果的に、適正ある仕事を見つける機会となる例もあります。
出世して管理職となるとき、不当な処遇を受けないよう注意してください。
管理職のリスクは、詳しくは次の解説をご覧ください。
玉突き人事で退職させられた時の対処法
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最後に、玉突き人事を受け、退職する際に、どう対処すべきかを解説します。
玉突き人事を受けても、辞めなければならないわけではありません。
しかし、玉突き人事の結果として、退職せざるをえないケースがあります。
不要な社員として雑に扱われ、玉突きでスミに追いやられる例があります。
継続して働くのが難しいほど不利益を負わされれば、会社と争うべきです。
玉突き人事の理由を聞く
まず、玉突き人事の理由を聞くのが大切です。
その理由は、具体的に知らなければならないので、深堀りして確認してください。
玉突きで異動した先の部署に問題がある場合、人事異動では問題は解決しません。
離職率の高いポジションに玉突きで追いやられたら、辞めさせる目的かもしれません。
玉突きの多くは、「ポジションが空いたから」という理由を主張されます。
つまり、穴埋めのために仕方ないというわけ。
しかし、裏に別の目的があるなら、その玉突き人事は不当であり、違法性がある可能性あり。
対象となった労働者の不利益が大きすぎないか、確認が必要です。
代替案を提案する
玉突き人事の理由をはっきりさせ、回避したいなら代替案を提案しましょう。
玉突き人事をする会社の理由をつぶしていくのがポイントです。
次のステップで、順に検討してください。
- そもそも玉突き人事が必要か
→玉突き人事をしなくても、新規採用など、他の方法があるか - 欠員の出た部署・ポジションは必要か
→その部署・ポジション自体が不要なのではないか - 補充が必要だとして、なぜ他の社員でなく自分が対象なのか
→他の社員に担当させたほうが活躍できるのではないか
特に、あなたの人事の不利益が大きいなら、それに相当する必要性を説明させましょう。
会社もまた、代替案を提案されてはじめて気づくこともあります。
玉突き人事の不当性を争う
以上の検討の結果、玉突き人事が不当なときは、会社と争い、撤回を求めてください。
違法であると説得的に示せれば、撤回を勝ち取れるケースもあります。
会社が、話し合いに誠意をもって応じないなら、裁判手続きが必要です。
具体的には、訴訟より簡易な制度で、労働者保護を目的とした労働審判の申立てがお勧め。
違法な玉突き人事を強要されたなら、慰謝料請求をすることもできます。
労働者が裁判で勝つ方法について、次に解説します。
退職する
マイナスとなる玉突き人事の対象となったら、潔く退職するのも一つの方法。
というのも、不利益の大きい玉突き人事は、あなたの評価が低いことを示すからです。
退職するならば、玉突き人事による異動に応じなくて済みます。
その分、不利益は回避できます。
しかし、会社を辞めざるを得ない点には、補償を求めたいところでしょう。
また、会社が辞めさせるまでは考えていないとき、退職させてもらえない危険もあります。
退職前に弁護士に依頼し、サポートを受ければ、こういった退職に伴う不利益を回避できます。
なお、自主的に退職するならば、その退職は「自己都合」。
失業保険に、2ヶ月の給付制限期間が付くほか、受け取る金額も少なくなります。
一方、会社による不当な玉突き人事は、会社都合の退職となることもあります。
会社都合の退職が勝ち取れるのは、例えば以下のケース。
- 新しい部署で労働時間が深夜帯に変更された。
- 異動に伴い賃金が大幅に減額された。
- 遠方への転勤だが住宅手当が全く支給されない。
- 玉突き人事を拒否したら、強度のハラスメントを受けた。
- 親族を常時看護しなければならない。
異動・転勤を理由とする退職と、会社都合の失業保険について、次に解説します。
転職する
継続して働きたいなら、玉突き人事でも転職活動をしておくべきでしょう。
玉突き人事は、会社にとっては重要な労務管理の手段。
従わずに退職すれば、会社から損害賠償請求を受ける危険もあります。
しかし、玉突き人事で退職せざるをえないのは、労働者に非はありません。
嫌がらせを受けても、屈せず、転職活動をするようにしてください。
転職後は、前職の顧客と取引する際には、細心の注意を要します。
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まとめ
![弁護士法人浅野総合法律事務所](https://roudou-bengoshi.com/wp-content/uploads/2022/03/asanosougou-zentai.jpg)
今回は、玉突き人事が違法となるケースを中心に、対処法を解説しました。
玉突き人事は、社内の大変動。
ときに、その被害者となった労働者を、退職に追い込むことがあります。
玉突き人事は、会社にとって急を要するため、配慮が不十分なこともあります。
対象となった労働者にとっては、玉突き人事の負担は大きいと言わざるをえません。
違法な玉突き人事は、断固として拒否すべきです。
一方で、プラスの玉突き人事もあります。
一見すると不都合の多いように思えても、出世のチャンスがあることもあります。
過大な負担で、退職せざるをえないとき、その前に一度、弁護士に相談ください。
- 玉突き人事はデメリットばかりでなくメリットもあるが、労働者にとって不利益は大きい
- 辞めさせる目的があるなど、違法な玉突き人事なら、拒否することができる
- 玉突き人事の結果、退職せざるをえないなら、その前に会社の責任の追及を検討する
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