日本の雇用慣行では、解雇が制限される一方で、人事異動には裁量が認められてきました。
異動・転勤が幅広く許容されるのは、正社員として長期雇用を予定しており、人材活用のために配置を適正化する必要性が高いことが前提です。
一方で、パートやアルバイトなどの非正規雇用は、異動を予定していない人もいます。そもそも長期間雇用される予定がなく、勤務地や職種を限定して採用されるケースも多いため、正社員のような異動や転勤が当然に認められるわけではありません。
今回は、アルバイトが異動・転勤を命じられるのは違法なのか、違法な異動命令を受けた場合の対応や拒否について、労働問題に強い弁護士が解説します。
- 主婦パートや学生バイトなどの場合、異動・転勤が不当になりやすい
- 繁忙期の応援など、不利益の小さい異動や転勤はアルバイトでも許容される
- バイトの雇用でも、異動・転勤の有無や想定される範囲を明確にすべき
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アルバイトの異動・転勤はよくあること?

アルバイト社員の多くは、短期的な就労を予定していることでしょう。
アルバイト、パート、フリーターなど、呼び名は様々ですが、これらの単語から想像される非正規社員の典型例は、主婦や学生といった本業のある人達です。このような社員を思い浮かべれば「バイトなのに異動・転勤を命じる」というのは不自然だと理解できるでしょう。
なお、使用者は、入社時に重要な労働条件を書面で明示する義務を負うところ(労働基準法15条1項、同法施行規則5条)、2024年4月1日施行の法改正により、雇入れ直後の就業場所だけでなく、将来の異動の範囲を明示することが義務化されました。
アルバイトの異動・転勤が少ない理由
アルバイトには、学生や主婦など、本業の合間の空き時間で働く人が多いです(学生なら学業、主婦なら家事・育児など)。これらの労働者にとって、バイトの仕事はメインではありません。
生活の主となる活動ではないアルバイトで、仕事の都合による大きな移動をするのは困難であり、異動や転勤を受け入れることは難しいでしょう。これらのことから、アルバイトなのに異動・転勤を命令されることに、強い違和感を覚えるのも当然です。
実際のところ、正社員と同じ範囲で異動・転勤を命じられるアルバイトは珍しいです。そもそも異動・転勤の範囲が正社員より狭いからこそ、低い給料を受け入れている面もあります。
アルバイトでも異動・転勤がないわけではない
しかし、アルバイトでも、異動・転勤が全くないとは限りません。
例えば、アルバイトでも起こり得る異動や転勤には、次のようなケースがあります(正社員のような遠方、かつ長期のものでなくても、法的には異動・転勤に該当します)。
- 都内の数店舗を、研修のために順番に異動するよう命じられた。
- 突然忙しくなった店舗に、周囲の店舗から応援のための異動を命じられた。
- 本店で訓練を受けた後で、担当する店舗に異動した。
こうした異動・転勤が可能なのは、アルバイトが受ける不利益が小さいからです。この程度の不利益は、アルバイトとして働く労働者でも予定している場合があります。労働者に与える不利益の大きさについては、次のような基準で判断します。
- 応援などの一時的な目的による異動か。
- 代替の人員が確保できれば戻れるか。
- 繁忙期に限定された異動か。
- 異動先の店舗が遠くなく、通勤に支障がないか。
異動・転勤を命令されるアルバイトの側からしても、必要性が非常に高い一方で、受ける不利益がそれほど大きくないなら、同意できるケースも多いでしょう。重要なのは、業務命令が適切かつ妥当なものかどうかは、労使の必要性と不利益のバランスで決まるという点です。
異動・転勤は会社からの業務命令ですが、対象となるアルバイト社員の同意が得られるなら、合意によって契約条件を変更することを意味するため、法的にも問題ありません。
「労働問題に強い弁護士の選び方」の解説

アルバイトの異動・転勤が違法な場合とは
アルバイトに対する異動・転勤の命令は、違法となることがあります。
会社が異動・転勤を命じることができるのは、就業規則などに根拠があり、勤務地を限定する合意がないことが前提です。また、業務上の必要性がない場合、不当な動機・目的による場合、労働者に通常甘受すべき程度を著しく超える不利益がある場合、命令は権利濫用として無効となります。
そもそも、アルバイトの多くは、契約上、異動や転勤を前提としていません。勤務地を限定する合意がある場合のほか、明示的な限定がなくても、短期雇用であったり給料が低かったりといった事情からして、異動・転勤は労働者にとって大きな不利益があると考えられます。
アルバイトに対する異動・転勤の命令が違法になるのは、次のようなケースです。
勤務地を限定する合意がある場合
アルバイトの多くは、労働契約上、異動・転勤を前提としていません。
このとき、そもそも異動・転勤を命令する権限が会社に与えられていないと考えられます。典型例が、職種や勤務地、就業場所や店舗を雇用契約書で限定して入社しているアルバイトです。書面で明示的に限定されなくても、「特定の店舗で募集されたアルバイト」は、その店舗以外では働かないことを前提としていると考えるのが自然です。
なお、バイトの労務管理が不十分な会社では、雇用契約書が存在しないケースもありますが、入社時の説明の際に勤務地や就業場所について限定されていることが多いです。
「雇用契約書がもらえないことの違法性」の解説

短期雇用で、異動を想定していない場合
短期雇用のアルバイトほど、異動・転勤を想定していないケースが多いです。
短期間しか働かないのに、その間に何度も異動・転勤をさせられるのでは、労働者にとって不利益が大きすぎます。異動・転勤の裁量が広く認められるのは、あくまで長期雇用だからです。会社側としても、非正規は短期の雇用を前提としている場合が多く、異動・転勤を要するなら、一度退職してもらい、現地で採用し直す方がアルバイトの性質に合っています。
そもそもアルバイト社員として契約した時点で、その店舗でしか働かない例も多いです。短期雇用を想定したアルバイトの性質上、不利益の大きい異動命令は、雇用契約の範囲外と判断されます。
給料が低く、異動を想定していない場合
正社員として長期間就労するなら、相応の賃金が保障されていることが多いでしょう。
全国転勤のある幹部候補生には、アルバイトよりも高い給与が支払われているのが通常です。一方、本業の空き時間で労働している学生や主婦のアルバイトは、高賃金の人は少ないでしょう。
このような賃金の格差は、それに合わせた職務の内容や責任の程度に影響します。
正社員とアルバイトの間の給料の格差は、異動・転勤の範囲も一因となっています。つまり、正社員は待遇が良い代わりに異動・転勤が広く認められるのに対し、アルバイトは、正社員より給料が低い代わりに、異動命令が限定されるというわけです。
なお、賃金格差があるのに異動・転勤の扱いが同じである場合には、同一労働同一賃金の観点からも問題があります。
パートタイム・有期雇用労働法9条は、職務の内容が正社員と同一であり、雇用契約が終了するまでの全期間において、職務内容や配置の変更の範囲が正社員と同一であると見込まれる場合、非正規であることを理由とした待遇差別を禁止しています。
したがって、アルバイトやパートが正社員と同じ職務・責任を負い、正社員と同様の異動・転勤が予定されている場合には、賃金だけが低く設定されることは同法に違反するおそれがあります。
「基本給が低くて違法なケース」の解説

アルバイトが異動、転勤を命じられたときの断り方

では、アルバイトが異動・転勤を命令されたとき、どう対処すればよいでしょうか。
アルバイトの異動・転勤の命令が違法のおそれがあるとはいえ、実際は、我慢して従っている方も少なくありません。今後も働くため、人間関係の悪化を懸念して断りきれない方もいます。しかし、やむを得ず応じる前に、違法な命令の断り方を知っておいてください。
アルバイトを異動・転勤させる根拠があるか確認する
異動命令を発令されたら、アルバイトを異動・転勤させる根拠を確認しましょう。確認すべきポイントは、次の3点です。
- アルバイトの異動・転勤の根拠があるか(就業規則・雇用契約書など)。
- 根拠がある場合、異動・転勤の範囲がどこまでか。
- 異動・転勤に従ったときに労働条件が変わるか(特に、給料が減らないか)。
雇用契約の内容によって、どの範囲の異動・転勤を断ることができるかは変わります。また、異動によって給料が減るなら、拒否できる可能性が高まります。労働契約の内容となる労働協約、就業規則、雇用契約書の記載を、優先順位を踏まえて確認してください。

正社員の就業規則とは別に、アルバイト用の就業規則を用意している企業もあります。
このような会社では、自分に適用される就業規則がどれかを検討しなければなりません(通常、就業規則の前半にある「適用範囲」「対象」などの条項で確認できます)。
例えば、正社員の就業規則に異動・転勤の条項があるが、アルバイト就業規則ではその規定が削除されているという記載例があり、この場合、アルバイトへの異動・転勤の根拠がないことが明らかです。
「減給を伴う違法な異動の対処法」の解説

異動・転勤が違法なら同意しない
異動・転勤の命令の根拠がなかったり、雇用契約の範囲を超えたりする場合、その命令は違法です。アルバイトは弱い立場に立たされがちですが、違法な命令に従う必要はありません。
命令が違法であることが分かったら、明確に拒否してください。違法な命令でも、労働者の同意があれば有効になるおそれがあるため、不服であれば同意しないようにしてください。拒否しても強要が続くときは、アルバイトという短期雇用であるがゆえ、退職を考えやすいでしょう。
なお、断り方が不適切だと、将来のトラブルにつながるおそれがあります。労働審判や訴訟といった裁判手続きで争うことも見越して、異動・転勤を拒否したことを証拠として残しながら進めてください(例:書面、メールやLINE、録音など)。また、拒否を理由に不利益な取扱いを受けたら、すぐに弁護士へ相談しましょう。
「違法な異動命令を拒否する方法」の解説

アルバイト特有の異動・転勤の不利益を伝える
異動・転勤を断るときは、不利益が非常に大きいことを会社に理解させましょう。
アルバイトとしての入社時、職場を移れない理由を説明しているなら、再度丁寧に伝えてください。不利益が大きいことを説得的に説明できれば、会社としても、アルバイトに異動・転勤を強行することのリスクを認識してもらえる可能性があります。
なお、アルバイトだからこそ、違法な異動を受けてしまったら、退職も一つの手です。退職して、次のバイトを探す間、違法な異動が理由ならば、会社都合扱いで失業保険を受け取れます。
「転勤を理由に退職できる?」の解説

アルバイト側から異動を希望することは可能?
会社の命令だけでなく、アルバイト側から異動を希望することも可能です。
全国チェーンや近隣に店舗を持つ会社では、アルバイトからの異動願いにも柔軟に対応してくれるケースがあります。労働者の希望であれば、労働トラブルにはならず、違法の問題も生じません。
異動願いが通りやすい理由とケース
異動願いが通りやすい典型例は、引越しや家庭の事情で通勤が困難になる場合です。
会社もアルバイトの働きぶりを評価している場合、近隣店舗に空きがあればスムーズに異動できるでしょう。人間関係のトラブルで辞めたいと考える場合も、正直に店長やエリア責任者に相談したことで、退職を防ぐための異動を提案される例もあります。
今の会社で働きたいが、この職場では続けられない理由があるときは、退職前に自ら異動を願い出ることを検討してみてください。
希望を伝える際のポイントと注意点
異動を希望する際は、まずは店長などの直属の上司に相談するのが適切です。
前向きな理由を伝えるのがポイントで、「今の店が嫌だ」とネガティブに伝えるより、「会社が好きだから、通勤できる店舗で頑張りたい」「心機一転して活躍したい」といった理由の方が好印象です。通勤の都合などで家の近くの店舗に異動したい場合にも、「近くて楽だから」ではなく「通勤時間が減る分、シフトに多く入れる」といった会社側のメリットを伝えましょう。
【まとめ】アルバイトの異動・転勤

今回は、アルバイトやパートの異動が違法となるかどうかについて解説しました。
アルバイトとしての雇用なら、異動・転勤は限定されると考えるのが自然です。全国に支店があり、正社員に登用されることを前提としているといった例外的なケースでもない限り、採用面接や雇用契約書で説明されていない異動や転勤は、アルバイトであれば断るべきです。
アルバイトなどの非正規社員の特徴として、短期的な雇用であり、勤務地や就労場所、職種などが限定されている人が多いと考えられます。雇用契約で定められた範囲を超える異動や転勤は違法であり、アルバイトは拒否できます。ただし、円満な関係を保つには、断り方も大切です。
アルバイトなのに突然の異動・転勤を命じられてしまった方は、ぜひ一度弁護士に相談して、対処法を検討してください。
- 主婦パートや学生バイトなどの場合、異動・転勤が不当になりやすい
- 繁忙期の応援など、不利益の小さい異動や転勤はアルバイトでも許容される
- バイトの雇用でも、異動・転勤の有無や想定される範囲を明確にすべき
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