大変な病気に直面すると、それを理由にクビにされるケースがあります。薄情な会社は、病気で働けない社員に給料を払う気などないかもしれません。なかでも解雇の理由としてよく相談されるのが「てんかん」。つまり、てんかんで仕事をクビになるケースです。
てんかんは、業務に支障のないケースも多いもの。一方で、完治は難しく再発も多いのが特徴です。そのため、てんかんを理由に解雇されると、甘んじて受け入れてしまう方もいます。しかし、解雇の不利益は深刻で、泣き寝入りすべきではありません。てんかんだからといってすぐクビにできるわけではなく、就労の可能性を検討せずに辞めさせられたなら、違法な不当解雇の可能性があります。
今回は、てんかんを理由にしたクビと、その対処法を、労働問題に強い弁護士が解説します。
- てんかんは解雇理由になりうるが、業務に支障がないなら不当解雇の可能性あり
- 仕事に影響しないてんかんなら、入社前後を問わず告知する必要はない
- てんかんへの配慮なく、軽易業務への異動も検討せずにした解雇は違法
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てんかんで仕事をクビになる?
てんかんで、仕事をクビにされてしまうことがあるのでしょうか。過去に一度でも、発作を起こしてしまった方は、解雇に怯えることでしょう。
結論として、てんかんは、仕事をクビにする理由になる可能性があります。解雇理由については、まずは就業規則の記載を確認してください。例えば、厚生労働省のモデル就業規則の解雇理由にも「精神又は身体の障害により業務に耐えられないとき」(53条1項4号)とあるように、業務に支障ある心身の障害は、解雇の理由となることがあります。
しかし、解雇による労働者の不利益は著しく、法律で厳しく制限されます。就業規則に事由に該当しても、解雇が適法とは限りません。解雇権濫用法理により、客観的に合理的な理由がなく、社会通念上相当でない解雇は、違法な不当解雇として無効となります(労働契約法16条)。
病気をはじめとした健康状態の悪化は、労働能力の低下に繋がります。業務に起因するなら労災ですが、そうでない限り会社に責任はありません。その結果、労働能力が、労働契約によって約束されたものを下回っている場合、解雇されてもやむを得ません。このような理由で、てんかんもまた、他の病気と同じく解雇の理由となり得るのです。
ただ、上記のように解雇は厳しく制限されるため、解雇をするには「会社を辞めさせられる」という厳しい結果にふさわしい問題点がなければなりません。てんかんであっても、業務に支障がなかったり、適切な配慮をすれば就労を続けられたりするならクビは不当。つまり、その解雇は不当解雇である可能性があります。
「不当解雇に強い弁護士への相談方法」の解説
てんかんで仕事をクビになるケース
てんかんは、解雇の理由になる可能性があると説明しましたが、全てのケースでクビにできるわけではありません。
そこで次に、てんかんで仕事をクビになるケースについて解説します。クビになる前兆を感じたら、次の具体例に当てはめ、注意深く対応してください。
車の運転に従事する業務
車の運転が必須の業務なら、クビになる可能性があります。
てんかんは運転免許の欠格事由に該当する可能性があります(道路交通法90条1項1号ロ、道路交通法施行令33条1項1号、33条の2の3第2項第1号)。運転免許の取得を拒否されたり、取り消されたりすれば運転業務はできません。そのため、車の運転が必須となる業務では、てんかんは解雇のリスクに繋がります。ただし、運転が不要な業務への異動が可能なら、すぐに解雇するのは不当です。
例外的に、欠格事由に当たらないてんかんとして、以下の定めがあります。
・発作が再発するおそれがないもの
・発作が再発しても意識障害および運動傷害がもたらされないもの
・発作が睡眠中に限り再発するもの
更に、拒否等を行わない事情として以下の基準が具体化されています。
・発作が過去5年以内に起こったことがなく、医師が「今後、発作が起こるおそれがない」旨の診断を行った場合
・発作が過去2年以内に起こったことがなく、医師が「今後、x年程度であれば、発作が起こるおそれがない」旨の診断を行った場合
・医師が、1年間の経過観察の後「発作が意識障害及び運動障害を伴わない単純部分発作に限られ、今後、症状の悪化のおそれがない」旨の診断を行った場合
・医師が、2年間の経過観察の後「発作が睡眠中に限って起こり、今後、症状の悪化のおそれがない」旨の診断を行った場合
なお、てんかんであるかどうかに関わらず、不注意な交通事故を起こしてしまうと解雇の理由となる可能性があります。
「交通事故を理由とする解雇」の解説
発作で職場に迷惑をかける
職場への迷惑が大きければ、クビでもしかたありません。てんかんだと、仕事をストレスに感じることもあるでしょう。休みがちになり、無断欠勤が続けば業務に支障が生じてしまいます。
解雇に足る「迷惑」かどうか判断した例として、私用メールを散発的に送信しただけでは軽微であるとした裁判例(グレイワールドワイド事件:東京地裁平成15年9月22日判決)や、日常的に攻撃的な態度を取ってトラブルを発生させた事例で重大であると評価した裁判例(メルセデス・ベンツ・ファイナンス事件:東京地裁平成26年12月9日判決)があります。裁判所は、「労働契約の継続を期待し難いほどに重大な程度」に達したかどうか、という点から判断するのが実務です。
「正当な解雇理由の例と判断方法」の解説
簡単な仕事も覚えられない
てんかんは、記憶力に影響を及ぼす場合があります。簡単な仕事も覚えられないほど重度のてんかんだと、クビの理由となるおそれがあります。仕事のミスが続くほど能力が欠如していると、労働義務を果たすことができず、解雇されてもやむを得ません。
注意指導し、改善できれば、解雇はまだ早いといえます。ただ、注意すら思い出せない、集中が散漫だというのでは解雇も仕方ないでしょう。てんかんを直接的に理由とされなくても、能力不足、勤務態度などといった他の解雇理由の口実にされることもあります。
「能力不足を理由とする解雇」「勤務態度を理由とする解雇」の解説
てんかんを就職時に告知する義務がある?
次に、てんかんの告知の必要性と、発覚した際の対応を解説します。
てんかんを告知せず働き、バレたときに不都合があるのか不安になるでしょう。そもそも会社にてんかんだと知られなければクビのリスクはありません。てんかんの有無は、採用面接などで聞かれることもありますが、労働者は、てんかんである旨を告知しなければいけないのでしょうか。
告知義務はない
結論として、てんかんについての告知義務はありません。
法律上、てんかんの告知義務を定める規定はないし、プライバシーに関わる重要な秘密でもあります。会社に伝える必要があるのは業務に関連する事情のみ。業務に支障があり、配慮が必要なら伝えるべきですが、業務に支障がなければ伝える必要はありません。告知すると、就職で不利になるデメリットがありますから、言わなくてもよいなら隠しておくのがよいでしょう。
なかには理解のある会社もありますが、発作による事故報道などで、「てんかん」というだけで不採用の会社も少なくないもの。業務に支障がないなら、わざわざカミングアウトは不要です。
「就職差別の対応策」の解説
障害者として雇用される
一方で、てんかんの症状が重く、就労には配慮を要する方もいます。デメリットを考慮してもなお、会社に持病を知ってほしいという考えもあります。
就職時にてんかんを伝えるなら、障害者雇用の選考を受けるのも手です。企業は、障害者雇用促進法の定める障害者雇用率を達成する必要があるため、大規模な会社ほど、障害者雇用の方が採用しやすいケースもあります。また、入社当初からてんかんを前提に採用されているため、てんかんを理由に解雇するのは相当難しくなるメリットもあります。
「障害者雇用のトラブルと解決策」の解説
てんかんを入社前に知られてしまったら
就職時にてんかんを告知しなくても、入社前に知られてしまうケースがあります。このとき、会社から内定取り消しを受けるおそれがあります。
しかし、内定の取り消しは違法な可能性があるため、すぐあきらめてはいけません。入社できる場合にも、てんかん患者だけ誓約書を書かせる例もありますが、このような差別的な扱いも違法の可能性が高いです。病気による差別は、採用の場面でも厳しく禁止されているからです。
障害者雇用促進法34条は、労働者の募集及び採用で、障害者に対し、障害者でない者と均等な機会を与えなければならないとしており、禁止される差別の類型は、障害者差別禁止指針で次のように規定されています。
- 障害者であることを理由とし、募集・採用の対象から外すこと
- 募集・採用に当たり、障害者のみ不利な条件を付すこと
- 採用の基準を満たす者の中から障害者でない者を優先して採用すること
てんかんを入社後に知られてしまったら
てんかんを入社後に知られた場合こそ、本解説のように解雇トラブルが生じる典型的な場面です。てんかんが、ハラスメントや不当な人事異動の理由になるのは許されません。最悪は解雇されても、不当解雇として争える可能性があります。
「病気を理由とする解雇」「病気を理由とするハラスメント」の解説
てんかんによる解雇が違法となるケース
てんかんだからといってすぐクビにできるわけではありません。解雇には正当な理由が必要で、要件を満たさない解雇は違法です。
てんかんを理由とした解雇が、具体的にどのようなケースで違法になるのか解説します。
てんかんが業務に支障がない場合
てんかんをはじめ、病気といえど、業務に支障がなければ解雇できません。そもそも、必要性のない解雇は違法だからです。例えば、業務に支障なく解雇が違法なケースは、次の通りです。
- てんかんの発作が職場で一度も起きていない
- 薬を飲めば症状は十分に抑えることができる
- 少し仕事を離れて休めば、すぐ戻ることができる
- 周囲の社員の業務を中断させるおそれがない
てんかんに限らず、風邪やインフルエンザ、生理痛など、体調不良は一定数起こります。てんかんのみ敵視し、解雇するのは許されません。
業務に支障があるかどうかの判断は、業種や担当する職務の内容によって異なります(例えば危険性の高い業務は、てんかん症状の人に任せられないでしょう)。
最終判断は、個別具体的なケースに応じて検討しなければなりません。
医師が安全性を保障した場合
病気や体調の問題は、医学の専門家である医師が判断すべき分野です。医師が仕事に支障なしと判断するなら、てんかんの影響は少ないと考えてよいでしょう。したがって、不当解雇として、違法となる可能性が高いケースです。
例えば、過去数年の治療で一度も発作が起こっていなかったり、抗てんかん薬や治療で発作を抑える努力を医師の指導のもとに行っていたりするケースでは、業務への支障は少ないと考えられます。専門的な判断となるため、医師の診断書を証拠として役立ちます。
軽易な業務に異動・配転できる場合
てんかんで、入社時に約束した業務ができなくても、まだ解雇は早計でしょう。他の職種に異動すれば、業務を遂行できるなら、配慮を要するからです。例えば、てんかんを理由とした解雇を回避する措置は、次のものがあります。
- 車の運転が不要な業務を担当する
- 高所作業から異動させる
- 夜勤や連勤など、心身への負担を避ける
会社は、解雇するとしても、その前に回避の努力をしなければなりません。休職、配転、軽易な業務への異動などもありえます。後の争いで、会社からそのような期待がなかったといわれないために、症状は正確に伝えましょう。できる業務、できない業務が明確なら、異動措置を検討せざるを得なくなります。
「違法な異動命令を拒否する方法」の解説
てんかんによる解雇について判断した裁判例
てんかんによる解雇について判断した裁判例を解説します(いずれも地方公務員の事例ですが、社員を辞めさせることができるかどうかの判断の参考になります)。
1つ目の裁判例が、三木市職員事件(神戸地裁昭和62年10月29日判決)。清掃作業員に従事した公務員を、てんかんにより処分した事案です。裁判所は、てんかんによる支障がないのにした解雇を無効と判断しました。
裁判所はてんかんの性質を「加齢とともに自然治癒する傾向」と判断。回数や時期がたったの2回の発症であることを考慮しました。1回目は抗てんかん剤の服用を怠ったこと、2回目は減量中の薬剤摂取が理由でしたが、投薬によって容易に抑制できると医師から認められたことも考慮されています。
また、てんかんの症状が「必ず単純部分発作から始まり、それが全般化して二次性の大発作に至る」ために予知が可能なこと、投薬による副作用もないことを考え合わせれば、高所作業や火気など、危険な場所を除けば通常勤務可能であると評価し、回避措置を取らずにした解雇は違法であると判断しました。
2つ目の裁判例が、福岡市職員事件(仙台地裁昭和55年10月22日判決)。この事案は、てんかんはないと偽って採用された事案です。
裁判所は、業務上の支障が認められず、労働能力に及ぼす影響は少ないと判断しました。
問題の職員は、過去にてんかん症状があったが軽度であり、採用時はほぼ治癒していました。採用当時、会社からの質問に明らかな嘘をついたものの、業務への支障がないことから重大な経歴詐称ではないと判断されました。
このように、てんかんが理由の解雇は、てんかんの症状がどれほど大きいかがポイントです。仕事は支障なくできるはずなのに解雇されたら、労働能力は十分であると主張すべきです。
「裁判で勝つ方法」の解説
てんかん持ちの人の職場での注意点
最後に、てんかんを患っている方の職場での注意点を解説します。
てんかん持ちでも、まだクビでないなら可能な限り職場に残り続けたいでしょう。業務に影響しないような努力すれば、解雇のリスクを軽減できます。
てんかんの接し方を理解してもらう
てんかんを告知して働くなら、その接し方を職場に理解してもらうのが大切です。周囲に配慮してもらえば、危険性を下げることができるからです。突然の発作に倒れても、あらかじめ知られている分、周囲の負担は軽減されます。
接し方を理解されていないと、ハラスメントやいじめの理由になりかねません。もちろん、てんかんによって仕事の幅が狭まるデメリットはありますが、周囲の配慮があれば、解雇にならず会社に残れる可能性も高まります。配慮すれば働ける程度のものなら、すぐ解雇するのは不当です。会社は、労働者が健康的で安全な環境で働けるよう配慮する義務(安全配慮義務)を負います。
「安全配慮義務」の解説
在宅勤務できるか確認する
また、在宅勤務を申し出るのも対処法の1つです。勤務する会社に、在宅勤務の制度がないか、確認しましょう。
職場で倒れるとかかる迷惑も、自宅なら不都合は最小限に抑えられます。ただし、在宅勤務でも、症状が出れば支障はまったくの皆無ではありません。リカバリーで他の社員にしわよせが来る可能性もあります。なので、てんかんの接し方を理解させ、業務の共有をするのは、在宅勤務でも必須です。
「持ち帰り残業の違法性」の解説
無理せず仕事を休む
てんかんで、仕事が辛いと感じるなら、無理しないで仕事を休むべきです。体調が悪いのに働けばさらに悪化し、クビが近くなるでしょう。
与えられた仕事をこなせないと、罪悪感やもどかしさに悩むでしょう。しかし、病気で働けず、退職せざるをえなくなっては元も子もありません。まずは自分の心と体を大切にしてください。
解雇を避けるには、休んで体調を回復させるべき。てんかんを理由に休むにも、有給休暇、特別休暇などを積極的に活用しましょう。治療に、より長期の休みを要するなら、休職制度も検討してください。フレックスタイム制を導入する会社なら、丸一日休まなくても、柔軟な働き方ができます。
「休職を拒否されたときの対応」の解説
不当な差別は弁護士に相談する
不当な差別を受けたとき、自分だけで対処すると余計に負担が増します。てんかんで苦しいのにストレスのかかる対応は避けるべきです。体調が悪化すれば、ますます解雇の口実を与えてしまいます。自分でなんとかしようとするのでなく、早めに弁護士に相談ください。弁護士が間に入れば精神的な負担を大幅に減らすことができます。
てんかんへの差別が酷くなれば、うつ病、適応障害など、精神疾患を併発する危険もあります。二次被害による多大な不利益を避けるため、専門家の対応が必須です。
「労働問題に強い弁護士の選び方」の解説
まとめ
今回は、てんかんを理由に解雇されたケースについて解説しました。
てんかんは、業務中に発作が起こってしまうと、解雇の理由となる危険があります。その結果、会社としてもてんかんのリスクある社員を排除しようとします。てんかんだと判明すると、採用されなかったり、退職勧奨されたり、最悪は解雇されたりと、失職の危険性が高いです。
ただし、解雇は厳しく制限されます。具体的な判断は、てんかんの症状や程度によっても異なりますが、業務に支障がないなら、不当解雇の可能性も大いにあります。てんかんで仕事をクビにされたら、業務の支障がどれほどか、軽度な業務に異動させるなどの配慮をしてもらえないか、といった観点で、不当解雇でないかを検討しましょう。
不当解雇をされたら、その後の対応は、労働問題に精通した弁護士に任せるのが適切です。まずは相談から、ぜひお気軽にお問い合わせください。
- てんかんは解雇理由になりうるが、業務に支障がないなら不当解雇の可能性あり
- 仕事に影響しないてんかんなら、入社前後を問わず告知する必要はない
- てんかんへの配慮なく、軽易業務への異動も検討せずにした解雇は違法
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