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浅野 英之
弁護士
弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号44844)。
東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

企業側の労働問題を扱う石嵜・山中総合法律事務所、労働者側の法律問題を扱う事務所の労働部門リーダーを経て、弁護士法人浅野総合法律事務所を設立。

不当解雇、未払残業代、セクハラ、パワハラ、労災など、注目を集める労働問題について、「泣き寝入りを許さない」姿勢で、親身に法律相談をお聞きします。

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労災で休業中の解雇は違法!治療中に不当解雇された場合の対処法を解説

労災で休業中なのに会社を解雇されると、新しい勤務先を探すこともできずに生活が立ち行かなくなってしまいます。そのため、労災で休業中の解雇は、違法となるのが法律上の原則とされています。治療中なのに一方的に会社をクビにされた場合、不当解雇のおそれが非常に強いです。

相談者

会社を休んでいる間の解雇は許される?

相談者

療養中に不当解雇されたら、どう争う?

労災で休業中の方のなかには、こうした疑問をお持ちの方もいるのではないでしょうか。会社のせいで病気やケガに遭って休んでいるのにクビにされ、企業側の対応に疑問を感じたら、解雇を撤回させるために争うべきです。労災で療養期間中と、その後30日間は、法律で解雇が禁止されているからです(労働基準法19条1項)。

今回は、労災で休業中の解雇が違法となる理由と、不当解雇を言い渡されたときの対処法、後遺症が残ったときの対策などを、労働問題に強い弁護士が解説します。

この解説のポイント
  • 労災で休業中の解雇は、違法となるのが原則
  • 労災で休業中の雇い止めは禁止されないが、雇止め法理により違法の可能性あり
  • 労災に関連した理由で解雇されたなら、速やかに証拠を集めて弁護士に相談する

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解説の執筆者

弁護士 浅野英之

弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号44844)。
東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

企業側の労働問題を扱う石嵜・山中総合法律事務所、労働者側の法律問題を扱う事務所の労働部門リーダーを経て、弁護士法人浅野総合法律事務所を設立。

不当解雇、未払残業代、セクハラ、パワハラ、労災など、注目を集める労働問題について、「泣き寝入りを許さない」姿勢で、親身に法律相談をお聞きします。

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労災で休業中の解雇は違法となるのが原則

労災の療養のために休業する期間及びその後30日の解雇は、違法な不当解雇となるのが原則です(労働基準法19条1項)。このように一定の期間中の解雇を禁止する法規制を、解雇制限と呼び、労災治療中はまさにその典型例です。

まず、労働災害で休業中の解雇が禁止される理由と、解雇権濫用法理の関係を解説します。

労災で休業中の解雇が禁止される理由

労災で休業中の解雇は、法律で禁止されます。その理由は、解雇後に新たな勤務先を探すのが困難な労働者を保護するためです。

病気や怪我による負傷で働けない状態で解雇されると、療養が終わるまでは転職活動ができず、収入はゼロになり生活ができない状況に追い込まれます。労災、つまり、業務を原因とした災害によるものなのに、労働者がこのような不利益を被るべきではないから、労災による休業中は解雇が禁止されるのが基本となっているのです。例えば、建設現場で作業中に高所から落下し、長期の入院生活を送ることになった場合、退院して職場復帰するまで解雇は違法です。

労災で休業中の解雇が禁止されるのは、その解雇の種類によりません。普通解雇はもちろんのこと、懲戒解雇事由があったとしても、懲戒解雇することも禁じられています。なお、解雇予告の規定には「労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない」(労働基準法20条1項)として懲戒解雇なら予告なしの即日解雇が許されますが、たとえ懲戒解雇となるような非があっても、労災を理由とする解雇禁止の例外とはなりません。

正当な解雇理由の判断方法」の解説

労災で休業期間の終了後も解雇権濫用法理は適用される

労災で休業中の期間及びその後30日が経過した後であっても、解雇は違法となることは大いにあります。会社が労働者を解雇するには、解雇権濫用法理によって、客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が必要とされるのであり、自由に解雇できるわけではありません(労働契約法16条)。

労災を理由とした解雇は、違法となる可能性が高いです。解雇が制限される期間中でなくても、労災に労働者の非はなく会社の責任。そのため、これを理由にクビにするのは「客観的に合理的な理由」があるとはいえず、違法です。例として、労災で後遺症が残った社員を、単純に能力不足を理由とした解雇とするのは許されません。

労働者の健康と安全を守る「安全配慮義務」の観点からして、会社には、労働者の復職時に、簡単な作業から段階的に復職させる、対応可能な業務へ配置転換するなど、解雇を避けるために可能な限りの措置をとる義務があります。まして、その休業の理由が労災にあるときには、なおさら労働者に丁寧な配慮をすべきです。

安全配慮義務違反」の解説

労災で休業中の解雇が例外的に認められるケース

労災で休業中の解雇を禁止する労働基準法19条1項は、次の2つの例外が定めています(同項但書)。これら2つの例外に該当する場合は、労働災害で休業中の解雇も、必ずしも違法とはなりません。

会社からの打切補償もしくは傷病補償年金を受け取る場合

労働者が療養補償(労働基準法75条)を受給してで療養している場合に、療養の開始から3年を経過しても復職できる状態にならないときは、会社が平均賃金の1200日分の打切補償を支払うことで、同法19条1項の解雇制限は適用されなくなります(労働基準法81条)。また、労働者が療養の開始から3年を経過した日以降に傷病補償年金の給付を受けているときには、打切補償が支払われたものと見なされます(労働者災害保険法19条)。

ただし、打切補償を行う場合も解雇は無制限ではなく、解雇権濫用法理は適用され、打切補償をした後の解雇にも客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性は必要です。

打切補償とは

打切補償は、療養補償を受けて療養を続ける労働者が、療養開始から3年を経過してもケガや病気が治らない場合、会社が平均賃金の1200日分を支払って補償を打ち切ること(労働基準法75条)。

実行する場合、労働者が会社の費用負担で治療する状態であることが必要です。労災保険法における療養補償給付を受けているときは会社の義務とされる災害補償と同視されることが裁判例(最高裁平成27年6月8日判決)で示されましたが、一方で、労働者自身が治療費を負担するケース(プライベートの交通事故や家族のストレスを原因とするうつ病など)では打切補償はできません。 

傷病補償年金とは

傷病補償年金は、労災によるケガや病気が、療養開始から1年6か月経過しても治らず、傷病等級の対象となる症状が残る場合に、労働基準監督署長の決定によって支給される年金のこと。

傷病補償年金を受け取るには、労働基準監督署の審査を受けなければなりません。審査の結果、傷病補償年金の給付を受けた場合、会社による打切補償が行われたものと見なされます(労働者災害保険法19条

やむを得ない事由で会社の事業継続が不可能になってしまった場合

天災事変やそれに匹敵するようなやむを得ない事由によって、勤務先の事業継続が不可能になってしまった際は、労災で休業中の解雇が例外的に許されます。

「やむを得ない事由」に該当する例として、火災で事務所が焼失した場合や、震災で事業所が甚大な被害を被った場合などが挙げられます。「事業の継続が不可能となった場合」とは、整理解雇や一定期間の休業など、事業再開に向けた努力をしてもなお継続が不可能な状態をいい、一定の措置を講じれば再開できる見込みがある場合は、事業の継続が不可能とまでは言えません。また、この規定による解雇をする場合は、「やむを得ない事由」について労働基準監督署長の認定を受ける必要があります。

上記条件を満たし、事業継続が不可能なことを理由に解雇を言い渡されたなら、労災で休業中の解雇も例外的に認められる可能性があります。

不当解雇に強い弁護士への相談方法」の解説

通勤災害で休業中の解雇は許される

労働基準法19条1項は、業務上の労災(業務災害)によって療養中の場合にのみ適用されるのであって、通勤中の労災(通勤災害)には適用されません。

通勤災害は、労働者が通勤によって被ったケガや病気のことで、住居と就業場所の往復や就業場所から他の就業場所への移動の間に起こるものを指します。通勤の途中に寄り道をしたり、極端な迂回をしたりした場合は「通勤」とは認められません。 通勤災害もまた、労災の一種であり、労災保険からの補償を受給できます。しかしながら、その場合であっても、通勤災害による休業中には、解雇をされてしまうリスクがあるため、注意が必要です

なお、通勤災害による休業中の従業員を解雇する場合にも、解雇権濫用法理は当然に適用されますので、決して無制限に解雇が認められるわけではありません。したがって、通勤災害に遭ったことを理由として従業員をクビにすることには正当な理由があるとはいえず、許されません。

労災で休業中の雇止めや退職強要も違法となる可能性がある

労災で休業中に会社を退職せざるを得なくなってしまう場面は、解雇以外にもあります。例えば、契約社員やアルバイトなどの非正規社員が労災に遭い、休業して治療している間に雇用契約の期間を満了してしまうケース。このとき、雇い止めや退職もまた違法となる余地があります。

そこで次に、解雇以外で会社を辞めるとき、労災と関連した退職がどのような場合に違法になり得るのかを解説します。

労災で休業中の契約社員の雇止め

雇止めは、雇用期間の定めのある契約社員やアルバイト、パートなどを、その契約期間の満了を理由に雇用を打ち切ることです。原則として労働基準法19条1項の制限は「解雇」を前提とするため「雇止め」には適用されません。雇止めはあくまで、契約期間満了による雇用の終了であり、使用者が一方的に労働契約を終了させる解雇とは異なります。

以上の理由から、労災で治療をしている契約社員には、その休業中に雇用契約の期間満了のタイミングが重複したとき、雇止めによってそれ以上の契約を更新されないリスクがあります。

一方、雇止めも無制限に許されるわけではなく、解雇権濫用法理と同じく「雇止め法理」によって規制されます(労働契約法19条)。雇止め法理によって、労働者に更新の期待が生じている場合には、雇止めにも客観的に合理的な理由、社会通念上の相当性が必要となります。労災で休業中に納得のいかない雇止めをされた場合は、弁護士に相談し、法律知識に基づく適切な対処をしましょう。

契約社員の雇い止めの違法性」の解説

労災で休業中に定年を迎えた場合

同じく、解雇ではない方法で会社を辞めるケースが「定年退職」です。労災で休業中に定年を迎えた場合、労災の休業中であっても会社を辞める効果が生じます。また、労働者自身の意思で退職することは、労災の休業中でも自由に可能です。

なお、定年によって自動的に退職となる「定年退職制」でなく、定年を解雇事由とする「定年解雇制」を採用する会社では、労災による休業中に定年を迎えても、労災の療養による休業中だと解雇ができず、定年に達した後も労働者の地位を有し続けることとなります。

定年後の再雇用拒否の違法性」の解説

労災で休業中に退職勧奨された場合

労災で休業中の労働者に対し、退職勧奨をされるケースがあります。このとき、退職勧奨が適法になされた場合、つまり、あくまで退職の「お勧め」にとどまり「強要」になっていない場合は、これに応じて退職するかどうかも労働者の自由な意思に委ねられています。その結果、労災の休業中でも、退職勧奨に応じて会社を辞めることはできます。

ただ、拒否してもなお働きかけが続くなら、違法な退職強要です。このことは労災の休業中も同じで、むしろ休業中だからこそなおさら強要のプレッシャーは強く、悪質です。また、その働きかけが「労災の被害に遭ったこと」を理由にするなら、責任の押し付けであり許されません。

労災休業中といえど、退職勧奨と解雇は扱いが異なるので注意してください。

退職勧奨と解雇の違い」の解説

労災で休業中なのに不当解雇された場合の対処法

労災に関わる解雇が違法なとき、それは不当解雇の可能性があります。この場合の対処法についても理解しておいてください。

労災の休業中に不当解雇されてしまったら、まずは会社との話し合いによる解決を目指します。ただ、不当解雇をするブラック企業が、誠実に話し合いに応じてくれるとは限らず、争いが激化するときは、労働審判、訴訟といった法的手続きに移行すべきです。

労災中の違法な解雇である証拠を集める

不当解雇について会社と争う際には証拠が必要です。労災に関わる解雇で不当解雇を争う際の証拠には、次のものが挙げられます。

本解説の通り、労災で休業中の解雇は許されません。そのため、該当期間における解雇であったことを証明するために、労災の認定を受けたことを示す資料と、治療を受けた際の診断書やカルテ、看護記録などを照らし合わせ、解雇日が療養期間中であったことを立証します。

あわせて、解雇理由証明書を取得し、会社の主張する解雇理由をこの時点で明らかにしておけば、争いが激化した後に解雇理由についての主張を変えるといった不合理な反論を防ぐことができます。

不当解雇の証拠」の解説

労働審判を裁判所に申し立てる

会社との交渉が難しい場合は、労働審判による解決を目指すことになります。労働審判は、労働者保護のために用意された、訴訟よりも簡易な制度であり、原則として3回以内という少ない回数の期日で、労使の争いを調整し、紛争を解決することが期待できます。

労働審判では、労使双方が同席の場で裁判官の質問に答え、審理を受けます。期日を重ねた結果、合意に至れば調停成立となりますが、合意できない場合は庁低不成立となり、労働審判委員会による審判が下されます。審判には、労使いずれも、2週間以内に異議を申立てることが可能で、異議申立てがされた場合には訴訟に移行します。

なお、訴訟に移行すると争いの長期化が予想されますが、途中で会社と和解することによって不当解雇の金銭解決を図ることもできます。

労働審判の当日の流れ」の解説

弁護士に相談して対応について助言を受ける

労災に関わる解雇で会社と争うには、証拠だけでなく法律に関する専門知識も必要です。特に、労災保険についての知識を十分に有する弁護士のサポートを受けるには、労働問題の経験豊富な弁護士を選ぶべきです。

労災で休業中に解雇されそうなときは、早めに弁護士に相談するのがお勧めです。解雇されるより前に相談しておけば、いざというときすぐに争うことができます。また、証拠の集め方や労働審判での主張のしかたから、社長や上司への対応まで、アドバイスをもらうことができます。

労働問題に強い弁護士の選び方」の解説

後遺障害が残った場合の対応

最後に、労災の休業中における解雇と関連して、後遺障害が残った場合の対応を解説します。

労災によるケガや病気の療養によっては完全には回復せず、後遺症が残る方もいます。後遺症は、法的には「後遺障害」と呼び、これ以上の治療を継続しても完治が見込めない身体の機能障害などを指します。そして、これ以上の治療を継続しても症状が変わらないことを「症状固定」と呼びます。

例えば、治療を続けても手足のしびれが抜けない場合や、労災によって指が欠損してしまった場合などが後遺障害に該当します。後遺障害が残ると、次の通り、程度に応じた補償を受けられます。

労災で障害補償給付の認定を受ける

労災による後遺症が残ってしまった場合、労働基準監督署で後遺障害の等級認定を受けることができます。後遺障害の等級とは、障害の程度のことを指し、14級から1級の順に症状の程度は重度のものであると判断されます。

認定を受けるには、障害補償給付の労災申請手続きが必要です。後遺障害の等級認定で、1級から7級の認定を受けた場合は年金が、8級から14級の認定を受けた場合には一時金として支給されます。なお、業務災害の場合には「障害補償給付」、通勤災害の場合には「障害給付」と呼ばれます。

労災を弁護士に相談すべき理由」の解説

会社に対して損害賠償を請求する

労災による後遺障害について、会社の安全配慮義務や使用者責任が認められる場合、労災保険による補償だけでなく、会社に対する損害賠償を請求することもできます。

労災の障害補償給付は、労働者の逸失利益を補償するものでしかありません。これに加えて、後遺障害を負ったことによる精神的苦痛に対する慰謝料としての損害賠償を、会社に対して請求できます。会社に損害賠償請求をする際は安全配慮義務違反や使用者責任について立証を要するため、事前に労働問題に精通した弁護士への相談がおすすめです。

労災の慰謝料の相場」の解説

まとめ

弁護士法人浅野総合法律事務所
弁護士法人浅野総合法律事務所

今回は、労災で休業中の解雇が違法となる理由と、実際に不当解雇された場合の対応について解説しました。

労災で休業中の解雇は、すぐには転職することができず生活に支障が生じかねない労働者を保護するために、原則として禁止されます。また、このような労災による解雇が法律の明文で禁止されない場面でも、解雇権濫用法理は適用されるため、不当解雇に当たるケースもあります。自分が労災に遭ったことを理由に解雇されたと感じるなら、不当解雇の可能性が高いでしょう。

労災で休業中や、復帰して間もなくの解雇など、労災に関連して解雇されたときは、すぐに弁護士にご相談ください。転職活動が難しい状況で解雇されると、今後の生活に大きな影響を与えます。労働問題を早期解決するために、専門家である弁護士に相談するのが重要です。

この解説のポイント
  • 労災で休業中の解雇は、違法となるのが原則
  • 労災で休業中の雇い止めは禁止されないが、雇止め法理により違法の可能性あり
  • 労災に関連した理由で解雇されたなら、速やかに証拠を集めて弁護士に相談する

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