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浅野 英之
弁護士
弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号44844)。
東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

企業側の労働問題を扱う石嵜・山中総合法律事務所、労働者側の法律問題を扱う事務所の労働部門リーダーを経て、弁護士法人浅野総合法律事務所を設立。

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定年退職後の再雇用を拒否されたら違法?定年後のトラブルの対処法と注意点

定年退職は、一定の年に達した人の労働契約を終了させる制度です。60歳定年が一般的ですが、高年齢者雇用安定法において65歳までの雇用機会の確保と、70歳までの就業機会の確保が定められたことで、現在は「定年退職後の再雇用」を定める企業が多いです。

少子高齢化が進み、働ける年齢は上昇しました。高齢者の活躍の場が広がると共に、定年の延長も進んでいます。しかし一方で、定年後に再雇用を拒否されるという新たな労働問題が出現しました。労働者が定年退職後の再雇用を希望するなら、企業が拒否するのは違法の可能性があります。定年後も働き続けたいと考える人にとって再雇用拒否は大きな問題であり、違法な扱いを受けたなら、慰謝料請求などで会社の責任を追及すべきです。

今回は、定年退職後の再雇用に関する法律や労働者の権利について解説します。悪質な会社は、定年を言い訳にして不要な社員を辞めさせようとしてきます。万が一再雇用を拒否された場合の対処法と注意点も知っておいてください。

この解説のポイント
  • 65歳までの雇用機会の確保が義務化(70歳までの就業機会の確保が努力義務化)
  • 60歳定年制なら、定年退職後に再雇用しなければ高年齢者雇用安定法の義務違反
  • 定年退職後の再雇用を拒否するには正当な理由が必要となる

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解説の執筆者

弁護士 浅野英之

弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号44844)。
東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

企業側の労働問題を扱う石嵜・山中総合法律事務所、労働者側の法律問題を扱う事務所の労働部門リーダーを経て、弁護士法人浅野総合法律事務所を設立。

不当解雇、未払残業代、セクハラ、パワハラ、労災など、注目を集める労働問題について、「泣き寝入りを許さない」姿勢で、親身に法律相談をお聞きします。

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定年退職後の再雇用の拒否をめぐる問題

まず、定年退職後の再雇用に関する法制度の状況について解説します。

「少子高齢化の進行」「採用難による人手不足を解消するための多様な人材の活用」など、様々な文脈で高齢者の活用が叫ばれています。そのような背景から高年齢者雇用安定法が改正され、定年退職後の再雇用をめぐる状況は大きく変化しています。

定年退職後の雇用に関する法制度

定年は、一定の年齢に達したことを理由に労働者を自然退職させる制度です。定年による退職を定年退職と呼びます。高年齢者雇用安定法は、高年齢者の雇用について次のルールを定めます。

  • 65歳までの雇用機会の確保
    • 60歳以上定年
      労働者の定年を定める場合、その定年年齢を60歳以上とする必要がある(高年齢者雇用安定法8条)。
    • 高年齢者雇用確保措置
      定年年齢を65歳未満に定める場合、65歳までの安定した雇用を確保するため、「65歳までの定年の引上げ」「65歳までの継続雇用制度の導入」「定年の廃止」のいずれかの措置(高年齢者雇用確保措置)を実施する必要がある(高年齢者雇用安定法9条)。
  • 70歳までの就業機会の確保
    定年年齢を65歳以上70歳未満に定める事業主または継続雇用制度(70歳以上まで引き続き雇用する制度を除く)を導入する事業主は、70歳までの就業機会を確保するための措置を講ずるよう努める必要がある(高年齢者雇用安定法10条の2)。

定年退職後の再雇用が必要な理由

上記の「継続雇用制度」には、定年で一旦契約を終了させた後に再び雇用する「再雇用制度」を含みます。従来は60歳定年の企業が多く、法改正があったとはいえ定年を引き上げたり廃止したりするのは「定年で従業員を辞めさせられない」というリスクを伴います。長期雇用慣行の下では、年功序列で昇給される一方、高齢になるほど労働能力が下がるというギャップが生じます。定年制は、このような能力と給与のギャップを埋めるために働ける期限を付ける役割がありました。

その結果、定年年齢を変更せずに上記義務を果たすために、定年後の再雇用が、企業にとって都合のよい選択肢として、最もよく活用されています。

なお、法改正以前は、定年退職後の再雇用は、労使協定で定めた基準によって限定することが認められており、法改正後の経過措置として一定の要件を満たす場合に同様の限定が許されていましたが、平成25年度以降は、希望者全員を再雇用することが必要となっています。

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定年後の再雇用を拒否すると違法になる

前章「定年退職後の再雇用の拒否をめぐる問題」の通り、企業は、65歳までの雇用機会を確保する義務があるため、60歳定年ならば、65歳までの再雇用をしなければなりません。そのため、理由もなく定年後の再雇用を一方的に拒否することはできません。

したがって、定年退職後の再雇用を拒否することは、高年齢者雇用安定法に違反しており、違法です。60歳定年の企業で再雇用を拒否されると、結果として60歳で会社を辞めざるを得ず、65歳までの雇用機会の確保を義務とした高年齢者雇用安定法に違反するのは明らかです。

定年退職後に再雇用を拒否されると、高齢でありながら無収入となってしまいます。定年後の人生に困らないほど高額な退職金をもらえる人はむしろ稀で、再雇用を拒否されると、定年後の生活が苦しく、家族を露頭に迷わせてしまう危険もあります。

後述「例外的に定年後の再雇用を拒否できるケース」の通り、正当な理由のある再雇用拒否は例外的に許されるため、再雇用が違法となる場合は、主に次の2つのケースとなります。

不当な事由による再雇用拒否

不当な事由によって再雇用を拒否することは法律違反であり、違法です。例えば、年齢や性別、障害の有無といった、個人の努力では変更できない事由によって再雇用を拒否することは差別であり、違法です。

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正当な理由がない再雇用拒否

不当な事由による場合でなくても、正当な理由のない再雇用拒否も違法です。前述の通り、高年齢者雇用安定法で65歳までの雇用機会の確保が義務とされるため、60歳定年なら再雇用をしなければ同義務に違反するので、再雇用を拒否するなら相応する理由を要するからです。

例外的に定年後の再雇用を拒否できるケース」の通り、解雇をすることのできる事由のある場合は再雇用も拒否できることからして、再雇用の正当な理由は、正当な解雇理由と同じように考えることができます。つまり、解雇権濫用法理に従って、客観的に合理的な理由がなく、社会通念上相当であると認められない場合は、解雇をすることも違法であり無効となる結果、再雇用拒否をすることもまた違法となります。

正当な理由があるかどうかは、まずは企業側が検討することではありますが、労働者が理由を聞いても具体的に示されない場合、「正当な理由はないのではないか」と疑うべきです。

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定年退職後の再雇用の拒否を違法と判断した裁判例

定年退職後の再雇用の拒否を違法であると判断した裁判例に、津田計器事件(最高裁平成24年11月29日判決)があります。この裁判例では、以下のように述べて、高年齢者の抱いた「再雇用されるだろう」という合理的な期待を保護しました。

「本件規程所定の継続雇用基準を満たすものであったから、被上告人において嘱託雇用契約の終了後も雇用が継続されるものと期待することには合理的な理由があると認められる一方、上告人において被上告人につき上記の継続雇用基準を満たしていないものとして本件規程に基づく再雇用をすることなく嘱託雇用契約の終期の到来により被上告人の雇用が終了したものとすることは、他にこれをやむを得ないものとみるべき特段の事情もうかがわれない以上、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないものといわざるを得ない。」

「本件の前記事実関係等の下においては、前記の法の趣旨等に鑑み、上告人と被上告人との間に、嘱託雇用契約の終了後も本件規程に基づき再雇用されたのと同様の雇用関係が存続しているものとみるのが相当であり、その期限や賃金、労働時間等の労働条件については本件規程の定めに従うことになるものと解される。」

津田計器事件(最高裁平成24年11月29日判決)

定年退職後の再雇用の拒否についても正当な理由が必要であり、解雇と同じく、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合には無効となると示したのです。そして、再雇用拒否が違法となる場合、規程に基づいて再雇用されたのと同様の雇用関係が存続することを認めました(つまり、定年後も再雇用されたのと同じように給料を請求することができます)。

裁判で勝つ方法」の解説

例外的に定年後の再雇用を拒否できるケース

例外的に、企業が定年後の再雇用を拒否できるケースも存在します。以下のケースでは、会社が再雇用を拒否することに正当な理由があるからです。

正当な解雇理由がある場合

再雇用を希望する労働者に、正当な解雇理由がある場合は、再雇用を拒否できます。この場合、定年のタイミングでなくても適法に解雇できるわけですから、再雇用拒否も当然可能です。高年齢者雇用安定法の雇用継続義務も、解雇理由がある人まで保護するわけではありません。解雇理由には様々なものがありますが、再雇用拒否が許されるのは、例えば次のケースです。

能力が不足している場合

再雇用を希望する労働者の業務遂行能力が著しく不足していると判断される場合は、再雇用を拒否できます。ただし、解雇が有効となるほどの能力不足である必要があるため、繰り返し大きなミスを犯して改善の余地がない場合や、労働契約の前提となる専門性や資格を欠いていたなど、重大なケースに限られます。

能力不足を理由とする解雇」の解説

業績不振などの経営上の理由

企業の経営状況が悪化し、人員整理が必要な場合も、再雇用を拒否することが認められる場合があります。ただしこの場合も、いわゆる整理解雇が有効なほどの状況に陥っている必要があります。そのため、整理解雇の四要件に従って、適法性を判断する必要があります。

整理解雇の違法性の基準」の解説

労働者の健康状態が業務に支障をきたす場合

労働者の健康状態が悪化し、業務遂行に重大な支障があると判断される場合、企業は再雇用を拒否できます。この場合、労働者の健康状態について、医師の診断書などの客観的な証拠が必要となります。なお、休職制度が活用できる場合は、再雇用を拒否するのではなく、まずは休職とし、期間中の復職が可能かどうかを様子見する必要があります。

病気を理由とした解雇」の解説

再雇用の条件が合意に達しない場合

定年退職後の再雇用をする際には、定年前とは異なる新たな労働契約を結ぶこととなります。そのため、企業と労働者との間で、再雇用時の労働条件について合意に達しない場合には、会社側は再雇用を拒否することができる場合があります。

ただし、再雇用を拒否するために、不当に低い労働条件を提案したり、受け入れ難い不合理な条件を付けたりするのは許されません。嘱託社員に、正社員と全く同一の条件を提案しなければならないわけではないものの、労働時間や業務内容、職責の程度に応じた合理的な条件を提示し、誠実に交渉しなければ、再雇用を拒否することはできません。

労働条件の不利益変更」の解説

違法に再雇用を拒否をされた場合の対処法

最後に、定年退職後に再雇用を希望していたにもかかわらず、企業から再雇用を拒否された場合、労働者がどのように対処すべきかについて解説します。

本解説を参考に、「例外的に定年後の再雇用を拒否できるケース」には該当せず、「定年後の再雇用を拒否すると違法になる」の通り再雇用拒否が違法であると判明したなら、自身の権利を守るためにも、会社の不当な処遇を争うべきです。

再雇用の拒否について会社と交渉する

定年退職後の再雇用の拒否をされたとき、まずは会社との交渉からはじめましょう。企業との交渉では、再雇用拒否の理由を確認し、説明を求め、使用者側の主張の正当性を確認することを心掛けてください。交渉において行うべきプロセスは、次の通りです。

再雇用を拒否する理由を確認する

再雇用を拒否する理由について、会社に説明を求めてください。解雇の場合は、労働基準法22条によって解雇理由証明書の交付義務があるところ、再雇用拒否には法律上、理由を説明する義務まではありません。とはいえ、本解説の通り、再雇用をされるのが原則であり、拒否できるのは例外的なケースのみなので、正当な理由を主張する会社が、労働者の納得のいく説明を尽くすべきです。

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再雇用の条件を確認する

定年退職後、再雇用に際して会社側が提示した条件を確認しておきましょう。明示的に拒否しないまでも、労働条件が曖昧であったり、不合理なほどに低かったりするときは、事実上、再雇用を拒否しているのも同然です、その点についても会社に理由を説明するよう求めてください。

再雇用を考え直すよう要求する

再雇用を違法に拒否されたなら、再検討を依頼しましょう。再雇用拒否が違法ならば、従前の労働条件の通りに働けると主張する必要があります。

高年齢者雇用安定法の原則に従えば、65歳まで継続雇用されることが期待できました。再雇用の拒否が撤回されない場合、話し合いの結果として解決金による金銭解決となることがありますが、雇用継続が期待できる年数に応じた、妥当な解決金でなければ合意してはいけません。

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慰謝料を請求する

違法な再雇用拒否を争う方針には、「再雇用されて働き続けたい」という争い方のほかに、慰謝料を請求する方法もあります。違法な再雇用の拒否は不法行為(民法709条)であり、これによって負った精神的苦痛については慰謝料を請求できるからです。この際、再雇用されず、職場復帰できなかった期間に失った収入については、逸失利益として損害に算入することができます。

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再雇用後の雇い止めを争う

定年退職のタイミングでは一旦は再雇用されたとしても、その先に会社を辞めざるを得なくなってしまうケースがあります。それが、再雇用後の雇い止めの事例です。つまり、60歳定年制で、定年退職後に嘱託社員として再雇用される場合、1年ごとの契約更新となる例も多いところ、この嘱託社員の契約を雇い止めされてしまう場合です。

この場合にも、雇い止めには一定の制限があります。雇い止めの法理が適用される結果、雇用継続の期待がある場合には、正当な理由なく契約を打ち切ることは許されません。

雇い止めの違法性」の解説

まとめ

今回は、定年退職後の再雇用の拒否をめぐるトラブルについて解説しました。

定年退職後の再雇用の問題は、少子高齢化の進む現代において、多くの人が直面し得る課題です。再雇用を希望したのに企業に拒否された場合、その理由が適切かどうかを検討し、速やかに対処すべき。正当な理由なく再雇用を拒否されるのは不当であり、違法となる可能性が高いでしょう。

解雇が厳しく制限されるのは周知の事実ですが、定年を理由に追い出すのも不適切なことに変わりありません。社会情勢に鑑みて、高齢者の保護は手厚くなっており、高年齢者雇用安定法の改正をはじめ、再雇用に関する法律の改正が進んでいます。時代の流れに合わない再雇用の拒否は、労働者の権利を侵害するおそれが強く、争うべき場面も多くあります。

定年退職後の再雇用を拒否され、まだ働けるのに辞めさせられたなら、自身の権利を守るために弁護士にご相談ください。

この解説のポイント
  • 65歳までの雇用機会の確保が義務化(70歳までの就業機会の確保が努力義務化)
  • 60歳定年制なら、定年退職後に再雇用しなければ高年齢者雇用安定法の義務違反
  • 定年退職後の再雇用を拒否するには正当な理由が必要となる

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