会社から交通費をもらうにあたって、会社に対して、どのような経路で通勤しているかを、書面などの方法で報告している方が多いのではないでしょうか。
しかし、中には、会社に届け出た通勤経路や、会社に報告している交通手段とはまったく違う方法で通勤している方もいます。
会社に報告している交通手段と全く違う経路で通勤したときに困るのが、通勤途中でケガをしてしまったときです。
通勤途中のケガは、「通勤災害(通災)」として労災申請ができますが、会社に嘘をついていると、バレるきっかけとなるからです。
そこで今回は、会社に届け出ているのとはまったく異なる経路や交通手段で通勤中に、ケガをしてしまったときの、通勤災害(通災)のもらい方について、労災の問題に強い弁護士が解説します。
目次
1. 会社に届け出た交通手段以外でも、通勤災害がもらえる!
会社に届け出た交通手段以外の方法によって通勤中に、事故にあってしまったとき、果たして通勤災害をもらうことはできるのでしょうか。労災申請をすることができるのでしょうか。
労災申請をするために、会社に届け出た交通手段である必要はないため、会社の知っている経路や手段でなかったとしても、通勤災害の申請をすることは可能です。
労働法上、通勤の際の交通費を支払うことは必須ではありません。
会社に届け出た交通手段以外の方法によって通勤していたとき、通勤災害との認定を受けることができるかどうかは、その経路及び手段が、合理的なものであるかどうか、という基準によって判断されます。
2. 合理的な手段・経路といえる?
会社に届け出た通勤手段、通勤経路と一致していなくても、合理的な手段、経路で通勤をしていれば、その途中で起こった事故、ケガについて、労災認定を受けることができると解説しました。
そこで、実際に「通勤災害かも?」という事故に遭遇してしまった労働者の方にとって、その通勤に使用していた経路及び手段が、合理的なものであるかどうかが問題となります。
そこで、「合理的な通勤手段かどうか」、「合理的な通勤経路かどうか」が問題となるケースについて、労働問題に強い弁護士が解説します。
2.1. 「合理的な手段」かどうかが問題となるケース
労災申請をするためには、通勤手段が合理的なものである必要があります。
例えば、会社には電車で通っていると報告をしながら、実際には自転車や徒歩で通勤していた場合には、その手段に、合理的な理由が見いだせるかどうかを検討しなければなりません。
実際に使用した手段のほうが、短時間かつ安価に移動できるのであれば、合理的な通勤手段であるとして、通勤災害の認定を受けることができるケースもあります。
2.2. 「合理的な経路」かどうかが問題となるケース
通勤災害と認めてもらうためには、実際に使用したルートが、会社に報告していたルートと異なる場合であっても、自宅と会社の間を移動する経路として、合理的なものである必要があります。
そのため、特に理由がないにもかかわらず遠回りをした場合や、通勤の途中で、仕事とは無関係の立ち寄りをしたような場合には、もはや合理的な経路とはいえません。
ただし、会社が、報告を受けた通勤経路をしっかりと吟味している場合には、会社に報告した経路以上に合理的な経路が他にはなく、遠回りになってしまっているおそれもあるため注意が必要です。
3. 労災申請に会社が協力してくれないケースとは?
ここまでお読みいただければご理解いただけますとおり、会社に届け出ている通勤経路、通勤手段ではなかったとしても、合理的な手段及び経路であれば、通勤災害の認定を受けることができます。
しかし、事故にあってしまったときに会社に報告している通勤方法と異なる場合には、「労災の対象とならないのでは?」という疑問が生じるのは、会社が協力をしてくれないケースがあるからです。
会社としても、労働者に対して交通費を支払うときに、合理的な手段及び経路を知るために、労働者に対して正直な報告を求めています。
この会社に対する交通手段の報告と、労災申請とは、本来無関係であり、別物なわけですが、嘘をつかれていたとすれば、会社としても、通勤災害(通災)の申請に協力をしない、という態度をとる可能性があります。
会社が労災申請に協力をしてくれない場合であっても、労災申請自体は、労働者が自分で行うこともできます。
4. 通勤経路・通勤手段が嘘だったときの、「横領」の問題は?
会社に報告をしている通勤手段、通勤経路が実際のものと異なっていたとき、通勤災害(通災)の認定を受けられるかどうか、という点では問題ないものの、別の問題が生じることがあります。
それが、通勤交通費の不正受給、すなわち、「詐欺」の問題です。
例えば、遠回りの電車のルートで会社に申請をして、多めに交通費をもらいながら、実は近道を自転車で通勤していたため交通費はかかっていなかったとすれば、会社からもらっていた通勤交通費を「詐欺」していたことになります。
この場合、労働者は、通勤手段、通勤経路について、会社に対して虚偽の事実を伝えることによって、通勤交通費を得ていたことになるため、刑法上の詐欺罪が成立するおそれがあります。
また、刑法違反という重い罪以外にも、通勤交通費の不正受給は、就業規則違反となり、懲戒処分や解雇などの対象となるおそれがあるため、注意が必要です。
5. まとめ
今回は、会社に届出していた経路や手段とは異なるもので通勤していたときに、通勤途中で事故にあったりケガをしてしまったら、通勤災害の認定を受けることができるかについて解説しました。
労災保険法上の問題でいえば、必ずしも会社に届け出た経路、手段で通っていなかったとしても労災認定を受けることができるわけですが、通勤交通費の不正受給となっている場合には、早めに申告しておいたほうがよいでしょう。
会社が通勤災害(通災)の申請に非協力的な場合には、労働問題に強い弁護士へ、お早めに法律相談ください。