通勤手当や交通費の支給を受けるため、会社に通勤経路を届け出る人は多いでしょう。
しかし現実には、混雑の回避や個人的な事情などで、届け出た通勤経路と違うルート、報告した交通手段とは異なる方法で通勤しているケースも少なくありません。
このような状況で問題になるのが、通勤途中でケガをした場合です。
相談者労災申請をしたら、通勤経路を変えていたことがバレてしまう
相談者事実と異なる申告をすると労災(通勤災害)で保護されない?
通勤途中のケガは、一定の要件を満たせば労災(通勤災害)として、労災保険の給付を受けることができます。もっとも、会社に嘘をついて、届け出た通勤経路を変更していた場合、労災申請をしたことをきっかけに嘘がバレるおそれがあります。
今回は、会社に届け出た経路とは違うルートで通勤中にケガをした場合でも、通勤災害として労災が認められるのかについて、労働問題に強い弁護士が解説します。
- 届け出た通勤経路や通勤手段と違っても、労災保険の給付を受けられる
- 合理的な経路・手段ではないとき、労災(通勤災害)の認定を受けられない
- 届け出た経路・手段と異なり、会社が非協力的なときは、自身で申請可能
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会社に届け出た交通手段以外でも通勤災害として認定される

会社に届け出た交通手段以外の方法で通勤中に事故に遭ってしまったとき、果たして通勤災害の補償を受けることができるのでしょうか。労災申請は可能なのでしょうか。
このような点が問題になるのは、例えば、次のケースです。
- 気分転換に、1日だけいつもと違うルートで通勤した。
- 会いたくない人がいたので回り道して出社した。
- 転居したが、申請を変更しないままであった。
労災申請をするためには、会社に届け出ている通勤経路・交通手段である必要はありません。そのため、会社の知っている経路や手段でなくても、通勤災害の申請をすること自体は可能です。
むしろ、労働法上、会社に通勤時の交通費を支払う義務はありません。したがって、通勤経路や手段の報告も、法律上必須のものではありません。会社に届け出た交通手段以外の方法によって通勤していたとき、通勤災害の認定を受けられるかどうかは、「経路及び手段が合理的なものであるかどうか」という基準によって判断されます。
「労災について弁護士に相談すべき理由」の解説

「合理的な手段・経路といえるか」が重要

次に「合理的な通勤手段」「合理的な通勤経路」とはどのようなものかを解説します。
会社に届け出た通勤手段や通勤経路と一致しなくても、合理的な手段と経路で通勤すれば、その途中で起こった事故やケガについて労災認定を受けられると解説しました。そのため、実際に「通勤災害かもしれない」と疑われる事故に遭遇した場合、その通勤に使用していた経路及び手段が「合理的なものかどうか」が重要な関心事となります。
「合理的な手段」かどうかが問題となるケース
通勤災害の認定を受けるためには、通勤手段が合理的なものである必要があります。
例えば、会社には電車で通勤していると報告しながら、実際には自転車や徒歩で通勤していた場合、その手段に合理的な理由が見出だせるかどうかを検討しなければなりません。
実際に使用した手段のほうが、短時間かつ安価に移動できるのであれば、合理的な通勤手段であるとして、通勤災害の認定を受けることができるケースもあります。
「合理的な経路」かどうかが問題となるケース
通勤災害として認定されるには、実際に使用したルートが、会社に報告していたものと異なる場合であっても、自宅と会社の間を移動する経路として合理的である必要があります。そのため、特に理由がないにもかかわらず遠回りした場合や、通勤途中で仕事とは無関係な立ち寄りをした場合、もはや合理的な経路とはいえません。
ただし、会社が、報告を受けた通勤経路をしっかりと吟味している場合、会社に報告した経路よりも合理的な経路が他になく、遠回りになっているおそれもあるため注意が必要です。
通勤経路から外れても労災認定される例外ケース
通勤途中に仕事や通勤とは関係のない目的で合理的な経路を外れたり(逸脱)、経路上で別の行為をしたり(中断)した場合、逸脱・中断中だけでなく、その後の移動も通勤とは認められません。
ただし、日用品の購入や通院など、法令で定められた日常生活上必要な行為を、やむを得ない事情により必要最小限度で行った場合には例外があります。この場合、経路を外れている間は通勤とは扱われないものの、合理的な通勤経路に戻った後は、再び通勤として認められる可能性があります。
例えば、仕事帰りにスーパーへ立ち寄って日用品を購入した場合、買い物中に事故に遭っても原則として通勤災害になりませんが、買い物を終えて通常の帰宅経路に戻った後に事故に遭った場合には、他の要件も満たしていれば、通勤災害として労災保険給付を受けられます。
なお、通勤途中の行為であっても、映画鑑賞や長時間の飲食など、日常生活上必要な行為とはいえない寄り道は、合理的な経路に戻った後も通勤とは認められません。
「労災の条件と手続き」の解説

労災申請に会社が協力してくれないときの対応

ここまで解説した通り、会社に届け出ている通勤経路、通勤手段と異なっていたとしても、「合理的な手段及び経路」であれば、通勤災害の認定を受けられます。
しかし、事故に遭い、会社に報告している経路や手段と異なる場合に「労災の対象とならないのでは?」という疑問が生じてしまう背景には、そのようなケースでは会社が協力してくれないという事情があります。中には、「嘘をついていたなら自己責任だ」などと責め、労災の申請に一切協力しない悪質な会社もあります。
会社としても、労働者に交通費を支払う際には「合理的な手段及び経路」を知るために正確な報告を求めます。会社に対する報告と労災申請は、本来無関係であり、別物ですが、嘘をつかれていたとすれば、会社としても非協力的な態度をとる可能性があります。
しかし、会社が労災申請に協力してくれないときでも、申請は労働者自身で行うことができます。自分で申請する場合は、会社の態度を気にする必要はありません。事業主証明を拒否された場合に、自分で労災申請する方法は、「労災を会社が認めない時の対応」解説をご覧ください。
通勤経路・通勤手段が虚偽だと、不正となるリスクもある

会社に報告している通勤手段や通勤経路が、実際と異なっていたとき、「通勤災害(通災)の認定を受けられるかどうか」という点とは別に通勤交通費の不正受給の問題も生じます。
例えば、遠回りになる電車の経路を会社に申請し、多めに交通費をもらった場合に、実際は自転車で通勤していた(交通費はかかっていなかった)なら、会社に嘘をついて通勤交通費をだまし取っていたことになります。
この場合、労働者は、通勤手段、通勤経路について、会社に虚偽の事実を伝えることで余分に通勤交通費を受け取ったことになるため、刑法上の詐欺罪や業務上横領罪が成立します。また、刑法上の罪に問われる以外にも、通勤交通費の不正受給は就業規則違反にもなり、懲戒処分や解雇といった厳しい処分の対象となるため、注意が必要です。
「交通費の不正受給は横領?」の解説

【まとめ】通勤経路と違うルートでの労災

今回は、届け出た通勤経路と異なる経路でケガをした場合の労災について解説しました。
会社に報告していた通勤経路や交通手段とは違うルートで通勤していた場合でも、通勤途中のケガや事故について、労災(通勤災害)が認められる可能性はあります。
労災保険法上、通勤災害として認定されるかどうかは、会社に届け出た経路や手段で通勤していたかどうかだけで判断されるわけではありません。そのため、届出と異なるルートで通勤していた場合でも、要件を満たせば通勤災害として認定を受けることができます。
ただし、会社に知らせずに通勤経路を変更すると、交通費の不正受給を疑われて問題となるおそれがあるので、トラブルを避けるためにも早めに届け出ておくべきです。
会社が労災(通勤災害)の申請に非協力的な場合や、労災として認められるか判断に迷う場合は、一人で抱え込まず、ぜひ一度弁護士にご相談ください。
- 届け出た通勤経路や通勤手段と違っても、労災保険の給付を受けられる
- 合理的な経路・手段ではないとき、労災(通勤災害)の認定を受けられない
- 届け出た経路・手段と異なり、会社が非協力的なときは、自身で申請可能
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