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浅野 英之
弁護士
弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号44844)。
東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

企業側の労働問題を扱う石嵜・山中総合法律事務所、労働者側の法律問題を扱う事務所の労働部門リーダーを経て、弁護士法人浅野総合法律事務所を設立。

不当解雇、未払残業代、セクハラ、パワハラ、労災など、注目を集める労働問題について、「泣き寝入りを許さない」姿勢で、親身に法律相談をお聞きします。

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地震なのに出勤を命じられたら違法?災害時の出社命令に従う必要がある?

今回は、地震なのに出勤を命じられたときの対応、出社命令の違法性を、労働問題に強い弁護士が解説します。

毎年3月11日になると、東日本大震災が思い返されます。
地震などの災害が起きてもなお、出勤を命じてくる会社があります。
なかには「地震で大変なんだから、職場をサポートするため出社しろ」と命令するブラック企業も。

相談者

家族が大変で、仕事どころじゃない

相談者

会社と家が遠いので、出勤しようにも事実上困難

地震が起こると、こんなご相談があります。
電車、バスなどの公共交通機関がストップし、出勤したくても動けなかったり、オフィス周辺の被害がひどいとき、「会社に行くと危険なのでは?」と不安なことも。

労働者は、雇われて給料をもらっていると、会社の命令に従わなければなりませんが、地震などの災害時、出勤を命令されたときにまで、従わなければならないのか?と疑問がうまれます。
命令に応じて出勤し、ケガをしたり、(最悪のケースでは)死んだりしたら、労災(業務上災害・通勤災害)であり、かつ、企業の安全配慮義務違反の責任を問えますが、そもそも危険は未然に防止したいところです。

出勤命令が違法ならば、たとえ労働者でも、従う義務はありません。
地震などの災害時、出勤命令の違法性と、その基準について理解しておいてください。

この解説のポイント
  • 労働者は、会社の出勤命令・出社命令に応じる義務がある
  • 地震や災害など、危険があるとき、業務命令に応じなくてもよい場合がある
  • 出勤の命令に応じない場合にも、会社の状況に配慮した対応が必要

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解説の執筆者

弁護士 浅野英之

弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号44844)。
東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

企業側の労働問題を扱う石嵜・山中総合法律事務所、労働者側の法律問題を扱う事務所の労働部門リーダーを経て、弁護士法人浅野総合法律事務所を設立。

不当解雇、未払残業代、セクハラ、パワハラ、労災など、注目を集める労働問題について、「泣き寝入りを許さない」姿勢で、親身に法律相談をお聞きします。

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地震のときの出勤命令にしたがう必要ある?

地震のときの出勤命令にしたがう必要ある?

地震などの災害に、通勤中にまきこまれると、電車にとじこめられてしまったり、渋滞にはまって抜け出せなかったりするといった大惨事になってしまいます。
ラッシュ時ほど、特に危険。

「大地震、大災害のときは、その場から動かないほうがよい」ということもありますが、労働者のそんな事情などまったく考慮してくれない会社もあります。

地震の被害をうけたとき、通勤が事実上困難であり、出勤を強制されてもしたがえません。
それでもなお、会社の出勤命令を受けてしまうのでしょうか。
このような出勤命令も、適法だとすれば、したがわないと処分を受けるおそれがあるわけですが、それでよいのでしょうか。

会社には、出勤命令する権利がある

まず、会社は、雇用する労働者に、出勤・出社を命じる権利があります。
この権利は「出勤命令」ないし「出社命令」といわれ、労働契約で会社にあたえられる「業務命令権」の一環です。

「会社は、労働者に出社を命令する権利がある」と雇用契約書や就業規則に書いてあるケースはもちろん、明記されていなくても、雇用関係にあれば当然に命令でき、労働者としては命令したがわなければなりません。
出社を命令できる権利があるということは、地震などの災害時でも、原則は同じこと。

地震で事務所の書棚が倒壊し、書類ファイルが散乱したら、大至急片付けなければなりません。
手助けが必要な地震・災害のときほど、人手が必要で、出社命令・出勤命令をする必要性が高いといえます。

労働者には、出勤命令に応じる義務がある

雇用契約上の権利・義務

労働者は、会社に雇用され、給料をもらうことで、会社の命令にしたがう義務を負います。
つまり、「業務命令」として会社から命じられた出社・出勤には、原則、応じなければなりません。

これは、労働者が会社に対して負っている「労務提供義務」の一貫だからです。
地震などの災害のあった地域の会社は、復旧が必要。
出勤命令に応じて出社し、職場の復旧作業を手伝うこともまた、労務提供義務の1つなのです。

したがうべき義務のある出社命令・出勤命令に応じなければ、業務命令違反となります。
このとき、会社から注意指導を受けたり、懲戒処分となったり、最悪のケースでは解雇の対象となるおそれがあります。

不当な解雇を受けてしまったとき、争いたい方は、次の解説もご覧ください。

地震なのに出勤しろといわれたときの対応

次に、地震なのに出勤しろといわれてしまったとき、すべき対応を3ステップで解説します。

安全を第一に行動する

まず、自分の安全を第一に考えて行動してください。
長年会社に貢献してきた方のなかには、責任感、義務感が強く、「自分のことは二の次だ」というようになってしまっている方もいますが、そのような考えはおすすめできません。

震災など、被害が甚大なケースでは、この基準が一番大切です。

真面目な性格な人ほど、自分ひとりでは地震の危険性を判断できなくなってしまいます。
家族などの意見も聞くよう心がけましょう。

出勤命令が適法かを検討する

次に、出勤命令が適法かどうかを検討します。

適法な出勤命令であれば、したがわなければなりませんが、違法であればしたがわなくてもよいもの。
ただし、今後の人間関係や会社でのたちまわりなどを考えると、「したがわない」という判断をしたときにも、出勤命令を無視したり放置したりするのではなく、きちんと「行けない理由」を伝えて、命令を断るようにしてください。

なお、判断基準については次章「地震のときの出勤命令は違法?判断基準は?」をご覧ください。

出勤すると生命・身体に危険が及ぶなら、命令には従わない

出社命令・出勤命令にしたがうと、労働者自身の生命、身体に危険が及ぶことが明らかな場合にまで、会社の命令にしたがう必要はありません。

違法な業務命令には、したがう義務はない!

震災の場合など、自然災害によって、労働者の生命、身体に危険が及ぶケースは多いもの。
このようなとき、たとえ雇用契約上の義務といえど、例外的に、出社命令・出勤命令に従わなくてもよいです。
また、したがわないことを理由に罰せられたり、制裁を下されたりすることもありません。

労働者として給料をもらっているとはいえ、自分の生命、身体を犠牲にしてまで会社に尽くさなければならない義務まではないからです。

どうしてもしたがえない場合は「地震により、出勤命令にしたがうのが不可能なときの対応」参照

地震のときの出勤命令は違法?判断基準は?

地震のときの出勤命令は違法?適法?【判断基準】

地震で公共交通機関が混乱したり、停電・断水したりしたのに出勤を強要されると、生命・身体に危険が及ぶケースも。

身の安全がおびやかされるケースでは、出社を命じる業務命令自体が、違法と評価できます。
違法な業務命令であれば、労働者といえどもしたがう必要はありません。

そこで、災害時に出勤命令を受けてしまい、対応に迷うときに、「その業務命令は違法なのではないか?」と検討する必要があります。
出勤命令・出社命令の違法性の判断基準について解説します。

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地震のとき、出勤命令の違法性はどう判断すればよい?

地震などの災害時に出勤すれば、次のような危険が予想できます。

  • 倒壊した建物のガレキが、頭上から降ってくる
  • 割れた窓ガラスが降ってくる
  • 倒壊した建物に押しつぶされ、身動きが取れなくなる
  • 地震を原因とした火災に巻き込まれる

そして、地震などの自然災害による危険は、どれほど注意しても防ぐことができません。

生命、身体に危険があるならば、出社命令・出勤命令に応じなくてよいといえます。
地震の震度、強度や、住んでいる地域の被害の程度によって、ケースバイケースで判断しなければなりませんから、予想される具体的な危険を列挙するようにしてください。

裁判例における出勤命令の違法性についての判断基準

裁判例でも、労働者の生命・身体に危険が及ぶと予想されるときは、出社・出勤をしろという業務命令にはしたがわなくてもよいことが明らかにされています。
この判断は、地震などの自然災害にも応用できます。

電電公社千代田丸事件(最高裁昭和43年12月24日判決)の事案は、日本と韓国の間の海底ケーブルの修理のため、千代田丸という船舶への乗船を命令された社員が、日韓の緊張状態を恐れて乗船拒否したことを理由にして解雇をし、解雇の有効性が争われたケースです。
この事例では、裁判所は次のように判断し、業務命令にしたがう義務を否定しました。

「現実に米海軍艦艇による護衛が付されたこと自体、この危険が単なる想像上のものでないことを端的に物語るものといわなければならず」
「動乱終結後においてなお、この危険が具体的なものとして当事者間に意識されていたからに他ならない、というべき」
「かような危険は、双方がいかに万全の配慮をしたとしても、なお避け難い軍事上のものであつて、海底線敷設船たる千代田丸乗組員の本来予想すべき海上作業に伴う危険の類いではなく、また、その危険の度合いが必ずしも大でないとしても、なお、労働契約の当事者たる千代田丸乗組員において、その意に反して義務の強制を余儀なくされるものとは断じ難い」

電電公社千代田丸事件(最高裁昭和43年12月24日判決)

つまり、担当する業務において、本来予想されたものを超えるほどの危険があるとき、出社命令・出勤命令などの業務命令が違法となるということです。
そして、この場合、その業務命令を拒否しても、解雇などの不利益な処分を下されません。

危険があることは、具体的に予測することができるかどうかがポイントです。
漠然とした不安ではなく、出社・出勤をことわるときには、実際に危険があることをしっかり会社に説明しておきましょう。

地震により、出勤命令にしたがうのが不可能なときの対応

交通機関がストップしてしまった状況での出勤は難しい方がほとんどでしょう。
このように出勤命令に従うのが事実上不可能な場合には、労働者として、どう対応するのが適切でしょうか。

選択肢は、次のとおりいくつかありますが、状況に応じて正しい選択をしてください。

重要なことは、会社の上司が、「何がなんでも出勤しろ」、「できるだけ注意して出社は必ずするように」と強要してきても、その業務命令の違法性を適切に判断し、したがうかどうかを判断することです。

出勤途中でも帰宅する

通勤の途中で地震などの自然災害にあってしまったときは、出勤途中でも帰宅するのが適切な例があります。
電車に乗る前などであれば、公共交通機関の混乱にまきこまれるおそれも。
これ以上通勤を続けるよりも、自宅に帰宅するほうが適切なケースがあります。

つまり、「途中帰宅」をするということです。
出社命令・出勤命令を受けていても、通勤手段がなく通勤が不可能な場合や、通勤すると生命、身体に危険が及ぶと予測される場合には、「途中帰宅」が適切な対応です。

リモートワークが普及している会社では、途中帰宅して在宅で仕事をしたほうがよいでしょう。
このようなとき、会社にも、在宅勤務でよいかどうかを確認しておいてください。

自宅待機する

地震などの状況がなかなかわからないときは、自宅待機が適切な対応である場合が多いです。
このことは、まだ通勤していないケースはもちろん、一旦は通勤したが途中帰宅したケースでもそうです。

大地震によって停電したり、報道情報が得づらいとき、すぐに思いつきで行動しては危険です。
たとえ出社命令・出勤命令があっても、情報を的確に把握したうえで、危険がなくなってから応じるべきです。

なお、地震にともなう津波、建物の倒壊、火災など、二次災害が予想される場合は、避難所などへの避難が適切なこともあり、必ずしも「自宅」に待機しなければならないわけではありません。

欠勤する

大地震など、被害の大きい自然災害では、数日の間欠勤すべきというケースもあります。

欠勤をする場合には、「ノーワークノーペイ」が原則。
ただし、会社が休業せざるをえなくなった場合や、自宅でも仕事していた場合は、給与をもらえることもあります。
念のため、会社への問い合わせを行っておくのがよいでしょう。

有給休暇を利用する

最後に、地震などの災害によって、出勤、出社が困難な場合に、有給休暇を取得するという解決策もあります。

有給休暇はどんな理由でも取得する権利があります。
地震などの災害によって、命じられた出社が困難だという場合、波風をたてないよう、有給休暇をとることで対応できます。
「有給休暇をとる」といわれれば、会社としてもこれ以上出勤しろとは命じられなくなります。

有給を取らないようプレッシャーをかけてくる会社は、悪質なブラック企業です。

ただし、会社が災害によって混乱状態にあることに配慮した連絡をすべきです。
お互いの状況に配慮した有給休暇の取得のしかたを心掛けましょう。

有給休暇についての法律知識は、次の解説もご覧ください。

地震なのに出勤を命じられたときの注意点

最後に、地震なのに出社を命じられたときに、労働者側で、対応するとき注意しておきたい点を解説します。

ルールがあいまいなこと自体が問題だと考えられますから、自分の会社での扱いが不明なときには、会社にも確認しておくのがおすすめです。

災害時の出社命令は安全配慮義務違反の可能性がある

会社は、労働者の生命、身体の安全に配慮しなければなりません。
これを「安全配慮義務」といい、違反があると、損害賠償を請求できます。
労働契約法は、次のとおり定めています。

労働契約法5条

使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。

労働契約法(e-Gov法令検索)

したがって、地震などの災害が起こったとき、労働者の生命・身体に危険があるにもかかわらず出社・出勤を命令した会社には、安全配慮義務違反の責任を追及できます。
会社の安全配慮義務違反の結果、ケガしたり死亡したりしたとき、具体的には次の損害の賠償を請求します。

  • 治療費
  • 通院交通費
  • 休業損害
  • 介護費
  • 慰謝料(通院慰謝料、後遺障害慰謝料、遺族の慰謝料)
  • 逸失利益

地震などの自然災害は、起こることを避けられませんし、注意しても被害が出てしまいます。

オフィス防災の例
オフィス防災の例

そのため、会社の「安全配慮義務」の内容としては、書棚の倒壊防止・飲食物やヘルメットの常備・非常口の設置など地震に備えた防災の準備をすることはもちろんですが、地震が発生したとき、適切な事後対応をすることも含まれます。

弁護士浅野英之

会社は情報収集を徹底し、状況把握に努め、危険の及ぶような出勤命令は出さないよう注意することが必要となります。

労災事故の後に退職するときにも、適切な補償を受ける必要があります。

出社命令にしたがわないとき、給与はもらえるか

「ノーワークノーペイの原則」という重要なルールがあります。
これは、「働かなければ給与をもらうことはできない」という意味です。

地震など、自然災害が原因でも、この「ノーワークノーペイの原則」があてはまるのが基本。
したがって、地震など、出勤できないやむをえない理由があっても、働いていない以上給料はもらえない、となります。

一方で、働けないことの理由が会社側にあるときは、給与をもらえるケースがあります。

地震の被害について十分に復旧が進み、危険なく働くことができるにもかかわらず、次のような理由が働けない原因となっているときには、「働けない理由が会社にある」として、給料は請求できる可能性があります。

  • 地震によって取引先にトラブルがあった
  • 地震によって仕事がなくなってしまった
  • 業務はできるが、安全に自信がないので大事をとって休みにした
  • 地震によって工場が動かなくなってしまった
  • 地震によって社長が倒れて指示が出せなくなって

安全などの点で念のため出社を回避するとき、賃金補償してくれる会社もあるので確認しておきましょう。

なお、在宅勤務などのリモートワークでは、地震であっても労働を続けることができるとき、給料がもらえるのは当然のことです。

特殊な職業の方の考え方

ここまでの解説は、一般的な、オフィスではたらくサラリーマンを想定しています。
オフィスではたらく方は、出勤・出社しなければはたらけません。

これに対して、特殊な職業の方の場合には、かならずしも一般論があてはまらない方もいます。
例えば、警察官、消防士、自衛隊職員、救急病院の医師・看護師など、危険時にはたらくことを想定されている職業の場合、身の安全が大切なのは当然ですが、サラリーマンよりは、上の命令にしたがわなければならないと判断される可能性が高いでしょう。

また、教員や公務員など、生徒の安全を確保するためにはらたかなければならないといった理由があるとき、その出勤・出社の判断基準を、必ず確認しておくようにしてください。

まとめ

弁護士法人浅野総合法律事務所
弁護士法人浅野総合法律事務所

地震などの災害のときでも、会社から出社命令・出勤命令を下されてしまったら、まずは「自分の生命、身体が危険にさらされないかどうか」を重要な判断基準にして行動してください。

危険が及びそうな可能性があるとき、その危険が具体的に予測できるからば、出社・出勤の業務命令は違法であり、したがう必要のないケースもあるからです。

決して、「会社の命令だから出勤せざるをえない」と無理をしないようにしましょう。
むしろ、地震・災害で混乱したなかで出勤を強要する会社は、安全配慮義務違反の責任を負うおそれもあります。

安全配慮義務違反のケース、違法な業務命令を受け、違反を理由に解雇されてしまった方、ぜひ労働問題に強い弁護士にご相談ください。

この解説のポイント
  • 労働者は、会社の出勤命令・出社命令に応じる義務がある
  • 地震や災害など、危険があるとき、業務命令に応じなくてもよい場合がある
  • 出勤の命令に応じない場合にも、会社の状況に配慮した対応が必要

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