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浅野 英之
弁護士
弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号44844)。
東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

企業側の労働問題を扱う石嵜・山中総合法律事務所、労働者側の法律問題を扱う事務所の労働部門リーダーを経て、弁護士法人浅野総合法律事務所を設立。

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残業代は1分単位での請求が原則!分単位の正確な計算方法と例外を解説

「残業は何分から請求できるの?」という相談はよくあります。結論、残業代は1分単位で請求することができるのが原則です。細かい時間だと請求をあきらめる人もいますが、もったいないことです。

相談者

細かい請求するのも面倒だ……

弁護士

チリも積もれば山となります

残業代の単位について疑問が生まれるのは理由があります。それは「ブラック企業だと細かい残業は無視されるから」。例えば「残業代は概算とする」「30分単位で切り捨てて計算」といったケースです。悪質な企業だと、短い残業は把握すらされませんが、これらの考え方は、労働基準法の定める残業代計算のルールに反し、違法です。

残業代は1分単位から正確に計算すべきなので、切り捨てて計算すれば未払いが生じ、労働基準法37条1項違反です(なお、計算の便宜上、労働者に不利益の小さい限度で、一定のルールに従った切り捨てのみ許されます)。

今回は、残業代を1分単位で計算すべき理由と、切り捨てで未払いとなった残業代の計算方法、請求の流れについて、労働問題に強い弁護士が解説します。

この解説のポイント
  • 残業時間は、1分単位で記録して、残業代を請求するのが基本
  • 厚生労働省の通達で、労働者に不利益とならない範囲の端数処理が認められている
  • 1日に15分単位、30分単位の端数をカットするというやり方は違法

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解説の執筆者

弁護士 浅野英之

弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号44844)。
東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

企業側の労働問題を扱う石嵜・山中総合法律事務所、労働者側の法律問題を扱う事務所の労働部門リーダーを経て、弁護士法人浅野総合法律事務所を設立。

不当解雇、未払残業代、セクハラ、パワハラ、労災など、注目を集める労働問題について、「泣き寝入りを許さない」姿勢で、親身に法律相談をお聞きします。

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残業代は1分単位で計算するのが原則

まず「残業代は何分単位で計算すべきなのか」という質問について、結論として「残業代は1分単位で請求できる」というのが正解です。法律や行政のルールによってそのように決められているからであり、これに反する業界慣習や会社のルールは違法です。

以下に、その理由を詳しく解説します。

残業代を1分単位で請求できる理由

残業代を1分単位で請求できる理由は「働いた時間に対しては、全て対価をもらう権利があるから」という至極当然のものです。

労働基準法24条は「賃金全額払いの原則」が定め、発生した給与は、その全額を労働者に支払わなければならず、勝手に差し引きしたり控除したりするのを許してはいません。そして、使用者の指揮命令下に置かれている時間は労働基準法32条の「労働時間」にあたり、必ず対価が発生しますから、その時間がたとえ1分だとしても、その1分に対する給料や残業代をもらう権利があります。

労働基準法37条1項により、「1日8時間、1週40時間」を超える時間には、時間外の割増賃金(いわゆる残業代)を支払う義務が会社にはあるので、この点についても、たとえ残業時間が1分に過ぎなかったとしても、その残業時間に相当する残業代を受け取る権利があります。

労働時間の定義」の解説

1分以上の残業を切り捨てるのは違法

本解説の通り、1分以上の残業を切り捨てるのは違法です。それは、前章の通り、残業代は1分単位で計算するべきであって、1分以上の残業を切り捨ててよいという法律のルールがないからです。労働基準法では切り捨ては原則として違法であり、たとえ1分でも「残業は残業」なわけです。

したがって、ブラック企業にありがちな15分単位、30分単位といった大雑把な残業代計算は、労働基準法に違反しており、明らかに違法です。5分だろうが10分だろうが、短い残業をカットすることはできません。労働基準法は、最低限の労働条件を定めて労働者を保護する法律ですから、これを下回るような不利益なやり方は許されていません。

労働基準法で例外的に許される端数処理

「1分でも残業したら残業代請求できる」と説明しました。そのため、残業時間や残業代の切り捨て処理は、原則として違法になります。

ただし、例外的に、あまりに細かい端数については概算処理することが許されています。原則を貫くと「1秒でも残業すれば残業代が発生する」ということになりますし、残業代の計算が複雑なときに1円未満の端数が生じることがありますが、これらは煩雑となり、かえって労働者のメリットにはなりません。「秒単位で仕事を終える」というのは困難で、現実的ではありません。

厚生労働省の通達は、次の通り、一定の端数処理を認めています。

  • 時間外労働及び休日労働深夜労働の1ヶ月単位の合計について、1時間未満の端数がある場合は、30分未満の端数を切り捨て、30分以上を1時間に切り上げること。
  • 1時間当たりの賃金額および割増賃金額に1円未満の端数がある場合は、50銭未満の端数を切り捨て、50銭以上を1円に切り上げること。
  • 時間外労働および休日労働、深夜労働の1ヵ月単位の割増賃金の総額に1円未満の端数がある場合は、上記2と同様に処理すること。

※ 参照:厚生労働省通達(昭和63年3月14日基発150号)

以上の残業代の端数の処理、残業代の概算が認められるのは、これによって与える労働者の不利益が小さいと考えられるからです。したがって、あくまで上記の省令を根拠にした例外しか許されず、この範囲を超えた端数処理まで許すわけではありません。例えば「1日の残業時間について30分未満を切り捨てる」「残業代を毎日計算し、1円未満を丸める」といった処理は、上記にあてはまらず、違法です。

複雑な計算となるため、具体例を挙げて詳しく解説します。

1ヶ月の残業時間について1時間未満の端数は概算できる

1つ目の例外が、1ヶ月の残業時間について1時間未満の端数を概算する方法です。

例えば、ある労働者の時間外労働の1ヶ月の合計が、34時間30分だったとき、これを35時間として計算することができます。また、34時間25分だったとき、これを34時間として計算できます。この程度であれば、労働者への不利益は軽微に抑えられるからです。

しかし一方、例えば、1ヶ月の時間外労働の合計が36時間40分であるものを、切り捨てて36時間として算出することはできません。30分以上の労働時間は切り上げなければならず、切り捨ては認められていないからです。また、あくまで1ヶ月の合計に対する概算処理であり「毎日の残業時間について30分未満を切り捨てる」という処理は違法です。

残業代の基礎単価について1円未満の端数は概算できる

2つ目の例外が、残業代の基礎単価について1円未満の端数を概算する方法です。

残業代の計算方法は、次の計算式で算出されます。

  • 残業代 = 基礎単価(基礎賃金/月平均所定労働時間) × 割増率 × 残業時間

基礎単価の計算は割り算なので、割り切れないと1円未満の端数が生じます。そのまま計算するのは非常に煩雑であり、ただでさえ難しい残業代の計算にミスが生じやすくなってしまいます。そのため、基礎単価に生じた1円未満の端数については、切り上げ、切り捨てによって丸めて計算するのであれば、労働者の不利益もさほど大きくないため例外的に許されます。

なお、1円未満の端数にしか許されないため「100円単位で計算する」といった方法は違法であり、また、丸めることが許されるのみで「1円未満は全て切り捨てる」という計算も違法です。

残業代の計算方法」の解説

1ヶ月の残業代について1円未満の端数は概算できる

3つ目の例外が、1ヶ月の残業代について1円未満の端数を概算する方法です。

例えば、1ヶ月の残業代を計算した結果、7万6500円50銭であるとき、50銭を切り上げ、7万6501円とすることができ、また、7万8000円25銭だったときは25銭を切り捨てて7万8000円として残業代を計算することができます。日払いのアルバイトだと、日ごとに残業代が計算されることもありますが、このときでも概算処理は月ごとにしか許されず、そうでなければ1分単位の原則通りにすべきです。

残業代請求についての疑問は、弁護士に相談することで解消できます。

残業代請求に強い弁護士への無料相談」の解説

残業時間と残業代の切り捨ては違法

以上の通り、残業時間を1分単位で把握し、残業代を1分単位で計算する、という細かい計算方法を行わなければならず、大雑把で適当で、甘くみている企業では、違法な行いが状態化していると考えてよいでしょう。

また、例外的に、計算の便宜のための端数処理が許されてはいるものの、これらはあくまで労働者の不利益を最小限に抑えるための厳格なルールであり、この範囲を超えてはいけません。少なくとも「一律に切り捨てる」という処理を許す定めは法律、省令のいずれにもないため、残業時間、残業代を切り捨てるやり方は、違法となると考えてよいでしょう。

労働基準法は、弱い立場にある労働者を保護する法律で、強行法規。つまり、これに反するルールを労使で定めても無効になる、強力な効果があります。たとえ労働者が同意していたり、争わず放置していたりしても、労働基準法違反となります。残業代の未払いについては「6ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金」(労働基準法119条)という罰則が科されており、労働者は厚く保護されています。

労働基準法は「決められた時間を超えて働いたら残業代を払う義務がある」ことを定めており、「延長した時間が短い場合は払わなくてよい」とはまったく書いてありません。

労働問題を弁護士に無料相談する方法」の解説

残業代を1分単位で正確に計算する方法

最後に、残業代を1分単位で、正しく計算し、請求する方法について解説します。違法に残業時間をカットしたり、残業代の端数を切り捨てたりする会社に対抗するためには、労働者が正しい法律知識を身につける必要があります。

正しい計算方法で残業代を再計算する

残業代の計算方法

会社における残業代の計算方法に、違法な切り捨て処理があったとき、1分単位の正しい計算方法で、残業代を再計算する必要があります。

本解説の通り、15分単位や30分単位の切り捨ては、労働基準法24条の賃金全額払いの原則に違反しており、誤った方法で計算された残業代しか払わないのは労働基準法37条1項違反であり、いずれも違法なのは明らかです。厚生労働省令によって許された概算処理を用いた正しい手順は、次のように進めます。

  • 基礎賃金の計算
    基本給と手当から、除外賃金を差し引く。
  • 基礎単価の計算
    基礎賃金を所定労働時間で割る。このときに生じる1円未満の端数は、50銭以上を切り上げ、50銭未満を切り捨てることのみ許される。
  • 割増率を乗じる
  • 残業時間を乗じる
    このとき計算される残業時間は1分単位が原則ですが、1ヶ月の合計時間について30分以上を切り上げ、30分未満を切り捨てることのみ許される。
  • 以上で計算された全ての残業代を合計する
    このとき合計された残業代に生じる1円未満の端数については、50銭以上を切り上げ、50銭未満を切り捨てることのみ許される。

残業代の計算方法」の解説

タイムカードが正しくない場合の残業時間の算出

残業代や残業時間について1分単位で計算してくれない違法な企業の内部では、そもそも労働時間の把握について違法があり、正しい残業時間を知ることができないケースもあります。例えば、次のようなケースを考えてみてください。

  • タイムカードが改ざんされている
  • 「15分未満の残業は申請しないように」と指示されている
  • 残業が許可制となっており、短い残業は許可されない

本解説では、違法な端数処理が許されず、1分単位で計算すべきことを説明しましたが、そもそも残業時間を把握する時点で、時間そのものが偽装されてしまうと、実際いくらが適正額なのか全くわからなくなってしまいます。しかし、このような違法な命令に従う必要はありません。会社が許可しなくても、「残業」と評価しなくても、その時間についての残業代が払われないなら違法となるからです。

会社の誤ったやり方や就業規則の間違った定めよりも、労働基準法が優先されるのは当然です。会社には1分単位で正しく残業代を払う大前提として、労働時間や残業実態を正確に把握する義務があります。

タイムカードの違法な改ざん」の解説

1分単位の残業時間の証拠を集める

1分単位で残業代を請求するには、正確な証拠を集める努力が必要です。前章の通り、勤怠管理の雑な会社において、会社任せではタイムカードは役に立たないおそれがあります。

労働者側で、次のことを注意してください。

  • タイムカードは1分単位で正確に打刻する
  • 打刻を忘れて手書きするときも1分単位で正確に記入する
  • 業務日報、週報などの労働時間の記載も、1分単位で正確に記入する

証拠がなければ、残業代請求できませんから、1分単位での請求を成功させるには、証拠もまた、労働時間を1分単位で記録できる、正確なものを用意するのが望ましいです。

残業の証拠」の解説

違法に切り捨てられた残業代の請求方法

残業代請求の流れ

最後に、以上の通りに正しい方法で再計算した残業代を、会社に請求します。

残業代請求の流れは、通常の場合と同じく、まずは残業の証拠を準備して計算し、内容証明による残業代の請求書を送って交渉、決裂すれば労働審判や訴訟などの裁判手続きに移行する、という手順です。残業代を払いたくない会社が止めようとも、必ず強い気持ちで残業代請求を進めてください。

今回解説したような1分単位の正確な計算をしていない使用者は、労働法の知識が不足しているおそれがあります。そのため、労働者が、正確な知識をもとに説得しなければならないので相当な手間がかかったり、間違った考えをもとにした強硬な反論を受けてしまったりする危険があります。このようなとき、法律の専門家の立場である弁護士に交渉を任せ、警告してもらうのが有効です。

残業代を取り戻す方法」の解説

まとめ

弁護士法人浅野総合法律事務所
弁護士法人浅野総合法律事務所

今回は、細かい残業の分数について、1分単位で残業代を請求すべきことを解説しました。「チリも積もれば山となる」の発想で、短い残業時間についても無駄にしてはいけません。

残業時間や残業代は、法律で許された端数処理しかしてはいけません。法律の認めるルールは、ごく少額かつ短時間で、労働者に不利益のないよう配慮されています。会社の勝手なルールで、切り捨てられてしまうと、その分だけ残業代は未払いになります。

未払い残業代の計算に不安のある方は、ぜひ弁護士に相談ください。

この解説のポイント
  • 残業時間は、1分単位で記録して、残業代を請求するのが基本
  • 厚生労働省の通達で、労働者に不利益とならない範囲の端数処理が認められている
  • 1日に15分単位、30分単位の端数をカットするというやり方は違法

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