「タイムカード」は、会社が、労働者の労働時間を把握し、管理するための方法として、最も有名な手段です。しかし、会社としてはタイムカードを採用しているものの、その管理が雑な会社は少なくありません。
今回は、法律事務所で、残業代請求についてよくある次のような相談について、労働問題に強い弁護士が解説していきます。
- タイムカードはあるが、一部手書きの部分があり、その部分は残業代請求では無効だと会社から言われている。
- タイムカードの打刻漏れの部分について、定時の時間を必ず記載するように会社から指示された。
- タイムカードを、後からまとめて手書きで記載するように会社から命令されている。
いずれも、タイムカードの一般的な用法とは異なりますが、だからといって残業代請求ができないわけではありません。手書きであってもタイムカードを活用して残業代を請求する方法は、弁護士にご相談ください。
目次
1. 手書きのタイムカードは違法?
飲食店や建設現場など、手書きのタイムカード、日報、業務日誌など、労働者が手書きで作成する資料によって労働時間の把握、管理を行っている会社は少なくありません。
タイムカードが手書きであっても、それ自体が違法となることはありません。
そもそも、会社は労働者の労働時間を把握し、管理する必要がありますが、必ずしも「タイムカードによって行わなければならない」わけではないからです。
ただし、タイムカードが手書きだと、違法な状態となりやすいことも事実です。つまり、タイムカードが手書きであることによって、ブラック企業による次のような未払残業代の問題が起きやすくなります。
- タイムカードを手書きで書くときに、残業時間は書かず、定時を書くように指導する
- タイムカードを、毎日書くのではなく、まとめて手書きで書くように命令する
- タイムカードを、上司や社長が、勝手に手書きでまとめて書く
そして、これらの違法な残業代未払の問題は、タイムカードが手書きであろうと、機械的に打刻されていようと、無関係に起こり得る問題なのです。
2. タイムカードの打刻漏れ(打刻忘れ)を手書きで埋めてもよい?
タイムカードを、機械的に打刻することを指示されている会社であっても、手書きでタイムカードを記載する機会が発生することがあります。
それが、タイムカードの打刻漏れ(打刻忘れ)があったケースです。例えば、次のようなケースで、タイムカードの打刻漏れ(打刻忘れ)が発生します。
- 業務が多忙で、始業時刻にタイムカードを打刻するのを忘れてしまった。
- 電車の遅延で、始業時刻にタイムカードを打刻することができなかった。
- 直行直帰をしたため、会社に寄ってタイムカードを打刻することができなかった。
タイムカードの打刻漏れ(打刻忘れ)が起こったときに、その部分については、機械的に打刻できないため、手書きで追記することとなります。
このときに、「どのように手書きでタイムカードを打刻したらよいか。」は、労働法についての知識が必要となるケースがあります。
- 業務が多忙であったとき、その残業をした時間が「労働時間」と評価されるかどうか
- 電車の遅延で遅刻したときに、遅刻分の給与が控除されるかどうか
- 直行直帰をしたときに、何時までが労働時間と評価されるか
といった点については、会社ごとに異なる考え方が必要な場合があるからです。
3. タイムカードに手書きで、実際と異なる時間を書くよう指示されたら?
では、タイムカードが手書きであるだけでなく、「残業代が発生しないように手書きで記載をしろ」などと、残業代の発生しない違法な「サービス残業」を強要されるケースではどうでしょうか。
このような件では、会社は残業代を支払わないこととなりますので、当然ながら労働基準法(労基法)違反の違法行為となります。
しかし、会社がそもそも、タイムカードに手書きで、実際の労働時間と異なる労働時間を記載させようとしているわけですから、このままでは実際に働いた実労働時間(残業時間)を証明することができません。
3.1. 実際と異なる労働時間を書かない
タイムカードを手書きで書かせる機会は少なくありませんが、「残業代が発生しないように手書きで書け」という命令は違法であることが明らかです。
残業をしているにもかかわらず残業をしていないかのような手書きでのタイムカードの記載を命令された場合、これに従う必要はありません。
3.2. 証拠収集は労働者が自分で行える方法で!
タイムカードを手書きで、実際の労働時間と異なる時間を書かせることは、違法であり、従う必要のない命令であることは、既に述べたとおりです。
しかし、次のようなケースでは、労働者の意に反して、手書きのタイムカードには、実際の労働時間とは異なる証拠ができあがってしまいます。つまり、手書きのタイムカード上は、残業代が発生していないかのようになります。
- 会社の脅しにより心身の危険を感じ、労働者が会社の違法な命令にしたがってしまったケース
- 会社が勝手に、実際の労働時間と異なる時間を、手書きでタイムカードに書き込んだケース
違法性の大きいこれらのケースに備え、労働者側としても自衛が必要となります。
つまり、タイムカードのように会社側の協力の必要な証拠ではなく、労働者側だけで準備できる労働時間の証拠を、収集しておくことです。
タイムカードの写しはもちろんのこと、パソコンのログイン履歴、自分で作成したメモや手帳、会社の時計の写真など、労働時間を示す証拠を、自ら収集して、残業代請求に備えましょう。
3.3. 未払残業代を請求する
タイムカードが手書きであっても、残業代請求の支障にはなりません。手書きのタイムカードであっても、実際に労働した残業時間が正確に記録されていれば、そのコピーを必ずとっておいてください。
タイムカードが手書きで、残念ながら、実際の労働時間とは異なる労働時間が記録されてしまっている場合であっても、その労働時間(残業時間が発生しないことなど)を労働者が認めたことにはなりません。
労働者側で自分で行える方法で保管しておいた証拠を利用して、タイムカードとは異なり、残業を行ったことを証明することによって、残業代請求をすることができます。
4. まとめ
今回は、「タイムカードが手書きだけど、残業代請求はできますか?」という労働者の疑問、不安について、労働問題に強い弁護士が解説しました。
タイムカードが手書きであるケースは、打刻漏れ(打刻忘れ)のケースから、そもそも手書きの資料によって労務管理をしているケースまでさまざまですが、「手書きであること」によって無効となるわけではありませ。
ただし、タイムカードが手書きであると、ブラック企業による違法行為がやりやすくなるため、自衛手段として、労働者側でもしっかり証拠収集をし、将来の残業代請求に備えておいた方がよいでしょう。