トラックドライバーには、未払いの残業代が生じがちです。
その理由は、トラックドライバーの労働時間が、正しく理解されていないこと。
運転業務をするにあたり、その運転している時間だけが労働時間なのではありません。
運転の前後にある荷待ち時間、休憩時間、待機時間もまた、労働時間になりえます。
荷物の積み下ろしが必要なとき、荷主都合で、長時間拘束されてしまうケースも。
ドライバーがいくら努力しても、効率には限界があります。
このような余分の時間に残業代が払われないと、運転手はタダ働きになってしまいます。
トラックドライバーは、長時間労働から健康を守るために、未払いの残業代を請求すべき。
今回は、トラックドライバーの労働時間の考え方、荷待ち時間の残業代について、労働問題に強い弁護士が解説します。
- トラックドライバーの荷待ち時間、待機時間は、労働時間となる可能性がある
- 時間、場所が拘束され「使用者の指揮命令下」にあると評価されれば、残業代がもらえる
- トラックドライバーの荷待ち時間、待機時間を運転日報に記録するのは会社の義務
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ドライバーの残業代請求は、次の解説をご覧ください。
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トラックドライバーの労働時間とは
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まず、トラックドライバーの労働時間とは、どんな時間のことかを解説します。
労働時間が、決められた時間より長いときには、残業代が請求できるからです。
労働法の裁判例では、「労働時間」とは、「使用者の指揮命令下に置かれた時間」とされます。
この定義からして、トラックドライバーの労働時間は、必ずしも運転業務の時間だけではありません。
運転業務の時間
まず、本業である運転業務中の時間が、労働基準法の「労働時間」なのは当然です。
運転中に同時に他のことはできず、使用者の命令に従うのみと考えられるからです。
運転業務の時間を、証拠に残すには、タイムカード、運転日報のほか、タコグラフの記録が役立ちます。
いずれも会社が保管するものなので、残業代請求するときあわせて開示請求します。
タイムカードの開示請求について、次に解説します。
荷積み・荷降ろしの時間
荷積み、荷降ろしも、トラックドライバーの運転業務に付随する大切な仕事です。
「荷物を運ぶ」のが仕事なので、その荷物を積んだり降ろしたりは、当然必要だからです。
これらの時間も当然に労働基準法の「労働時間」であり、残業代が払われます。
荷待ち時間
これに対し、荷待ち時間とは、積み下ろしする荷物を待っている時間です。
その間は、運転はもちろん、他の作業にも従事しておらず、ただ待っているだけのことも。
しかし、そんな荷待ち時間も、労働基準法の「労働時間」に当たる可能性があります。
荷物がいつくるかわからず待たなければならないと、その時間を自由に利用できません。
こんなときトラックドライバーは、実作業がなくても時間・場所を拘束され、使用者の指揮命令下にあります。
待機時間
待機時間についても、労働基準法の「労働時間」になることがあります。
待機時間とは、1本目の運転業務を終え、2本目の業務までの空き時間のこと。
自由に利用でき、帰宅できるなら労働時間ではありませんが、そうでない運送会社もあります。
労働時間の間隔が短いトラックドライバーは、心身の疲れが癒えないという問題もあります。
うつ病、適応障害にかかったり、過労死したりする前に、残業代請求による対策が必須です。
休憩時間
本来、休憩時間は、労働基準法の「労働時間」ではありません。
しかし、休憩時間が短かったり、自由に利用できなかったりすると残業が発生することもあります。
トラックドライバーの休憩は、自ずと車内での休憩になりがちです。
このとき、さらに運転を指示されるなど休憩を満足にとれていないなら労働時間にあたります。
短すぎる休憩や、休憩時間の存在しないことの違法性は、次に解説します。
荷待ち時間も労働時間であり、残業代を請求できる
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次に、さきほど解説した「労働時間」でも、特に問題になる荷待ち時間を解説します。
トラックドライバーだと、荷待ち時間が相当長くなり、それだけで残業代がもらえることもあります。
荷待ち時間は、積み下ろしする荷物を待っている時間と説明しました。
そして、時間的、場所的に拘束されていれば、荷待ち時間もまた労働基準法の「労働時間」。
このことは、厚生労働省の発する通達(昭和33年10月11日基発6286号)にも示されています。
・貨物の積込係が貨物自動車の到着を待機しているいわゆる手待時間は、出勤を命ぜられ、一定の場所に拘束されている以上、労働時間である。
・現実に貨物の積込を行う以外の時間には全く労働の提供はなく、いわゆる手待ち時間がその大半を占めているが、出勤を命ぜられ、一定の場所に拘束されている以上、労働時間と解すべきである。
昭和33年10月11日基発6286号
他方、別の通達では「荷待ち時間」が「休憩時間」となるケースの定めがあります。
貨物の到着の発着時刻が指定されている場合、トラック運転者がその貨物を待つために勤務時間中に労働から解放される手あき時間が生ずるため、その時間中に休憩時間を1時間設けている場合にあって、当該時間について労働者が自由に利用できる時間(であれば休憩時間である。)
昭和39年10月6日基収6051号
したがって、完全に時間、場所の拘束がなく、自由に利用できる「休憩時間」でない限り、「荷待ち時間」は「労働時間」と評価され、残業代がもらえる可能性が高いのです。
残業代請求で大切な「労働時間」の考え方は、次に解説しています。
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荷待ち時間が労働時間かどうかの判断基準
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荷待ち時間が、休憩ではなく、労働基準法の「労働時間」にあたりうると解説しました。
トラックドライバーの実際の労働がどう評価されるか、個別ケースに応じて判断せねばなりません。
このとき、多くの事情をもとに、総合的に判断されます。
「労働時間性の判断」は、ドライバーに限らず、法律の専門的にも難しい問題。
判断を誤り、月80時間など「過労死ライン」を超える違法な長時間労働を放置するのは危険です。
自由利用できるか
まず、「休憩時間」と「労働時間」を区別するのは、「自由利用できるか」が基本です。
休憩ならば、自由に利用できることが保障されているべきだからです。
荷待ち時間という、トラックドライバーに特殊な時間だと、この「自由利用」の判断は曖昧になりがち。
というのも、傍からみれば自由利用できていそうでも、実際には自由がないことが多いからです。
そのため、自由利用という曖昧な基準でなく、次に解説する具体的な基準を理解してください。
その場を離れられるか
荷待ち時間の間、トラックの近くを離れることのできないケースがあります。
つまり、法律用語でいえば「場所的に拘束されている」ということ。
このとき、その荷待ち時間は、トラックドライバーにとって労働時間となりやすいです。
例えば、次のケースを考えてください。
- 駐車禁止区域で荷待ちしなければならない
- 少しずつ駐車位置を変更しながら荷待ちしなければならない
- 荷待ち時間中に、次の場所に移動しておかなければならない
- 荷積み・荷降ろしがいつ始まるかわからず、車内で待たねばならない
- 大切な荷物を積んでいて、待っている間も監視が必要
このようなとき、荷待ち時間といえど、自由には利用できず、残業代を払われるべきです。
停車中の業務があるか
荷待ち時間中にも他の作業があるなら、その時間は自由利用できず、労働時間です。
トラックドライバーの業務は多様で、荷物がなくてもできることもあります。
停車中に指示されている業務もあるでしょう。
例えば、次のようなケースです。
- 荷待ち時間中に運転日報を書くよう指示されている
- 荷待ち時間を除くと、トイレ休憩すらとれない
- 荷待ち時間に、必ず本部に電話で報告するよう命令された
- 荷待ち時間に、同行する新人の教育をしなければならない
なかでも、トラックや重要な積み荷の監視は、とても大切な仕事。
ブラック企業ほど、これらの仕事を、業務だとは認めてくれません。
トラックドライバーにとって監視もまた、労働時間となるに十分な仕事と理解してください。
作業開始時刻が決まっているか
自由に利用できるか、という点で、「次の作業開始時刻が決まっているかどうか」も重要な考慮要素です。
次の作業時間が明確に決まっていれば、その時間までは休めるケースもあるからです。
「○時までは完全に休憩」というなら、労働時間ではなく残業代は請求できません。
しかし、作業開始時刻がわからないと、常に待機していなければなりません。
作業開始の指示され、すぐに動けないと注意されたり、仕事を失う危険もあります。
そのため、「指示待ち状態」が続くとき、仕事と同じく緊張やストレスを感じるでしょう。
このような時間もまた労働時間にあたると判断されます。
ただし、業務命令が違法なら、従う必要はありません。
違法な残業命令の拒否についての解説を参考にしてください。
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トラックドライバーの長時間労働は深刻
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運送業におけるトラックドライバーの長時間労働の問題は、とても深刻。
その背景には、次にかかげるような事情もあります。
そして、このトラックドライバーの過酷な労働実態を、さらに加速させるのが荷待ち時間。
荷待ち時間は、ドライバー側ではコントロールできず、大きなストレスを与えます。
運送会社の正しい労務管理なしには、荷待ち時間からはじまる残業代トラブルはなくなりません。
運転以外はすべて「休憩」扱い
ブラックな会社では、荷待ち時間は「利益を生まない時間」として敵視されます。
「ただ待っているだけなのだから、給料や残業代は発生しない」というわけ。
同様に、待機時間などもまた、休憩扱いとされてしまいます。
労働者が争わなければ、明らかに労働時間とすべき運転以外は、すべて「休憩」扱いされるでしょう。
このとき、運転日報にも「休憩」と書かれて労働時間には含めず、当然、残業代も払われません。
しかし、時間、場所が拘束され、自由に利用できない荷待ち時間は、休憩ではありません。
このような社内ルールによる扱いは、悪質な残業隠しにすぎません。
働き方改革の例外とされ是正されない
昨今、働き方改革で、違法な長時間労働の是正がキーワードとなりました。
しかし、そのなかでも、トラックドライバーの残業は例外扱いされています。
他の業種では、違法な長時間労働について上限規制が設けられました。
しかし、トラックドライバーには上限規制がすぐは適用されないこととなっています。
特別扱いされていることもまた、トラックドライバーの長時間労働、未払い残業代の問題が、いかに深刻で、根深いものかを物語っています。
36協定の限度基準は、次に解説しています。
トラックドライバーの命に関わる
「長時間労働させても残業代を払えばOK」というわけでもありません。
車両の運転は特に、労働者に肉体的、精神的なダメージを与えます。
そのため、トラックドライバーの長時間労働は、うつ病や過労死など、労災トラブルを招きます。
長時間労働の結果、疲れから居眠り運転をしたり、交通事故にあってしまったりと、労働問題とは別の大きな事故に巻き込まれるトラブルにも発展しかねません。
過労死を弁護士に相談するには、次の解説をご覧ください。
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荷待ち時間の記録は、義務化されている
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本解説のとおり、トラックドライバーの労働時間のなかでも、荷待ち時間は特にトラブルのもと。
そのため、荷待ち時間について、記録するのが会社の義務とされます。
平成29年(2017年)7月1日施行の国土交通省「改正貨物自動車運送事業運輸安全規則」により、トラックドライバーの長時間労働を助長する原因となる荷待ち時間につき、記録が義務化されました。
運送会社は、ドライバーごとに次の事項を記録し、1年間保存する義務があります。
- 「集貨または配達を行った地点」
- 「集貨地点などに到達した日時」
- 「集貨地点などにおける荷積みまたは荷卸しの開始及び終了の日時」
これまで休憩として扱い、荷待ち時間を隠してきた会社では、残業が明るみに出ることになります。
トラックドライバーの長時間労働の実態が把握され、透明化されます。
そのため、未払い残業代トラブルの是正にもつながります。
そもそも、残業代請求には証拠が重要。
会社が「労働時間」と扱わない荷待ち時間は、証明が困難であきらめざるをえない例もあります。
しかし、記録が義務化されれば、荷待ち時間も含めた残業の証拠を集められます。
また、荷待ち時間を含めると労働時間が長すぎるとき、その記録は勧告の材料にも活用できます。
この規則により、荷待ち時間を労働時間に入れず、隠し続けるのは困難。
残業代をもらえないトラックドライバーは、荷待ち時間の記録を開示するよう会社に求めましょう。
残業代請求は、弁護士に相談できます。
残業代トラブルを相談すべき弁護士について、次に解説します。
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まとめ
![弁護士法人浅野総合法律事務所](https://roudou-bengoshi.com/wp-content/uploads/2022/03/asanosougou-zentai.jpg)
今回は、トラックドライバーの労働時間について解説しました。
なかでもよく問題になる荷待ち時間は、運転日報への記録が義務化されています。
荷待ち時間について、証拠がない場合には会社の責任となるのです。
荷待ち時間の残業代は、法律でも問題視されるほどに、多くの会社で未払いとなっています。
これまで、会社で「休憩」と扱われ、残業代が払われずにいた時間があれば、再チェックしてください。
荷待ち時間、待機時間など、運転業務そのものでなくても拘束を受けたなら労働時間の可能性あり。
労働時間に算入すると未払いの残業代が生じるなら、すぐに請求しておきましょう。
- トラックドライバーの荷待ち時間、待機時間は、労働時間となる可能性がある
- 時間、場所が拘束され「使用者の指揮命令下」にあると評価されれば、残業代がもらえる
- トラックドライバーの荷待ち時間、待機時間を運転日報に記録するのは会社の義務
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