休日にも労働させられたら「せっかくの休みを無駄にした」と感じるでしょう。このとき、働いた休日と勤務日を入れ替え、休みを取得する方法が「振替休日」と「代休」です。振替休日と代休は、いずれも休日に出社した分だけ休みを取ることができるという点で共通します。
しかし、振替休日と代休の違いは多くあり、法的性質は全く異なります。特に、残業代の計算方法が、振替休日か代休かによって異なる点が重要です。振替休日も代休も、会社の休日(所定休日)、法律上の休日(法定休日)でない日に休むこととなりますが、その際に、残業代請求における取り扱いがどうなっているか、法律と就業規則を確認しておかなければなりません。
今回は、振替休日と代休の違いについて、労働問題に強い弁護士が解説します。区別を理解しないと、休日手当の点で損してしまうので注意してください。
振替休日と代休の定義
まず、振替休日と代休、それぞれの法的な意味について解説します。
振替休日と代休は、どちらも「休み」であることは変わりませんが、法的な意味は異なります。休日出勤の代わりに取得できた休みが、振替休日と代休のどちらになるか、違いを正確に理解していないと、残業代を適切に受け取ることができなくなってしまいます。
振替休日とは
振替休日(振休)とは、あらかじめ決まった休日を労働日とし、代わりに他の労働日を休日に振り替える制度で、休日に働く必要が「あらかじめ」分かっている場合に用います。
振替休日を適用する場合に重要なのは、休日と労働日を入れ替える連絡を、事前に通知し、予定を変更しておくことです。「事前に」通知しなければ振替休日とならず、後述する代休として扱われます(その結果、休日出勤が生じ、割増賃金を支払う必要があります)。振替休日を利用する際は、雇用契約書や就業規則に定め、適切に運用する必要があります。
振替休日によって振り替えられた休日に働いても、休日労働とはみなされません。当初は休日であった日が、労働日に振り替えられる結果、その日の労働は通常の労働日と同じ評価となり、休日手当が発生することはありません(ただし、振替後の労働日に1日8時間を超えて働いたり、深夜労働をしたりした場合は残業代を請求できます)。
「残業代請求に強い弁護士に無料相談する方法」の解説
代休とは
代休とは、休日出勤した後、その代わりに別の労働日に休みを与える制度です。休日出勤「後」に付与される点が、事前に労働日と休日を入れ替える振替休日と異なります。
企業としては、休日出勤した労働者に代休を与えれば、負担を軽減できます。代休のルールは就業規則や雇用契約書に定められ、(企業によって異なりますが)「1ヶ月以内に取得する」などと規定されることが多いです。
重要なのは「事後」に取得する代休だと、一度は休日出勤した事実が残るため、その後に別の日に休みを取っても、休日手当は発生する点です。代休の場合、まず休日出勤が行われ、出勤後に、その代替として与えられた労働日に休む、という順序で進められます。休日出勤の事実が存在する以上、法定休日の労働なら35%割増(1.35倍)、所定休日の労働で「1週40時間」を超える労働となるなら25%(1.25倍)の割増賃金の支払いが必要になります。
「休日手当の請求と計算」の解説
振替休日と代休の違いは?
次に、振替休日と代休の違いについて解説します。
特に重要なのが、残業代の扱いです。下記の通り、振替休日は事前にスケジュールが決まるため、通常の労働日の出勤として扱い、割増賃金は不要ですが、代休は休日出勤後に休みを取るため、休日出勤の割増賃金が発生します。「代休を取得すれば、残業代はなくなるのではないか」と誤解をしている人が多いので、注意が必要です。
休みを取得するタイミングの違い
振替休日と代休の違いの1つ目は、休みを取得するタイミングです。
振替休日は、「事前に」労働日と休日を入れ替える制度なので、元々休日だった日に出勤する時点で、別の日に休みを取ることが既に決まっています。代休は、休日出勤の「事後に」休みを取得するので、代わりの休日をいつ取得するか、休日出勤後にはじめて決まります。
振替休日は事前にスケジュールが決まる分、労働者は突然の休日出勤を避けることができます。代休は、休日出勤を命じられるところから始まるため、その休日の労働は、労働者にとって予想外のもので、休みに突然働かなければならない負担が生じます。
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休日労働の割増賃金(残業代)の有無
振替休日は、その日を通常の労働日と扱うため、休日労働にはならず、休日出勤の割増賃金(休日手当)は払われません。例えば、当初休みだった日曜に出勤することを予定し、その次の月曜を振替休日に指定した場合、日曜日に働いても休日出勤とならず、残業代は払われません。
これに対して代休は、休日出勤が成立するため、休日に出勤した分の割増賃金を請求できます。法定休日なら35%割増(1.35倍)、所定休日に出勤して1週40時間を超えて働いた場合は25%割増(1.25倍)の割増賃金が発生します。なお、振替休日も、「1日8時間、1週40時間」の法定労働時間を超えて働いた場合は、残業代の支払いを要する点に注意してください。
休日の労働を伴う代休扱いのケースでは、残業をさせるために必須となる36協定の締結をすることが必要となります。
「36協定なしの残業は違法」の解説
休日の通知方法の違い
振替休日は、「事前に」休日と労働日を入れ替える必要があるので、会社から労働者に、事前の通知をして、合意する必要があります。通知なしに休日の労働が行われた場合には、休日出勤とみなされ、割増賃金が発生することとなります。一方で、代休は、休日出勤後の労使の話し合いによって取得されるので、事前の通知は不要です。
「有給休暇の事前申請」の解説
振替休日・代休における残業代の計算方法
次に、振替休日・代休それぞれの、残業代の計算方法について解説します。
振替休日の残業代の計算
振替休日の場合、休日労働をする前に、休みと労働日が入れ替わるのみです。休日手当は発生せず、きちんと運用されていれば、受け取れる給料が増えることはありません。振替休日を取ったときの給料ないし残業代の処理の手順は、次の通りです。
- あらかじめ休日を、労働日に振り替える
- 休日だった日(振り替え後の労働日)に労働する
→ したがって、休日労働とはならない - 労働日だった日が振替休日となり、労働義務が免除される
振替休日の処理では、休日手当は生じないのが基本ですが、ただし、振替休日の取得のタイミングや働き方によっては、残業代請求が可能なケースもあります。
- 振り替えが同一週でなく、振替休日のある週に「1週40時間」を超えて労働した
→ 通常の給料の1.25倍の残業代を請求できる - 振り替えられた労働日に、「1日8時間」を超えて労働した
→ 通常の給料の1.25倍の残業代を請求できる - 振り替えられた労働日に、深夜労働した
→ 通常の給料の1.25倍(時間外かつ深夜なら1.5倍)の残業代を請求できる
労働基準法の法定労働時間は「1日8時間、1週40時間」というように日・週を単位として定められているため、同一週の振替でない場合には残業代が生じやすくなります。
「週6日勤務の違法性」の解説
代休の残業代の計算
代休の場合、休日労働が発生した後、休日を取得するという順序で進みます。そのため、休日手当は発生し、その後に取得できた代休分は、通常の給料が控除されます。代休を取ったときの給料ないし残業代の処理の手順は、次の通りです。
- 休日出勤する
→ 休日労働となり、休日手当が発生する(法定休日なら通常の給料の1.35倍、所定休日なら1.25倍) - 休日出勤した代わりに、代休に指定された日の労働義務が免除される
- 労働日だった日に代休を取得する
→ 代休を取得した日の分の給料が欠勤控除される
休日出勤分は、休日手当として35%割増した割増賃金が得られるのに対して、代休を取得した分については通常の賃金分しか控除されないため、代休によって処理されても、休日割り増し分は対価が増える計算となります。これは、突然に予定していない休日の労働を強いられた分の対価であり、労働者としての正当な権利であるといえます。
「残業代の計算方法」の解説
振替休日・代休を取得する際の注意点
振替休日も代休も、いずれも通常の休みとは異なるやり方なので、慎重に対処しなければなりません。いずれも、多忙であるからこそ起こることであって、労働者の健康に対する配慮が足りないようだと、振替休日であれ代休であれ、被害が生じてしまいます。
取得させる義務があるわけではない
振替休日も代休も、企業として取得させる義務はありません。あくまで、休日出勤を余儀なくされた労働者に対する会社の配慮であり、労使間の合意に基づいて決定されるに過ぎません。振替休日や代休を設定しないなら、その分だけ労働が増え、給料や残業代が追加で受け取れます。
とはいえ、休日労働が積み重なり、振替休日も代休もなく長時間働かせるのには問題があります。会社は、労働者を健康で安全に働かせる義務(安全配慮義務)を負っており、振替休日も代休も取らせずに連勤させるのは、この義務に違反している可能性があります。
「長時間労働の問題点と対策」の解説
事後に振り替えると代休扱いとなる
「休みを取得するタイミングの違い」で解説の通り、大きな違いは取得タイミングにあります。
会社にとっては、振替休日として扱う方が、追加の残業代の支払いが不要である点で人件費を節約することができます。そのため、悪質な会社では、事後に振り替えたのに休日手当を支払わず、振替休日と同様の扱いとして、残業代に未払いを発生させてしまうことが起こります。
しかし、事前に伝えられていないなら、それは振替休日ではなく代休です。そのため、休みに働いた分の対価が十分に支払われていないなら、残業代請求をすべきです。
「年間休日が少ないことの違法性」の解説
振替休日も代休も早めに消化すべき
振替休日でも代休でも、できるだけ早めに消化することが推奨されます。会社のルールによっては、一定期間内に取得しなければ消滅するリスクがあるからです。
多忙な会社では、代替の休日すらなかなか満足に取れず、振替休日や代休が蓄積してしまうことがあります。しかし、前章の通り、十分な休息を取れずに働き続けるのは、違法な状態だといってよいでしょう。この場合、単に休暇を取得する権利を失うのみでなく、働きすぎて健康を害したり、うつ病や適応障害といった精神疾患になってしまったりする危険もあります。
「過労死について弁護士に相談する方法」の解説
振替休日・代休についてのよくある質問
最後に、振替休日・代休についてのよくある質問に回答しておきます。
振替休日・代休に有給休暇を取得できる?
振替休日や代休が設定された日に、労働者の判断で有給休暇を取得することも可能であり、有給申請をすればそちらが優先します。
振替休日でも代休でも、休日扱いとなる分だけ給料や残業代が減るところ、有給扱いとなれば、その分の給料が支払われるため、給与面では、有給休暇の方が労働者にとって有利になります。
「有給休暇を取得する方法」の解説
振替休日・代休は就業規則に定めるべき?
振替休日や代休の取り扱いは、就業規則に定めておく必要があります。
「休日」に関することは就業規則の絶対的記載事項であり、必ず定めておかなければならないからです。10人以上の社員を使用する事業場では、就業規則の届出が義務とされています(労働基準法89条)。
振替休日や代休の条件、運用方法などについて、就業規則に定めて周知し、労使の共通認識としておくことで、将来のトラブルを防ぐことができます。労働者側でも、確認したいときは会社に就業規則を開示するよう要求しましょう。
振替休日・代休と法定休日の違いは?
法定休日は、労働基準法35条の定める1週に1日もしくは4週間を通じて4日の休日のことで、法定休日の労働には35%割増(1.35倍)の割増賃金(休日手当)が払われます。
これに対して、振替休日や代休は、既に法定休日のある週に取る場合には、法定休日となることはなく、それ以外、つまり、所定休日となります(残業代の計算方法は「振替休日・代休における残業代の計算方法」参照)。
振替休日・代休に8時間を超えて働いたら残業?
振替休日でも代休でも、1日の労働時間が8時間を超える場合には、時間外労働(残業)となり、割増賃金が発生します。
振替休日では、通常の労働日として扱われるため、時間外労働の対価は25%割増(1.25倍)の割増賃金となるのに対し、代休の場合は休日出勤となるので、時間外労働の対価は、時間外分(25%)と休日分(35%)を足して60%割増(1.6倍)となります。
「長時間労働の相談窓口」の解説
まとめ
今回は、振替休日と代休の違いについて解説しました。
振替休日と代休は、非常に似た制度ですが、残業代の計算における扱いが異なるため、注意してください。繁忙期だとどうしても、残業や休日出勤を余儀なくされてしまいます。しかし、労働時間が長過ぎると、労働者の負担が大きくなります。休日出勤の代わりに、振替休日や代休を駆使して休むべきことは、残業代だけの問題ではなく、過労やストレスを避けるのにも重要です。
やむを得ず、振替休日や代休を利用するときは、必ず残業代を請求するべきです。休日が振り替えられたときの残業代の計算は複雑なので、専門知識を得るために、ぜひ弁護士に相談してください。
【残業代とは】
【労働時間とは】
【残業の証拠】
【残業代の相談窓口】
【残業代請求の方法】