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浅野 英之
弁護士
弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号44844)。東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

企業側の労働問題を扱う石嵜・山中総合法律事務所、労働者側の法律問題を扱う事務所の労働部門リーダーを経て、弁護士法人浅野総合法律事務所を設立。

不当解雇、未払残業代、セクハラ、パワハラ、労災など、注目を集める労働問題について、「泣き寝入りを許さない」姿勢で、親身に法律相談をお聞きします。

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うつ病で休職したいときの適切な対応、休職期間とデメリット、手続き

うつ病で業務の継続が難しいとき、休職という選択肢があります。

休職は、私的な病気になった場合に、会社が就労義務を免除すること。欠勤や退職に比べると、将来に復職できるメリットがあり、治療に専念したい方には魅力的な手段です。ただ、うつ病で休職してしまうと収入が減少したり出世が閉ざされたりなどのデメリットがあります。期間内に復職できないと退職扱いとなってしまいます。

相談者

うつ病で休職したいが、収入が減るので生活が不安

相談者

うつ病で休職する手続きに会社が協力してくれない

リスクを理解せず安易に休職を求めるのもトラブルのもとであり、うつ病になっても休職をためらう人もいます。うつ病でどうしても休職せざるをえない場合は、休職期間やメリット、デメリットをよく理解し、正しく対応する必要があります。

今回は、うつ病で休職したい方に向けた法律知識を、労働問題に強い弁護士が解説します。

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解説の執筆者

弁護士 浅野英之

弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号44844)。東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

企業側の労働問題を扱う石嵜・山中総合法律事務所、労働者側の法律問題を扱う事務所の労働部門リーダーを経て、弁護士法人浅野総合法律事務所を設立。

不当解雇、未払残業代、セクハラ、パワハラ、労災など、注目を集める労働問題について、「泣き寝入りを許さない」姿勢で、親身に法律相談をお聞きします。

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うつ病による休職の基本

まず、うつ病による休職の基本について解説します。

うつ病による休職とは

休職とは、私的な病気やケガ(いわゆる「私傷病」)を理由に、会社が労働義務を免除する制度です。本来、労働契約通りの就労ができなくなった場合には「解雇」が原則ですが、一定の期間の勤続による貢献があるとき、直ちにクビにするのは労働者にとって酷であり、解雇を猶予して治療に専念する機会を与えるのが、休職制度の趣旨です。したがって、法律によって与えられるものではなく、労使の契約上の合意によって整備される制度です。

つまり、休職とは「私傷病で業務ができないときでも、これまでの貢献に鑑みて一定の期間休んでもよい」という労働者にとっての「恩恵」の意味があります。本来は業務ができないなら会社を辞めるしかないものの、過去の貢献に応じた一定期間、就労義務を免除して治療ができるわけです。

休職する理由となるのは、仕事ができなくなるような重度のケガや病気のうち、私的な原因によるものであり、現代では、うつ病や適応障害によって休職する人が一定数います。

休職を利用すると、就業規則などに定められた休職期間は就労せずに休むことができますが、期間満了までに復職できる状態まで回復しなければ退職扱い(もしくは解雇)となります。

休職開始から復職または退職までの流れ

うつ病による休職期間の目安と平均

うつ病の休職期間に法律のルールはありません。そもそも休職そのものが法律上の権利ではなく、会社にはうつ病になったからといって休ませる法的な義務があるわけでもありません。

そのため、うつ病による休職期間は、労使の契約上の合意で定まるものです。軽度から重度まで症状は人により異なり一様ではないですが、休職期間の目安は、その度合に応じて次のような場合が多く、平均すると3〜6ヶ月程度が多いです(なお、個別のケースでは自身で軽々しく判断せず、医師の意見に従ってください)。

  • 軽度:1ヶ月程度
  • 中度:3~6ヶ月(半年)
  • 重度:1年以上

ただし、休職期間には、会社の定める上限があります。そのため、医師の診断した療養に要する期間だけ、十分に休職させてもらえるとは限りません。あくまで、うつ病による休職においても、その期間の目安は就業規則の定めに従います。多くの会社は、「貢献に対する報奨」という休職の意味合いからして、勤続年数が長いほど、休職期間の上限を長く定める傾向にあります。入社間もない方や試用期間中の社員など、勤続がさほど長くない場合には、休職を取得できないおそれがあります。

うつ病で解雇された場合の対応」の解説

休職と労災による療養の違い

うつ病による休職と、労災による療養とは、全く別のケースなので区別すべきです。

休職を利用すべき場面とは、その病気やケガが私的な理由によるものの場合です。つまり、離婚や親族の死亡などといった家庭のトラブルや私生活のストレスなど、仕事とは無関係の理由によってうつ病になった場合に、休職を利用するのです。これに対し、長時間労働パワハラセクハラを原因としたうつ病のように、その病気が業務に起因するものは、私傷病ではなく労災です。

労災による療養は、仕事が原因であり、いわば会社の責任であるといってよく、療養による休職中とその後30日は解雇が制限されます。そのため、休職を利用する私傷病の場面とは区別すべきで、会社を辞めさせられるようなこともなくゆっくりと治療に専念できます。

労災の休業中の解雇の違法性」の解説

傷病手当金をもらえる条件と金額

うつ病で休職するとして、気になるのがその間のお金の問題でしょう。

うつ病による休職をはじめ、私傷病休職によって給料が支給されない期間は、健康保険による傷病手当金を受け取ることができます。傷病手当金をもらえる条件は、次の4つです。

  • 業務外の病気やケガで療養中であること
    労災(業務災害と通勤災害)は、労災保険の対象であり、傷病手当金は支給されない。
  • 療養のための労務不能であること
    私傷病によって今まで従事していた業務ができない状態にあることが必要となり、医師の診断書が必要となる。
  • 4日以上仕事を休んでいること
    療養のために仕事を休み始めた日から連続した3日間は「待機期間」となり、4日目以降からが支給対象となる。
  • 給与の支払いがないこと
    給与が支給されていないことが条件であり、一部支給された場合はその分だけ傷病手当金が減額される。

また、傷病手当金は、次の計算式で算出され、支給を開始した日から通算して1年6ヵ月(支給開始日が令和2年7月1日以前の場合は、最長で1年6ヵ月)の間支給されます。

  • 1日当たりの支給額 = (支給開始日の以前12ヵ月間の各標準報酬月額の平均額) ÷ 30日 × 2/3

わかりやすくいえば、おおよそ月給の3分の2程度の金額が受給できると考えてください。

うつ病休職中の給料と手当」の解説

うつ病になったら休職できる?休職の条件は?

うつ病による休職の基本を理解したところで、次に、いざうつ病になったときに休職を利用できるかどうか、休職の条件について解説します。

就業規則に休職制度があれば休職できる

就業規則を確認し、休職制度があるなら、休職することができます。

前章で解説の通り、休職制度を作ることは法的な義務ではないものの、実際は多くの会社が休職制度を導入しています。休職の事由や期間は、就業規則の定めに従いますが、私的な病気やうつ病は、休職の理由の1つとして定められていることが多いでしょう。休職の原因となるメンタル疾患には、うつ病のほかに適応障害、抑うつ状態、パニック障害などがありますが、本解説は、精神面の問題による休職のいずれにもあてはまります。

休職制度の有無や内容については、就業規則、労働契約書、労働条件通知書などで確認できます。なお、休職制度を定める会社では、入社時に労働者に明示する義務があります(労働基準法15条1項前段労働基準法施行規則5条1項11号)。

休職制度がなくても休職できる場合もある

休職は、法律上の権利や義務でなく、あくまで労働契約の一内容(つまりは労使の約束)に過ぎません。そのため、企業によっては休職制度の存在しない会社もあります。休職できないおそれのある場合には、次のケースがあります。

  • 休職制度そのものが存在しない
  • 休職制度はあるが、正社員のみ対象であり非正規社員(契約社員やアルバイト、パートなど)は対象外とされている
  • 勤続年数が短いなど、制度上の休職の要件を満たさない

このような場合に、うつ病で業務を続けられないとしても休職することができず、一定期間の欠勤を経た後、それでも回復しないなら解雇されるという流れで進みます。ただし、このような解雇にも解雇権濫用法理が適用されるので、客観的に合理的な理由なく、社会通念上相当といえない場合、違法な不当解雇として無効になります。労働契約法16条)。例えば、軽度のうつ病であり、もうしばらく休めば治る可能性が高い場合、症状が業務には大きな支障を与えない場合などには、不当解雇と判断される可能性が高いです。

また、上記の場合でも、休職させないことが違法となる場合もあります。例えば、契約に明記されていなくても「他の社員は病気になったら休ませてもらえていた」といった場合、慣行としての休職制度が認められることがあります。理由なく非正規社員だけに休職をさせない扱いは、不合理な待遇(パートタイム有期雇用労働法8条)、差別的取扱い(同法9条)として違法になります。

不当解雇に強い弁護士への相談方法」の解説

うつ病になったけれど休職したくない場合の対応は?

うつ病になっても、休職したくない場合もあるでしょう。後述の通り、休職にはメリットだけでなくデメリットもあるため、「うつ病なら必ず休職すべき」とも一概に断言できません。働きながら通院するなどといった方法と比べ、自身の置かれた状況や健康状態を踏まえて決めるべきです。

一方で、責任感が強く、うつ病で休職することに躊躇する方もいます。しかし、「人手不足なので職場に申し訳ない」など過度な責任を感じる必要はありません。人手不足は組織の課題で、労働者一人で解決できはしません。休職を利用せずにうつ病が悪化すれば、大きな不利益となります。そもそもうつ病が人手不足による業務過多を原因とするなら労災であり、会社の安全配慮義務違反の責任を追及できる場合もあります。

休職命令の拒否」の解説

うつ病で休職するメリットとデメリット

次に、うつ病で休職するときのメリット、デメリットを解説します。

メリットデメリット
治療に専念できる
解雇リスクが減る
働き続けられる
収入が減少する
出世に影響する
辞めざるを得ない

うつ病にかかったとき、休職は労働者保護のためにあるのが原則です。私傷病で業務ができなければ会社にいられないところ、休職なら休むことができるからです。その分、残念ながら、その代償もあり、デメリットやリスクを理解しておく必要があります。

これらのことは、病気になったが言い出すべきか、休みたいとお願いするかどうか、迷っている労働者に理解しておいてほしいポイントです。

治療に専念できる

まず、うつ病の治療には時間がかかり、焦りは禁物です。医師の指示にしたがい回復を目指すには時間を要します。休職なら労働義務が免除され、治療に専念できる最大のメリットを享受できます。

解雇リスクが減る

休職制度がないと、中長期に休まざるを得ない人は欠勤、そして解雇の流れになります。休職すれば、少なくともその期間満了までは会社に在籍し続けることができます。そのため、休職は「解雇の猶予措置」という機能もあると説明されるのです。うつ病で休職を選ばざるを得ないケースも、解雇リスクが減る点はメリットとなります。

解雇制限」の解説

復職できれば働き続けられる

勢いで退職しても良い転職先が見つかるとは限りません。会社から離れても、精神状態の回復のためしばらく仕事ができない危険もあります。うつ病で休職しても、復職できれば、その会社で働き続けられます。きちんと期間内に仕事ができる状態になれば、労働者の地位を失わずに済みます。

休職から復職するときの注意点」の解説

収入が減少する

うつ病で休職するデメリットは、収入が減る点です。

私傷病による休職は会社の責任ではないとされるので、給料は出ないのが通常です。実際、休職制度のある会社の多くは「休職期間は無給とする」と定めています。健康保険の傷病手当金はもらえますが、給料の約3分の2に過ぎず、満額保証されはしません。その他にも、次のような経済的な不利益が、事実上生じてしまいます。

  • 退職金の査定期間が短くなり、退職金が減額される
  • 低く評価され、ボーナスを減額される
  • 休職中の残業代が支給されない

出世に影響する

うつ病による休職のデメリットとして、出世に影響する点が挙げられます。

出世すれば、責任が重く負担の大きい仕事を任されます。そうした仕事ほど、精神的なストレスも大きいものです。その結果、うつ病の再発や悪化をおそれた企業が「一度休職した社員に、責任の重い仕事を与えない」という選択をとる可能性が危惧されます。

ただし、業務に影響しない程度に回復したにもかかわらず不当な降格処分をしたり、嫌がらせ的な意図で左遷したりするのは違法です。

復職できないと辞めざるを得ない

うつ病による休職の最大のリスクは、復職できない場合に退職もしくは解雇となる点です。

この判断は、医学的な判断は参考にされるものの、最終的には会社の判断となります。そのため、使用者が「復職不可」と判断すれば、たとえ主治医が「復職可能」の診断書を作ってくれても結果的に復職は認められず、会社をやめざるを得なくなる危険があります。不当な判断をされたなら、労働審判や訴訟など、法的手続きで争うしかありません。

また、うつ病で職場から離れた時間が長いほど、復職の心理的なハードルが高くなるのは当然であり、たとえ復職してもなお、以前と同様の活躍は望めなくなってしまうケースも残念ながらあります。

復職させてもらえないときの対策」の解説

うつ病を発症してから休職するまでの流れ

次に、うつ病を発症してから休職までの手続きの流れを解説します。

うつ病によって休職する手続きもまた、法律でなく会社が決めるものであり、その手順は就業規則に記載されるのが通常です。

適切な相談先に相談する

つらいときは一人で悩まず、適切な相談先への相談から始めます。以下の相談は、うつ病の原因となった労働問題を会社に主張する場合はもちろんのこと、体調不良について企業側に連絡するより前に、会社には内緒でこっそり準備することもできます。

何よりもまず、危険のサインを見逃さず、早期発見して医師に相談するのが休職を活用するための重要なコツです。

医師(主治医・産業医)の診断を受ける

病気の有無や症状、治療については、医学的な専門知識を要するため、医師の診断を受けるのが必須となります。まずは主治医の意見を聞き、会社に連絡後は、指示に従って、必要に応じて産業医面談などを受けるなどして、複数のアドバイスを得るのが適切です。

労働基準監督署に相談する

うつ病になったことが劣悪な労働環境やハラスメントを原因とするなら、社内に労働法違反が存在するおそれがあります。この場合、労働基準法、労働安全衛生法といった重要な労働法の違反があるなら、労働基準監督署に報告し、注意指導、是正勧告といった行政処分を求めるのが適切です。

弁護士に相談する

事前に何をするべきかについても、弁護士のアドバイスが参考になります。うつ病による休職は、医学的な問題が絡むものではありますが、原則としては法的な判断が下され、会社と争うとすれば裁判手続きに訴えることになるので、法律知識が不可欠です。

家族に説明して生活の不安を取り除く

うつ病になってしまったとき、家族の協力も必須となります。これ以上悪化させないために、生活の不安を取り除き、接し方に注意してもらうなどといった対応が必要となるからです。うつ病の原因が会社にあると考える場合には、使用者と戦うために、生活ぶりについて家族に証言してもらうといった方法が役立ちます。

休職の申入れをする時点で、将来的には退職の可能性も高まる重要な決断であることを理解し、様々な専門家の意見を聞きながら慎重に進めるべきです。

労働問題に強い弁護士の選び方」の解説

異動や業務軽減によるストレス緩和を提案する

うつ病になった場合に、休職を申し出る前に、それ以外の方法で対処可能かどうかを早いうちに検討しておきましょう。

具体的には、異動や配置転換、業務軽減、ハラスメント加害者からの隔離などの対応によって、うつ病の原因となる労働環境を取り除くよう会社に提案することです。限界が到来してからでは、これらの対策を講じることはできないので、早期発見の重要性は非常に高いです。

有給休暇を消化した後で欠勤をする

休職制度があるとしても、すぐに休職になるわけではありません。

業務の継続が難しい場合には、まずは有給休暇を消化して様子を見ます。休暇の残日数がなくなったら欠勤をし、会社に休職命令を出すよう求めます。多くの企業においても、休職の発令前には、一定期間の欠勤を要件とされています。有給休暇や欠勤中に(休職前に)医師の治療を受け、診断書を取得しておいてください。

なお、業務に起因する労災ならば、労働者の権利である有給休暇を使用する必要はありません。

有給休暇を取得する方法」の解説

勤務先の休職制度を就業規則で確認する

休職制度の内容を理解せずに手続きを進めるのは難しいです。そして、ここまで解説した一般論だけでなく、会社ごとの制度の詳細を知る必要があります。勤務先の制度内容を知るには、就業規則、労働契約書をご確認ください。

厚生労働省のモデル就業規則は、以下のように休職について定めます。

厚生労働省 モデル就業規則

自社の休職制度を理解するには、次の点を確認しなければなりません。

  • 休職事由
    休職が可能な理由。業務外の傷病による欠勤が長期に渡る場合に、その欠勤の日数で要件を定めるのが通常。加えて、包括的な条項を定め、会社による裁量の余地を残すケースが多い。
  • 休職期間
    休職が可能な期間。休職制度は、勤続の功労に対する恩恵として与えられるため、休職期間は勤続年数に比例して増えるのが通常。
  • 休職の回数制限
    同一事由について休職の回数を制限する例がある。特に、うつ病による休職のように再発率の高い理由による場合は注意を要する。
    (参考:休職を繰り返すとクビ?
  • 休職中の給与の有無
    休職は無給とする例が多いものの、有給とする企業もある。
    (参考:休職中の給料と手当
  • 休職期間中の義務
    休職は、傷病の療養のためのもので、期間中は療養に専念する義務を負う。
  • 復職の手続き、サポートの有無など
    リハビリ勤務や時短勤務が認められていることがある。会社は、休職期間中の社員にも安全配慮義務を負い、健康状態を把握せねばならない。
  • 復職の条件
    復職条件として医師の診断や復職願の提出を要する例が多い。
  • 休職期間満了の効果
    休職期間が満了しても復職できない場合、自然退職扱いとするケースが多いが、解雇であると定める例もある。後者の場合は解雇権濫用法理(労働契約法16条)が適用される。

医師の診断書を取得する

会社に「休職が相当」と判断させるには医学的な判断を要するため、医療機関の診断が必要です。具体的には、医師の診断書をもらって会社に提出します。多くの企業の就業規則では、休職の条件として診断書の提出が要求されるほか、会社が産業医や指定医の受診を指示することもあります。

基本的には医師の診断を優先し、推奨された期間だけ休職を命じるケースが多いです。すると、医師から適切な休職期間を推奨してもらうことが重要であり、そのために担当業務の内容、勤務先で求められる能力や健康状態などを、医師に正確に伝達する必要があります。

診断書がいつから必要かについては早いほどよく、適時のタイミングで診断書がないと、「うつ病になった原因が業務過多にある」といった因果関係が立証できなくなる危険があります。

会社に休職を申し出る

準備が整ったら会社に休職を申し出ます。休職願と共に診断書を出すのが通常ですが、具体的な手続きや必要書類は使用者の指示に従います。

実際には休まざるを得ない原因が業務やパワハラにあるなど、会社と敵対的なケースや、会社が休職に非協力的な場面では、ひとまず仕事を休んだ上で弁護士から通知するのが有益です。休職が決まったら、社会保険料の労働者負担分について、支払い方法を協議します(休職が無給だと給料から天引きできず、別途振り込むなどの対応を要します)。

また、休職期間中も会社が社員の健康状態を把握する義務はなくならないため、病状報告の方法(電話かメールか、復職に向けた面談はいつ行うのか)といった点を決めておきます。

傷病手当金を申請する

うつ病の休職中、全く金銭をもらえないと治療はおろか生活費にも事欠く事態となります。休職による労働者の負担を軽減すべく国の支給する次の金銭を受け取れるか、検討を要します。

  • 健康保険の傷病手当金
    私傷病による欠勤、休職などで使用者から十分な給料を受領できない場合
  • 労災保険の休業給付(休業補償給付)
    業務に起因する傷病(労災)による療養中の補償
  • 労働基準法上の休業補償
    使用者の責に帰すべき事由による休業の場合に、平均賃金の100分の60が補償される。

健康保険の傷病手当金は、協会けんぽないし健康保険組合に申請して審査を受け、内容に不備などがない場合には10営業日(約2週間)で支給されるのが通例です。

うつ病休職したときの適切な過ごし方は?

うつ病で休職している間の過ごし方、振る舞いにもポイントが多くあります。寛解に近づくと、甘くみてだらける人もいますが、注意すべきです。

休職中は会社の監視の目が物理的に遠のきます。労働義務がなく、休日や休暇と同じく行動に制限はなく、自由に過ごせる感覚になるかもしれません。しかし、労働者には自己保健義務があり、自身の健康は自ら管理するのが原則です。うつ病休職中は症状を悪化させる行動をしてはならず、医学的な判断については医師と相談し、アドバイスをよく聞いてください。決して自分で勝手に判断せず、状況に合った医師の指示に従いましょう。

休職中は、通常時とは異なる特別な制限が加えられます。その典型例が「療養専念義務」です。文字通り、療養に専念すべき義務であり、休職期間中の労働者にはこの義務があるため、療養に反する行為(例えば飲み会や旅行、遊びに出かけるなど)は許されない可能性があります。

ただし、療養専念義務が問題となった裁判例で、外出や飲酒が「うつ病や不安障害に影響を及ぼしたとまで認めるに足りる証拠もない」とし「特段問題視することはできない」と判断した例もあるため、ケースに応じた判断が必要です(マガジンハウス事件:東京地裁平成20年3月10日判決)。

うつになっても、会社に行かなければ日常生活に支障のない例(いわゆる「新型うつ」)もあり、外出は問題なくできてしまう人もいます。ただ、休職中といえど会社組織の一員であることに変わりなく、会社の利益を害さぬよう誠実な行動が望まれます。そして、従来より会社で禁止される行為(例:副業や競業など)がNGなのは当然です。

復帰のタイミングは自己判断で無理してはいけない

医学的な判断は医師の指導に従うべきであるのは、復帰のタイミングについても同様です。

うつ病による休職のデメリットやリスクを回避したいあまりに「できるだけ早く復職しよう」と焦る方もいますが、自己判断は禁物です。まだ休職期間が残っているならば、仮に元気になったと感じても期間満了までは休むのが原則であり、焦って復帰しようとするのは逆効果な場合も多いです。

休職中の退職の伝え方」の解説

休職中の会社との連絡方法

休職期間中といえど、労働者であることに違いはありません。会社としては、社員の健康状態を把握し続ける義務があり、労働者側でも報告を怠ってはなりません。

休職中の会社との連絡方法は、休職開始時に労使で決めた方法に従うようにします。多くの場合、休職当初は対面や電話といったストレスのかかる方法は適切ではなく、メールやチャットなど、非対面の方法によるべきです。復職の直前になり、健康状態を慎重に確認する必要が出てくると、日時を調整の上で、面談を行うことも少なくありません。

労働問題の解決方法」の解説

うつ病休職の満了時はトラブルが起こりやすい

ここまでは、うつ病になってから休職までの法律問題についてですが、次に、休職期間満了時のトラブルについても解説しておきます。うつ病を理由とした休職では、職場復帰時に最もトラブルが起こりやすくなっています。

というのも、残念ながらうつ病になった人は会社組織から敵視されやすくなっています。

再発しやすい性質があるために、健康状態を不安視、疑問視され、復職のハードルが事実上大きくなってしまうなど、復職しづらいケースも少なくありません。そして、自分が元気だと思っても、会社から「復職不可」と判断されると、就業規則に従って退職扱いないし解雇となってしまい、会社に残ることができません。

なお、会社に復職を拒絶され、不当な退職扱いや不当解雇になってしまった場合には、そのような扱いの違法性を訴えて、裁判手続きで争うべきです。

また、うつ病休職のこのような性質から、会社として安全を期すため、リハビリ勤務によって試し出勤をさせたり、本来よりも軽易な作業をさせたりといった負荷をかけることがあります。

このようなことが休職中に行われるとき、それが逆に負担となって症状を悪化させ、復職が不可能になってしまうことがありますし、少なくとも本来の業務に近いことをさせられるなら無給なのは違法だと判断した裁判例もあります。

名古屋高裁平成30年6月26日判決(NHK(名古屋放送局)事件)

NHK職員が精神疾患で休職後、期間満了前に「テスト出局」というリハビリ勤務を無給でさせられたことの違法性を争い、最低賃金法の適用によって、職員に賃金請求権が認められた裁判例。

上司の指示に従いニュース制作に関与したこと、ニュースが放映され会社が成果を享受したこと、指揮監督下にあったことといった事情がその理由となった。

退職強要への対処法」の解説

うつ病休職についてのよくある質問

最後に、うつ病による休職についてのよくある質問に回答しておきます。

うつ病でいつまで休職できる?

うつ病による休職は、会社の休職制度を利用します。休職制度は法律によるものではないため、いつまで休職できるかは、会社の休職制度がどのように定められているかによって異なりますが、半年程度が1つの目安となります。

うつ病休職中に給料はもらえる?

うつ病で仕事ができないと、多くの会社では休職を無給だと定めているため給料がもらえません。お金がないことが労働者にとって非常に大きな悩みとなるでしょう。

このとき、傷病手当金の支給を申請すると共に、業務に起因する労災ではないかを検討してください(労災ならば、労災保険による補償を受けることができます)。

うつ病休職中にもらえる手当はいくら?

うつ病休職中にもらえる手当は、傷病手当金といって健康保険(協会けんぽや健康保険組合)から支給されます。金額は標準報酬月額に3分の2を乗じて算出し、おおよそ月収の3分の2が手当として支給されると考えてください。

うつ病休職中に旅行してもよい?

休職中は、療養専念義務を負うので、うつ病の療養にとってマイナスな行為をしてはなりません。旅行が全て禁止されるわけではないですが、療養にとって悪影響ではないかどうか、医師と相談してよく検討しておく必要があります。

うつ病休職中にアルバイトしてもよい?

休職中も、労働者としての地位を有するため、副業が禁止されている会社ではアルバイトをすることは許されません。また、副業が許される会社でも、仕事ができないのにアルバイトをすることは療養専念義務に反するおそれがあります。

うつ病休職中の社会保険料の負担は?

休職中も労働者であるため、健康保険や厚生年金保険といった社会保険の被保険者資格は継続し、社会保険料も発生し続けます。

社会保険料は労使双方が負担し、就労中は給料から天引きされますが、休職が無給だと、労働者負担分について負担割合に応じた支払いが必要です。具体的には、会社の指示に従って振り込むのが通例です。

うつ病休職中でも退職できる?

休職期間中でも、会社を辞めたいと思ったらいつでも退職が可能です。労働者側からの退職の申入れには民法のルールが適用される結果、期間の定めのない社員の場合には2週間前に申入れることによって会社の承諾がなくても退職できます(民法627条1項)。

また、会社の合意が得られるなら、即日退職することもできますし、休職期間満了後、復職を求めずにそのまま退職することもできます。

まとめ

弁護士法人浅野総合法律事務所

今回は、うつ病による休職時に知っておきたい法律知識を解説しました。

うつ病で仕事ができないとなれば、将来の生活に大きな不安が生じるでしょう。休職期間もある程度長くなり、治療費もかかることとなります。積み上げたキャリアを無駄にしたくない思いはあれど、焦れば悪化の危険あり。このようなとき休職に関する法律知識をよく理解し、有効活用すべきです。

あらかじめ、うつ病の要件、手続きを、会社の就業規則で確認しましょう。休職期間は無給のことが多いですが、健康保険の傷病手当金を受給し、負担を軽減できます。うつ病が業務に起因するなら、労災保険を受給すべきケースもあります。

休職は、解雇や退職などの会社を去る判断を留保できます。ただ、必ず復職できるとも限らず、退職してしまう結果も残念ながらあります。うつ病の休職が認められても、期間中の過ごし方を誤り、紛争に発展する方もいます。うつ病と休職にまつわる労働問題に巻き込まれたら、ぜひ弁護士にご相談ください。

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