職場でのパワハラ問題が注目される中で、「加害者」とされた労動者が解雇されるケースの相談を受けることがあります。パワハラ絡みで、理不尽な理由で処分されたり、解雇されたりするケースは、パワハラの「被害者」とされる側の権利意識が高まるごとに増えています。
突然クビにされたが、パワハラではないか
部下にパワハラしたからクビだといわれた
パワハラを理由として解雇されるトラブルは、被害者と加害者のいずれにも起こります。しかし、解雇は必ずしも正当とは限りません。自分はパワハラのつもりがなくても、突然「パワハラ被害が報告されている」「パワハラした責任を取って辞めてほしい」などと言われるとき、不当解雇が疑われる場合には会社と争って撤回を求めるべきです。
今回は、パワハラを理由に解雇されたときに取るべき具体的な対応と、不当解雇とされるケースについて労働問題に強い弁護士が解説します。懲戒解雇という重大な処分を下された場合は特に、不当解雇となりやすいため、必ず争うのが原則です。
パワハラでクビにされる例とは
冒頭の通り、パワハラによる解雇は、パワハラの被害者と加害者のどちら側でも問題になります。そして、労働トラブルが起こったとき、「被害者」「加害者」をはっきりとは区別できず、ある労動者が被害者にも加害者にもあたることもあります。
このような問題は非常に複雑ですが、少なくとも、解雇が有効となるためには正当な理由が必要であるため、パワハラを原因として解雇されることには問題があると考えられます。
パワハラだと言ったら解雇された例
まず、パワハラ被害者が解雇されるケースについてです。パワハラを受け、辛い思いをした挙げ句に解雇されるという状況は、まさに「踏んだり蹴ったり」といえるでしょう。突然解雇を言い渡されること自体が、あなたに対する嫌がらせの可能性も否定できません。
例えば、社長に意見したり、上司の指示に「パワハラだ」と反発したことで、上層部に嫌われ、解雇されるケースは少なくありません。上司にも、更に上の上司がいるため、パワハラの「加害者」は、「同時に、別の上司からのパワハラの被害者の立場にある」という場合もあります。
パワハラ上司といわれクビになった例
次に、パワハラの加害者が解雇されるケースについてです。パワハラは大きな問題であり、社内でパワハラ行為であると認められれば、解雇理由となるおそれがあります。
このような場合、当事者にはパワハラをしているという自覚がないことも多いものです。突然会社から「あなたのパワハラが問題となっているためクビにする」と通告され、その時点で初めて自分が問題社員扱いされていたと気づくこともありますが、対応が遅れてしまいます。
「解雇の意味と法的ルール」「パワハラの冤罪」の解説
パワハラが理由でクビになるまでの流れ
次に、パワハラを理由に解雇されるまでの、よくある流れを紹介します。
パワハラを指摘されてから解雇に至るまで、段階を踏んで進むケースなら、しっかりと反論することができます。しかし、労使の対立が激しいケースだと、一足飛びに解雇まで進み、あっという間にクビを言い渡されてしまう例もあります。この場合には、手続きが不十分であると主張して、違法性を争う余地があります。
パワハラを指摘され注意を受ける
役職者や管理職になると、部下に注意をする場面も増えます。しかし、厳しすぎる対応をすると、会社から「パワハラ」と指摘され、逆に注意されることもあります。
「情に厚く、面倒見が良い兄貴分」というタイプが慕われた時代もありましたが、価値観は変わりつつあります。部下を思っての行動も、つい声を荒げたり、手を出したりすれば、パワハラとみなされても仕方がありません。
部下からの報告でパワハラが発覚する
部下から「パワハラをされている」という被害の報告をされることで、問題が発覚してしまう事例もあります。このようなケースは特に、全くパワハラをしたという意識がなく、突然に注意されて焦ってしまう方も多くいます。
パワハラについて社内調査される
大きな問題に発展するケースでは、会社は、「加害者」とされる労動者には秘密裏に、社内調査を進めるケースが多いです。会社が行う調査は、パワハラ行為の内容や証拠の有無、目撃者への聞き取りなどといったものです。いずれも、「被害者」とされる人が報告したパワハラに問題があるかどうかを判断し、今後の処分を決めるために行います。
あわせて、収集したパワハラの証拠が、解雇をするに足る程度のものか、場合によっては会社側の顧問弁護士も踏まえて検討します。
「パワハラの証拠」の解説
自宅待機を命じられる
パワハラを理由に解雇が進む場合には、出社をしないよう命じられる例が多いです。会社が、パワハラが事実であると判断した場合は、被害の再発や拡大を防ぐために、被害者と加害者を引き離すことが大切なポイントとなるからです。
「パワハラをしたのだから仕方ない」と理由を付けて仕事を取り上げ、自宅に待機させたり、閑職に異動させたりするのは、辞めさせるためのよくある手口です。自宅待機が長引くほど、パワハラを理由に解雇される可能性も高まってしまいます。
「退職勧奨のよくある手口」の解説
パワハラ加害者とされる人の聞き取りを行う
パワハラ調査の過程では、「加害者」とされる従業員にも、事実確認のための聞き取りが行われます。パワハラであるという被害報告がなされた事実について説明をさせたり、弁解を求めたりする場です。
自身がパワハラだと考えていないならば、この段階で、指摘された行為についての自身の認識を説得的に伝えるようにしてください。
「懲戒解雇の手続きの流れ」の解説
自主退職するよう迫られる
次に、「パワハラの責任を取って辞めてほしい」というように、自主退職を迫られることがあります。解雇はせず、自ら辞めるよう仕向ける手法です。
パワハラ被害を主張する相手が、うつ病で休職していたり退職していたりすると、「部下が潰れたのはあなたのパワハラが原因だ」などと責任追及される場合もあります。「辞めるなら悪いようにはしない」など、暗に解雇を匂わせる例も少なくありません。
しかし、被害者の精神状態が元から不安定だったり、前から転職活動をしていたりすることもあります。パワハラの事実がないなら、退職には応じないでください。
「退職勧奨を拒否する場合の対応」「依願退職」の解説
パワハラを理由に解雇される
最後に、パワハラを理由に解雇が言い渡される段階です。
ここまでの過程で会社との関係が悪化している場合、「被害者」の言い分が受け入れられ、「パワハラ加害者」として扱われ、解雇が決定してしまいます。
パワハラを理由にした解雇には、普通解雇と懲戒解雇の2種類があります。会社や被害者が、パワハラについて厳罰を求める現在の傾向からすれば、最も厳しい懲戒解雇を選択されることも珍しくありません。
解雇が決定された場合、正式な解雇通知が本人に交付されます。通常、解雇通知には、解雇理由や解雇日が記載され、会社が解雇に至った経緯が説明されます。解雇に異議があるときには、この時点で、異議を申し立て、反論をするのがよいでしょう。
「不当解雇に強い弁護士への相談方法」の解説
パワハラを理由にした解雇は不当な可能性あり
パワハラを理由にした解雇は、違法であり、不当解雇の可能性があります。
被害者側で、社長にパワハラ的にクビを言い渡される例が、不当解雇なのは当然です。しかし、それだけでなく、パワハラしたといわれている加害者側だったとしても、雑にクビにされてしまえば、不当解雇の犠牲となってしまう危険があるのです。
厳しい指導とパワハラは紙一重
まず、パワハラ加害と、厳しい指導とは紙一重です。
そのため、パワハラしたからクビだと言われても、あなたに嫌がらせするような意図がなかったときは、指導の目的で行った正当な行為であると反論すべきです。このとき、注意指導とパワハラの区別は、「業務上必要かつ相当であるか」という点で判断されます。
「パワハラと指導の違い」の解説
懲戒解雇のハードルは高い
懲戒解雇は、会社の行う処分で最も重く、対象者に大きなダメージを与えます。解雇として会社を一方的に辞めさせられるのは当然、社会的信用にも影響が及ぶなど、多くのデメリットがあります。そのため、懲戒解雇には高いハードルが設けられています。
解雇は「解雇権濫用法理」によって、客観的に合理的な理由がなく、社会通念上相当であると認められないときは、違法な不当解雇として無効になります(労働契約法16条)。懲戒解雇のケースでは、裁判所もこれらの要件を非常に厳しく審査します。
このことは、たとえパワハラしたことが解雇理由とされているケースでも同じことです。パワハラが事実だとしても、懲戒解雇とするに足らない程度の内容であれば、解雇は許されません。解雇の条件を満たさない懲戒解雇は、「不当解雇」であり、無効とされる可能性が高いです。
例えば、次の解雇は、たとえパワハラしたことが理由でも、無効と判断されます。
- 明確に指導を目的とした行為だった
- パワハラの「被害者」が問題社員であり、注意が必要だった
- パワハラの「被害者」のミスが頻繁に続いていた
- 被害者と加害者の言い分が違うのに十分な調査がなかった
- 証拠が全くない状態でパワハラを理由に解雇された
- パワハラ「加害者」のレッテルを貼り、弁明の機会を与えなかった
「懲戒解雇を争うときのポイント」の解説
逆パワハラの可能性もある
更に、パワハラの「被害者」とされる労動者からの訴えは、逆パワハラの可能性もあります。逆パワハラは、部下が上司に「パワハラだ」と声高に主張しすぎて、上司が萎縮して指導できなくなってしまうという新種のパワハラの形です。
現代では、個人の尊重が重視され、厳しい注意指導が「パワハラ」だといわれやすくなっています。違法なパワハラが放置されるのは問題ですが、一方で「パワハラ」に過剰反応しすぎる会社の対策が、逆パワハラの問題を招いてしまっています。このような状況で、パワハラを理由とする解雇は、違法性となる可能性が高いです。
「部下から上司へのパワハラの違法性」の解説
パワハラを理由とした解雇を争うには
最後に、残念ながら、パワハラを理由にクビを言い渡されたとき、解雇を争う方法について解説します。争う際には、労働問題の知識が豊富な弁護士に相談ください。
解雇の撤回を求める
パワハラを理由とする解雇、特に懲戒解雇とされた場合には、不当解雇となる可能性が高いものです。まずは、会社に対して解雇の撤回を強く要求することが重要です。
「解雇を撤回させる方法」の解説
労働審判で争う
会社が、どうしてもあなたをパワハラの加害者だと決めつけ、解雇を撤回しない場合には、労働審判で争うのが有効な手段です。労働審判で、不当解雇であると認めてもらえれば、解雇は無効となり、労動者としての地位を守ることができます。
労働審判でも解決できないときには、更に、訴訟に移行して争うこともできます。
「労働審判の流れと有利に進めるための注意点」の解説
解雇を金銭解決する方法
以上の経緯で、不当解雇を認めてもらえても、もはや会社の信頼を取り戻すのは難しいケースもあります。誤りだったとわかっても、一度「パワハラ上司」というレッテルを貼られてしまうと、職場での噂になったり、いわれのない誹謗中傷を受けてしまったりするリスクもあります。
懲戒解雇は、それほどまでに重い処分です。仮に、事実ではないと証明され、勝訴したとしても、「部下にパワハラをした上司」という評判が残ることも少なくありません。パワハラ加害者とされてしまった場合、その後の職場での扱いも厳しいものになる可能性があります。
この場合、懲戒解雇の撤回と同時に、「合意退職をして、代わりに解雇の解決金を受け取る」という金銭解決の方法を検討するのも一つの選択肢です。
「解雇の解決金の相場」の解説
まとめ
今回は「パワハラでクビになった」という問題のうち、特に「パワハラをしたのだろう」と疑われ、「加害者」に仕立て上げられてしまった人の解雇問題について解説しました。
パワハラを理由に解雇されてしまっても、すぐに受け入れるのではなく、その解雇が正当かどうかをしっかりと確認することが重要です。解雇自体がパワハラとして行われるケースだけでなく、パワハラの加害者にされてしまう問題も、思いの外多いものです。不当解雇の可能性があると感じたら、まずは証拠を集め、会社に再調査を求め、解雇を撤回するよう働きかけましょう。パワハラとされた事実が嘘ならば、決してあきらめてはいけません。
部下の中には、上司の指導に不満があり、安易に「パワハラだ」と会社に報告する人もいます。このようなケースでは、もはや話し合いは難しく、法的手段も視野に入れて、弁護士に相談するのがおすすめです。
【パワハラの基本】
【パワハラの証拠】
【様々な種類のパワハラ】
- ブラック上司のパワハラ
- 資格ハラスメント
- 時短ハラスメント
- パタハラ
- 仕事を与えないパワハラ
- 仕事を押し付けられる
- ソーハラ
- 逆パワハラ
- 離席回数の制限
- 大学内のアカハラ
- 職場いじめ
- 職場での無視
- ケアハラ
【ケース別パワハラの対応】
【パワハラの相談】
【加害者側の対応】
★ 懲戒解雇の労働問題まとめ
【ケース別の懲戒解雇】
【懲戒解雇の争い】
【懲戒解雇されたら?】