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浅野 英之
弁護士
弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号44844)。東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

企業側の労働問題を扱う石嵜・山中総合法律事務所、労働者側の法律問題を扱う事務所の労働部門リーダーを経て、弁護士法人浅野総合法律事務所を設立。

不当解雇、未払残業代、セクハラ、パワハラ、労災など、注目を集める労働問題について、「泣き寝入りを許さない」姿勢で、親身に法律相談をお聞きします。

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パワハラは労災になる?パワハラによるうつ病は労災認定が受けられる?

パワハラは、人の心に大きな傷跡を残します。パワハラが原因でうつ病になる方も少なくありません。身体的な暴力だけでなく、「言葉の暴力」でも、精神的な苦痛は計り知れません。

パワハラでうつ病などの精神疾患になったなら、労災の認定を受けられます。パワハラによるうつ病は、労災(業務災害)だからです。労災認定されれば、保険給付を受け取れるほか、療養のための休業中とその後30日は解雇が制限されるなどの保護があります。

しかし、精神疾患によるダメージは外からは見えづらいもの。パワハラが原因かどうか、因果関係が曖昧なために労災認定されない危険もあります。悪質な会社ほど「人間関係に問題はなかった」「うつ病はパワハラによるものではない」と反論してきます。

今回は、パワハラが理由でうつ病になってしまった方の労災認定について、労働問題に強い弁護士が解説します。

この解説のポイント
  • パワハラによる精神疾患なら労災認定を得られるが、判断は厳しい傾向にある
  • パワハラによる強いストレスは、うつ病などの精神疾患に繋がる危険がある
  • パワハラで労災認定を得やすくするには、会社の協力と弁護士のサポートが重要

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解説の執筆者

弁護士 浅野英之

弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号44844)。東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

企業側の労働問題を扱う石嵜・山中総合法律事務所、労働者側の法律問題を扱う事務所の労働部門リーダーを経て、弁護士法人浅野総合法律事務所を設立。

不当解雇、未払残業代、セクハラ、パワハラ、労災など、注目を集める労働問題について、「泣き寝入りを許さない」姿勢で、親身に法律相談をお聞きします。

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パワハラによるうつ病は労災認定が受けられる

労災とは、業務に起因する事故(業務災害)によって起こる病気やケガのことです。

パワハラは、職場の優越的な地位を利用した嫌がらせのことです。パワハラは、上司と部下といった上下関係を利用します。職場における優位性は、業務に関連することが明らかなので、パワハラによる被害は、業務と関連しているといってよいでしょう。

当然ながら、パワハラに業務上の必要性は全くありませんが、職場の関係性を利用して行われる以上、業務に内在する危険だといえるのです。そして、パワハラの被害に遭うと、肉体的にも精神的にも、大きなダメージを受けてしまいます。

以上のことから、パワハラによって生じた被害は、労災(業務災害)なのが基本です。

統計上も、パワハラによる労災認定は増加傾向にあります。令和2年度「過労死等の労災補償状況」(厚生労働省)によれば、精神障害に関する事案の労災補償状況について、請求件数2051件中、支給決定件数は608件。出来事別の支給件数は「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」が99件で最多です。

労災について弁護士に相談すべき理由」の解説

パワハラが労災認定される基準

次に、パワハラによる被害が、労災であると認定される基準について解説します。

パワハラのなかでも、強度のパワハラや、強度とまではいえなくても継続的になされたパワハラがあり、その結果として起こったうつ病などの精神疾患は、パワハラが原因の労災だとされます。うつ病などの精神疾患は、原因が見えにくいため、要件を満たせば「パワハラが原因の労災だ」と認定されるよう、一定の基準が設けられています。

パワハラによる精神的な被害について、労災認定を受けるための要件は、次の3つです。

以下、パワハラの労災認定基準の各要件について、順に解説します。

なお、精神障害の労災認定基準は、令和2年6月より改正されました。詳しくは、次の資料をご覧ください。

うつ病やストレス反応など、労災認定の対象となる精神疾患を発症したこと

パワハラによる病で、労災認定を受けるには、労働者が精神疾患を発症している必要があります。そして、パワハラによる労災認定の対象となる疾患は、一定のものに限られています。

最も典型的な例が、うつ病です。それ以外にも、適応障害や急性ストレス反応など、様々な精神疾患が含まれます。労災認定の対象となる疾患は、国際疾病分類第10回修正(ICD-10)第5章「精神および行動の障害」に分類される、以下の精神疾患が基本となります。


F0 症状性を含む器質性精神障害

F1 精神作用物質使用による精神および行動の障害

F2 精神分裂病、分裂病型障害および妄想性障害

F3 気分[感情]障害

F4 神経症性障害、ストレス関連障害および身体表現性障害

F5 生理的障害および身体的要因に関連した行動症候群

F6 成人の人格および行動の障害

F7 知的障害(精神遅滞)

F8 心理的発達の障害

F9 小児〈児童〉期および青年期に通常発症する行動および情緒の障害、詳細不詳の精神障害

国際疾病分類第10回修正(ICD-10)

そして、これらの症状があることを、医師によって、医学的に証明してもらう必要があります。パワハラで心理的ストレスを感じたら、すぐ医師の診断書を作成してもらうのが必須です。

会社に診断書を出せと言われたら」の解説

発症前6か月間に、業務による強い心理的負担が認められること

パワハラによる精神疾患が、労災認定を受けるには、発症前6ヶ月間に、業務による強い心理的負担が認められることが必要となります。

業務により強いストレスを受けたら、原則として労災認定されます。強いストレスといえる例が、精神障害の労災認定基準に、次の通りに定められています。

  • 上司等から、治療を要する程度の暴行等の身体的攻撃を受けた場合
  • 上司等から、暴行等の身体的攻撃を執拗に受けた場合
  • 上司等による人格や人間性を否定するような、業務上明らかに必要性がない精神的攻撃が執拗に行われた場合

これにあたらない中程度のストレスでも、会社が適切に対応しないなら、労災認定される可能性があります。例えば、パワハラの相談窓口に連絡しても、パワハラが止まないケースです。パワハラによる心理的負担は、「言葉の暴力」でも大きいもので、その際、心理的負担が強いかどうかは、パワハラの程度や回数も考慮して判断されます。

一方で、パワハラにあたらない指導なら、たとえストレスを感じても労災認定されません。上司からの叱責に、指導の目的があり、方法も相当ならば、労災とはいえないからです。

パワハラと指導の違い」の解説

業務以外の心理的負担、個体側の要因により発病とは認められないこと

パワハラで労災認定されるには、発症した精神障害が「パワハラを原因としている」必要があります。パワハラ以外の原因で発病したなら、労災認定が受けられないのは当然であり、「業務以外の心理的負担」と、「個体側の要因」によるケースは、労災認定されません。

これにより、労災認定を得られないのは、例えば次のケースです。

【業務以外の心理的負担】

  • 離婚など、家族の問題
  • 家族の病気や危篤、死亡
  • 多額の財産の損失
  • 天災
  • 犯罪被害

【個体側の要因】

  • 過去に精神疾患が再発した
  • アルコール依存症
  • 薬物依存症

このような労働者が精神障害を発症しても、パワハラが直接の原因とはいえないケースもあります。労災は、業務で発生した傷病のみを対象としています。そのため、労災認定されるには、業務とは関係なストレスが原因ではないことが要件となります。

労災の条件と手続き」の解説

パワハラで労災認定されれば、解雇が禁止される

うつ病、適応障害になってしまうほどのパワハラを受ける職場は、ブラック企業でしょう。パワハラの末に、退職勧奨されて辞めざるを得なかったり、解雇されたりする危険もあります。

このとき、パワハラによる精神障害について労災の認定が得られれば、解雇を避けることができます。労災の療養による休業中と、その後30日間は、法律による解雇制限があるからです労働基準法19条)。この点も、パワハラの被害を受けた方が、労災認定を得るメリットの一つです。

労災の休業中の解雇の違法性」の解説

たとえ労災認定が得られなくても、解雇は、正当な理由がなければ無効です。解雇権濫用法理により、客観的に合理的な理由がなく、社会通念上相当でなければ違法な「不当解雇」となるからです(労働契約法16条)。

パワハラによるうつ病かどうか不明確でも、少なくとも、休職によって保護されるべきです。就業規則に定められた休職できる場合に該当するなら、まずは休んで様子を見るのが適切です。

その後、休職期間が満了してもなお復職できないときに初めて、退職させられる場合があります。一旦休職となっても、その後に労災認定が下りれば、労災に切り替えることができます(労災の支給額と、既に受給している傷病手当金が調整されますが、解雇は禁止されます)。

うつ病休職時の適切な対応」「休職から復職するときの注意点」の解説

パワハラで労災認定を得やすくするための注意点

最後に、パワハラ被害に遭って精神疾患となってしまったとき、労災認定を得やすくするための注意点を解説しておきます。残念ながら、パワハラ被害が事実でも、労災認定を受けられない人もいます。労災の要件は厳しく、しっかり準備しなければ誤った判断が下るおそれがあります。

長時間労働を主張する

言葉による暴力など、肉体的なダメージが見えないパワハラでも、労災認定される可能性があります。このときの労働者の被害は、精神的なものとなります。労災認定の可能性を上げるため、パワハラ以外にも業務によるストレスがあるなら、積極的に指摘すべきです。

わかりやすいのが、パワハラとあわせて長時間労働があるケースです。長時間労働は、タイムカードなど残業の証拠が、パワハラより集めやすく、証明しやすいもの。軽度のパワハラなど、それだけでは労災認定に十分でないとされるおそれがあるときに有効な手段です。

長時間労働の問題点と対策」の解説

労災申請を会社に協力してもらう

「パワハラによってうつ病になったかどうか」は、見た目から判断するのは難しいです。しかし、会社が協力的に、労災だと認めてくれるなら、労災認定が得やすくなります。それが、労災申請の際の、事業主証明です。

労災申請では、事故状況について記載し、事業主の証明を得ます。この際、会社が「パワハラによるうつ病は労災だ」と認めてくれるなら、相当有効です。ただし、次章の通り、慰謝料による責任追及をおそれ、事業主証明に協力しないおそれもあります。

労災を会社が認めない時の対応」の解説

会社に慰謝料請求する

パワハラによるうつ病が労災認定されたら、あわせて会社に慰謝料を請求できます。会社は、労働者を安全に働かせる義務(安全配慮義務)があるためです。労災となるパワハラを防止せず、うつ病にさせてしまったなら、安全配慮義務違反は明らかです。

労災は、精神的苦痛についてはカバーせず、慰謝料は会社に請求する必要があります。なお、労災認定と、安全配慮義務違反は、必ずしも同じ判断基準ではありません。パワハラによるうつ病で、労災認定が下りなかったとしても、安全配慮義務違反の責任は追及することができます。

労災の慰謝料の相場」の解説

まとめ

弁護士法人浅野総合法律事務所
弁護士法人浅野総合法律事務所

今回は、パワハラを理由に、うつ病などの精神疾患になってしまった労働者の救済について、弁護士が解説しました。どのようなケースで労災認定を受けることができるかを知り、損せずに保険給付を受け取れるよう準備しておきましょう。

パワハラの被害にあって病気になったのに、労災と認められないのは最悪です。労災申請の段階から、労働問題に精通した弁護士に依頼すれば、証拠集めから申請、認定されなかった場合の異議申立てまで、一貫してサポートすることができます。申請前に十分な証拠を準備しておくことが、精神疾患の原因がパワハラであることを証明する役に立ちます。

パワハラによるうつ病で労災認定を受けるためには、早めに弁護士に相談してください。

この解説のポイント
  • パワハラによる精神疾患なら労災認定を得られるが、判断は厳しい傾向にある
  • パワハラによる強いストレスは、うつ病などの精神疾患に繋がる危険がある
  • パワハラで労災認定を得やすくするには、会社の協力と弁護士のサポートが重要

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