基本給が低すぎると「違法ではないか」と疑問に思う人もいるでしょう。
給与の内訳は会社ごとに異なりますが、基本給は大半を占める重要な費目です。「手当が多ければ問題ない」という発想の企業もありますが、その賃金体系が必ずしも適法とは限らず、最低賃金法に違反する可能性もあります。基本給の最低ラインである「最低賃金」を下回るのは違法です。
手当が十分に支給されても、基本給が低いと、残業代やボーナス、退職金の基礎に影響し、全体として手取り額が下がるデメリットがあります。
今回は、基本給の法律上の最低ラインを説明するとともに、「基本給が低く手当が多い給与体系」の適法性についても、労働問題に強い弁護士が解説します。
- 基本給は賃金の基礎であり、最低賃金額を下回った場合には違法となる
- 最低賃金を下回る場合には、賃金差額の請求や刑事罰の対象となる
- 基本給が低いと、手当があっても、残業や退職金、手取りが減ってしまう
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基本給とは

基本給とは、毎月支払われる賃金のうち手当以外のものであり、労働契約で定めた所定労働時間分の労働の対価となる、賃金の基礎となる部分です。月々の給料には様々な費目が含まれますが、基本給が大部分を占め、残業代やボーナス、退職金などの計算の基礎となります。

基本給の主な決め方と平均額
基本給の決め方は、会社の人事制度によって、次の3種類に分けられます。
- 属人給
年齢や勤続年数など人に関する要素を基準として決める方法です。 - 仕事給
担当業務の内容や役割、個人の能力を基準に決める方法で、スキルや成果によって賃金が上がる仕組みのため、成果主義を重視する企業でよく導入されます。 - 総合給
属人給と仕事給の要素を組み合わせた決め方です。現在の日本企業では、安定性と評価のバランスを取った総合給が採用されるケースが多いです。
基本給が適正な水準かどうかは、平均額も参考にしましょう。「令和6年賃金構造基本統計調査」(厚生労働省)によると、一般労働者の平均月額は33万4,000円とされています。ただし、年齢や業種、雇用形態などによっても水準は異なります。
基本給の確認方法と他の用語との違い
基本給の額は、求人票、雇用契約書や労働条件通知書、給与明細などで確認しましょう。
労務管理が杜撰な会社では、雇用契約書と異なる額が支払われたり、給与明細が基本給のみのまとめ記載とされたりする例もあるため、正確な額が不明な場合は会社に確認してください。
求人票や給与明細を見る際、基本給と混同しやすい「月給」「額面(総支給額)」「手取り」などとの区別が重要です。月給は、基本給に役職手当や資格手当などの固定手当を加算した額、額面は、月給に加えて残業代などの変動手当を含めた総額、手取りは、額面から所得税や住民税、社会保険料などを天引きし、実際に支払われる額のことです。
基本給の最低ラインとなる「最低賃金」とは

最低賃金とは、最低賃金法に基づき、国が定めた賃金の最低限度額のことです。
会社は、労働者に対して最低賃金以上の賃金を支払う義務があり、たとえ労使双方の合意があったとしても、最低賃金額を下回る契約は法律で無効とされます。最低賃金は、全ての労働者の生活を安定させ、労働力の質的な向上を図ることなどを目的としており、正社員だけでなく、アルバイトやパート、契約社員、派遣社員といった非正規にも当てはまります。
最低賃金には、都道府県ごとに定められる「地域別最低賃金」と、特定の産業を対象とする「特定最低賃金」の2種類があります。
地域別最低賃金
地域別最低賃金とは、各都道府県ごとに定められた賃金の最低限度額です。
各地域の物価や生活費の実態を反映させるために、都道府県ごとに異なる金額が設定されています。事業場が所在する都道府県の最低賃金が適用されるため、本社が東京でも、勤務地が地方であれば、その地域の最低賃金が基準となります。
基本給がこの水準を下回る場合は最低賃金法違反であり、「50万円以下の罰金」という刑事罰の対象となります(最低賃金法40条)。毎年秋頃に金額が改訂されます。
特定最低賃金
特定最低賃金とは、特定の産業に従事する労働者を対象とした制度です。
地域別最低賃金が全ての産業に適用されるのに対し、特定最低賃金は、業種ごとの賃金の底上げを図る目的で定められています。対象となる産業で働く場合、地域別最低賃金と特定最低賃金のいずれか高い方が適用されるため、勤務先が該当する産業に含まれるかを確認してください。基本給が地域別最低賃金を満たしても、特定最低賃金を下回る場合には法律違反となります。
最低賃金の減額特例
最低賃金の適用が不都合な場合に、都道府県労働局長の許可を得ることを条件に、試用期間中の者、軽易な業務に従事する者、精神または身体の障害により著しく労働能力の低い者などは、最低賃金を下回る賃金設定が認められる例外があります。
最低賃金を下回らないかを確認するための計算方法

基本給が最低賃金を下回らないかを確認するために、正しい計算方法を理解しましょう。
まず、最低賃金の対象となる賃金を算出する必要があります。月給制の場合、基本給に加え、役職手当や資格手当などの固定手当は合算できますが、次のような賃金は対象に含まれません。
- 精皆勤手当、通勤手当、家族手当
- 臨時に支払われる賃金(祝金など)
- 1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)
- 時間外、休日、深夜労働に対する割増賃金
対象となる賃金の総額を算出したら、それを1時間あたりの金額に換算するため、1ヶ月の平均所定労働時間数で割ります(対象賃金の月額 ÷ 1ヶ月平均の所定労働時間)。これにより算出された「時間給」の額を、最低賃金と比較します。もし算出額が1円でも最低賃金を下回れば、たとえ本人が納得して契約していても法律違反となります。
なお、賃金制度により、日給制の場合には日額を1日の所定労働時間数で割った額を、時給制の場合にはその時給を、最低賃金額と比較して判断します。
基本給を低くする理由

労働者にとって、基本給が低いことはデメリットしかありません。
月給が減るのはもちろん、基本給をもとに計算される残業代や賞与、退職金などの支払いも減るおそれがあります。一方で、会社にとっては人件費を削減できるメリットがあります。
あまりにも基本給が低い場合、労働者からの搾取によって利益を出す、いわゆるブラック企業の可能性があります。低すぎる賃金による不当な搾取・酷使を防ぐために、最低賃金法が基本給の最低ラインを定めており、これを下回る場合は違法となります。
基本給の最低ラインである最低賃金を上回っても、「低い給与で働かせよう」という発想の企業で働くことは労働者にメリットがありません。このような考えだと、残業代に未払いがあったり、業務効率や生産性を向上させる努力をせず、長時間労働が慢性化したりといった弊害もあります。
なお、基本給が低い場合、所得税や住民税、社会保険料などは安く抑えられますが、手取りも減少するため、必ずしも「メリット」とは言えません。
「労働問題に強い弁護士の選び方」の解説

基本給が最低ラインを下回る場合のデメリット

次に、基本給が最低ラインを下回る場合のデメリットについて、具体的に解説します。
手取りが少なくなる
基本給は給料の大半を占めるため、最低ラインである最低賃金を下回ると手取りが少なくなり、生活に支障が生じてしまいます。最低賃金は、労働者の生活を守る最低限の水準とされるため、下回る場合には速やかに法的な対処をすべきです。
残業代が少なくなる
残業代の計算では、次のように基本給が基礎とされます。
- 残業代 = 基礎単価(基礎賃金 ÷ 月平均所定労働時間) × 割増率 × 残業時間
この計算式のうち、月給から除外賃金となる手当を控除したものが「基礎賃金」であり、その大部分を基本給が占めます。そのため、基本給が低いと残業代の基礎賃金も低くなり、同じ時間だけ残業をしても、得られる残業代が少なくなってしまいます。固定残業代を採用する場合も同じく、あらかじめ支払われる残業代に相当する額が少なくなります。
「残業代の計算方法」の解説

退職金が少なくなる
退職金の計算も、多くの企業の退職金規程は「退職時の基本給の◯ヶ月分とする」というように基本給を基礎として定めます。そのため、基本給が低いと、退職金の減少にもつながります。
「退職金を請求する方法」の解説

基本給が低いことが違法となるケース

次に、基本給が低いことで違法となるケースについて解説します。賃金の額は労使の合意によりますが、あまりに低すぎる給与は違法となり、刑事罰が科されることもあります。
最低賃金未満の場合
基本給が低すぎると感じるとき、最低賃金法違反でないかを確認してください。
給料が最低賃金未満であることは違法です。最低賃金に達しない給与の定めが無効となり、その部分について最低賃金と同じ定めをしたものとみなします。つまり、低賃金を定めても、最低賃金分は必ず保障されます。最低賃金法に違反すると、「50万円以下の罰金」という刑事罰の対象となります(最低賃金法40条)。また、差額分の賃金を請求することができます。
なお、たとえ労働者が同意しても、最低賃金法は強行法規であるため、違反する労働条件を定めることはできません。
「給料未払いの相談先」の解説

不合理な理由で基本給が低い場合
基本給が低いことに合理的な理由がない場合も、違法の疑いがあります。合理的な理由がない低賃金は、不当な差別が疑われます。例えば、労働者の国籍・人種、思想・信条、性別などを理由に給与の差を設けることは違法であり(労働基準法3条・4条)、「6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金」という刑事罰の対象となります(労働基準法119条)。
また、非正規であるというだけで、業務内容や責任が同じなのに正社員より給与が低い場合、同一労働同一賃金の原則違反となります。
基本給が最低ライン未満の場合の対処法

次に、基本給が低く、最低ラインを下回る場合の労働者側の対処法を解説します。
最低賃金を下回っていないか確認する
まず、基本給が低いと感じたら、最低賃金を下回らないかを確認しましょう。
最低賃金の計算を正確に行うには、基本給と手当の内訳を知る必要があるため、給与明細を確認するほか、明細に内訳が記載されないときは会社に質問してください。会社として、最低賃金を上回る賃金設定をしているなら、「どの賃金が最低賃金の対象なのか」「なぜその給与額となるのか」について、労働者に明確に説明できるはずです。
会社へ説明を求め是正を申し入れる
違和感がある場合でも、まずは社内で交渉を試みましょう。就業規則や賃金規程、雇用契約書を確認し、最低賃金を下回ることが明らかなら、会社に是正を申し入れます。単純な計算ミスや、最低賃金改定の反映し忘れであった場合、是正に応じてもらえる可能性があります。
労働基準監督署へ相談・申告する
会社が対応しない場合や、話し合いが難しい場合は、労働基準監督署への相談が有効です。
労働基準監督署は、労働基準法などの違反について企業を監督する行政機関ですが、最低賃金法違反についても扱うことが可能です。申告が受理されると、立入調査や助言指導、是正勧告が行われる可能性があります。最低賃金法違反は、証拠により明確に示しやすく、かつ、刑事罰もある重大な違反なので、比較的動いてもらいやすい分野です。
「労働基準監督署への通報」の解説

未払い賃金として請求を検討する
最低賃金を下回っていた場合、差額は「未払い賃金」として請求が可能です。
交渉から始め、決裂した場合には労働審判や訴訟といった法的手続きに進みましょう。賃金の時効は3年なので、3年分を遡って請求できます。裁判所で未払いを認めてもらうために、証拠(雇用契約書、給与明細など)を準備しておきましょう。各給料日から算出した遅延損害金を請求できるほか、悪質な場合は付加金の支払いを命じてもらえることがあります。
「給料未払いで泣き寝入りしないためには?」の解説

弁護士に相談して対処する
会社との交渉が難航する場合や、請求額が大きい場合は、弁護士への相談が有効です。
基本給の最低ラインを下回るという労働問題は、全社的に起こっている可能性が高く、他の社員とも協力して多額の請求が可能な場合もあります。弁護士に依頼すれば、会社が反論してきた場合に、法的に適切な主張ができるメリットがあります。また、会社との交渉窓口となり、直接連絡によるストレスを減らすことが可能です。
特に、給与体系が複雑で「どこまでが最低賃金に算入されるのか判断が難しいケース」では、法律知識の有無が、結果を左右します。
「給料未払いの相談先」の解説

基本給の最低ラインに関するよくある質問
最後に、基本給の最低ラインに関するよくある質問に回答しておきます。
「基本給が低い」と言えるのはいくらから?
給料が高い方がよいのは当然ですが、不平や不満では、法的な救済は得られません。そこで、一律の基準として最低賃金が定められ、これより低い場合が違法とされるのです。
なお、従来は、基本給は年齢と勤続年数で決まることが多かったため、「新卒なら◯万円、◯歳なら◯万円が相場」といった目安がありました。しかし、成果主義の考え方が広まり、転職が普及して人材の流動性が高まった結果、能力や業務内容、役職、地位といった複数の要素が考慮されることが増え、単純な「同期との比較」で給与の高低を判断することは難しくなっています。
基本給は低いがボーナスが高い場合のデメリットは?
基本給が低いが、ボーナスは高いという会社があります。
例えば、成果連動型で高額の賞与を定めるケースです。基本給は、約束した額を必ず支払う義務がありますが、ボーナスは労働契約の内容によっては会社の判断で減額できるため、基本給を下げてボーナスで補う方が会社にとってリスクが少ないためです。
ボーナスは法律上の義務ではなく、会社がある程度自由に設計できます。そのため、ボーナスが高かったとしても、その分基本給が低いと、業績悪化などを理由に会社が賞与を減額したとき、手取りの総額が下がってしまいます。また、「ボーナスは基本給○ヶ月分」などと定める会社では、基本給の低さが連動してしまいます。
「ボーナスカットの違法性」の解説

基本給は低いが手当が多い場合のデメリットは?
基本給は低いが、手当が多いという会社もあります。
基本給が低くても手当が多いなら手取りの総額は減らないように見えますが、それでも労働者にとってはデメリットが多くあります。福利厚生を目的とした家族手当、住居手当などは、残業代の基礎賃金に含まれない除外賃金となるため、手当を増やしても残業代は増えないことがあります。
また、手当について正規と非正規の間で差が生じる同一労働同一賃金の問題、手当の廃止が不利益変更となるトラブルなど、別の労働問題にも発展します。
「残業代請求に強い弁護士とは?」の解説

【まとめ】基本給の最低ライン

今回は、基本給の最低ラインについて、法律上の保障を解説しました。
「基本給が低い」という不満があるとき、法律上の最低ラインを下回る賃金の設定になっていないかを確認してください。地域別・産業別の最低賃金が定められており、これを下回るほど低い給与は、最低賃金法違反となり違法です。
入社当初から基本給が低い場合だけでなく、採用時の約束通りの金額が支払われていなかったり、十分な成果を示しても長年給与が上がらなかったりする場合も、法律違反の状態である可能性があります。手当が多く支払われていたり、固定残業代が付いていたりしても、肝心の基本給が低いと、労働者にとって多くの不利益があります。
低すぎる基本給には、納得しない姿勢を貫き、毅然とした対応をするのが大切です。労働基準監督署に申告するほか、差額の請求をするには、弁護士への相談が有効です。
- 基本給は賃金の基礎であり、最低賃金額を下回った場合には違法となる
- 最低賃金を下回る場合には、賃金差額の請求や刑事罰の対象となる
- 基本給が低いと、手当があっても、残業や退職金、手取りが減ってしまう
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