会社から無理難題を押し付けられることがあります。その意図は、「労働者を退職させたい」という場合が多いもの。
というのも、仕事で無理難題を突然に押し付けられれば、仕事が嫌になる人が多いからです。無理難題をクリアできないのを理由に、能力不足だと言われ、退職を迫られるケースもあります。なかには、退職を強要されたり、クリアできない難題を理由として解雇されたりする人もいます。
今回は、会社が無理難題を押し付けてくるケースの対応を、労働問題に強い弁護士が解説します。
- 会社が無理難題を押し付けてくるのは、退職させようという目的が強い
- 退職勧奨が適法でも、無理難題を押し付けて辞めさせるのは違法
- 無理難題の押し付けが、解雇と同視できる状況なら、撤回を求めて労働審判で戦う
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会社が無理難題を押し付ける目的
まずは、会社が無理難題を押し付ける、主な目的について解説します。
良い方向に考えれば、成長のための課題が高度になり「無理難題」になってしまったケースがあります。しかし一方で、上司の個人的な感情から、無理な要求を言いつけられる場合もあります。無理難題を押し付けられている目的が分かれば、その後の対応の指針が明確になります。どのような目的で仕事の無理難題を押し付けられたのか、冷静に把握するようにしてください。
パワハラで不快にさせる
まず、無理難題を押し付ける理由の1つには、パワハラで不快にさせる目的があります。
どう考えても一人で処理しきれない量の仕事を与え、残業を繰り返させ、最後には「仕事ができない」と罵って部下を追い込む上司がいます。はじめから課題や仕事の解決を望んでおらず、無理難題を押し付け、部下を不快にさせるのが狙いです。
このような被害を受ければ、精神が疲弊し、業務遂行ができなくなってしまいます。最悪は、眠れなくなり、疲労困憊で生活にも支障が出てしまいます。こういった行為が発生する背景には、他責思考や完璧主義、自己中心的な思考があります。会社の成長や社員の育成という正しい目的がない場合、無理難題の不当な押し付けは、ハラスメントに該当する違法な行為です。
「仕事を押し付けられた時の断り方」の解説
問題社員を退職させる
もう一つは、問題社員を退職させるという目的によるもの。問題ある社員にどうにか退職してほしいと考える場合、無理難題を押し付けて自主退職に導こうとしてきます。
無理難題を押し付けられては、仕事が嫌で退職を考えるようになるのが当然。「会社を辞めたい」と感じる人も多いでしょうが、自ら退職するよう誘導されていることに気付いてください。「条件を与え、能力向上を図る」建前ながら、実際は無理な条件を設定します。そして、絶望して自主退職してもらおうというのが会社の本音です。
本当に問題のある社員ならば、会社を辞めてもらうのは仕方ないことです。しかし、いわゆる「問題社員」のレッテルは、会社が勝手に決めるもので、その評価は不当な場合も少なくありません。
少なくとも、無理難題がこなせないことは労働者の責任ではなく、課題設定に問題があると言わざるを得ません。したがって、無理難題で退職させるのは、労働者の意思決定に不当な影響を与えるもので、違法です。
「ノルマ未達を理由とする解雇」の解説
「能力不足」で解雇する
また、無理難題を押し付けて、達成できなかったことを理由に解雇するケースもあります。このとき、解雇理由としては「能力不足」ということになります。あえて達成不能な目標を設け、「達成できないのは能力がないからだ」といって解雇するのが典型例です。
営業職など、成果を重視される業種でよく行われがちですが、解雇には、正当な解雇理由が必要であり、理由がなければ違法な不当解雇として、無効になります。会社は利益を追求するため、ある程度の売上管理や目標設定は必要ですが、そもそも達成できないほど高い目標ならば、労働者の能力不足を責められるいわれはありません。
「不当解雇に強い弁護士への相談方法」の解説
会社からの無理難題は断れる
次に、無理難題を拒否すべきケースと、断り方について解説します。
労働契約を結んでいる場合には、労働者は会社の業務命令に従う義務があります。とはいえ、業務命令に従う義務を負うのは、あくまで労働契約に定められた範囲内のみであり、不当な命令に従う必要はありません。
拒否すべき無理難題とは
本解説のような無理難題は、違法な業務命令の疑いが強いもの。そのため、無理難題を押し付けられても、従う必要はありません。例えば、次のケースでは、命令を拒絶してもよいでしょう。
また、無理難題の1つとして、目標が高すぎるときにも、達成するための努力を断れるでしょう。嫌がらせでされるなら、違法なパワハラであり、慰謝料も請求できます。
「違法な残業の断り方」の解説
無理な要求の断り方
命じられた内容が、どれほど無理難題に感じても、会社からの命令は尊重すべき。ストレートに断れば角が立ち、上司との関係が悪くなります。今後の業務に多少なりとも影響があることでしょう。そのため、無理な要求をされたとしても、断り方には注意を要します。
頭ごなしに「無理だ」と断らず、「お応えできない」と丁寧な言葉で伝えましょう。無理難題だとして断る場合にも、「ご事情は重々承知しておりますが」と前置きを述べるなど、可能な限り丁寧な言葉遣いを心がければ、信頼を維持することができます。
明らかに自分に仕事が集中しているなら、キャパオーバーを理由にする手もあります。他の人の手が空いていると指摘するなど、適切に返答してください。会社が「無理難題だった」と認識すれば、配慮してもらえる可能性もあります。
少なくとも、感情的にはならず、「なぜ無理だと思うか」という理由をはっきりと伝えるようにしてください。指示した相手に無理難題だという自覚がないなら、「どうしたら要求どおりに仕事を進められるのか」と、逆に質問してみるのも有効です。
無理難題でないならば抵抗せず、受け入れる意思を示し、断るにしても攻撃的な印象をなくせます。
「労働問題に強い弁護士の選び方」の解説
無理難題を押し付けられ、退職させられそうな時の対応
会社が労働者に対して退職をするように促すこと自体は、本来自由です。自主退職を勧める行為のことを、法律用語で「退職勧奨」といいますが、必ずしも違法なわけではありません。
ただ、無理難題を押し付けての退職勧奨は、「条件付き」の退職勧奨。そのため、適法な場合ばかりではなく、そのやり方によっては違法の可能性も多いにあります。特に、条件として課された内容が厳しすぎるときは、相当な理由がない限り、違法となります。というのも、無茶な条件つきの退職勧奨は、退職するかどうかを労働者に自由に選ばせてはいるわけではなく、事実上選択肢をなくしているに等しいからです。つまり、結局は、退職を強要していることと同じことです。
退職勧奨といいながら、無理難題を押し付けて辞めさせようとしてくる会社のやり口は、実質は解雇と変わらないケースも少なくありません。
では、無理難題を吹っ掛けての退職勧奨があったら、どう対応すべきでしょう。
注意すべきは無理難題をクリアできなくても、言われるがままに退職しないことです。
課題が正当なら、退職は免れないかもしれません。しかし、そもそも達成不能な課題は不当で、後ろめたく思う必要はありません。「無理難題が違法か」と熟慮せず、退職届を出せば、撤回して争うのは困難です。
まず、課題設定が適切は、よく精査してください。不当な無理難題が与えられ、辞めさせられそうに感じるなら、弁護士に相談ください。弁護士が警告すれば、不当解雇を回避できるだけでなく、慰謝料請求できるケースもあります。
「退職合意書を強要することの違法性」の解説
無理難題をクリアできず解雇された時の対応
無理難題が違法でも、クリアできないと、最悪は解雇されてしまうことがあります。このとき、労働者はどのような対応をとるべきでしょうか。クリアのハードルが高すぎる無理難題による退職勧奨は、解雇と同視できます。
まず、不当解雇の可能性がないか、検討する必要があります。不当解雇ならば無効であり、撤回してもらうのが正しい対応です。交渉で解決できずとも、労働審判や訴訟といった裁判手続きを利用することによって、会社と争うことができます。解雇権濫用法理によって、客観的に合理的な理由、社会通念上の相当性がない場合には、違法な不当解雇として無効になります(労働契約法16条)。
例えば、課題設定が理不尽であり、無理があるケースです。いわゆる無理難題ならば、達成できないのは労働者の責任ではなく、解雇理由にはなりません。もちろん、能力不足を理由とする解雇とするのにも、合理的な理由はないといえます。
不当解雇の可能性があるなら、会社に内容証明をもって解雇の撤回を要求しましょう。交渉をしてもなお解決の糸口がつかめないとき、労働審判や訴訟といった法的手続も視野に入れてください。
「解雇を撤回させる方法」「解雇の解決金の相場」の解説
まとめ
今回は、会社から無理難題をいわれたとき、労働者の対応方法について解説しました。
会社から無理難題をふっかけられると、会社に残りづらい方も多いでしょう。退職させられそうになっても、すぐに応じるのでなく、まずは弁護士に相談ください。
退職勧奨は、「自主退職を勧める」という限度にとどまるなら適法です。しかし、無理難題を押し付けて、明らかにクリアできない条件をつけるなら違法なケースもあります。場合によっては「解雇」と同視される例も珍しくありません。
解雇など、不当な処遇に不満があるときは、明確に拒否しなければなりません。一人で戦うのが難しいなら、労働問題に精通した弁護士のサポートを受けるのが有益です。
- 会社が無理難題を押し付けてくるのは、退職させようという目的が強い
- 退職勧奨が適法でも、無理難題を押し付けて辞めさせるのは違法
- 無理難題の押し付けが、解雇と同視できる状況なら、撤回を求めて労働審判で戦う
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【退職勧奨・退職強要】
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- 退職勧奨のよくある手口
- 違法な退職勧奨を断る方法
- 退職勧奨は会社都合となる
- 退職勧奨と解雇の違い
- パワハラとなる退職強要
- 「退職しないと解雇」は違法?
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