会社から明らかに無理な要求をされていると感じた経験はないでしょうか。
会社からの無理難題は、例えば、納期が極端に短い、明らかに自分の業務範囲や能力を超えている、現実的に達成が難しいといったケースがあります。こうした「無理難題」でも、「断ったら評価が下がるのでは」「従わないと問題になるのでは」と悩む方は少なくありません。
会社の指示でも、無理難題であれば従う必要はありません。無理な要求がパワハラとして違法になる場合は拒否すべきです。「退職させたい」という不適切な意図があるケースもあります。ただし、どこまでが正当な業務命令で、どこからが無理難題かの判断は難しいものです。
今回は、会社からの無理難題が違法なパワハラにあたるかどうか、拒否できるケースの判断基準と断り方について、労働問題に強い弁護士が解説します。
- 会社からの無理難題には短納期や業務範囲外の指示、過度なノルマなどがある
- 無理難題はパワハラに当たるため、違法な場合には拒否することができる
- 無理難題が続く場合は、記録に残して社内外の窓口に相談する
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会社の無理難題とは?よくある具体例

はじめに、会社による無理難題にどのようなものがあるかを解説します。
「無理難題」とは、一般に、必要性や合理性のない命令や、現実的に困難な要求を指します。会社には業務命令権がありますが、無制限ではなく、業務上必要かつ相当な範囲にとどまります。これを明らかに超えるものは、労働者に過度な負担を強いる「無理難題」です。
以下のものは、実務上よく見られる無理難題の具体例です。
明らかに実現不可能な業務指示
最も典型的なのが、明らかに実現不可能な業務を指示されるケースです。
例えば、他の社員がこれまで1週間かけていた業務を「本日中に完了させるように」と指示するケースや、人手不足で到底一人では困難な業務量を担当させるケースは、無理難題と言えます。こうした指示は合理性を欠き、長時間労働や健康被害につながる危険があります。また、強要される場合には、違法なパワハラと評価されます。
職務範囲を超えた仕事の強要
次に多いのが、本来の職務の範囲を超えた業務を押し付けられるケースです。
労働者は、労働契約によって担当する職務の範囲を約束し、それに応じた賃金を受け取っています。そのため、専門外の業務を任されたり、私的な用事(上司の雑用、家事やペットの世話など)を行うよう強要されたりすることは不適切であり、無理難題と言ってよいでしょう。
過度なノルマや短納期
営業職などでよく問題になるのが、達成困難なノルマや極端に短い納期設定です。
目標を設定することも業務の一環ですが、過度な負担を与えることは、無理難題といってよいでしょう。明らかに現実離れした売上目標を課されたり、指導や教育、事前準備などがない中で高い成果を要求されたりするケースがこれに該当します。
さらに、その目標や期限を達成できなかったことを理由に叱責されたり、評価を下げられたりすることもまた、不当であることが明らかです。
精神的な圧力を伴う命令
最後に、威圧的な言動や心理的プレッシャーを伴う命令も、無理難題になります。
例えば、「できないなら辞めろ」といった強い言葉とともに業務を強要すれば、命令を受けた労働者に過度な負担を与えることが明らかです。圧力を感じさせるために人前で叱責したり、人格否定をしたりすることは、内容だけでなく伝え方に問題があり、パワハラに該当します。
「パワハラと指導の違い」の解説

会社からの無理難題はパワハラになる?

次に、会社からの無理難題がパワハラになるかどうかを解説します。
職場におけるパワハラは、法律上、優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超え、労働者の就業環境が害されるものを指します(労働施策総合推進法30条の2)。
会社からの無理難題は、厚生労働省の示す6類型の中でも、「過大な要求」「過小な要求」「精神的な攻撃」に該当します。
- 過大な要求
無理難題のうち、業務上明らかに不要なことや、遂行することができないことを強制する場合、「過大な要求」に該当します。 - 過少な要求
業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや、仕事を与えないことは、「過小な要求」に該当します。 - 精神的な攻撃
無理難題に伴い、人格を否定するような暴言や、長時間にわたる厳しい叱責が行われる場合もパワハラに該当します。
違法なパワハラは、労働者の精神を疲弊させ、業務遂行を困難にさせます。うつ病や適応障害といった精神疾患の原因となり、仕事だけでなく私生活の支障にもなります。
そもそも「業務を遂行させよう」という意思が存在せず、最初から到底困難であろうと思いながら命令している場合、無理難題であり、違法なパワハラであることが明らかです。さらに悪質なのが、無理難題を押し付けることで、達成できなかった労働者を自主的に退職させようとする意図があるケースです。誰がやっても達成困難なのに、「能力不足である」という理由付けをして解雇しようとするのが典型例です。
「ノルマ未達を理由とする解雇」の解説

無理難題が違法であれば拒否できる

次に、無理難題を拒否すべきケースと断り方について解説します。
拒否すべき無理難題とは
労働者として「無理難題である」と感じたら、断ることを検討しましょう。
労働契約を結んでいる場合、労働者は会社の業務命令に従う義務があり、拒否できないのが原則です。とはいえ、あくまでその命令が必要かつ相当な場合に限られるため、「無理難題」と言えるような要求は断ることができます。
例えば、次のような命令は拒否してもよいでしょう。
- 残業代を支払わないが残業命令をする。
- 安全配慮義務に違反するような長時間労働を命じる。
- 毎週のように休日出勤を命じられて休みが全く取れない。
- 遂行不能であることが明らかな業務を命じる。
- 終わらないほどの業務量を与え、毎日深夜残業させる。
無理難題の一環として、目標が高すぎるときにも、達成するための努力を断ることができます。嫌がらせでされるなら、違法なパワハラであり、慰謝料を請求することも可能です。

「違法な残業の断り方」の解説

会社からの無理難題の断り方
会社からの無理難題を拒否するとき、断り方も大切です。
重要なポイントは、どれほど無理難題だからといって感情的に反発せず、冷静に対応することです。ストレートに断れば角が立ち、上司との関係悪化が懸念されるなら、現実的に可能な代替案もあわせて伝える方法がおすすめです。信頼を維持するため、丁寧な言葉遣いを心掛けてください。
命令をした上司に「無理難題を求めている」という自覚がない場合、現状を正確に伝えることが解決策となる場合もあります。現在抱えている業務量を伝え、キャパオーバーであると説明したり、業務量の調整や再分配を求めたりすることも検討してください。
例えば、角を立てないために、次のような言い回しも参考にしてください。
- 「ご事情は重々承知しておりますが」
- 「現状では対応が難しいため」
- 「優先順位の確認をお願いできますか?」
少なくとも、「なぜ無理難題だと思うのか」という理由は説得的に伝えましょう。それでもなお、無理難題が続くなら、「どのようにすれば要求通りに仕事を進められるのか」というように逆に質問したり、条件を付けたりするのも有効です。
「業務命令は拒否できる?」の解説

断っても無理難題が続く場合の対処法

最後に、断ってもなお無理難題が続く場合の対処法を解説します。
会社からの無理難題が一時的なものではなく、継続的に行われる場合は、我慢し続けるとエスカレートするおそれもあります。
記録を残しながら進める
まず重要なのが、客観的な証拠を残しながら対応することです。
無理難題を要求されたことの証拠は、例えば、業務指示のメールやチャット、業務指示書、上司とのやり取りの録音などがあります。「いつ・誰が・何を指示したか」を具体的に残すことが大切です。後に社内外へ相談する際にも、証拠があれば状況を理解してもらうことができます。
会社の責任を追及する
上司独断での指示たと考えられる場合、会社の責任を追及することが解決策となります。
特に、直属の上司に嫌われているとき、狙い撃ちされ、恣意的に無理難題を強要されている可能性もあるため、社長や人事、コンプライアンス窓口などに相談することで上司の問題点を明らかにすれば、注意指導が行われることが期待できます。
退職勧奨には応じない
無理難題を理由とした退職勧奨には応じないようにしてください。
会社が労働者に自主的な退職を促すのが退職勧奨ですが、退職は労働者の自由であり、強要することは違法です。無理難題を要求した上で、「解決できない場合は退職してもらう」と伝えるような、いわゆる条件付きの退職勧奨は、労働者の退職の自由を侵害することが明らかです。
無理な要求を突きつければ、退職するかどうかを選ばせているかに見えても、事実上は辞める以外の選択肢が与えられないに等しいからです。退職勧奨といいながら、無理難題を押し付けて辞めさせようとする手法は、実質的には解雇と同視できるケースも少なくありません。
このような場合には、無理難題がクリアできなかったとしても、会社の言うがままに退職してしまわないことが大切です。
「退職合意書を強要することの違法性」の解説

無理難題を理由とした解雇は争う
無理難題をクリアできないことを理由に解雇される最悪のケースもあります。
しかし、解雇は法的に制限されており、解雇権濫用法理により、「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」がない場合、不当解雇として違法・無効になります(労働契約法16条)。

無理難題を要求する会社では、達成できなかったことを理由に「能力がない」「適性がない」といった評価をされて解雇されることがあります。しかし、そもそも要求が高すぎる場合、達成できないのは労働者の責任ではなく、解雇理由にはなりません。
不当解雇の疑いがあるなら、会社に内容証明で撤回を要求しましょう。交渉で解決できないときは、弁護士に相談し、労働審判や訴訟といった法的手続きも視野に入れてください。
「解雇を撤回させる方法」「解雇の解決金の相場」の解説


【まとめ】会社からの無理難題

今回は、会社から無理難題を言われたときの、労働者側の対処法について解説しました。
会社からの無理難題を受け入れる必要はありません。業務上必要で、相当な方法でされた指示でない場合、現実的でない要求の多くはパワハラとして違法と評価される可能性があるからです。
もっとも、実際には「どこからが無理難題として断ってよいのか」の判断は容易ではなく、対応を誤ると業務命令違反として、注意指導や懲戒処分の対象とされてしまうおそれもあります。まずは冷静に内容を見極め、指示をされた理由を整理しましょう。無理難題かどうかを見極めるには、感情的にならないよう注意しながらコミュニケーションを密に取ることが大切です。
それでも無理難題が続く場合、証拠を残し、社内外の窓口に相談するのが適切です。無理な要求に振り回されないための法律知識を付けるために、弁護士へ相談してください。
- 会社からの無理難題には短納期や業務範囲外の指示、過度なノルマなどがある
- 無理難題はパワハラに当たるため、違法な場合には拒否することができる
- 無理難題が続く場合は、記録に残して社内外の窓口に相談する
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