取締役は、社員より重大な責任を負います。
どんなに会社に尽くしても、成果が出ないと辞任を勧告される危険も……。
最悪は、株主の決議により解任されることもあります。
取締役と会社の関係は、委任契約であり、社員の労働契約とは性質が異なります。
しかし、辞めさせられるときは、同じような流れを歩みます。
労働者が、退職勧奨から解雇されるのと同様、役員もまた、辞任勧告から解任となります。
辞任を勧告された取締役は、適切に行動しないと、本来得られる利益を失います。
辞任を拒否しないと、約束された報酬をもらい損ねてしまいます。
今回は、取締役が、辞任を勧告されたときの対応を、労働問題に強い弁護士が解説します。
- 取締役に、自ら退任するようプレッシャーをかけて迫るのが辞任勧告
- 辞任するかどうかは取締役の判断であり、辞任勧告に従う必要はない
- 解任なら損害賠償請求できるから、辞任勧告に応じるなら金銭交渉をする
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辞任勧告とは
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辞任勧告とは、役員に対して、辞任するように勧める行為です。
つまり、会社が、役員を辞めるよう促す行為です。
辞任勧告は、あくまでも勧める行為なので、ただちに違法ではありません。
取締役、監査役など役員は、会社と委任契約を交わします。
取締役などの側で、この契約を終了するのが辞任。
なので、辞任するか否か、本来、取締役が自由に決められるはずです。
これに対し、会社が一方的に、取締役との委任契約を終了させるのが、解任。
会社は、株主総会の決議により、いつでも取締役を解任できます(会社法339条1項)。
ただし、解任には、取締役側から損害賠償を請求されるリスクあり。
任期途中の解任に正当な理由がないと、取締役は、解任によって生じた損害の賠償を請求できるからです(会社法339条2項)。
会社法339条
1. 役員及び会計監査人は、いつでも、株主総会の決議によって解任することができる。
2. 前項の規定により解任された者は、その解任について正当な理由がある場合を除き、株式会社に対し、解任によって生じた損害の賠償を請求することができる。
会社法(e-Gov法令検索)
会社が、わざわざ辞任を勧告するのは、損害賠償が怖いからです。
取締役に、任期途中で辞めてもらいたいとき、損害賠償請求を避けるため、辞任を勧告するのです。
取締役の辞任トラブルも、弁護士に相談できます。
労働問題に強い弁護士の選び方は、次に解説します。
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取締役が辞任を勧告される具体例
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辞任勧告で、実際に取締役に辞任を伝えるのは、会社の機関です。
つまり、株主から辞任勧告されるケース、取締役から辞任勧告されるケースが典型例。
役員が、辞任を勧告される具体例について解説します。
株主から辞任勧告されるケース
1つ目は、株主から辞任を勧告されるケースです。
株主には、取締役を辞めさせる権限があります。
解任の決議をすれば、取締役をおろすことができるのです。
そもそも、会社は株主のもので、取締役は経営を任されたに過ぎません。
なので、解任の決議をちらつかせ、辞任を勧告してくるケースは少なくありません。
解任の決議を可決させるには、株主の過半数の賛成が必要です。
しかし、辞任の勧告ならば、少数の株主でもすることができます。
少数の、取締役をよく思わない株主が、責任を指摘し、辞任を迫るケースもあります。
雇われ社長のリスクについても参考にしてください。
取締役から辞任勧告されるケース
2つ目は、他の取締役から辞任を勧告されるケースです。
取締役が複数いるとき、互いに、それぞれの業務遂行を監視する責務があります。
特に、代表権のある代表取締役は重責であり、厳しい監視の目にさらされます。
「相互監視」の点から、不適任と評価されれば、辞任を勧告されるケースはよくあります。
一方で、取締役間の対立があり、経営の争いのなかで辞任を勧告される例もあります。
いずれにせよ、安易に辞任の勧告に乗らないことが大切です。
退職勧奨のよくある手口と対処法も、参考にしてください。
社外から辞任勧告されるケース
例外的に、会社外の第三者から、辞任を勧告されるケースもあります。
責任追及で辞めさせられる例には、世間体が、辞任勧告の理由となる場合もあります。
大企業の役員で、社会的に話題となるほど大きなミスをした場合などが典型です。
このとき、法的に辞めなければならないわけではありません。
ただ、企業の名誉や、信用回復を優先し、慎重に対応しなければなりません。
労働問題の種類と、その解決方法についても参考にしてください。
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辞任を勧告された取締役の対抗策は?
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では、いざ辞任を勧告された場合、取締役はどんな対応をとるべきでしょうか。
役員側の、適切な対処法を解説します。
ただ、流れに任せて辞めれば、不利になってしまいます。
会社を追われるだけでなく、損害賠償を請求される危険もあります。
辞任すべき理由があるか確認する
辞任を勧告されたら、まず、理由を確認してください。
辞任させられる理由を正確に知れば、反論を立てやすくなるからです。
取締役としてミスしたなど、後ろめたい方もいるでしょう。
取締役の経営判断は、過程や内容が著しく不合理でない限り善管注意義務違反ではありません。
経営判断が悪い結果につながれど、必ずしも取締役のみの責任ではありません。
これを、法律用語で「経営判断の原則」といいます。
退職慰労金を請求する
辞任する場合、退職慰労金をもらえるか、精査してください。
退職慰労金の支払いは、定款に定めがない場合、株主総会決議を得る必要があります。
株主から辞任を勧告されるケースだと、取締役と株主の関係が悪化することも。
思うとおりの決議が得られず、退職慰労金を払ってもらえない危険があります。
したがって、辞任勧告されたら、応じる条件として、必ず事前に、金銭交渉をしなければなりません。
辞任を決めてから、退職慰労金を得られず損することのないようにしてください。
役員の退職金請求については、次の解説をご覧ください。
解任されるまで自分から辞めない
辞任の勧告を受けても、すぐ辞めるのは適切ではありません。
取締役側の立場にとっては、解任されるまで、自分から辞めないのが基本です。
このような対処法なら、解任される前の間、会社と交渉ができます。
有利な条件で辞めることを目指し、交渉に多くの時間を割けます。
辞任するかどうかは自由ですから、勧告といえど、強要はできません。
解任されるまで待てば、損害賠償請求できる可能性もあります。
取締役の任期中の解任は、正当な理由がない限り、損害賠償請求できると法律で定められているからです(会社法339条2項)。
労働者の地位がないか確認する
最後に、取締役といえど、労働者の地位にもある方もいます。
いわゆる、使用人兼務役員がこれにあたります。
取締役とは名ばかりで、実際は労働者である場合を「名ばかり取締役」と呼びます。
労働者としての地位もあるなら、取締役を辞めても会社に残れます。
この場合、労働者としての権利も主張すべきです。
例えば、辞任とともに労働者としての地位も失うなら、退職金をもらうべきです。
また、労働者としての地位に基づき、過去の労働について残業代を請求できる可能性もあります。
使用人兼務役員の性質と、残業代請求について、次に解説します。
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辞任勧告と類似の処分との違い
![](https://roudou-bengoshi.com/wp-content/uploads/2017/01/hatena-hikaku.jpg)
最後に、辞任勧告の特色と、取締役の特殊性を知っておいてください。
そのためには、辞任勧告と似た、他の処分との違いを理解するのが大切です。
辞任と解任の違い
辞任と解任の違いは、その強制力の差にあります。
解任は、株主総会の決議によってされれば、取締役との委任契約を一方的に終了できます。
これに対し、辞任勧告は、あくまで促すにすぎず、強制ではありません。
取締役がこれに応じて辞任しない限り、委任契約は終了しません。
退職勧奨との違い
退職勧奨は、労働者に対して、会社が退職を促す行為です。
そのため、勧奨ないし勧告の対象が、労働者なのか、取締役なのかという点が違います。
ただ、いずれも、会社との契約を終了させようとしている点で共通します。
要は、会社から追い出したいという意思のあらわれです。
そして、労働者なのか、取締役なのかは、働き方の実態によって区別されます。
形式上は取締役になっていても、会社からの拘束が強い場合には、労働者の地位もあわせ持つものと判断されるケースもあります。
退職勧奨を断るためのポイントは、次に解説します。
![](https://roudou-bengoshi.com/wp-content/uploads/2017/08/josei-tsurai-2-300x169.jpg)
まとめ
![弁護士法人浅野総合法律事務所](https://roudou-bengoshi.com/wp-content/uploads/2022/03/asanosougou-zentai.jpg)
今回は、取締役が辞任を勧告された場合の対処法について、解説しました。
取締役は、辞任する際に退職慰労金をもらえる可能性があります。
支給の対象となるか、規程を忘れず確認してください。
また、意思に反して辞任せざるをえないとき、良い条件で辞める交渉も必要です。
辞任にともなう交渉を有利に進めるには、自分から進んで辞めないこと。
さらに、辞任のタイミングが悪いと、逆に損害賠償を請求される危険もあります。
役員として十分な貢献をしても、辞任を勧告されるなら、ぜひ弁護士に相談ください。
- 取締役に、自ら退任するようプレッシャーをかけて迫るのが辞任勧告
- 辞任するかどうかは取締役の判断であり、辞任勧告に従う必要はない
- 解任なら損害賠償請求できるから、辞任勧告に応じるなら金銭交渉をする
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