管理職になってもなお、辞めたい理由のある方もいるでしょう。社内で業績をあげ、頑張った結果として出世したものの、重圧もあることでしょう。管理職になるほどの責任感のある人ほど、「簡単には辞められない」という不安も多いものです。
管理職もまた労働者に過ぎませんから、退職の自由があります。管理職以外の労働者と同じく、辞めることができます。ただし、管理職の退職には、特有の注意すべきポイントがあります。
会社としても、管理職ほど重要な役割だと、退職しないよう引き留めようとします。最悪は、損害賠償を求められることもあります。円満に辞めるには、他の労働者に比べてもなお、慎重に注意しなければならない点が多く存在します。
今回は、管理職を辞める方法や、退職時の注意点を、労働問題に強い弁護士が解説します。
- 管理職にも退職の自由があり、辞めたいなら自由に辞められるのが原則
- 管理職もまた、通常の社員と同じく、辞めたいと伝えて2週間で退職できる
- 管理職の重責からして、円満に辞めるには、業務引き継ぎなどの配慮は慎重にする
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管理職でも辞めたい人は多い
管理職を辞めたいのは、決してあなただけではありません。退職を決断する管理職は思いのほか多いので、安心してください。
社会人として、ある程度の経験を積むと、管理職ポストにつける方も多いのではないでしょうか。管理職は一般に、年収が高く、良い地位だと考えられています。「管理職に就くことを目指して、入社から頑張ってきた」という方も少なくありません。
しかし、実際に管理職になってみると「やはり辞めたい」と感じる方は少なくありません。外から見ていたほど管理職は楽でなく、一方で、責任は重大です。
年功序列の競争のなか、「出世したい」という夢があったのは昔のこと。最近では、「管理職になりたくない」「昇進したくない」という価値観の人も増えています。管理職になりたくないから転職する、という人すらいます。なかでも、中間管理職は特に、上司と部下の板挟みに合い、辞めたいと感じる人が多いです。
「労働問題に強い弁護士の選び方」の解説
管理職を辞めたい理由とは
管理職を辞めたいのには、理由があります。退職したり、降格されたりしてから後悔しないように、理由を明らかにしておきましょう。
以下では、よくある管理職を辞めたい主な理由について解説します。
激務だから
管理職ほど、激務の傾向にあり、これが理由で辞めたいと思う人が多いです。
管理職になる前は、現場の作業がなく楽そうに見えたかもしれません。実際は、管理・監督に加え、部下のサポートを要し、仕事の肩代わりも多く、非常に根気のいる辛い仕事です。
管理監督者になると残業代が出なくなるものの、仕事が減るわけではありません。「重役出勤」など夢のまた夢で、多くの管理職は平社員より激務を強いられます。仕事が忙しすぎると、管理職を辞めようという選択に直結してしまいます。
「長時間労働の問題点と対策」の解説
仕事のストレスが強いから
管理職は、部下をまとめ上げて業務を遂行する、責任あるポジションです。部下のミスについても、監督者として責任を負わなければなりません。
管理職となる能力が認められるので、会社から期待される成果も大きくなります。こういった事情から、管理職にかかるストレスは、一般社員と比べ物になりません。責任感が強い人ほど、一人ですべてを抱え込み、ストレスを感じやすいでしょう。仕事のストレスが強いことは、十分に、管理職を辞めたい理由になります。
「仕事を押し付けられた時の断り方」の解説
部下の管理が辛いから
部下の管理が辛いというのも、辞めたい理由になります。管理職となるほどの人にとって、部下は、決して自分の思い通りにはなりません。
- 自分と部下のやる気のギャップに疲れた
- 部下が仕事を真剣に取り組まない
- 部下に責任感がない
- 自分ではしないような不注意、ミスをする
このような不満も、管理職なら当然に背負わなければなりません。向上心ある部下なら指導しがいもあるでしょうが、理想的な部下ばかりではありません。一方で、少しでも強く指導しようものなら「パワハラだ」と言われてしまうこともしばしばです。他人を管理、監督して仕事を進めることに、やりがいを感じなくなってしまう人もいます。
「やる気のない社員を解雇させるための対応」「パワハラと指導の違い」の解説
管理職に向いていないから
管理職になった結果、自分に限界を感じてしまう人もいます。このとき、管理職を辞めたいと感じる理由は、自分の側にあります。
能力には、向き不向きがあり、そもそも他人をまとめ、組織を作るのが苦手で、管理職に向いていない人もいます。自身の業績が良いからといって、マネジメント能力の高さを示すとは限りません。ジェネラリストの管理職でなく、現場のスペシャリストであるほうが能力を発揮する人もいます。
名ばかり管理職だから
最後に、会社の扱いが不当ならば、管理職を辞めたくなって当然です。一般の社員と、給料も待遇もほぼ変わらないのに、管理職扱いされているケースが典型です。
管理監督者(労働基準法41条2号)に該当すれば、残業代は払われません。しかし、管理監督者の実態がないのに、管理職扱いして残業代を払わないのは違法です。このような違法な扱いを、法律用語で「名ばかり管理職」といいます。
違法に権利を侵害された状態なら、管理職を辞めたいと決断する人が多いのは必然です。
「管理職と管理監督者の違い」「名ばかり管理職」の解説
管理職を辞める方法
管理職を辞めたいとき、ただちに会社を退職する方法ばかりではありません。次に、管理職を辞める方法について、解説します。
会社にいながらにして管理職を辞める方法もあります。管理職としての適正はないが、社員でい続けたいときに有効です。
降格を申し出る
管理職が向いていないだけなら、会社を辞めるまでの必要はないことも。つまり、降格を申し出るという選択もあります。管理職からの降格を願い出て、プレイヤーの役割に戻る方法です。
降格は、労働者が自由に決められるわけではありませんが、管理職を辞めた方が活躍できるなら、会社も認めてくれる可能性は高いでしょう。管理職を続けると、心身に不調を及ぼすなら、人材配置に配慮しなければなりません。労働者の健康に配慮するのも会社の義務の一環です。
もちろん、降格されれば、管理職手当がなくなるなど不利益もあります。しかし、辞めたいのに嫌々仕事をし、うつ病などになる事態は避けたいところ。限界が来る前に、管理職からの降格を相談してみてください。
「降格人事が違法なときの対処法」の解説
会社を辞める
前章の理由のなかでも、名ばかり管理職の違法を放置する会社なら、すぐ退職すべき。管理職は責任重大ですから、違法な会社に残るのはリスクでしかありません。
十分な貯蓄があるならば、思い切って退職してしまう手もあります。退職しても困らないなら、会社を辞めるという選択は個人の自由です。人生設計を、会社に握られる必要はありません。管理職だからといって、辞めてはいけない理由はどこにもありません。
「会社の辞め方」の解説
転職する
管理職を辞めたいとき、退職し、他社に転職する手もあります。辞めたいと感じる理由は、環境の変化によって解消できる場合も多いからです。業務内容はさして変わらずとも、職場が変わるだけでストレスがなくなることもあります。
管理職を辞めたかったなら、転職時にその点を伝え、専門職として入社するのもよいでしょう。高度の専門性を活かし、部下の管理をせずに仕事に集中させてくれる会社もあります。
「ヘッドハンティングで転職するときの注意点」の解説
フリーランスになる
管理職を辞めたいなら、フリーランスになるのも手です。つまり、独立、起業するということです。フリーランス、つまり、個人事業主なら、上司も部下もなく、独立して働けます。上下関係や、職場の人間関係の苦手な方にお勧めです。
管理職になれる能力なら、独立してもうまくやれるでしょう。ただし、フリーランスだと、営業や交渉も、自分1人でしなければなりません。自由の代償として、収入は減少するおそれがあります。
「前職の顧客と取引することの違法性」の解説
管理職が退職を言い出すタイミングは2週間前
管理職の退職にも、タイミングについては一定の制限があります。一般の社員よりも、重要な業務をしている分、仕事への支障は大きいもので、タイミングが悪いと、会社に迷惑がかかります。
とはいえ管理職も、通常の社員と同じ制限しかなく、特に厳しいわけではありません。法律上、退職の申出から、2週間を経過すると労働契約が終了します(民法627条1項)。ですから、退職日の2週間前が、退職を言い出すタイミングとして適切です。
もちろん、より早く決断でき、会社と相談しながら決められるならそのほうがよいでしょう。「退職日の1ヶ月前に退職届を出す」など、就業規則に定める会社もありますが、基本的には、長すぎる事前申告は、公序良俗に反し無効です(民法90条)。管理職だと、会社がどうしても退職を認めないケースも多いですが、民法の原則に従って2週間前に退職の意思表示をすれば問題ありません。
「退職届の書き方と出し方」の解説
引き止められても管理職が退職できる方法
管理職が、通常の社員に比べ、重要なポストであるのは当然。会社として、管理職が退職しようとすれば、なんとしても引き留めようとするでしょう。
しかし、自分の健康や幸福を犠牲にしてまで、会社に尽くす必要はありません。退職しづらい状況をはね返し、管理職が退職するための方法を解説します。
退職届を出す
管理職を辞める決断がついたら、退職届を会社に出します。前章の通り、意思表示から2週間で、労働契約は終了します。なので、辞めたいと感じたら、できるだけ早く退職届を出し、証拠に残すのがお勧めです。いくら引き止められても、2週間の経過により、働く義務はなくなります。管理職といえど、強制的に働かせることはできません。
「退職届を内容証明で出すべきケース」の解説
違法な引き止めは拒否する
退職届を出しても、管理職ほど、違法な引き止めを受けやすいです。しかし、どれほど強く引き止められても、しっかりと拒否すべきです。
管理職は特に「管理職なのに退職は無責任だ」と反論されることがあります。確かに、管理職は他の社員より重い責任を負い、良い処遇を受けてきたでしょう。しかし、キャリアの選択は、管理職であっても個人に委ねれれています。
管理職が、円満退職する次のポイントを抑えておいてください。
- 繁忙期を避けて退職する
- 次の管理職となる部下を育成する
- 管理職がいなくても回る組織を作る
- 部下のモチベーションが下がらないようにする
間違っても、部下の引き抜きや、退職を促すのは、問題を深刻化するのでやめましょう。「後任がいなくてやめられない」といったケースに備え、部下を育てる工夫も必要です。
「在職強要の違法性」の解説
退職時の引き継ぎはしっかりする
円満退職のためには、丁寧な引き継ぎは不可欠です。管理職だと、会社にとって根幹となる業務を担ってきた方も多いでしょう。
後任の管理職の負担を、少しでも少なくしましょう。業務引継書を作成したり、マニュアル化したりといったやり方に、早めに取り組んでください。辞めたいと感じたら、すぐに準備を始めれば、時間的にも余裕があります。
「退職の引き継ぎが間に合わない時の対応」の解説
弁護士に退職代行を依頼する
辞めたい管理職の方は、弁護士に依頼する方法もあります。強い引き止めを受け、会社とのやりとりがストレスなケースで活用できます。
退職の手続きを依頼するのを「退職代行」と呼ぶことがあります。退職代行を依頼すれば、弁護士経由で退職の意思を伝え、強いプレッシャーになります。更に、残業代などの金銭交渉も、弁護士なら代わりにやってくれます。
「退職したらやることの順番」の解説
管理職が退職するときに請求すべきお金
ここでは、管理職が辞めるときにもらえるはずの金銭について解説します。管理職を辞めるため、会社を退職するときにも、金銭請求は忘れないでください。自分がどれだけのお金を請求できるかわからないなら、退職前に、弁護士に相談しましょう。
残業代
管理職でももらえる可能性ある金銭として、忘れてはならないのが残業代です。
「管理職には残業代はない」と会社から反論されることがあります。しかし、いわゆる名ばかり管理職なら、残業代を請求できます。また、管理監督者(労働基準法41条2号)であるにせよ、深夜手当(午後10時以降、午前5時までの労働に対する対価)は支払われるべきです。
「残業代の計算方法」の解説
退職金
管理職でも、就業規則や退職金規程によって、退職金が受け取れる場合があります。
ただし、退職金は、法律上の支払義務があるわけではありません。なので、退職金規程の有無が、請求できるかどうかの分かれ道です。退職前に、支給要件を満たすか、また、どれだけ支給されるか、規程を確認する必要があります。
「退職金を請求する方法」の解説
失業保険
失業保険も、管理職でももらえる可能性のある金銭です。雇用保険の被保険者が、「失業状態」にあるなら、手当として金銭が支給されます。役員は、雇用保険の被保険者としての資格を喪失していることもあります。しかし、管理職は、労働者であり、失業保険を受け取れます。
「失業保険の手続きの流れと条件」の解説
管理職が退職するときの注意点
最後に、管理職が退職したいとき、注意すべきポイントを解説します。いずれの点も、管理職は、他の社員にもまして不利益を被りがちなので、注意してください。
うつ病、体調不良ならすぐ退職する
管理職の業務により、うつ病など深刻な体調不良になってしまうことも。日常生活に支障が出るなら、すぐに退職すべきです。病を抱えながら、無理して会社の犠牲になる必要はありません。医師の診断書を取得すれば、退職理由を会社に説得的に説明することができます。
「休職中の退職の伝え方」の解説
管理職でも有給休暇は必ず消化する
管理職でも、有給休暇を取得する権利があります。管理監督者(労働基準法41条2号)となり、残業代が適用除外でも、有給休暇はあります。したがって、退職時に未取得の有給休暇が残っているなら、必ず消化してから退職しましょう。
「退職前の有給消化」の解説
退職時に損害賠償請求されたら?
無事退職できても、会社から損害賠償を請求されるケースもあります。引き継ぎ不足や、在職中のミスの責任をとらされる場合が典型。管理職の責任は重大であり、賠償請求されやすい傾向にあります。部下から信頼を勝ち取れば、社員の引き抜きも容易でしょう。業務の責任者となっていれば、取引先を奪ってしまうケースもあります。
とはいえ実際は、会社の損害賠償請求は、認められないケースも多いものです。労働者の非と、損害の因果関係が立証されなければならないからです。万が一、裁判に発展したら、弁護士とともに入念な準備し、対処するのが肝心です。
「会社から損害賠償請求された時の対応」の解説
まとめ
今回は、管理職を辞めたいときの対処法について解説しました。管理職でも退職は自由ですが、注意すべき点は多くあります。
確かに、管理職は責任重大で辞めづらいかもしれません。しかし、嫌になったら辞めて良いのは、管理職でも変わりません。管理職でも、退職は自由であり、無理せず辞めるのも大切です。
「管理職だから」という理由で不利益を被るのはお勧めできません。また、管理職ほど、退職時の労働トラブルは起きやすいです。退職前に、損していないかどうか、ぜひ弁護士にご相談ください。
- 管理職にも退職の自由があり、辞めたいなら自由に辞められるのが原則
- 管理職もまた、通常の社員と同じく、辞めたいと伝えて2週間で退職できる
- 管理職の重責からして、円満に辞めるには、業務引き継ぎなどの配慮は慎重にする
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