MENU
浅野 英之
弁護士
弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号44844)。東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

企業側の労働問題を扱う石嵜・山中総合法律事務所、労働者側の法律問題を扱う事務所の労働部門リーダーを経て、弁護士法人浅野総合法律事務所を設立。

不当解雇、未払残業代、セクハラ、パワハラ、労災など、注目を集める労働問題について、「泣き寝入りを許さない」姿勢で、親身に法律相談をお聞きします。

→労働問題弁護士ガイドとは
★ 労働問題を弁護士に相談する流れは?

36協定の上限とは?36協定の限度時間(月45時間・年360時間)と超える場合の対応

36協定は、会社が残業を命じるために必要であり、時間外や休日の労働を規制する役割があります。労働者保護のため、36協定に定められる残業時間には上限があります。この36協定の上限を「限度時間」と呼び、原則として「月45時間・年360時間」が基準とされています。

残業は原則として禁止され、例外的に36協定を守ってはじめて許されるに過ぎないので、36協定の上限を超える残業は違法です。しかし、職場の状況によっては限度時間を超えざるを得ないケースもあります。このとき、特別条項付きの36協定を締結すれば、限度時間を超えた労働が可能な場合があるものの、その場合も一定の条件があり、守らなければ違法です。

今回は、36協定の上限の基本と、これを超える場合の条件、違法な長時間労働が常態化しているケースにおける労働者側の対処法などについて解説します。

この解説のポイント
  • 36協定は、残業させるのに必須であり、「月45時間・年360時間」の上限がある
  • 36協定の上限(限度時間)を守らない違法な残業には刑罰が下される
  • 特別条項付きの36協定なら上限を超えることができるが、厳しい制約がある

\ 「今すぐ」相談予約はコチラ/

目次(クリックで移動)
解説の執筆者

弁護士 浅野英之

弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号44844)。東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

企業側の労働問題を扱う石嵜・山中総合法律事務所、労働者側の法律問題を扱う事務所の労働部門リーダーを経て、弁護士法人浅野総合法律事務所を設立。

不当解雇、未払残業代、セクハラ、パワハラ、労災など、注目を集める労働問題について、「泣き寝入りを許さない」姿勢で、親身に法律相談をお聞きします。

\相談ご予約受付中です/

労働問題に関する相談は、弁護士が詳しくお聞きします。

ご相談の予約は、お気軽にお問い合わせください。

36協定とは

36協定とは、労働基準法36条に基づいて、企業と労働者の代表(過半数の労働者の加入する労働組合または労働者の過半数代表者)の間で締結される労使協定です。36協定は、残業や休日出勤をさせるときは必ず結ばなければならず、36協定なく残業を命じることは違法です。

労働基準法32条は、労働時間を1日8時間、1週40時間までと定めます(法定労働時間)。この範囲を超えて労働させてはならないのが原則であり、例外的に、企業は36協定を締結し、労働基準監督署に届け出ることで法定労働時間を超えて働かせることができます。したがって、36協定のないまま残業や休日労働が行われることは、労働基準法32条ないし36条の違反となり、「6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金」という刑罰があります(労働基準法119条)。

36協定は、過剰な残業を抑制し、労働者に過度な負担をかけないためのルールです。その協定の内容には、1日、1ヶ月、1年といった単位ごとに上限を明記して、無制限に残業を命じられないよう取り決めをします。これが、今回解説する「36協定の上限(限度時間)」です。

36協定なしの残業は違法」の解説

36協定の上限(限度時間)の定義

36協定には、労働者の健康と労働環境の安全を守るために、上限についての厳しい定めがあります。36協定の上限(限度時間)について、労働基準法の定める基準は「月45時間・年360時間」というものです。

以前は「時間外労働の限度に関する基準」という厚生労働省の告示による規制であり、法的な拘束力や罰則がないものでしたが、その後の法改正で労働基準法に明記されたため、現在は罰則のある強い法的効果を有します(大企業は2019年4月1日施行、中小企業は2020年4月1日施行)。

36協定の上限は月45時間・年360時間

36協定の上限は「月45時間・年360時間」が原則となります。したがって、原則として時間外労働は、月45時間、年360時間を超えてさせることはできません。36協定の記載でチェックされるため、これを超えた違法な内容だと、労働基準監督署の届出は受理されません。

  • 月45時間
    1ヶ月に許される残業時間の上限は45時間です。月の労働日数を20日前後とすると、1日の労働時間は1〜2時間程度の残業であり、過度な負担ではない基準です。
  • 年360時間
    1年あたりの残業時間の上限は360時間です。月ごとに残業時間に偏りがあったとして、年間を通じて労働者の負担が過剰にならないようにする基準です。

※ 法定休日労働は含まず、時間外労働のみで算出します。

この基準によって、企業は労働者に対して、上限超過をするような過度な残業を命じることができないようになっています。

大前提として、36協定の上限を超えているかどうかを確認するためにも、労働時間の適正な把握が必要となります。また、次章の通り、臨時的な場合に限って、特別条項を付けた36協定を結んだときには、これを超えて働かせることができます。

長時間労働の問題点と対策」の解説

36協定の上限を超えた残業の制限

会社は、労働者の健康と安全を守る義務(安全配慮義務)を負っており、労働者に無理なく働くことのできる環境を提供しなければなりません。そのため、「月45時間・年360時間」という基準を超えて働かせることは、原則として許されません。

ただ、繁忙期や緊急の対応が必要な場合に、一時的に上限を超えて残業せざるを得ないこともあります。このとき、特別の事情によって労働時間の延長を認めるのが「36協定の特別条項」です。特別条項付き36協定を結べば、一時的に、月45時間を超えて残業をさせることができますが、その場合にも、以下のように厳しい制約があります。

  • 原則として、残業の限度は月45時間、年360時間
  • 特別条項付36協定の上限は、
    • 年720時間
    • 2〜6ヶ月の残業の平均が80時間以内(休日労働を含む)
    • 1ヶ月の残業の平均が100時間未満(休日労働を含む)

※特別条項の適用は、年6ヶ月を上限とする

(なお「月45時間・年360時間」「年720時間」は時間外労働時間のみであるのに対し、「80時間」「100時間」については休日労働時間も含めてのものである点に注意してください。)

特別条項は、悪質な企業において無制限に濫用されがちです。しかし、上記の制約を遵守しなければ、労働者に過度なストレスを与え、健康に悪影響を及ぼすおそれもあるので不適切です。

36協定に違反した場合の罰則」の解説

36協定の上限を超える場合の対応策

36協定の上限(限度時間)である「月45時間・年360時間」を超えて労働させるときに、労働者、使用者がそれぞれどのようなことに気をつけて対応すべきなのかを解説します。

特別条項付き36協定を締結する

36協定の上限を超える労働が必要なときは、企業は、特別条項付き36協定を締結しなければなりません。特別条項は、例外的な状況に対応するために設けられる36協定の特則であり、通常の36協定よりも労働時間の制限を緩やかにすることができます。

ただし、特別条項付きの36協定に基づいて、上限を超えた労働をさせるのも無制約に許されるわけではなく、臨時的な特別の事情のあるときに限り、年720時間・1ヶ月平均100時間までといった厳しい制限があるのは前章「上限(限度時間)を超えた残業の制限」の通りです。特別条項があってもこの制限を超えた場合には違法です。

また、特別条項付きの36協定を締結する場合も、通常の36協定と同じく、労働者の代表者との間で協議し、締結した協定は労働基準監督署に届出をする必要があります。

長時間労働の相談窓口」の解説

36協定の上限を超過する際の注意点

36協定の上限を超える場合に、特別条項付き36協定を締結し、そのルールを守っていたとしても、労働者の健康を害することは許されません。残業を命じる際には労働者の健康に配慮し、長時間労働が常態化しないよう労働時間管理を行うのが企業の責務です。

特別条項によって36協定の上限を超えた残業が認められる場合にも、次の点に注意してください。

月80時間以上の残業は過労死ライン

月80時間以上の残業は「過労死ライン」と呼ばれ、これ以上の残業があると過労死の危険が高まります。月80時間の残業の後に労働者が死亡すると、業務災害として労災認定される可能性が高く、36協定の上限を超えて働くにせよ月80時間は超えないべきです。

特別条項付きの36協定があれば、単月の残業が80時間を超えたからといって直ちに違法となるわけではないものの、危険であることに変わりはありません。「たかが一か月忙しいだけで」と甘くみてはいけません。

過労死ライン(月80時間残業)」の解説

長時間労働が常態化するのは違法

特別条項があっても、長時間労働が常態化している状況は違法となります。

特別条項はあくまで、臨時的、一時的に36協定の上限を超えて働かせることを許すだけで、法令上も、年の半分(6ヶ月)しか適用されないこととされます。長期間にわたって過剰な労働が連続することは、労働者の健康を害するリスクが非常に高く、危険です。

過労死の対策」の解説

労働者の健康を害する可能性がある

長時間労働が続くと、疲労が蓄積し、労働者の健康を悪化させる危険があります。過労で倒れたり、うつ病や適応障害といった精神疾患にかかったりする例も少なくありません。

適切な休憩や休息を与え、労働時間管理に努めるのは企業の責務ですが、労働者もまた、過労に注意し、必要に応じて労働基準監督署や弁護士に相談したり、場合によっては退職して逃げたりといった自己防衛も検討しなければなりません。

安全配慮義務」「自己保健義務」の解説

36協定の上限が適用されないケース

以下の場合には、36協定の対象外であったり、時間規制の適用除外となっていたりすることによって、36協定の上限(限度時間)は適用されません。

36協定の対象外となる労働者

次の労働者は、労働時間の規制が適用されなかったり、そもそも時間外労働が認められなかったりするため、36協定の対象外となっています。36協定の対象外となる労働者には、当然ながら、36協定の上限が適用されることもありません。

なお、いずれの場合も、36協定の上限が適用されないとしても、そもそも時間外労働できない場合はもちろんのこと、そうでなくても労働者の健康に配慮する必要があり、無制限に残業をさせられるわけではありません。

満18歳未満の労働者

満18歳未満の労働者は、時間外労働と休日労働は原則禁止され(労働基準法60条)、深夜業も制限されます(労働基準法61条)。そのため、36協定の対象外となっています。

妊産婦である労働者

妊娠中の女性及び産後一年を経過しない女性(妊産婦)が請求した場合、時間外、休日、深夜の労働はさせられず、36協定が適用されません(労働基準法66条)。

マタハラの慰謝料の相場」の解説

育児・介護をしている労働者

育児介護休業法により、次の労働者から申出があった場合は、事業の正常な運営を妨げる場合でない限り、制限時間(月24時間・年150時間)を超えて労働時間を延長することはできません。そのため、36協定の上限を超えることも当然できません。

ただし、引き続き雇用された期間が1年に満たない場合や、1週間に2日以下しか働いていない場合には、この制限の申出をすることはできません。

育休が取れないのは違法」の解説

管理監督者

労働基準法41条2号に定める管理監督者に該当する場合、労働時間についての規制が適用されず、したがって、管理監督者は36協定の対象外となります。

なお、管理監督者となると、深夜手当以外の残業代が支払われないという重大な不利益があります。会社が管理職として扱っているからといって直ちに管理監督者となるわけではなく、経営者と一体的な立場にあり、重要な職務と権限が与えられ、労働時間の裁量があり、地位にふさわしい待遇が保障されるといった条件を満たさなければ、「名ばかり管理職」です。

管理職と管理監督者の違い」「名ばかり管理職」の解説

上限規制の適用が猶予された業種

労働基準法改正に伴って、36協定の上限規制は大企業では2019年4月1日、中小企業では2020年4月1日から施行されます。しかし、次の業種については、適用への対応に時間がかかるため、2024年3月31日まで適用が猶予されています。

  • 建設事業
  • 自動車運転の業務
  • 医師
  • 鹿児島県及び沖縄県における砂糖製造業
    (この業種は、季節的な業務量の変動が大きく、人材確保が困難なため、「月100時間未満」「2~6ヵ月平均80時間以内」が2023年3月31日までは適用されません)

36協定が適用除外となる業務

新技術・新商品等の研究開発業務では、36協定の上限規制にそぐわないとされ、36協定は適用除外となっています。

ただし、1週間に40時間を超えて働いた時間が月100時間を超えた労働者には、医師の面接指導を行わせる義務があり、面接指導をした医師の意見を勘案して、就業場所や職務内容の変更、有給休暇の付与といった措置を講じなければなりません。

残業が月100時間を超えることの違法性」の解説

36協定の上限を超えて残業する際の注意点

最後に、36協定の上限(限度時間)を超えて残業するとき、労働者が注意すべきポイントについて解説します。くれぐれも心身の健康を害し、体調を悪化させないよう、我慢は禁物です。

残業は必要最小限に留める

本解説の通り、36協定に定めた残業時間には上限があるものの、特別条項を付ければ、一定の条件のもとで上限を超えた労働も全く許されないわけではありません。

しかし、その場合も、残業は必要最小限に留めるべきです。会社に、残業を命じる権利がある場合だとしても、理由のない残業で労働者に負担を与えてよいわけではありません。業務上の必要性がなかったり、理由が示されていなかったり、嫌がらせやパワハラを意味するものであったりする場合は、違法な残業命令であると考え、断るべきケースも少なくありません。

残業命令の断り方」の解説

労働時間を記録する

残業する際には必ず、自分の労働時間を正確に記録しておくようにしてください。労働時間を把握するのは会社の責務であり、多くの企業ではタイムカードや勤怠システムなどが導入されているでしょう。しかし、これらの会社の用意するものだけでは記録が正確でなかったり、偽造、改ざんや隠蔽をされると証拠が入手できなくなってしまったりするリスクがあります。

実際の勤務時間について、残業時間のメモ残業代アプリなどで細かく記録しておけば、残業代請求の際に証拠として活用することができます。

残業の証拠」の解説

健康・福祉を確保する措置を利用する

36協定の上限を超えて労働させるとき、会社は、労働者の健康・福祉を確保しなければなりません。そのために、次の措置を講じることが義務付けられています。

  • 医師による⾯接指導
  • 深夜業(22時〜5時)の回数制限
  • 終業から始業までの休息時間の確保(勤務間インターバル)
  • 代償休⽇・特別な休暇の付与
  • 健康診断
  • 連続休暇の取得
  • 心とからだの相談窓⼝の設置
  • 配置転換
  • 産業医等による助言・指導や保健指導

労働者の立場では、自分の身を守るためにも、これらの措置を最大限活用しましょう。労働時間が延長されるのに、全く配慮のない会社は、違法の可能性があります。

これらの措置が取られず辛い思いをしたなら、安全配慮義務違反の責任を追及すべき場合もあります。業務によってうつ病になってしあったり体調が悪化してしまったりすれば「労災(業務災害)」であり、会社に慰謝料をはじめとした損害賠償を請求することができます。

労災の慰謝料の相場」の解説

まとめ

弁護士法人浅野総合法律事務所
弁護士法人浅野総合法律事務所

今回は、36協定の上限(限度時間)の規制について解説しました。

36協定は、残業を命じる際に不可欠なものです。労働者の健康を守り、企業が適切な労働環境を提供するための重要なルールであり、その上限には「月45時間・年360時間」という定めがあります。この基準は、労働者の過度な負担を避けるための基準なので、守らなければ違法です。

労働者を保護するため、この上限を超える労働は厳しく制限されます。特別条項を活用して上限を超えて働かせる場合でも、法律の定める条件を厳守しなければなりません。

36協定の上限を守らず、違法な長時間労働が行われる場合には、労働基準監督署への通報や弁護士のアドバイスを受けながら、会社に対抗する必要があります。不適切な状況に対し、労働者としては、残業代請求をするのが有効です。困ったときは、ぜひ弁護士に相談してください。

この解説のポイント
  • 36協定は、残業させるのに必須であり、「月45時間・年360時間」の上限がある
  • 36協定の上限(限度時間)を守らない違法な残業には刑罰が下される
  • 特別条項付きの36協定なら上限を超えることができるが、厳しい制約がある

\ 「今すぐ」相談予約はコチラ/

目次(クリックで移動)