解雇とは、会社が一方的に労働契約を終了させる行為であり、労働者にとっては突然収入が途絶える重大な出来事です。解雇の理由は、能力不足や勤務態度といった労働者側の事情から、経営不振に至るまで様々ですが、いずれにせよ労働者の将来に与える悪影響は大きく、「納得がいかない」と感じるケースも多いでしょう。
一方で、全ての解雇が正当とは限らず、不当解雇として無効とされる場合もあります。その不利益の大きさから、労働法には、解雇に対する厳しい規制が設けられており、労働者の権利が守られています。不当解雇をされてしまったら、法律知識を活用して会社に立ち向かわなければなりません。
今回は、解雇の意味や法的ルール、そして、不当解雇に対抗するためのポイントについて、労働問題に強い弁護士が解説します。
解雇とは
はじめに、解雇の意味や定義について解説します。
解雇には様々な種類があり、それぞれ、解雇理由や条件、手続きが異なることがあります。解雇に直面した労働者としては、「解雇とはどのような考え方なのか」「どの種類の解雇なのか」を知ることが、解雇の適法性をチェックする役に立ちます。
解雇の意味
解雇とは、会社が一方的に雇用契約を終了させる行為のことを指します。
解雇は、労働者の意思とは無関係に、会社だけの判断で労働契約を終了させることができるため、労働者にとって非常に大きな不利益があります。労働者が会社を辞める結果となる行為には、自主退職(辞職)、合意退職、解雇の3種類がありますが、そのなかでも解雇は、労働者の同意や承諾といった意思が一切介在しない点に特徴があります。
- 辞職(自主退職)
労働者の一方的な意思による労働契約の解約 - 解雇
会社の一方的な意思による労働契約の解約 - 合意退職
労働者と会社が合意してする労働契約の解約
労働者の意思に反して辞めさせることとなるため、解雇には法的な制限があり、会社が自由に行うことはできません。「解雇に関する法律上の規制とルール」の通り、日本の労働法では、正当な理由がなければ解雇を無効とするルールが設けられています。
解雇を通知する方法に決まりはなく、法律でも明確なルールがありません。口頭で伝えられる場合もあれば、書面やメールで通告されることもあります。労働者としては「解雇されたこと」を証拠に残す努力が重要であり、後になって会社が「解雇はしていない」と反論するケースもあるため、確実に証拠を残しておくことがトラブル回避に繋がります。
また、必ずしも「解雇」「クビ」といった言葉が使われなくても、次の発言が法的に「解雇」とみなされることがあります。
- 「お前はもういらない」
- 「明日から来なくていい」
- 「お前の面倒はもうみない」
- 「もう働く場所がない」
- 「与える仕事がない」
これらの発言が、一方的に契約を終了させる意図で行われたかどうかを慎重に考える必要があります。会社側の言動が解雇に該当するかどうかを判断し、適切に対応することが重要です。
「不当解雇の証拠」の解説
解雇の種類
解雇には、普通解雇、整理解雇、懲戒解雇の3種類があります。解雇の種類によって、理由や目的、手続きが異なり、法的な保護の度合いも違います。
使用者が区別すべきは当然ですが、解雇される労働者側も、適切に対応するには「どの解雇に該当するか」を理解しなければなりません。解雇の理由が異なると、受ける不利益の大きさが変わり、それに伴って法的な規制も厳しくなります。最も不利益が大きい懲戒解雇は特に、その適法性を判断する基準も厳しく考えられています。
普通解雇
普通解雇は、労使の信頼関係が壊れたことを理由に、会社が雇用契約を終了させる解雇です。最も一般的に行われる解雇で、会社が単に「解雇」や「クビ」と伝える場合、通常はこの普通解雇を指すと考えてよいでしょう。
普通解雇の理由は、能力不足、勤務態度の問題、協調性の欠如などが挙げられます。労働契約は長期的な信頼関係を前提としており、この信頼が保てない場合、業務の継続が困難であると判断され、普通解雇が行われます。ただし、普通解雇が有効となるには、解雇に至る前に、教育や注意指導などの改善措置が十分に取られていることが必要です。
「不当解雇に強い弁護士への相談方法」の解説
懲戒解雇
懲戒解雇とは、従業員が重大な規律違反を犯した場合に、その制裁として行われる解雇です。企業内の秩序を著しく乱したことが理由で、解雇のなかでも最も重く、厳しい処分です。多くの場合、即座に雇用契約が終了する形を取ります。
懲戒解雇の理由は、例えば、横領、職場での暴力、重度のセクハラなど、企業のルールに対する重大な違反が挙げられます。懲戒解雇は、転職で不利になる、退職金を受け取れないといった大きなデメリットを伴うため、非常に悪質なケースにのみ適用されます。また、懲戒解雇の法的規制は厳しく、普通解雇に比べても強度の理由を要します。
なお、懲戒解雇の一歩手前として、自主的な退職を促し、応じない場合に懲戒解雇とする「諭旨解雇」という手続きもあります。
「懲戒解雇を争うときのポイント」の解説
整理解雇
整理解雇は、企業の経営状況の悪化や業績不振によって、人員削減を目的として行われる解雇です。労働者に直接の原因がなく、企業の経営判断として行われるもので、事業内容の転換や拠点や部署の閉鎖といった事情も、整理解雇の理由となります。
純粋に会社側の都合で不利益を負わされるため、整理解雇には厳しい条件が求められ、適法と認められるには整理解雇の4要件(①人員削減の必要性、②解雇回避の努力義務、③合理的な人選基準、④手続きの妥当性)を満たす必要があります。
「整理解雇が違法になる基準」の解説
解雇と退職勧奨の違い
会社が一方的に雇用契約を終了させる「解雇」に対し、「退職勧奨」は、会社が労働者に、自主的な退職を促す行為です。その違いは、労働者が退職を承諾しない場合に、解雇なら一方的に辞めるしかないところ、退職勧奨なら同意しない限り退職とならない点にあります。
このように、解雇には強い効力があるため、法的な規制があり、正当な理由がなければ無効となります。また、退職勧奨はあくまでも労働者の意思を尊重するものであり、会社が強制的に退職させることはできません。解雇の場合には、労働者は法的に保護され、不当解雇をされたら争うことができます。これに対して、退職勧奨は、拒否することができる反面、一度同意してしまうと合意退職となり、その後に争うことは難しくなってしまいます。
「退職勧奨と解雇の違い」の解説
解雇の理由と対象となるケース
次に、どのようなケースで解雇になるのか、解雇の理由について解説します。
解雇理由は、就業規則の絶対的必要記載事項なので、まずは会社の規程を確認すれば、どのような事情が解雇につながるのかを知ることができます。
なお、就業規則の定める事由に該当するとしても、必ずしも解雇が有効とは限りません。正当な理由がなければ、不当解雇として許されない場合もあり、あくまで、就業規則に定めた理由にあてはまることは「最低条件」だとお考えください。
能力不足を理由とする解雇
業務に必要な能力が著しく不足している場合、解雇をされる理由となります。
能力不足による解雇は、業務に要する能力を有しなかったり、期待されたパフォーマンスを達成できなかったりした場合に行われます。この解雇が正当化されるには、適切な教育や訓練があり、注意指導をしても改善の見込みがない場合である必要があります。
「能力不足を理由とする解雇」の解説
無断欠勤を理由とする解雇
無断欠勤が続き、会社からの連絡にも応じない場合、解雇されることがあります。
労働者は、労働契約を締結することによって労務を提供する義務を負っており、無断で休むことは、この義務に違反し、会社の信頼を損なう行為だからです。
「無断欠勤を理由とする解雇」の解説
勤務態度(度重なる遅刻や早退など)を理由とする解雇
頻繁な遅刻や早退が続くなど、勤務態度が悪い場合、解雇の理由となります。
度重なる遅刻や早退が、注意しても正されない場合、業務に支障をきたすおそれがあるからです。職場で居眠りをしたりサボったりと、業務に専念していない場合も同じく、解雇となるおそれがあります。
「勤務態度を理由とする解雇」の解説
協調性の欠如を理由とする解雇
会社では、組織やチームで仕事をしているため、協調性の欠如が業務に支障があるときは、解雇理由となることがあります。上司の指示に従わなかったり、同僚と頻繁にトラブルを起こしていたりといったことは、職場環境に悪影響を与えます。
「協調性の欠如を理由とする解雇」の解説
セクハラ・パワハラによる解雇
職場におけるセクハラやパワハラの加害者となった場合、企業の規律を乱す重大な行為として懲戒解雇の対象となることがあります。ハラスメント行為が重大である場合や、被害者の処罰感情が強い場合は、厳しい処分が予想されます。
「セクハラの加害者側の対応」「パワハラだと訴えられたときの対処法」の解説
業務命令違反を理由とする解雇
業務命令違反は、会社の正当な指示や命令に従わないという問題です。
指示された業務を拒否したり、適法な業務命令なのに従わなかったりすると、業務命令違反を理由に解雇されてしまいます。異動や転勤といったように、会社組織にとって重要性の高い命令ほど、その違反は解雇に直結します。
業務上横領を理由とする解雇
業務上横領は、会社の資産や金銭を不正に自分のものにするという犯罪行為であり、厳しい制裁を受けて当然です。したがって、業務上横領をしてしまったときは、これを理由として懲戒解雇となるのが通例です。
この場合、懲戒解雇となって、退職金が支給されないだけでなく、刑事責任を追及されてしまうこともあります。横領は、企業の社会的信用を損なう行為であるため、使用者としても法的な措置を厳しく講じるのが一般的です。
「横領を理由とする懲戒解雇」の解説
経営不振や組織再編による整理解雇
企業の合併や部門の閉鎖、業務の縮小などといった経営上の理由で人員削減が必要となるとき、整理解雇が行われることがあります。いわゆる「リストラ」のことです。
「リストラを拒否する方法」の解説
病気やけがによる長期休業による解雇
長期間の病気やケガで就労できない場合は、労務を提供する義務を果たすことはできません。この場合、休職制度が整備され、その要件を満たすならば、会社は配慮をして回復を待つ必要があり、すぐ解雇することは許されません。
しかし、休職制度を活用して休養しても回復せず、復職が難しい場合、最終的には解雇(もしくは、就業規則上の規定に基づいて「自然退職」)となることがあります。
「うつ病を理由とする解雇」の解説
私生活上の非行(逮捕など)による解雇
私生活上のことは業務とは関係なく、解雇理由とはならないのが原則です。しかし例外的に、会社や業務への支障が大きい場合は、解雇の理由となります。
例えば、犯罪行為を犯して逮捕された場合、長期間にわたって出社できなくなったり、報道されて企業のイメージを損なったりした場合、解雇が正当化されます。
「逮捕されたことを理由とする解雇」の解説
労働者側から見た解雇のメリット・デメリット
次に、解雇のメリット・デメリットを、労働者側の視点で解説していきます。
解雇には、労働者の意に反して契約を終了させる効果があるので、不利益がとても大きいことは想像に難くないでしょう。一方で、少ないながら良い点もあります。
解雇のメリットについて
労働者にとって解雇は不利益が大きく、メリットは少ないです。ただ、ポジティブに考えれば、次のメリットがあります。
会社都合の失業保険や退職金を受給できる
解雇は、会社都合退職として、失業保険で優遇されるのが基本なので、自己都合退職よりも早く保険給付を受け取ることができます。いずれにしても退職を予定しているなら、解雇される方が失業保険の面では有利です。また、退職金についても、会社の規程によっては自己都合よりも有利な条件で支給されることが多いです。
解雇でも失業保険はもらえるので、必ず離職票を受領し、ハローワークで手続きを進めるようにしてください。
「自己都合と会社都合の違い」の解説
再出発の機会を得られる
解雇をきっかけに新しいキャリアにチャレンジしたり、職場環境を変えたりできるメリットがあります。解雇の対象となる人は、少なくとも会社から評価されず、現状に不満があることも多いでしょう。新しい環境で働く方が、自身の適性を再確認し、能力を発揮することができ、新たなキャリアにつながる可能性があります。
「懲戒解雇が転職で不利にならない対策」の解説
解雇のデメリットについて
数少ないメリットに対して、解雇は、労働者にとって非常に多くのデメリットがあります。
経済的な不安が生じる
解雇されると定期的な収入は途絶えるため、経済的な不安が生じます。
生活費の確保が難しくなったり、ローン返済ができなくなってしまったりといった大きな影響があり、失業期間が長引くと、貯蓄を切り崩さなければなりません。年功序列の企業で長年働いてきた人ほど、現在の収入は高く、解雇の不利益は甚大です。雇用保険を受け取れるとはいえ、給与よりも少ないため、家計が圧迫されます。
このような状態で転職先が見つからないと、焦りや不安が増大してしまいます。
将来のキャリアに悪影響である
解雇の理由が労働者側の非にあるとき、転職活動で低く評価されるなど、将来のキャリアに悪影響が生じます。特に、懲戒解雇された場合の影響は深刻であり、「懲戒解雇されるほどの問題社員を雇いたくない」と思われてしまう危険があります。
次の雇用先が見つかったとしても、希望する職種や待遇ではなかったり、給料が低くなってしまったりすることも多いものです。また、解雇時に高齢であったり、解雇理由が悪質であったりする場合、もはや再就職は難しいこともあります。
「懲戒解雇のその後の人生」の解説
精神的ストレスがある
解雇は労働者にとって精神的な打撃となります。長年の貢献や努力をないがしろにされ、全人格を否定されたように感じるでしょう。自尊心が傷つけられると共に、将来の不安に押しつぶされ、強いストレスからうつ病や適応障害を発症してしまう人もいます。
「労働問題の種類と解決策」の解説
解雇に関する法律上の規制とルール
労働者にとって不利益の多い解雇には、厳しい法規制があります。
以下のルールは、長期雇用の慣行に鑑みて、不当解雇が争われた裁判例で作られたもので、現在では法律で明文化されています。これらのルールに違反する場合は、不当解雇となります。
突然の解雇に直面したときも、解雇には様々なハードルがあって、容易には認められないものであることを理解して対処してください。
不当解雇の判断基準(解雇権濫用法理)
解雇権濫用法理は、会社が労働者を解雇する際に、その権限の行使が不当ではないかを判断する基準であり、労働契約法16条に定めがあります。解雇に適用される法規制のなかで最重要のルールであり、客観的に合理的な理由がない場合や、社会通念上相当であると認められない場合に、その解雇は「不当解雇」として無効とされます。
労働基準法16条(解雇)
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
労働契約法(e-Gov法令検索)
「客観的に合理的な理由」とは、解雇という重大な処分をするに足るほどに、労使の信頼関係が破壊されるものでなければなりません。例えば、能力不足や規律違反でも重度のものでなければならず。注意指導や改善の機会を与えたり、異動や配置転換で新たな環境で挑戦させてもなお、改善の兆候が見られないといった程度に至らなければ、解雇をする合理的な理由とはなりません。
「社会通念上の相当性」とは、解雇をするに足るほどの問題点があることを意味し、この際、解雇に至る手続きも考慮されます。特に、懲戒解雇の場合、弁明の機会を与えて対象者の意見を聞く、懲罰委員会を開くといった適切な手続きを踏まなければ、不当解雇となる可能性があります。
解雇することの会社のリスクは大きく、コンプライアンスの意識の高い企業なら問題ないですが、不当解雇が疑われるなら、速やかに弁護士に相談し、会社と争うべきです。
「正当な解雇理由」の解説
労働基準法上の解雇制限
労働基準法19条は、労働者にとって不利益の過大となる一定の期間について、解雇を制限しています。この条文によって解雇が制限されるのは、労働者が業務上の負傷や疾病の療養のために休業している期間と、その休業後30日間、産前産後休業中と、その後30日間です。
労働基準法19条(解雇制限)
1. 使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後三十日間並びに産前産後の女性が第六十五条の規定によつて休業する期間及びその後三十日間は、解雇してはならない。ただし、使用者が、第八十一条の規定によつて打切補償を支払う場合又は天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合においては、この限りでない。
2. 前項但書後段の場合においては、その事由について行政官庁の認定を受けなければならない。
労働基準法(e-Gov法令検索)
労災(業務災害)は、業務上の理由による病気やケガであって、その療養中に解雇されてしまっては労働者に酷であり、保護が必要となります。この場合、病気やケガが理由で解雇されてしまいそうなときは、労災の条件を満たすか、事前に確認しておく必要があります。
なお、打切補償が支払われた場合や、やむを得ない事由のために事業の継続が不可能になった場合には、例外的に解雇をすることができます。
「解雇制限」「労災の休業中の解雇の違法性」の解説
解雇予告と解雇予告手当
労働基準法20条によって、解雇をするときは、30日前に解雇の予告をしなければならず、予告期間が不足する場合には、不足する日数分の平均賃金に相当する解雇予告手当を支払う必要があります(例:予告なしの即日解雇なら30日分、10日前予告なら20日分の手当が必要)。
労働基準法20条(解雇の予告)
1. 使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも三十日前にその予告をしなければならない。三十日前に予告をしない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない。但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない。
2. 前項の予告の日数は、一日について平均賃金を支払つた場合においては、その日数を短縮することができる。
3. 前条第二項の規定は、第一項但書の場合にこれを準用する。
労働基準法(e-Gov法令検索)
解雇予告のルールは、突然の解雇による生活への脅威を和らげるためのものです。1ヶ月の猶予があれば(もしくは1ヶ月分の給料がもらえば)再就職の準備にも余裕が持てるでしょう。
なお、やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合や、労働者の責に帰すべき事由がある場合には、労働基準監督署の除外認定を受けることによって、例外的に、解雇予告手当を支払わなくても即日解雇することができます。
「解雇予告手当の請求方法」「解雇予告の除外認定」の解説
法律で解雇が禁止される事由(解雇できない場合)
労働者の保護のため、一定の事由による解雇は法律で厳格に規制されており、これに該当する場合には解雇はできません。解雇が禁止される法的根拠には、例えば次のものがあります。
禁止される解雇 | 具体例 |
---|---|
禁止された差別 | 国籍・信条・社会的身分を理由とする解雇(労働基準法3条) 組合員であること等を理由とする解雇(労働組合法7条) 性別を理由とする解雇(男女雇用機会均等法6条) 女性の婚姻・妊娠・出産・産前産後休業等を理由とする解雇(男女雇用機会均等法9条) 障害者であることを理由とする解雇(障害者雇用促進法35条) |
申告を理由とする解雇 | 労働基準監督署等への違反申告を理由とする解雇(労働基準法104条2項など) 公益通報を理由とする解雇(公益通報者保護法3条) |
正当な権利行使を理由とする解雇 | 育児介護休業法の権利行使を理由とする解雇(育児介護休業法10条) ハラスメントの相談を理由とする解雇(男女雇用機会均等法11条) |
「解雇が無効になる例と対応方法」の解説
不当解雇されたときの対処法と争う方法
不当解雇された場合、労働者が取るべき対処法と、進め方を解説します。
前章「解雇に関する法律上の規制とルール」の通り、解雇は厳しく制限されるため、理不尽な解雇は無効の可能性があります。不当解雇されたら、泣き寝入りしてはいけません。
解雇後すぐに解雇理由を確認する
まず、会社からの解雇通知に記載された解雇理由を確認します。
労働基準法22条では、解雇の予告をされたら、労働者が求める場合、会社はその理由を書面で明示する義務があります。解雇理由が不明瞭であったり、事実に反していたりといった問題を感じるなら、不当解雇である可能性があります。抽象的で曖昧な理由しか聞けないとき、疑問点をそのままにせず、徹底して質問しましょう。
「解雇理由証明書の請求方法」の解説
解雇に問題がないか検討する
解雇理由が判明したら、解雇に問題がないかどうか、その正当性を検討してください。会社は、できるだけ正当に見えるような説明をし、一方的に解雇してきますが、「よく確認すれば不当解雇だった」というケースも少なくありません。
経営者の感情など、不当な動機でクビにされる例もあります。また、悪意がなくても、使用者が事実認定を間違っていたり、評価を誤ったりする場合もあります。会社の判断が正しいものではないなら、そのまま受け入れる必要はありません。
解雇の正当性は、次の手順で確認してください。
- どの種類の解雇か
解雇の種類により判断基準は異なる。懲戒解雇の正当性は容易には認められづらく、整理解雇なら4要件に従って判断する。 - 就業規則の根拠条文
就業規則の条項の定め方により、解雇のルールに制限がある場合がある。条項の文言に、自身の状況があてはまるかを必ず確認する。 - どのような事実を理由とした解雇か
解雇の理由とされた事実が誤っていないか。十分な調査がされておらず、事実無根の解雇のケースも少なくない。 - 解雇が相当か
理由があったとして、重大な処分である解雇とするのが相当な程度か。
ただ、実際には、会社側に問題があって、不当解雇であることを隠そうとしたり、労働者に対して適切な説明をしなかったりといったケースもあります。労働者が一人で判断するのは危険なので、解雇に関する法的判断は弁護士にお任せください。
「解雇されたらやること」の解説
不当解雇であると判明したら争う
不当解雇を受けた場合、会社との交渉を試みるようにしてください。不当な解雇なら、決して屈してはなりません。まずは、解雇の撤回を目指して話し合いを行いましょう。このとき、復職した場合の賃金(バックペイ)や残業代、退職金などの金銭請求も忘れないでください。
弁護士に依頼し、裁判手続きに移行する覚悟を示し、不当解雇であることを証拠をもって説得的に示せば、交渉段階で会社に譲歩をさせ、有利な解決を勝ち取れる可能性があります。不当解雇をするような会社には復職したくないというのが本音のときは、解雇の解決金、解雇の慰謝料などといった金銭を受領することによる解決(解雇の金銭解決)を目指す方針を取ることもできます。
労働審判や訴訟に訴える
交渉で解決できないときは、労働審判や訴訟といった裁判手続きに訴えることで解決を目指します。労働審判は、訴訟に比べて短期間で解決できる、労働者保護を目的とした制度なので、まずはこちらを利用することが多いです。労働審判でも解決が難しい場合は、訴訟に進みます。
不当解雇を争うには、証拠が非常に重要です。解雇通知書、解雇理由証明書といった解雇理由を示す書面はもちろんのこと、就業規則、労働契約書といった基本的な資料も収集しておきましょう。また、退職に伴って、これまでの残業代や給料の請求、ハラスメントの慰謝料請求といったその他の労働問題についても、一括して解決を求めるのがお勧めです。
「不当解雇の裁判の勝率」の解説
適切な相談先に相談する
解雇に関するトラブルは、労働問題のなかでも特にストレスが過大となりやすいもので、労働者が自分一人で対応するのはお勧めできません。次のような適切な相談先に相談することによって、専門的なサポートを受けるのが賢明です。
弁護士
解雇トラブルの相談先のうち、最も解決力の高いのは弁護士に相談することです。弁護士に相談すれば、法律知識や経験を活かして、状況にあった適切な解決策を提案してもらうことができます。
会社を辞めるタイミングには、他の問題も総合して解決すべきです。弁護士は、残業代の未払い、パワハラの慰謝料など、解雇以外の争点も一緒に解決できます。弁護士費用がかかるものの、有利な金銭解決を目指すことができるメリットは非常に大きいです。
「労働問題に強い弁護士の選び方」の解説
労働基準監督署
解雇の問題について、労働基準監督署に相談することもできます。ただし、労働基準監督署は、刑事罰による制裁のある労働問題について、企業を監督する立場にあるため、民事事件である解雇のトラブルについて、速やかに動いてはくれないおそれがあります。
「労働基準監督署への通報」「労基が動かないときの対応」の解説
労働組合
解雇についての相談は、労働組合にすることもできます。
労働組合は、憲法と労働組合法によって、団結し、団体として会社と交渉する権利を保障されており、この団体交渉を通じた話し合いによる解決を目指します。
「労働組合がない会社での相談先」の解説
解雇についてのよくある質問
最後に、解雇についてのよくある質問に回答しておきます。
有効に解雇する場合に必要な条件は?
解雇が有効となるには、法律上の条件を満たす必要があります。
具体的には、労働契約法16条は、解雇に客観的に合理的な理由があること、社会通念上相当であると認められることを条件として定めています。理由がなかったり、不相当であるとみなされたりする場合は不当解雇となります。
また、労働基準法20条は、解雇を少なくとも30日前に予告する必要があると定め、30日前に予告しない場合は、不足する日数分の解雇予告手当を支払う義務があります。
「労働問題を弁護士に無料相談する方法」の解説
不当解雇を争うのにかかる期間は?
不当解雇を争うのにかかる期間は、具体的な状況によっても異なりますが、一般的には数ヶ月から、長いときには1年以上かかることがあります。
交渉で解決できる場合には数週間から3ヶ月程度で解決できる可能性がありますが、裁判手続きに発展すると長期化し、労働審判ならば3ヶ月程度、訴訟ならば半年〜1年半ほどの期間が、解決までにかかります。なお、裁判の手続き中に和解することができれば、早期解決を目指すことができます。
「不当解雇を争う間の再就職」の解説
解雇された場合も退職金はもらえる?
解雇された場合でも、退職金を受け取る権利はあるのが原則です。
ただし、懲戒解雇のように重大な規律違反があった場合、退職金が減額となったり不支給となったりすると定める退職金規程の例が多いです。この場合、たとえ懲戒解雇をされたとしても、退職金の一部は受け取ることができるとした裁判例もあるため、あきらめずに退職金の請求をするべきです。
「懲戒解雇でも退職金はもらえる」「退職金の請求方法」の解説
正社員の解雇と非正規雇用の雇止めの違いは?
正社員は、期間の定めのない雇用(無期雇用)が一般的なのに対し、契約社員や派遣社員、アルバイトなどの非正規雇用の多くは、有期雇用となっています。正社員の方が、無期雇用である分だけ雇用の保障が強く、解雇が認められる場合に求められる条件が厳しいと考えることができます。
有期契約の非正規社員を、契約期間の満了で更新せず終了することを「雇止め」といいます。雇止めは解雇と異なり、必ずしも正当な理由が必要ではありませんが、長期にわたって契約が更新されているなど、契約更新が期待されている場合には、雇止めであっても正当な理由が必要とされます。
「契約社員の雇い止めの違法性」の解説
まとめ
今回は、解雇に関する基本的な知識について、詳しく解説しました。
解雇は、会社の一方的な判断による労働契約の解約です。労働者にとっては、仕事を突然奪われ、収入源を絶たれることを意味しており、大きなショックを受けるでしょう。しかし、全ての解雇が正当とは限らず、不当解雇として無効になる場合もあるので、あきらめてはいけません。
突然の解雇に直面したとき、解雇は労働法で厳しく制限され、その理由や手続きが適切でないと違法になる可能性もあることを理解してください。そして、不当解雇とされる可能性があるなら、適切に対処する必要があります。解雇に関するトラブルで、ブラック企業と争うには、労働審判や訴訟といった裁判手続きを利用するのがおすすめです。
「不当解雇なのではないか?」と納得のいかないとき、解雇トラブルにお困りなら、お早めに弁護士に相談してください。
【解雇の種類】
【不当解雇されたときの対応】
【解雇理由ごとの対処法】
【不当解雇の相談】