深夜手当は、深夜に働くことで得られる、通常の労働時間とは異なる割増賃金のことです。労働基準法では、夜間の労働について深夜手当の支払いが義務付けられていますが、「深夜手当は何時から何時まで発生するのか」を正しく理解しないと、不利益を被るおそれがあります。
結論は、深夜手当は午前10時から午後5時までの労働に対して生じます。
基本給に深夜手当が含まれると言われた
夜中に緊急で呼び出されても手当がない
深夜の労働は、精神的にも肉体的にも負担が大きく、手当がもらえないと不満が貯まるでしょう。深夜手当を正しく請求するには、その計算方法と注意点を知る必要があります。
今回は、深夜手当がどの時間帯に発生するのか、どのように計算されるのかについて、労働問題に強い弁護士が解説します。
深夜手当とは
深夜手当とは、深夜の時間帯の労働に対して支払われる割増賃金です。「深夜手当は何時から何時まで発生する?」の通り、この場合の「深夜」は、午後10時から午前5時までのことです。
夜間の仕事は、昼間に比べ、身体的にも精神的にも負担が大きく、健康に悪影響を与えるリスクが高いもの。そのため労働基準法は、午後10時から翌朝5時までの間に行う労働を「深夜労働」として、通常の賃金に25%の割増率を上乗せした深夜手当の支払いを義務付けます。
深夜手当の支払いについて根拠となる条文が、労働基準法37条4項です。
労働基準法37条(抜粋)
(……1項〜3項略……)
4. 使用者が、午後十時から午前五時まで(厚生労働大臣が必要であると認める場合においては、その定める地域又は期間については午後十一時から午前六時まで)の間において労働させた場合においては、その時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の二割五分以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。
(……5項略……)
労働基準法(e-Gov法令検索)
深夜手当は、労働者の健康と、労働環境の安全を確保するために重要な制度です。夜勤や当直、夜間の緊急対応といった過酷な深夜労働の負担について、正当な対価ないし補償として機能します。手当の支払い義務があることで過剰な深夜労働が抑制され、労働環境の改善にも繋がります。
深夜に働くと深夜手当を受け取る権利が発生することは、正社員に限らず、契約社員やアルバイト、パート、派遣社員など、雇用形態や業種を問わず、全ての労働者に当てはまります。警備員や医師、看護師など、深夜労働が多くなりやすい業界では、正当な深夜手当を受け取っているかをよくチェックし、サービス残業にならないよう注意が必要です。
「残業代請求に強い弁護士への無料相談」の解説
深夜手当は何時から何時まで発生する?
次に、深夜手当は何時から何時まで発生するのか、深夜手当の適用される時間帯について解説していきます。
労働基準法上は午後10時から午前5時まで
深夜手当は、原則として、午後10時から午前5時の間の労働に対して発生します。
前章の通り、労働基準法37条4項が「使用者が、午後十時から午前五時まで……(中略)……の間において労働させた場合においては、その時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の二割五分以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない」と定めているからです。
深夜に働く負担が大きいことから、深夜手当の割増率は、通常の給料の1.25倍とされます(深夜かつ時間外労働の場合:1.5倍、深夜かつ休日労働の場合:1.6倍)。深夜手当は、午後10時から午前5時までに働いた時間分について生じるもので、その日に合計何時間働いたかは無関係です。
- 23時まで働いた場合
22時から23時までの1時間について深夜手当の対象となる。このとき、既に「1日8時間」以上働いていた場合には、時間外割増分も上乗せされて、50%割増となる。 - 午前4時に早朝出勤した場合
午前4時〜5時までの1時間について深夜手当の対象となる。
→ 25%割増(1.25倍)
通常の時給が1,200円なら、深夜手当の時給は1,500円(25%割増)となる。
深夜手当は、その労働が当初から予定されたかどうかに関係なく支払いが義務付けられます。つまり、深夜業の人だけでなく、勤務当日にやむなく深夜帯に働くことが決まった場合も、深夜手当を請求することができます。
なお、厚生労働大臣が必要であると認める場合、地域または期間を指定し、午後11時から午前6時を深夜手当の対象とすることができるとされていますが、現状、この規定によって地域や期間が指定された例はありません。
「深夜残業の定義と割増率」の解説
深夜労働を前提とする業界や職場における例外
労働基準法に定められた深夜手当は、原則として業種や職種を問わず適用されます。ただし、はじめから深夜労働を前提とした業界や職場では、例外的な扱いとなることがあります。
医療機関や介護施設、コンビニやトラックドライバーなどのうち、深夜シフトが導入される場面では、そもそも当初から深夜労働を前提とし、基本給や時給に深夜手当含む設定とされていることがあります。このようなケースは、既に深夜手当分も支給されていると考えられ、それ以上の深夜手当を請求することができない場合もあります。
「長時間労働の問題点と対策」の解説
深夜手当の計算方法
まず、残業代の計算式については、次の通りです。
- 残業代 = 基礎単価(基礎賃金/月平均所定労働時間) × 割増率 × 残業時間
この計算式にあてはめると、深夜手当の計算式は次のようになります。
- 深夜手当 = 基礎単価(基礎賃金/月平均所定労働時間) × 割増率(0.25) × 深夜帯の労働時間
なお「基礎賃金」とは給料から、除外賃金を控除した額です。除外賃金とは、持ち家かどうかによって決まる住宅手当、扶養の有無によって決まる家族手当のように、労働時間によらずに決まる費目であって、残業代におけるいわゆる時給計算には反映されません。
上記の式のうち、1時間あたりの基礎単価の求め方に応じて、深夜手当の計算方法は、次のように説明することができます。
月給制の場合の深夜手当
月給制の場合、上記の例の通り、1時間あたりの基礎単価は「基礎賃金/月平均所定労働時間」で算出します。したがって、計算式は次の通りです。
- 深夜手当 = 月給/月平均所定労働時間 × 割増率(0.25) × 深夜帯の労働時間
月平均所定労働時間は「(365-1年間の休日合計日数)×1日の所定労働時間÷12」として算出します。
【具体例】
建設業界で働くAさんは、以下の条件で、残業なく合計22日の労働をした。月の深夜手当を、会社に請求したい。
- 給料:月給25万円、家族手当2万円、交通費1万円
- 年間休日:110日
- 1日の所定労働時間:14時~23時(うち1時間休憩)の計8時間労働
【計算方法】
まず、基礎賃金と月平均所定労働時間を求めます。
- 基礎賃金
月給27万円-家族手当2万円=25万円 - 月平均所定労働時間
(365日-110日)×8時間÷12=170時間
これを上記の計算式に代入すると、25万円/170時間×0.25×22=8088.23…となり、Cさんは約8088円の深夜手当を請求できます。
「残業代の計算方法」の解説
時給制の場合の深夜手当
時給制のケースでは、1時間あたりの基礎単価には「時給」をそのまま代入します。そのため、深夜手当の計算式は次の通りになります。
- 深夜手当 = 時給 × 割増率(0.25) × 深夜帯の労働時間
アルバイトや派遣社員など、時給制で働く労働者でも、午後10時から午前5時までの労働について、その他の時間帯の労働と全く同じ給料しか払われていないなら、深夜手当を請求できます。
【具体例】
コンビニでアルバイトとしてで働くBさんは、以下の条件で、残業なく労働をした。月の深夜手当を、会社に請求したい。
- 時給
1,000円 - 諸手当
交通費5,000円 - 月の深夜労働時間
合計20時間
【計算方法】
Bさんの深夜手当=1,000円×0.25×20時間=5,000円
「労働問題に強い弁護士の選び方」の解説
日給制の場合の深夜手当
日給制のケースでは、1時間あたりの基礎単価は「日給/1日の所定労働時間」として計算します。そのため、計算式は次の通りです。
- 深夜手当 = 日給/1日の所定労働時間 × 0.25 × 深夜帯の労働時間
【具体例】
警備員として働くCさんは、以下の条件で、残業なく合計22日の労働をした。月の深夜手当を、会社に請求したい。
- 日給
80,00円 - 諸手当
交通費10,000円 - 1日の所定労働時間
14時~23時(休憩1時間)の計8時間
【計算方法】
Bさんの深夜手当=8,000円/8時間×0.25×22=5500円
休日の深夜労働の場合
深夜労働が、休日や時間外労働と重なった場合には、それぞれの割増率が重複して適用されます。法定休日に労働をした場合、通常の賃金の1.35倍の賃金が支払われるので、休日であり、かつ、深夜労働の場合、割増率が重複して適用され、1.6倍の割増率で計算した割増賃金を請求できます。
【具体例】
1時間あたりの基礎単価が2,000円で、休日に15時から24時まで働いた場合(途中、19時から20時まで1時間休憩)。
【具体例の計算】
2,000円×1.35×6時間+2,000円×1.6×2時間
=16,300円+6,400円
=22,700円
「休日手当の請求と計算」の解説
例外的に深夜手当が払われない場合がある?
次に、例外的に深夜手当が支払われない場合があるかどうかについて解説します。
結論としては、深夜労働は全労働者にとって大きな負担となるため、深夜手当が支払われない例外的なケースは、相当限定されると考えるべきです。
変形労働時間制でも深夜手当は支払われる
変形労働時間制は、一定期間の労働時間の平均が「1日8時間、1週40時間」の法定労働時間内なら、特定の日や週について通常より長い労働時間を設定できる制度です。繁閑の差の激しい職場で、働く時間を柔軟に調整できるメリットを生かして導入される例が多いですが、通常より長い労働時間を設定された日には、深夜労働が発生するおそれがあります。
変形労働時間制を導入している場合も、深夜労働に該当する時間帯が「午後10時から午前5時まで」である点は変わりなく、深夜手当の発生についても通常と変わりはありません。変形労働時間制だからといって深夜手当を払わなくてもよいことにはならないので、注意が必要です。
「変形労働時間制」の解説
管理監督者(管理職)でも深夜手当は支払われる
労働基準法41条2号にいう「管理監督者」に該当する場合、労働時間等に関する規定が適用されず、残業代が支払われないのが原則です。しかし、それでもなお、深夜手当は発生します。
最高裁判決でも次の通り、管理監督者も深夜手当を請求できると判断されています。
美容室などを経営する会社の総店長が、深夜手当を請求した事案。
裁判所は、深夜手当は「労働が1日のうちのどのような時間帯に行われるかに着目して深夜労働に関し一定の規制をする点で、労働時間に関する労基法中の他の規定とはその趣旨目的を異にする」と指摘し、「労働基準法41条2号の規定によって同法37条3項の適用が除外されることはなく、管理監督者に該当する労働者は同項に基づく深夜割増賃金を請求することができる」と判断した。
したがって、管理監督者に該当したとしても、管理職にも深夜手当が支払われます。
一方で、取締役などの役員は、雇用契約ではなく委任契約であって、そもそも「労働者」(労働基準法9条)ではないため、深夜手当を含めた全ての残業代が払われません(ただし、使用人兼務役員は、労働者の地位も有するため、深夜手当を請求できる場合があります)
なお、会社が管理職扱いしていても、労働基準法上の「管理監督者」性が認められないなら「名ばかり管理職」であり、残業代を請求することができます。
「管理職と管理監督者の違い」「名ばかり管理職」の解説
裁量労働制でも深夜手当は支払われる
裁量労働制の労働者も、深夜労働をした場合には深夜手当を受け取れます。
裁量労働制は、労働者が裁量をもって柔軟に働く一方で、一定の労働時間だけ働いたものとみなされる制度です。そのため、深夜労働に関する規定を除外する効果はなく、午後10時から午前5時までの深夜労働をした場合は、25%以上の割増賃金を支払う必要があります。
裁量労働制だと、会社としても働き方を労働者の裁量に任せており、労働時間の把握が不十分となってしまっている例がよくあります。深夜手当は発生するので、せめて22時以降に働いていたかどうかは、把握しておく必要があります。
「裁量労働制と残業代」の解説
「深夜手当を含む」とするのは違法の疑いがある
あらかじめ給料に深夜手当を含むと定める会社があります。いわゆる「固定残業代」「みなし残業」と呼ばれる方法です。例えば、「基本給のうち◯◯円は、深夜手当として支給する」と定める賃金規程です。労働の性質上、深夜の業務が発生するのが明らかな業種でよく見られます。
「深夜手当を含む」という賃金も、直ちに違法なわけではなく、労働基準法のルールに基づいて計算されていれば適法な深夜手当の支払いとなります。ただ、適法といえるには、通常の賃金と深夜手当とが区別できる必要があり、かつ、差額が生じる場合には支払いが必要となります。この条件を満たさない場合は、労働基準法違反となり、未払い分を請求することができます。
夜勤手当で不足する場合は深夜手当を請求できる
深夜手当は、会社が定める「夜勤手当」とは異なるものであり、区別して理解すべきです。
夜勤手当とは、夜間に働く人への労いの意味で、会社が任意に支給するものです。例えば、「夜勤1回につき◯◯円」などと定める例があるように、必ずしも労働時間に比例するケースばかりではありません。
夜勤の多い業界でよく見られますが、夜勤手当は、労働の対価である「賃金」ではなく、「福利厚生」としての意味合いを有します。
これに対し、深夜手当は、労働基準法で義務付けられた賃金の支払いです。
会社によっては、深夜手当に充当する意味で、夜勤手当を払っているケースもあります。しかし、この場合にも前章と同じく、「夜勤手当として払われた額が、法律通りに計算した深夜手当の額を上回っているかどうか」を検討する必要があり、上回っていないならば違法となります。
なお、「夜間看護手当」の行政解釈(昭和41年4月21日基収第1262号)によれば、通常の労働時間または労働日の賃金とは認められず、割増賃金の計算の基礎となる賃金から除外して差し支えない(いわゆる「除外賃金」)とされます。
「残業代込みの給料の違法性」の解説
未払いの深夜手当を請求する方法
深夜手当が未払いのとき、請求する方法を解説します。
深夜労働をしたにもかかわらず、深夜手当が適切に払われない場合、労働者は会社に未払いの深夜手当を請求する権利があります。請求する方法は、以下の手順で進めてください。
なお、深夜手当には、残業代の時効(3年間)が適用されます。タイムリミットがあるため、時効期間が経過してしまう前に、できるだけ早く請求を進めてください。
深夜労働の証拠を集める
タイムカードや給与明細、労働時間の記録など、深夜労働を行った証拠を集めます。
交渉で解決するにせよ、裁判で請求するにせよ、証拠なしには、深夜労働をしたと認めてもらえません。深夜手当は、午後10時以降、午前5時という、働いた時間帯に応じて発生するものなので、具体的に働いた時間を示せるようにしておく必要があります。
「残業の証拠」の解説
内容証明で深夜手当を請求する
証拠をもとに深夜手当を計算し、企業に対して未払い分を請求します。
口頭ではなく、書面を送付することによって請求するのが望ましいです。内容証明で送付すれば、送付日や受領日、書面の内容を証拠に残し、後のトラブルの備えとなります。
書面の送付は「催告」にあたり、6ヶ月間、時効の完成を猶予させることができます(民法150条)。未払いの深夜手当を請求するときは、遅延損害金、付加金も忘れず請求しておきましょう。
「残業代の請求書の書き方」の解説
労働基準監督署や弁護士に相談する
深夜手当のトラブルを解決するには、労働基準監督署や弁護士への相談が有効です。
労働基準監督署は、労働基準法違反について企業を調査し、指導してくれることが期待できます。違反が重大なら、是正勧告を下すこともあります。労働問題に詳しい弁護士に相談すれば、最終手段として、労働審判や訴訟などの裁判を利用する際のアドバイスを受けられます。
「サービス残業を告発する方法」「労働問題を弁護士に無料相談する方法」の解説
労働審判や訴訟で請求する
深夜手当は、他の割増賃金と同じく、法律で認められた労働者の権利です。交渉で解決しなくてもあきらめることなく、労働審判や訴訟といった裁判手続きによる強制的な回収を目指すようにしてください。
「裁判で勝つ方法」「残業代を取り戻す方法」の解説
深夜労働には健康被害のリスクがある
深夜手当が適正に支払われていても、健康被害の生じるリスクがある点も見逃せません。深夜労働は、労働者の身体や精神に大きな負担となります。夜間に働くことで睡眠や生活のリズムが崩れ、体調を壊したりメンタルを病んだりする危険があります。
深夜労働に従事するなら、労働者は、健康管理に特に注意しなければなりません。規則正しい生活リズムを確保するよう意識し、できるだけ休息を取るよう心がけるべきです。
会社は、労働者の健康と安全に配慮すべき義務(安全配慮義務)を負うところ、深夜の労働を指示するならなおのこと、健康管理に十分な配慮を要します。このことは、深夜手当を支払っていたとしても同じことであり、長期間にわたって深夜労働を続けさせて労働者に過度な負担を与えることのないよう、シフトを調整したり、適度な休息を与えたりする必要があります。
労働者が、法律に基づいた正しい深夜手当を請求することは、健康リスクを生じやすい深夜労働を、できるだけ短く抑えるのにも役立ちます。本当にきつくなって倒れてしまう前に、有給休暇を取得するなどして、適度に仕事から離れるようにしてください。
まとめ
今回は、深夜手当についての法律知識を解説しました。
深夜手当は、労働者の権利を守るため労働基準法の定めた大切な制度です。深夜手当が何時から何時まで発生するか、正確に理解し、間違いのないよう計算してください。深夜手当は、午後10時から午前5時の時間帯に働く場合に、通常の給料の25%以上の割増賃金として算出されます。深夜労働の負担の大きさからして、深夜手当が適正に支払われることは、特に重要な権利だといえるでしょう。
夜勤が続くと、休日も一日中眠ってしまうなど、生活リズムを崩す人もいます。こうした深夜労働から労働者を守るために、深夜手当には高い割増率が設定され、管理監督者(労働基準法41条2号)でも受け取れるなど、手厚く保護されています。したがって、深夜手当に未払いがある場合には、労働基準監督署や弁護士に相談して、迅速に請求しなければなりません。
未払いであるとわかったら、我慢して働き続けるのでなく、弁護士に相談してください。
【残業代とは】
【労働時間とは】
【残業の証拠】
【残業代の相談窓口】
【残業代請求の方法】