労働問題は、社内でもみ消されてしまうことがあります。なかでも、パワハラは、悪質なもみ消しにあいやすいトラブルの一つ。社長や上司から、陰で受けたパワハラに声をあげないと、もみ消しされてしまいます。
違法行為があれば、加害者はもちろん、会社にも責任追及できるのは当然。会社の責任を追及すれば、もみ消しされづらくなります。その最たる例が、内部通報。内部通報し、会社全体の問題だと認識させれば、もみ消すのにもリスクが伴うからです。
ただ、内部通報すらもみ消し、不祥事をなかったことにする会社もあります。内部通報さえもみ消されたなら、社会的に公にするしかありません。労働審判や裁判で、不祥事を明らかにし、不利益を回復しなければなりません。
今回はパワハラのもみ消しに対抗するため、内部通報の活用について労働問題に強い弁護士が解説します。
- 労働問題のなかでも、セクハラ・パワハラは、もみ消しの被害を受けやすい
- もみ消しされたら、会社全体の問題と認識されるよう、内部通報をする
- 内部通報すらもみ消しされたら、不祥事を明るみに出すため、外部告発する
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労働問題の「もみ消し」とは
もみ消しとは、実際に起こったトラブルを、表沙汰にせず隠すことです。
労働問題が社内にあると判明してしまうことは、会社にとってデメリットが大きいです。コンプライアンス意識の低い、問題ある会社だと見られると不利益があるからです。顧客や取引先が離れ、社会的な信用は低下、優秀な人材も採用できなくなります。
このような不利益を回避すべく、もみ消しは起こります。では、労働問題の「もみ消し」とは、どのような問題なのでしょうか。もみ消しにあたるケースについて、具体例でイメージしてください。
- 上司のパワハラを訴えたが、黙殺された
- 上司の上司に相談したが、社長には伝えられていない
- 残業代の未払いに文句を言ったら、タイムカードが破棄された
- 労働問題を指摘したら、地方に転勤させられた
- 「秘密を守って辞めるなら、解決金を払う」と退職勧奨された
- 労働問題を指摘したら、解雇された
ブラック企業では、労働問題は絶えず起こっています。それでも会社が潰れないのは、必死にもみ消ししているからです。
もみ消しは、会社組織として行われることもありますが、大きな問題は、上司や役員、管理職などが、空気を読んで、もみ消ししていること。末端の労働者には責任逃れにしか見えませんが、多くのプレッシャーが利用されます。
しかし、もみ消していた問題がひとたび明るみに出れば、一気に広がります。このとき「もみ消していた」という悪事が、更に炎上を加速させます。もみ消さずに反省、謝罪し、釈明すべきだったと、ブラック企業を後悔させることができます。
セクハラ・パワハラは、もみ消しされやすい
労働トラブルは、社内でもみ消しがよく起こると説明しました。なかでもよくもみ消しになってしまうのが、セクハラ、パワハラなどのハラスメント問題。ハラスメントは個人間で起こるものなので、その関係のなかだけで、もみ消せば、大事になるのを避けられるからです。
セクハラやパワハラをした加害者にとって、バレないなら、できるだけ隠しておきたいでしょう。もみ消しを避けるには、会社の責任も追及しなければなりません。
会社は、労働契約法5条に基づき、安全で健康に働けるよう配慮する義務を負います。これを法律用語で「安全配慮義務」といいます。
特にセクハラは、男女雇用機会均等法により、社内の防止措置を講じる義務を負います。また、近年、労働施策総合推進法(いわゆる「パワハラ防止法」)によって、パワハラについても防止措置を講じる義務が定められました。
会社がセクハラやパワハラ被害を黙認し、もみ消すのは法律違反となるのです。内部通報すれば、会社のこれらの義務を、明らかに意識させられます。
内部通報者を処分してさらにもみ消そうとすれば、もっと悪質です。これによってハラスメント被害が拡大すれば、会社に損害賠償を請求できます。
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もみ消しされてしまった時の対処法
いざ、労働問題のもみ消しに気付いたとき、どう対応すべきか、解説します。
労働問題を起こした当事者が、本気でもみ消しを図ってくると、対策が困難なケースもあります。責任を回避してもみ消しするほうが、明るみに出すより容易なのです。
知らず知らずのうちにもみ消しされ、法違反の犠牲になっているケースもあります。困難なケースでのもみ消しを避けるには、弁護士のサポートが有効です。
内部通報する
労働問題のもみ消しは、その問題の当事者によって行われます。このとき、もみ消しに成功すれば、会社に知られることなく、処分もされません。対抗するには、もみ消しされたらすぐ、会社に内部通報することです。
内部通報は、自分や同僚を守り、会社を良くするために利用できる制度であり、「内部告発」ということもあります。
内部通報の窓口は、通常、会社側で用意されています。社内に設置される内部通報窓口もありますが、お勧めは、社外に設置される窓口です。内部通報窓口のつながる先が社外なら、社内の圧力でもみ消しされる心配もありません。例えば、法律事務所や行政機関などに設置される例があります。
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社内調査の実施を求める
会社は、社内に問題があり、労働者が安心して働けないなら、対応しなければなりません。内部通報により、労働トラブルを把握すれば、すぐ動いてくれると期待できます。対応が遅いなら、あわせて、社内調査の実施を求めましょう。
例えば、セクハラやパワハラなどのハラスメント問題は、入念に調査しないと判明しません。内部通報からはじまる社内調査なら、利害関係のない人が調査を担当してくれるはず。調査の結果、通報内容が真実だと判明すれば、すぐ対応してくれるでしょう。
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公益通報者として保護してもらう
内部通報が会社に知られると、不利益を受けるのではと不安な方も多いでしょう。内部通報者が不当に処分される「二次被害」のケースは少なくありません。処分を恐れ、通報がなくなれば、もみ消しをたくらむ者の横暴は止められません。
そこで、公益通報者保護法は、内部通報者を不当処分から守るルールを定めています。この法律は、内部通報者を不利益から守り、企業不祥事を告発してもらうための法律。内部通報者の不安がなくせれば、不祥事を明るみに出しやすくなります。結果、健全な社会が守られ、皆の利益に繋がります。
公益通報者として保護してもらうための条件は、次の通りです(条件を満たせば、公務員も保護の対象となります)。
- 不正な利益を得たり他人を害する様な目的ではないこと
正当な目的の通報でなければ、保護してもらえない。第三者のプライバシーをさらしたり、不祥事と無関係な営業秘密をばく露する通報は、保護されない。 - 人の生命、身体、財産を害するような犯罪行為に関する事柄であること
重大な通報が、公益通報として保護される。暴行をともなうパワハラなどは、犯罪にあたり、公益通報の条件を満たしやすい。 - 行為が現に行われ、または行われるおそれがあると認められること
危険が現実のものでなければ、公益通報として保護されない。不祥事の起きる可能性が高いことを要する。
以上の要件を満たせば、「公益通報者」として保護され、その結果、内部通報を理由とした不利益な扱いが禁止されます。解雇はもちろん無効ですし、減給、降格や、給料の差別なども許されません。不利益が生じる危険が大きいと予想されるなら、あらかじめ弁護士にご相談ください。
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内部通報者への不利益な処分も、違法なもみ消し
もみ消しを防ぐためには、内部通報すべきと解説しました。しかし、悪質なもみ消しは、更にひどいもの。内部通報をしたことで不利益な処分をされ、会社を追い出されてしまう危険があります。
労働問題を放置する会社は、法律に従うとは限りません。もみ消しが邪魔された腹いせに、不当な扱いを強行してくるとき、屈してはなりません。
不当処分の無効を主張する
内部通報したことのみを理由に、社内で処分を下すのは許されません。これは、公益通報者保護法の条件を満たさなくても同じことです。正当な理由のない懲戒処分は、違法な「不当処分」として無効です(労働契約法15条)。したがって、内部通報を適切にすれば、処分されることはありません。
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不当解雇を争う
内部通報するような社員は、会社としては追い出したいこともあります。会社に問題あるから内部通報されるのに、その問題を解消せず、内部通報者を敵視するのです。最悪のケースでは、内部通報を理由にして、解雇されてしまいます。
表向きは理由を明言しなくても、次のケースなら、不当解雇を疑ってください。
- 内部通報したこと以外に解雇理由がない
- 解雇理由を聞いても、具体的に通知されない
- 解雇理由証明書の内容が虚偽である
- 内部通報した直後に解雇された
解雇は、厳しく制限され、正当な理由がなければ「不当解雇」です。そして、「内部通報したから」というのは、解雇の正当な理由とは認められません。
通報に対して、プレッシャーに屈すると、もみ消しを許してしまいます。「取り下げないならクビにする」など脅されても、もみ消されないようにしてください。
「不当解雇に強い弁護士への相談」の解説
内部通報がもみ消しされるなら、外部告発する
内部通報し、会社が真摯に向き合ってくれれば、トラブルは解消できます。しかし、誠意ある会社ばかりではありません。勤務先がブラック企業だと、内部通報すらもみ消しに遭ってしまいます。
更には、内部通報したのを理由に、不利益な処分をされることも。このような処分は、違法な「不当処分」であり、無効です。ただ、たとえ処分が無効でも、火種だった問題は、もみ消しきれてしまうこともあります。
内部通報してももみ消しされるなら、もはや内部告発では解決できません。
内部告発がもみ消しされるなら、次は、外部告発するしかありません。外部告発の先として、最もよく利用されるのは、労働基準監督署です。
残業代の未払いや、強度のパワハラなど、違法性の強い問題は、労働基準監督署が対応してくれます。調査の結果、労働基準法違反が明らかとなれば、指導、勧告し、最終的には逮捕もありえます。
「労働基準監督署への相談」「労基署が動かないときの対処法」の解説
もみ消しされないための事前対策
労働問題の被害にあったらすぐに、もみ消しされないための事前対策を講じましょう。
もみ消されてしまった後で対応するのは、手間と時間がかかります。できれば、もみ消しを受ける前に、対策したいところです。
残業代、不当解雇、セクハラ、パワハラなど多くの労働問題が、もみ消され、闇に葬られます。労働審判や訴訟など、法的手続きを利用すれば、正当な権利を実現することができます。そのためにも、日頃のもみ消し対策を怠らないでください。
弁護士の後方支援を受ける
もみ消しが決定的となれば、労働審判や訴訟など、裁判所で争うべきです。裁判所で争えば、不祥事が明るみに出るのはまもなくでしょう。
しかし、円満に解決し、できるだけ良い職場を目指したいという方もいます。このとき、すぐに弁護士に交渉を依頼する覚悟がつかないことも。弁護士のサポートは、後方支援でもなお有益です。
弁護士に、継続的に相談をしておけば、もみ消しを避けることができます。
「裁判で勝つ方法」の解説
もみ消されない証拠を確保する
もみ消しされないためには、証拠の確保が重要です。客観的な証拠があれば、容易にはもみ消しすることができなくなります。労働者が証拠を保持しておかないと、会社頼りでは、証拠すらもみ消されてしまいます。
証拠があれば、内部通報でも、裁判でも、優位に進められます。証拠により、会社がもみ消そうとした不祥事を明らかにできるからです。もみ消されないように証拠を安全な場所に移す方法は、次の通りです。
- 証拠となる書類は、必ずコピーをとる
- 証拠となるデータは、自身のUSBに移動する
- 証拠となるメールは、自分のアドレスに転送する
- 証拠となるLINE、チャットは、スクリーンショットをとる
- 証人に圧力が加わらないよう保護する
- 証人と口裏合わせされないよう、陳述書を取得する
これらの対策により、不祥事の裏付けとなる「動かぬ証拠」を確保できます。その後に会社がもみ消そうと偽造、改ざんしても、嘘を明るみに出し、もみ消しを許しません。
「パワハラの証拠」の解説
まとめ
今回は、労働問題のもみ消しについての解説でした。なかでも、もみ消しされやすいパワハラは、適切な救済を受けるのが困難なもの。内部通報を正しく活用し、不祥事がもみ消されるのは絶対に避けましょう。
最近では、企業不祥事は大々的にニュース報道されることが増えました。企業のコンプライアンス(法令遵守)の意識は、年々高まっています。内部通報なら、会社として対応してもらえ、もみ消しされる可能性は軽減できます。
とはいえ「バレなければよい」と、もみ消し、隠ぺいを図る会社もあります。労働問題をもみ消されて泣き寝入りせず、不当な圧力には屈しないでください。不利益な扱いをされたら、ただちに弁護士に相談するのがお勧めです。
- 労働問題のなかでも、セクハラ・パワハラは、もみ消しの被害を受けやすい
- もみ消しされたら、会社全体の問題と認識されるよう、内部通報をする
- 内部通報すらもみ消しされたら、不祥事を明るみに出すため、外部告発する
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【パワハラの基本】
【パワハラの証拠】
【様々な種類のパワハラ】
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- 資格ハラスメント
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