MENU
浅野 英之
弁護士
弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号44844)。
東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

企業側の労働問題を扱う石嵜・山中総合法律事務所、労働者側の法律問題を扱う事務所の労働部門リーダーを経て、弁護士法人浅野総合法律事務所を設立。

不当解雇、未払残業代、セクハラ、パワハラ、労災など、注目を集める労働問題について、「泣き寝入りを許さない」姿勢で、親身に法律相談をお聞きします。

→労働問題弁護士ガイドとは
★ 労働問題を弁護士に相談する流れは?

カスハラ(カスタマーハラスメント)とは?意味や違法性の基準、クレームとの違いを解説

カスハラ(カスタマーハラスメント)は、顧客による嫌がらせのことです。「お客様」を絶対視する風潮の強まる近年、特に社会問題化していますが、正当な「クレーム」とは違って許されない違法行為です。クレームには誠意ある対応をすべきですが、カスハラに屈してはなりません。

カスハラには、一社員のみならず、組織として対処するのが肝心です。悪質なカスハラには単独での対応は控え、複数人で連携して当たらなければダメージは拡大します。

使用者である企業は、カスハラを予防し、トラブルに発展せぬよう事後対応も徹底し、従業員を守る必要があります。しかし、この義務を果たさない会社も残念ながら珍しくありません。カスハラの被害を受けた労動者として、カスハラ顧客への慰謝料の請求と共に、会社の対応が不十分なら、安全配慮義務違反として使用者に損害賠償請求することも検討すべきです。

今回は、カスハラが違法となる基準、対処法などについて、労働問題に強い弁護士が解説します。

目次(クリックで移動)

解説の執筆者

弁護士 浅野英之

弁護士(第一東京弁護士会所属、登録番号44844)。
東京大学法学部卒、東京大学法科大学院修了。

企業側の労働問題を扱う石嵜・山中総合法律事務所、労働者側の法律問題を扱う事務所の労働部門リーダーを経て、弁護士法人浅野総合法律事務所を設立。

不当解雇、未払残業代、セクハラ、パワハラ、労災など、注目を集める労働問題について、「泣き寝入りを許さない」姿勢で、親身に法律相談をお聞きします。

\相談ご予約受付中です/

労働問題に関する相談は、弁護士が詳しくお聞きします。
ご相談の予約は、お気軽にお問い合わせください。

カスハラとは

まず、カスハラがどのようなものか、わかりやすく解説します。

カスハラに当たる行為は、これまでも、BtoCのサービス業などでは日常でした。しかし、顧客を絶対視する風潮の強まるなかで、社会問題として注目されています。これまでも存在した問題行為が「カスハラ」と定義され、対処の必要性が特に意識されるようになったのです。

カスハラの定義

カスハラとは、企業やその従業員が、顧客や消費者から受ける嫌がらせ(ハラスメント)を指します。カスタマーハラスメントの略語で、簡単にいえば、その名の通り「カスタマー(客)」からの「ハラスメント(嫌がらせ)」を意味します。

カスハラはパワハラセクハラより最近に注目された問題です。法律上の定義はないですが、厚生労働省は「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」で、カスハラを次のように定義します。

顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業関係が害されるもの

カスハラの具体例

以上の定義を踏まえると、法的に根拠のない要求、暴力的、侮辱的な行為などは、カスハラに該当します。例えば、よくあるカスハラの種類には次の例があります。

  • 「壊れていた」と嘘の苦情をいって交換を求める
  • ミスのお詫びとして商品を無料で提供するよう求める
  • 従業員に対して暴力をふるう
  • 謝罪のために土下座するよう要求する
  • 無言の電話を月に何百回もかけてくる
  • 他の顧客の面前で大声で詰め寄られる

接客や営業の現場において、顧客からされるハラスメントがカスハラです。そのため、その具体的な発言や行為は、パワハラやセクハラにあたる具体例が参考になります。上司と部下、社員間でされればパワハラやセクハラに該当する言動は、顧客が行えばカスハラになる可能性が高いからです。

パワハラにあたる言葉一覧」「セクハラ発言になる言葉一覧」の解説

カスハラが増加した理由と背景

厚生労働省の調査は、顧客等からの著しい迷惑行為について「件数が増加している」と回答した割合は、「件数は減少している」という回答の割合より高いと発表しています(令和5年度 職場のハラスメントに関する実態調査報告書)。

カスハラが増えた理由には、次の背景があります。

第一に、顧客心理として無理を言いやすくなった社会の風潮にあります。

「お金を払う人が偉い」「お客様は神様」など横柄な態度をとる顧客は以前から一定数いましたが、「要求に応じないとSNSで拡散する」など、現代的な手法も相まって、顧客の力が強くなりすぎた結果、サービス提供者が我慢させられ、カスハラ増加に繋がっています。

もう一つは、ハラスメントへの問題意識が急速に高まった点が挙げられます。

権利意識が高まり、パワハラ防止の法規制が進むなどといった流れのなか、かつては「仕方ない」とあきらめられていた問題が、カスハラという用語で定義され、顕在化しています。

カスハラが社会課題となった現在では、現場社員の属人的な課題とすべきではなく、企業が組織で取り組むべき問題と認識され始めています。その分、しっかりと対処しないコンプライアンス意識の低い会社では、カスハラのしわ寄せが労動者の負担となり、労使紛争の原因となります。

パワハラが起こる理由」の解説

カスハラとクレームの違い

カスハラは、似た概念である「クレーム」とは区別して理解せねばなりません。カスハラとクレームは重なる部分もありますが、その特徴は大きく違います。

クレームとは、顧客による不満、業務改善の要求などを一般的に指す言葉です。クレームには本来、マイナスな要素はなく、あくまで改善を求める行動であって顧客側に悪意はありません。これに対してカスハラは、顧客による「嫌がらせ」という意味があり、単なる苦情や要求にとどまらず、それによって自分の目的を実現しようという顧客側の悪意を含んでいます。

なお、一般用語としては「クレーム」を「嫌がらせ」的な意味合いで用いることがあります。しかし、下記に解説の通り、正当性のあるクレームを必要以上に恐れたり、耳の痛い指摘を放置し、すべき改善を怠ったりすることは、サービス業として問題のある行為です。

クレームは正当なものもあるがカスハラは違法

まず、正当な範囲で行われる要求を「クレーム」と呼びます。

常識や道徳として「人前で声高に不満を叫ぶべきでない」という考えもありますが、事業者に非のあるケースなど、改善点を苦情として伝えることは法的に問題ありません。したがって、クレームには正当なものもあるので、必ずしも違法ではありません。クレームをいう客のなかには、言いたくないけどあえて期待を込めて提言する方もいて、社員の視点では気付けない改善点を発見できることもあります。

一方で、要求を伴わないカスハラは完全な嫌がらせであり、企業やその従業員にとって全く利益をもたらしません。行為態様によってはカスハラは違法であり、民事上の損害賠償責任のほか、犯罪が成立して刑事上の責任を問えるケースもあります。カスハラには正当性がなく、要求に従う必要はありません。

ただ、カスハラとクレームとの明確に線引きは、一元的に決まるわけではありません。正当なクレームの体裁でも、顧客の内心には嫌がらせの意図のあるなら、行き過ぎた行為はカスハラに該当します。この点は「カスハラが違法となる判断基準」で詳しく解説します。

正当なクレームは誠実に対応すべき

正当なクレームには誠実に対応すべきで、誤って「不当な要求だ」「カスハラだ」という扱いをしないようご注意ください。顧客の意見を日頃のサービスに反映できれば、リピーターやファンの獲得、ひいては企業の成長になります。上から目線に感じても、顧客としたらもっともな意見も多いもの。一個人の感想と捉えるのでなく、顧客全体のニーズの表れとして真摯に対応するのが大切です。

正当なクレームを「カスハラ」扱いし、適切な対処を怠ると、常連客は離れ、商品やサービスの社会的な評価が低下するなど、マイナスの影響が生じかねません。顧客の要求にどう対処すべきか、労動者目線で迷ったら、まずは弁護士の無料相談を活用するのがお勧めです。

なお、扱いの難しいのが、改善を求めるという目的はあるものの、その程度が相当性を欠く不当なクレームです。次章で解説の通り、その目的が妥当なものでも、方法が悪質ならば、違法な行為であると考え、拒否すべきです。

労働問題を弁護士に無料相談する方法」の解説

カスハラが違法となる判断基準

次に、カスハラが違法となる判断基準を解説します。

違法なカスハラに該当するかどうかは、厚生労働省の「カスハラの定義」に基づいてご検討ください。これによればカスハラの判断基準は「要求内容」と「要求を実現するための手段」の2つの側面から判断されます。

カスハラの被害を受けた労動者が正しい対応をするには「違法なカスハラかどうか」を見極めて行動するのが大切です。違法ではない、正当なクレームなのに、カスハラ扱いして放置したり、顧客に厳しい対応をとったりするのは不適切です。

顧客の要求内容が妥当性を欠くこと

まず、顧客の要求内容が妥当性を欠く場合は、違法なカスハラに該当します。

例えば、単なる言いがかりにすぎないケースが典型例。厚生労働省の「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」によれば、要求内容が「自社の商品やサービスの内容と関係がない」場合や、「自社の商品やサービスに関するものとはいえ、瑕疵も過失も認められない」場合に、その要求内容は妥当性を欠くものと判断できます。

【自社の商品やサービスの内容と関係がない場合とは】

  • 「お前のしゃべり方が不快だ」とスタッフを批判するケース
  • 自分の感情を理由にして迷惑料を請求するケース
  • 他社サービスについての要求をするケース

【瑕疵も過失も認められない場合とは】

  • 自分で壊したのに交換や返金の対応を迫るケース
  • 通常のサービスを提供したのに過剰な期待をして不満をいうケース
  • 不可抗力についても責任を負うよう要求するケース

なお、カスハラの場面ではよく「慰謝料」「迷惑料」といった言葉で金銭の請求が行われますが、その要求内容に妥当性はなく、違法なカスハラと判断できるケースが少なくありません。

例えば、従業員が不手際で客の服を汚してしまったとき、「お気に入りで大切にしていた」といった理由で慰謝料を請求するケース。従業員にミスをした非はあるものの、請求できるのは財産的な損害(服の代金相当額、もしくはクリーニング費用など)に留まり、それ以上の精神的苦痛についての慰謝料の要求は不当であり、カスハラだと判断すべきです。

パワハラの相談窓口」「セクハラの相談窓口」の解説

要求を実現するための手段や態様が社会通念上不相当であること

顧客の要求内容が妥当だとしても、手段や態様が社会通念上不相当である場合も、違法なカスハラに該当します。正しい目的を実現するためでも、不適切な手段をとるのは違法だからです。

厚生労働省の「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」によれば、相当性のないケースについて次のように整理できます。

【要求内容の妥当性にかかわらず不相当といえる可能性があるケース】

  • 身体的または精神的な攻撃(暴行、傷害、脅迫、侮辱など)
    (例:乱暴な口調で怒鳴り散らす)
  • 性的または差別的な言動
  • 威圧的な言動
    (例:「役所やマスコミに通報する」「SNSに晒す」と脅す)
  • 継続的または執拗な言動
    (例:長時間または連日連夜の電話、社員の自宅訪問など)
  • 拘束的な行動(不退去、居座り、監禁)
    (例:店舗や会社から退去するように命じたのに居座り続ける)
  • 個人的な要求
  • 土下座の要求

【要求内容の妥当性に照らして不相当とされる場合があるケース】

  • 商品交換の要求
  • 金銭補償の要求
  • 謝罪の要求(土下座を除く)

暴力や暴言、威圧といった行為は、どのような場面でも許されない一方で、商品交換や補償、謝罪の要求などは、ミスや瑕疵があればその限度で正当な要求となる場合もあります。後者の場合は、直ちに違法なカスハラとまでは言えません。

要求内容に妥当性があったとしても、その実現の手段として均衡を欠く場合には、社会通念上不相当といえます。つまりは、要求の「内容」と「手段」の相関関係で、違法性の基準を判断しなければなりません。

職場でのケガと労災」の解説

カスハラを防ぎ労働者を守るのは使用者である企業の責任

使用者には、カスハラから労働者を守る義務があります。

会社は以下の通り、法的にカスハラに対処すべき義務を負うからです。労動者の立場では、カスハラによる被害を受けたら、その損害についての責任を使用者である会社に問うことができます。

会社がカスハラに対処すべき義務を現実に履行するのは、現場の責任者や、統括する立場にある社員です。以上のことから、カスハラが起こるケースでは、カスハラ被害者と会社との間、カスハラを防止すべき責任者と会社や労動者との間で、労働トラブルがよく起こります。

従業員に対する安全配慮義務

使用者がカスハラを防がなければならないのは、労働者に対して安全配慮義務(労働契約法5条)を負っているからです。会社は、労動者の健康と安全に配慮して働かせる義務を負い、この義務に違反した場合は、被害者である労動者は使用者に損害賠償を請求できます。

このことからして、カスハラに対峙するときは、会社が組織的に対策を練るのが大切です。カスハラ被害に遭ったとき、一人で対応するよう丸投げしたり、責任を押し付けられたりといった対応をされることには問題があり、これによって被害が拡大したなら、カスハラの責任は使用者である会社にもあると考えるべきです。

カスハラについての使用者の安全配慮義務違反の有無を判断するために、会社の責任を認めたケース、否定したケースを紹介します。

【カスハラについての使用者の安全配慮義務違反を否定した裁判例】

  • 最高裁令和5年5月10日決定
    コールセンターの従業員が、顧客のわいせつ発言に晒された事案。裁判所は、従業員の心身の安全を確保するためのルールが策定され、それに則って対応されたこと、メンタルヘルスの相談が実施されていたことなどを総合的に考慮し、安全配慮義務の違反はないと判断した。

【カスハラについての使用者の安全配慮義務違反を認めた裁判例】

  • 医療法人社団こうかん会(東京地裁平成25年2月19日判決)
    看護師が入院患者から暴行された事案。裁判所は、適切な対策を怠った病院の安全配慮義務違反を認め、約1,900万円を支払うよう命じた。
  • 甲府地裁平成30年11月13日判決
    保護者から理不尽な謝罪要求をされていた教師に、応じるよう強いた学校には安全配慮義務の違反があると認め、治療費や慰謝料など約270万円の支払いを命じた。

また、会社側の責任によってカスハラに晒されて、体調不良になったり、うつ病や適応障害といった精神疾患にかかったりなど、心身の健康を害した場合には、労災(業務災害)と認定されて労災保険による補償を受けることもできます。

安全配慮義務違反」の解説

労働施策総合推進法におけるパワハラ防止義務

労働施策総合推進法におけるパワハラ防止義務の観点からも、カスハラを防止すべき責任は使用者にあります。

同法30条の2第3項を受けて発出された厚生労働省の指針は、「顧客等からの著しい迷惑行為」について、使用者は、相談に応じて適切に対応する体制を整備し、被害者のメンタル不調への相談をする、被害防止のためのマニュアルを作成するといった取り組みをすべきことを定めています。

事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和2年1月15日 厚生労働省告示第5号)

パワハラ相談を受けた上司がとるべき対応」の解説

カスタマーハラスメントに関する厚生労働省のガイドライン

上記の指針はパワハラ一般に関するもので、カスハラについての具体的な対策は別途、2022年2月に、厚生労働省から「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」が公表されました。このマニュアルは、カスハラが発生した場合に企業が取り組むべき対策を列挙しており、企業の果たすべき義務の具体的な内容として参考になります。

逆にいえば、労動者側においても、カスハラの犠牲になってしまったとき、企業にも責任がないのかどうかを検討するのに大いに役立ちます。

上記マニュアルで定められた対策の概要は、主に次の通りです。

【カスタマーハラスメントを想定した事前の準備】

  • 事業主の基本方針・基本姿勢の明確化、従業員への周知・啓発
  • 従業員(被害者)のための相談対応体制の整備
  • 対応方法、手順の策定
  • 社内対応ルールの従業員等への教育・研修

【カスタマーハラスメントが実際に起こった際の対応】

  • 事実関係の正確な確認と事案への対応
  • 従業員への配慮の措置
  • 再発防止のための取組み
  • その他に講ずべき措置

なお、厚生労働省のマニュアルはあくまで一般的な例であり、この資料を参考にしながら、企業の状況に応じたカスハラ対策を講じることが求められます。

これらの対策はいずれも、企業側が主導して行うべきものですが、労動者側においても、カスハラの被害に遭って辛いなら、速やかに対処するよう会社に強く求めるべきです。このとき、弁護士名義の内容証明で警告を伝える方法が有効です。

労働問題に強い弁護士の選び方」の解説

カスハラが起こった場合に労動者がすべき対処方法

次に、適切な対策を講じてもなお、残念ながらカスハラが起こってしまったとき、被害者となった労動者がすべき対処方法を解説します。

悪質で執拗なカスハラに従う必要はなく、毅然とした対応が必要です。

顧客の主張を聴き取って記録化する

顧客の要求がカスハラに該当しそうな場合でも、即断は禁物です。

安易な判断は慎み、まずは「謝罪」と「傾聴」を重視してください。顧客の主張を聞いて事実関係を把握し、不満の原因を特定しなければ、違法なカスハラなのか、正当なクレームなのかを判別できません。一次対応者からカスハラ報告を受けた上位者も、予断は排除して臨む必要があります。

初動の段階では、あくまで聴取に徹し、具体的な回答は控えるようにします。

聴取した顧客の要求は、記録化しておくのが大切です。カスハラ客の主張は支離滅裂で、時によって変遷しがちです。証拠が残っていないと後から話をすり替えられ、不利な流れに進むおそれがあります。会社の対応を検討する際も、現場で聴取した記録が大切な証拠となります。そして、企業のカスハラ対応における意義だけでなく、「初動対応をした従業員が、適切な対応をしたことを示す保身」としても対応時の録音や動画は重要な意味があります。

カスハラに対応する労動者の立場としては、会社や上司に指示をされなくとも、録音や録画を残し、それが難しい場合も、少なくとも発言内容をメモするなど、何らかの形で記録を残すべきです。

パワハラの録音の違法性」の解説

現場限りで対応するか持ち帰りかを判断する

カスハラだと判断した場合も、現場限りで対応するか、それとも持ち帰って検討するか、決める必要があります。そして、この判断は現場で速やかに行うことの求められる、極めて難しい決断です。決定にあたっては、マニュアルや過去の事例、ベテラン社員の意見などを参考にします。

カスハラは、企業が組織として対処すべき課題であり、現場限りでの対応が難しいと判断した場合には、労動者の立場としては無理するべきではありません。「納得させよう」「説得しよう」という姿勢は顧客の態度を硬化させる危険があり、避けるべきです。

現場限りで対応すると決定した場合、非のある部分は謝罪しながら、顧客に迎合しすぎないよう注意してください。顧客に甘すぎると要求が激化するおそれがあります。また、上司としての社内の信頼を失いかねないケースもあります。

責任者に情報共有と引き継ぎをする

現場で解決できず持ち帰りを選択した場合、本社やエリア責任者などに情報共有し、指示を仰ぎます。現場で対応した者と責任者とで事実認識に齟齬がないよう、丁寧に情報共有をすべきです。カスハラ客は、小さな齟齬でも見逃さず、揚げ足を取ってきて解決が長引くおそれがあります。事態の概要は5W1Hで漏れなく伝え、特に不満の原因については詳細に伝えるのが大切です。

最低限共有すべき情報は、次の通りです。

  • カスハラ発生の日時
  • カスハラ顧客の氏名、住所、電話番号など
  • 対応した従業員
  • 要求の内容
  • 要求の態様
  • 要求を受けた際の現場の対応

引き継ぐ側の社員としては、一次対応者の意見を直接聞くべきケースも少なくありません。現場の責任者により過小に報告されていたり誤りがあったりする危険もあるからです。直接口頭で報告を受けるなどして温度感を把握しないと、正しい方針決定ができません。

カスハラをきっかけに社員が退職してしまうとき、引き継ぎは特に慎重に行うべきです。

退職の引き継ぎが間に合わない時の対応」の解説

会社の対応方針を決定して顧客に通知する

カスハラに対応するにあたっては、会社としての方針を決定し、顧客に通知することが大切です。そのため、現場の聴取を行い、その報告を取りまとめ、事実関係を整理し(必要に応じて再調査し)、顧客の要求内容に対する企業としての回答を決めます。

要求に応じるかどうかは、カスハラに該当するかだけでなく、改善の必要性で決めるべきです。カスハラの疑いがあれど、改善の余地があり、要求に法的な根拠があるなら拒絶しない方がよい場合もあります。法律問題だけでなく、レピュテーションリスクなど経営判断も含めて考えます。

通知の方法は、正当なクレームなら口頭やメールで伝える手もありますが、悪質なカスハラを拒絶する場合など、証拠に残すべき場面では書面の送付によって行います。回答は、ネットで晒されたり、第三者に開示されたりするリスクがあるので、文言や言い回しなど細部まで入念にチェックしてくあさい。多義的で曖昧な言い回しは避け、明瞭な表現を心がけてください。内容証明を利用すれば、証拠として残るので、後に訴訟に発展した際の役に立ちます。

要求に応じないと通知した場合に、新たなクレームを入れられても、新事実や法的な主張の追加がない限り、同内容の回答を反復して膠着を目指します。一方、要求に応じる場合は、清算条項付きの合意書を締結するか、少なくとも領収書や受領書を交付してもらうことで解決内容を証拠化します。

カスハラ行為者に損害賠償請求する

被害を受けた労動者は、カスハラ行為者に対し、不法行為に基づく損害賠償を請求できます。社会生活では理不尽がつきものですが、そのせいでうつになったり、仕事ができなくなったりするのは不当であり、カスハラ行為者には生じた損害を賠償する責任があります。

カスハラは、故意によって、対応した労動者の権利を侵害し、精神的苦痛をはじめとした損害を与える行為であり、不法行為(民法709条)に該当するのは明らかです。

また、カスハラの一貫として店舗の備品が壊された場合などは、所有者である企業が損賠償請求権を有します。カスハラの被害者となった労動者としては、勤務先である企業と共に、誰にどのような責任を追及か、話し合いをするのがよいでしょう。

カスハラの刑事処罰を求める

カスハラは、態様によっては犯罪が成立することもあるため、処罰を求めて警察に伝えることもできます。例えば、カスハラで成立しうる犯罪は、次のものです。

  • 傷害罪(刑法204条)、暴行罪(刑法208条
    (例:カスハラ客が従業員に対して暴力を振るった)
  • 脅迫罪(刑法222条
    (例:店舗のスタッフの家族に危害を加えると伝えて脅した)
  • 強要罪(刑法223条
    (例:自宅に出向いて謝罪するよう強要した)
  • 恐喝罪(刑法249条
    (例:「商品を無料にしないとどうなるかわからない」と発言した)
  • 名誉毀損罪(刑法230条)、侮辱罪(刑法231条
    (例:他の顧客やスタッフの前で大声でののしった)
  • 業務妨害罪(刑法233条
    (例:怒りにまかせてSNSに虚偽の噂を流した)
  • 不退去罪(刑法130条
    (例:退出を命じたのに退去せず居座り続けた)

労災隠しの事例と対処法」の解説

悪質なカスハラへの対応策

最後に、悪質なカスハラを減らすために、労動者側でとるべき対応策を解説します。

なお、カスハラ対策の努力はそもそも企業が行うべきですが、これを理解しておくことは労動者側でも、自身の負担を減らし、企業の責任を追及する際の役に立ちます。

使用者にカスハラ対策の必要性を理解させる

まず、カスハラの対策は、企業が実施すべきであって、労動者が個人で行うことのできない措置も多いものです。そのため、使用者にカスハラ対策の必要性を理解させ、速やかに対処するよう促す必要があります。カスハラを放置したときに企業の被るリスクを伝えるのが有益です。

  • 生産性が低下する
    不当な要求であるカスハラの対応に時間をとられると、本来すべき業務に手がつかず、業務効率が落ちて、生産性が低下します。
  • 休職者が増加する
    カスハラによって労動者が心身の健康を損ない、求職者が増加するおそれがあります。
  • 優秀な社員が離職する
    カスハラ対策を怠る企業では、労動者にそのしわ寄せが来るため、優秀な社員ほど離職してしまう傾向にあります。
  • 企業の社会的評価が低下する
    カスハラの存在する企業は、法令遵守の意識が低いと評価されるため、その社会的評価は低下してしまいます。
  • カスハラ被害者からの責任追及を受ける
    カスハラを防止しない使用者には、安全配慮義務違反の責任があると解説しました。そのため、カスハラ被害を受けた社員から損害賠償請求による責任追及を受けるおそれがあります。

リスクを防ぐには、早急にカスハラを終了させる必要があり、企業としての基本方針を定めなければなりません。管理職や人事労務の担当者は、自身の役割に応じた手段を事前に検討しましょう。実際に被害が発生した場合は、一次対応者や店長に責任を押し付けるのではなく、会社全体の問題として対処にあたることが大切です。

カスハラ対応マニュアルの策定

カスハラ対応にはマニュアルが必要です。違法なカスハラと正当なクレームの区別、現場でとるべき対応などについて、明確な基準を策定し、社内に周知することで対応にあたる従業員の負担を軽減すると共に、組織として一貫性ある対応が可能になるからです。

作成にあたっては、厚生労働省のマニュアルを参考に、業種や企業文化を加味して検討します。過去の事例や同一業種の失敗例も踏まえ、よくある質問をQ&Aで整理したり、会話例や参考書式を記載したりすると、使いやすいマニュアルに仕上げることができます。また、マニュアル作成後も、現場の失敗例、成功例が蓄積した都度見直し、改定を重ねるのも大切です。

従業員へのカスハラ対応研修の実施

策定されたマニュアルは、現場で使いこなせて初めて真価を発揮するので、そのためのカスハラ研修の実施も重要です。社内にふさわしい担当者がいないときは、労働問題の知識の豊富な弁護士にセミナーを依頼することもできます。研修内容には、次の例があります。

  • カスハラの定義と典型例の紹介
  • カスハラにより企業が被る不利益と、労動者の心構え
  • カスハラ該当性の判断方法、正当なクレームとの違いの説明
  • クレーム発生時の対応のおさらい
  • カスハラに該当する場合の状況別対処法
  • 記録や報告書の作成上の注意点

研修は、限られた時間で重要な点を伝えるため、「カスハラが悪い」という図式を強調しすぎて、従業員がすべきでない対応とリスクの説明を疎かにしないよう注意します。効果を高めるには、座学だけでなく、ケーススタディやロールプレイングを取り入れ、定期的に実施すること、蓄積した最新事例を社内に共有することといった工夫をすべきです。

カスハラに関する相談窓口の設置

マニュアル策定や研修を実施しても、カスハラの現場対応には大きなストレスがかかります。そのため、カスハラ被害者のための相談窓口の設置が求められます。

前述の指針でも、相談窓口の設置が推奨されています。また、2020年6月1日施行のパワハラ防止法において、企業にはパワハラの相談窓口を設置する義務が課されました(中小企業は2022年3月31日までは努力義務だが、2022年4月1日以降は全ての会社で義務化)。会社に相談しやすい環境が整っていると、現場監督者のずさんな対応を規制する効果も望めます。既にハラスメントの相談窓口がある場合、カスハラも含めた全ての相談窓口を一本化するなどの工夫もできます。

なお、カスハラの相談をしたこと理由に、解雇をはじめ不利益な取扱いをするのは許されません。

カスハラを受けた従業員のケア

カスハラを受けることは、大きなストレスです。会社として、従業員のメンタルヘルスのケアは必須で、放置すればトラウマになって職場復帰できなくなったり、最悪は離職につながり、使用者の責任追及に発展したりします。そのため、法的な検討に留まらず、医療機関との連携や、休職や異動、配置転換といった応急の対策も必要となります。

業務上の評価においても配慮が必要となります。違法なカスハラを受けたのに、それを労動者側の非として低い評価に繋がられた場合には、会社の不当な評価であると言わざるを得ません。顧客の要求が過剰で、不当なのに、それに答えられないことを能力不足だと評価されたり、従業員のミスだとして懲戒処分の対象とされてしまったりしたときは、会社の処分を争う必要があります。

うつ病休職時の適切な対応」の解説

弁護士などの外部機関への相談

カスハラへの対策を講じるときは、弁護士をはじめとした外部機関への相談も重要です。

カスハラは、顧客と、サービス提供者との間で、互いの主張に食い違いが生じます。顧客としては「正当な要求をしている」と主張するでしょう。そして、これに対する対応においては、労動者と使用者との間でも対立の生じる可能性があり、労動者としては、上位にいる使用者からの圧力と、顧客からのプレッシャーとで、板挟みになりがちです。

カスハラへの対応を誤らず、法的に正しい対応をするのに、労働法を熟知した弁護士のアドバイスが役立ちます。適切に対応しなければ、顧客の怒りが収まらず、訴えられて裁判に発展するおそれがあります。そして、これを機に、使用者からも責められ、労使紛争にもなるリスクもあります。

裁判まで発展するほどのカスハラ事案では、証拠収集が不可欠です。対応時の防犯カメラの録画や会話の録音、警察への110番通報の記録といった証拠を集めることによって、企業としては会社の名誉、信用を、対応する労動者としては自分の身を守る必要があります。

カスハラ対策を、労動者側の立場で相談する場合、「会社が適切な対処を怠ったために生じた被害」という意味で、労災に詳しい弁護士に相談するのが適切です。

労災を弁護士に相談すべき理由と方法」の解説

まとめ

弁護士法人浅野総合法律事務所
弁護士法人浅野総合法律事務所

今回は、カスハラについて、その違法性と責任、対処法などを解説しました。

カスハラは、犯罪にもなりうる違法性の強い行為です。そのため、従業員としては対処を慎重にしなければ、心身へのダメージが大きく、トラウマにもなりかねません。労働問題の観点においても、管理職や経営陣をはじめとした責任者は、企業の負う安全配慮義務を理解し、カスハラから社員を守る体制作りが求められます。

落ち度は謝罪しながら、度を超えた要求には応じないよう心がけましょう。営業に支障が出るほどのカスハラは、警察への通報も検討します。違法なカスハラ被害の責任追及は、カスハラ顧客への損害賠償請求によって行います。一方で、休職や勤務地変更、部署異動といった配慮を求めても会社が適切に対処しないなら、カスハラの対策を怠った使用者にも、その責任の一端があります。

カスハラは、顧客との間のトラブルだけでなく、使用者である企業との労働問題にも発展しうる重大な問題です。カスハラに遭ってしまったら、トラブルが大きくなる前に一度弁護士に相談ください。

目次(クリックで移動)