「女性の活躍」が目覚ましい最近ですが、昭和の「男尊女卑」の考え方が根強く残る会社の中には、女性の働きやすい環境の実現はまだまだ遠い会社もあります。
女性が職場で差別を受ける「女性差別」問題は未だ残存しており、実際、弁護士に法律相談するケースもかなりあります。
特に、「結婚を理由とした解雇」の問題です。
男性は、結婚をしたとしても、「家庭」を理由に仕事を退職(離職)する人はほとんどいないでしょう。
女性は、男性とは違い、結婚をした場合には家事を優先するために仕事を退職したり、退職まではせずとも、バリバリのキャリアウーマンとして出世を望む人生をあきらめたりといった方が未だに多いです。昭和的な「結婚をしたら女は家に入るべき。」という考え方の悪影響です。
更にこれを越えて、女性従業員に対し、結婚を理由に、(女性が仕事の継続を望むにもかかわらず)むしろ使用者(会社)側から結婚を理由とした解雇をするとすれば、非常に問題です。
「結婚したこと」だけを理由とする解雇は、間違いなく違法であり、不当解雇として無効となる違法行為です。女性差別の解雇問題に悩む方は、労働問題に強い弁護士へご相談ください。
1. 結婚を理由とする解雇、退職強要の背景
結婚を理由とした解雇、退職強要の背景には、昭和の男尊女卑の考え方と共に、ブラック企業の労働力に対する違法な考え方による人件費抑制の論理があります。
「結婚したこと」だけを理由とする解雇は違法であり、労働審判、裁判などで会社の責任を追及すべきものですが、まずは、ブラック企業が、結婚した女性従業員に対して、解雇、退職強要をする理由について解説します。
ブラック企業側の論理を理解した上で、適切な反論を準備することが、「結婚したことを理由とする解雇」を労働者側に有利に進めるための近道です。
1.1. ブラック企業が結婚する女性従業員を嫌う理由
現代では、労働力人口がますます減少し、優秀な労働力を獲得することが困難となっています。「結婚をしているから。」という理由だけで、優秀な女性を手放す会社は、「考え方が古い。」といわざるを得ません。
しかし、男尊女卑の古い考え方をもとに、女性差別をなくす気のないブラック企業は未だに多く、「結婚を理由として解雇、退職強要を受けた。」という法律相談事例は多くあります。
女性は、男性と異なり、結婚をすると近いうちに出産をする可能性が高くなります。
すると、出産、育児によって長期間職場を離れ、休職制度などを利用する可能性が高くなるため、会社としては、「労働力として継続利用しづらいから今のうちに辞めてもらおう。」という気持ちになるわけです。
ブラック企業では、労働力は、「使えるうちに酷使し、メンタルヘルスにり患するなど、使えなくなったら解雇、退職強要して入れ替える。」と考えますから、使えるうちから休職に入る可能性の高い「結婚をした女性従業員」は、使いづらい労働力なのです。
「結婚をしたこと」を理由として、ブラック企業特有の身勝手な人件費抑制の考え方をもとに解雇を行うことは違法であり、不当解雇として無効となります。
1.2. 「結婚を理由に不当解雇」で泣き寝入りしない!
実際に結婚を理由として解雇されてしまうと、どうしてよいかわからず、むしろ
- 「結婚・出産で会社に迷惑をかけてしまった。」
- 「他の従業員が忙しいのに、出産・育児で休んでしまって申し訳ない。」
- 「自分だけ家庭を優先して早帰りすると職場にいづらい。」
- 「結婚をして家に入るのだから、結果的に仕事をやめられてよかった。」
などと、女性労働者の側がネガティブになってしまい、不当解雇であるにもかかわらず「泣き寝入り」となっているケースも少なくありません。
しかし、「優秀な労働力の有効活用」という側面から見ても、「両性(男性と女性)のワークライフバランスの実現」という観点から見ても、「男は仕事、女性は家を守れ。」という考え方は、もはや一時代前の考え方です。
夫婦共働き、家事も男女共に協力して行うことで家庭を築く夫婦も増えています。
夫婦共働きでダブルインカムを想定していたのに、突然、結婚を理由に妻が解雇されたのでは、夫婦の人生計画が狂ってしまいます。ブラック企業による違法な解雇には、明確に拒絶の意思表示をするべきです。
2. 「結婚を理由に不当解雇」が違法、無効な理由
「結婚を理由とした不当解雇は許されない!」と説明しましたが、これは、労働法にしたがった結論であり、「結婚」特有の問題ではありません。
もちろん、結婚以外にも理由があっての解雇(例えば、結婚以外に業務上、能力上の問題があった場合など。)であれば、解雇が認められる場合もあります。
しかし「結婚したこと」を直接の理由とする場合には、不当解雇として無効となります。
労働法の基本的な考え方とは、「解雇権濫用法理」のルールです。つまり、労働法において、解雇には、客観的に合理的な理由がない解雇は権利濫用として無効となる、というルールがあります。
「解雇権濫用法理」のルールを定める労働契約法の条文は、次のとおりです。
労働契約法第16条解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
労働契約法16条「解雇権濫用法理」に照らして考えた場合、「結婚をしたこと」という解雇理由は、解雇の合理的な理由には決してなりません。
したがって、社会通念上「結婚したこと」に対する処分として「解雇」が相当であるかどうか、という2つ目の要件を検討するまでもなく、明らかに違法無効であることが理解できるでしょう。
男女雇用機会均等法にも、「結婚したこと」を理由として、特に女性労働者を解雇することが許されないことが明確に規定されています。
男女雇用機会均等法第9条事業主は、女性労働者が婚姻したことを理由として、解雇してはならない。
以上のことから、倫理的にはもちろんのこと、労働法の基本ルールにしたがっても、「結婚したこと」を理由とした不当解雇は決して許されないことがわかります。
3. 「結婚したら自主退職」の約束は有効?
以上の通り、「結婚したこと」を理由に、会社が一方的な意思表示によって解雇、退職強要を行うことは違法、不当であり、許されないことであることは理解していただけたかと思います。
これに対して、なんとしても結婚した女性従業員に辞めてもらいたいブラック企業は、別の方法を考えるかもしれません。例えば、あらかじめ「結婚したら自主退職」というルールを約束しておく方法です。
あらかじめ、結婚したら自主退職すると労働者が約束していた場合はどうでしょうか。しかし、事前の約束があった場合でも、考え方は同様です。
そもそも結婚を理由とした差別的な取扱いが許されないわけですから、「結婚をした場合に自主退職をする。」という約束は、公序良俗に反するか、少なくとも労働者の真意からなされたものであるかは非常に疑わしいと考えるべきです。
入社時の誓約書に、「結婚したら自主退職」と記載してあったのを理解して署名押印をした場合であっても変わりありません。
したがって、「自分から結婚したら退職すると言い出したことだし。」と会社に対して多い目を感じる必要はなく、結婚を理由とした退職強要に対しても、明確に「No」を伝えてよいのです。
4. 「結婚を理由に不当解雇」、会社と争う際のポイント
「結婚を理由に不当解雇」が違法であるとしても、これをどのように争ってよいかわからないうちに期間が経ち、結果的にあきらめざるをえなくなったケースも少なくありません。
結婚を理由とした解雇、退職強要を受けた場合に、労働問題に強い弁護士へ依頼し、労働審判、訴訟などで争うに至るまでに、注意すべきポイント、準備すべき事項をピックアップして解説します。
4.1. 「結婚を理由に不当解雇」を拒絶する意思表示を明確に示す
まず、「結婚を理由として解雇する。」と会社から通告された女性従業員は、会社の解雇通告に対して、異議を申し立てる意思表示を明確にしておかなければなりません。
労働者側が、「不当解雇に異議がある。」ということを明らかにしなければ、いざ労働審判や訴訟で争った場合に、「女性労働者も、結婚をするから仕方ないと解雇を認めていた。」という会社側の主張を許すことになりかねません。
結婚を理由とした違法、不当な解雇に対しては、「不当解雇は認めない。」という意思表示を明確に示しておく必要です。決して黙認、放置すべきではありません。
万が一結婚を理由とした解雇をされてから相当期間の間、何も文句を言わなければ、「解雇を承諾した。」として労働者側に不利な解決となるおそれすらあります。
解雇に対する異議の意思表示は、言った言わないの争いとならないよう、内容証明郵便などの書面で明確に通知すべきです。
4.2. 「結婚を理由に不当解雇」であることを解雇理由証明書に記載させる
結婚を理由とした解雇は違法、不当なわけですが、いざ労働審判や訴訟で地位確認を争うと、会社から、「結婚したこと」以外のもっともらしい理由が主張されることがあります。
会社も、弁護士に相談した結果、「結婚したこと」だけを理由とした解雇が許されないことに気付き、他の理由を用意して解雇を争うといったケースは多くあります。
使用者(会社)側も、「結婚をしたので解雇しました。」と裁判所で堂々と主張すれば、解雇無効の判断を下されて恥ずかしい思いをすることくらいはわかっている場合が多いということです。
したがって、事後的に、「結婚したこと」以外の解雇理由を用意されないためにも、「結婚を理由に解雇です。」と口頭で通告された場合には、すぐに解雇理由証明書の発行を求めてください。
解雇理由証明書では、解雇通告の時点での会社が考える解雇理由が、「女性従業員の結婚」であることを明確に証拠化しておくのです。
使用者(会社)は、労働者が求める場合には、解雇の理由を書面にて回答する義務を、労働基準法の次の条項によって負っています。
労働基準法22条1項労働者が、退職の場合において、使用期間、業務の種類、その事業における地位、賃金又は退職の事由(退職の事由が解雇の場合にあっては、その解雇の理由を含む。)について証明書を請求した場合においては、遅滞なくこれを交付しなければならない。
4.3. 「結婚を理由に不当解雇」の理由が覆った場合
不当解雇を争う場合、労働者側では、問題となる解雇に「客観的に合理的な理由がない。」「社会通念上の相当性がない。」という主張をします。
この「客観的に合理的な理由がない。」という主張をする際に、会社側の解雇理由をまず先に明らかにしておかなければなりません。
しかし、前章で解説した「解雇理由証明書」を要求することによって「結婚を理由に不当解雇」であることを明らかにしようとすると、会社がこれを渋る場合がありますので、適切な対応が必要となります。
具体的な対応を、Q&A形式で記載していきます。
5. 「結婚を理由に解雇」を弁護士に依頼して解決
最後に、「結婚を理由に解雇」された女性従業員が、弁護士に相談して不当解雇トラブルを解決する手順を解説します。
5.1. 【法律相談】で「結婚解雇」に対応する方法
結婚、育児、出産など、当然の権利を理由として、不当解雇、退職強要を受けてしまった場合、まずは早急に法律相談をしてください。
法律相談では、弁護士が、労働者(あなた)の具体的な状況をくわしくお聞きし、会社とのやり取り(メール、書面)などを拝見した上で、すぐにとるべき行動をアドバイスします。
会社が、結婚をし理由とした不当解雇、退職強要を、強くおし進めて来る場合には、労働者の不利益をすぐに止めるため、弁護士名義で通知書を送ることが効果的です。
「結婚を理由とした不当解雇、退職強要に異議がある。」という主張を、早く明らかにするために、内容証明郵便を利用します。
弁護士名義で、問題のある違法行為であることを伝えた上で、「結婚を理由とした不当解雇、退職強要」の撤回を求めた場合、話し合い(任意交渉)で解決するケースも少なくありません。
5.2. 【労働審判】で「結婚解雇」に対応する方法
話し合い(任意交渉)で不当解雇トラブルが解決できない場合には、次は労働審判での解決を目指します。
労働審判で「結婚を理由とした不当解雇」を争う場合には、「不当解雇は無効であり、結婚をした労働者は今でも労働者の地位にある。」ということを確認する「地位確認請求」という主張となります。
労働審判で「結婚を理由とした退職強要」を争う場合には、「退職強要は違法である。」と主張して慰謝料請求をすることとなります。
5.3. 【裁判】で「結婚解雇」に対応する方法
労働審判では、話し合いを前提とした解決がメインとなりますが、「結婚を理由とした解雇」という悪質な不当解雇をされた場合には、話し合いが困難であるという場合も少なくありません。
そのため、裁判で「結婚を理由とした不当解雇」を争い、地位確認請求を行うことを検討してください。
この場合、労働審判よりも時間的、費用的な手間が多くかかりますが、復職を前提とした解決を勝ち取ることができます。
6. まとめ
結婚、育児、出産は、人生の重要なステージです。特に、女性労働者にとっては、人生の大きな岐路に立たされます。
しかし、女性従業員だけが、結婚(育児、出産)を理由に、職業人生の岐路に立たされるというのは、男尊女卑の古い考え方です。
「結婚したこと」「育児、出産したこと」だけを理由とした解雇は、不当解雇であり、違法、無効です。ブラック企業の「結婚解雇」には、断固たる対応をしなければなりません。
結婚、育児、出産などを理由に会社にいづらくなった、不当解雇、退職強要を受けたという方は、労働問題に強い弁護士へご相談ください。